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二章
12話 俺にしとけよ
しおりを挟む20XX年 4月23日 月曜日
今日は夢を見なかった。
いや、多分夢は見たんだけど全然内容を覚えてない。
それより、昨日晶さんが言っていた言葉が気になる。
晶さんの能力はどんな能力なんだろう。
誰かの能力を真似するとか、人の真似をする感じの能力なのかな。
なんて、僕自身の能力も分かってないのに、何考えてるんだろう。
月曜日。
「君さえ良かったら…僕と付き合ってくれない?」
体育の授業が終わり、教室に戻ろうとした時、中庭から正統派なセリフで告白する、爽やかな男の声が聞こえた。
青春してるなぁ…。
…俺も、いつかあいつに言えたらいいな。
なんて、寒いことを考えていると中庭からまた男の声が聞こえた。
「…ダメかな?朱里さん。」
…朱里………?
中庭を覗いてみると、朱里と、恐らく朱里と同じクラスのイケメンな奴がいた。
正直に言おう。
俺は自分をかなりのイケメンだと自負しているが…
告白してた奴はその俺でさえも認めるくらいのイケメンだ。
それに動作もキッチリしてて…多分いいとこの坊ちゃんなんだろうな。
…性格もしっかりしてそうだ。
…そっか。
朱里…いい奴見つかったな。
俺なんかよりも、ずっと。
中庭に背を向け、下唇をぎゅっと噛みながら教室へ帰る。
…子供っぽいけど、心の中でだけでいい。
朱里に一生伝わらなくて良いから言わせてくれ。
絶対、
俺の方があんな男よりお前の事を大事にできる。
あのイライラから解放され、尚且つ癒しを補給する為に、教室に着いた途端明人に
「あれ、お前髪伸びたな…?」
と話しかけると、自分の髪の毛を触りながら小さな声で
「…そうかな……自分じゃよくわかんないです…」
と、言った。
…やっぱ癒やされるわ、犬とか猫の動画を観た時と同じくらい癒される。
こいつ子犬なんじゃね。
「ちょっと伸びたんだしさ、これを機に前髪上げてみたらどうだ?結構いけてると思うぞ?自信持てよ。」
と言いながら明人の前髪を撫でると、俺の手を離し、少し乱れた前髪を手で整えながらこう言った。
「…いえ…大丈夫です…」
「そっか…まぁお前の好きにすりゃいいけどさ、前髪下ろしっぱなしだったらデコにニキビできちまうから気を付けろよ?」
と言いながら肩を優しく叩くと「…はい」と小さく返事した。
…やっぱ癒やされるわ、子犬よりかわいい。
髪の毛の話が終わり、明人に課題の事を聞こうとした時
「こんにちはー…あきとくんのお友達?」
と、のんびりした話し方の奴が話しかけてきた。
こいつは…確か…扇…廉って名前だっけ?
「おう、お前も明人の友達か?明人はモテモテだな!」
と、言うと目を細めて笑いながら、明人の後ろの席に座った。
「だよねー、嫉妬しちゃうよー…」
…明人俺ら以外の友達もいんだな…良かった。
金髪で、前髪を…なんだっけ、ポンパドールにしてて…?
ラブレットが二つ、右耳に5つ、左耳に5つ、合計12個ピアスが空いてて、ワイシャツを第二ボタンまで開けて…?ズボンを右足だけ膝まで折った裸足にスリッパか…独創的なファッションだな、校則に囚われないスタイル、尊敬しちまうぜ。
にしても…こいつキャラ濃いな、高校デビューではしゃいだ末に髪を金に染めた俺が言えたことじゃないけど。
「レンとは良い金髪仲間になれそうだわ!よろしくな!」
と、手を差し伸べると、目を細めて笑いながら俺の手をぎゅっと握り
「綺麗な金髪でしょー、よろしくね!ともあきくん!」
と言った。
…明人の友達、良い奴そうで安心したわ。
昼、一人で食堂に向かっていると、朱里が廊下で携帯を触っていた。
「…あ……っ…。」
朱里の顔を見た途端、告白されていた光景を思い出し、心臓がぎゅっと締め付けられる。
…だめだ、もう諦めなきゃいけねえのに。
……俺なら大丈夫だ、金髪だろ。
沢田智明。
初めて髪を染めて龍馬に会った時のあの冷たい目を思い出せ。
あれに比べたら失恋のダメージなんてちっぽけなもんだろ。
「朱里!学食行かねえか!?」
心の奥に沸く嫉妬を鎮めるように、朱里に駆け寄って話しかけると、こっちを見て
「智明…!うん、行こ!」
と、笑顔で答えてくれた。
…やっぱマジで可愛いな、こいつ。
…ダメだ、俺らはただの友達だ。
略奪愛なんて趣味じゃねえ。
ダチならダチらしくからかってやろうじゃねえか。
そうだ、そうだ沢田智明。
俺はラブコメの主人公じゃねえ、主人公は朱里だ。
俺は三角関係の当て馬役だ。
学食に向かいながら、朱里に告白されていたことを聞いてみるんだ。
そうだ沢田智明。
「そういえばさ?お前イケメンに告白されてたよな!羨ましいなぁ本当!!」
と言うと、目を見開いてから
「…見てたんだ…」と呟きやがった。
「俺ラブコメ大好きだからさ、リアルであんなことがあるとは思わなくて…あ、勿論誰にも言わねえよ?」
顔を覗き込み、そう言うと、首を軽く横に振り、こう答えた。
「…良いんだよ、で、どこまで聞いた?」
…ど…どこまで…?
まさか断ったのか!?それとも「イケメン好き!抱いて!」とか言ったのか…!?
どっちだ、どっちだ!!
「…告白されるとこまでかな、それから先は俺が勝手に妄想しとくわ!」
と言い、朱里の肩を叩くと、朱里も俺の肩を叩きこんな事を口走りやがった。
「じゃあその妄想のサポートの為に言わせていただきます!」
まじかよ、まじかよ、まじか。
「おう!聞かせてくれ!」
と言うと、朱里が笑顔で口を開いた。
いや、聞きたくない、いや聞きたいけど、どういう反応をすれば良いんだ、待ってくれまだ心の準備が、落ち着け俺、脳内で掌に人を書いて飲み込むんだ、いいな。人人人。おちつけ、おおちつけ、おつつっkおちっつりおちつくおちつけとにかくおちつけ。さwsだともあき。誰だそれ。
「好きな人がいると断ったでござる。」
ふぁっ
…しまった、変な擬音出しちまった。
…待てよ、好きな人だと?それより…断ったんだ…それは…よ…良かった…。
でも好きな人…?あんなイケメンに告られて「好きな人がいる」って断るって…朱里に好かれてるやつってどんだけいい男なんだよ…羨ましいな畜生…代わってくれ…。
…よし、落ち着け、俺。
いやもう落ち着いてんだよ、最早口癖になってんな。
「え?好きな人って誰だよ!聞かせろ!!」
無理矢理笑顔を作りながらそう言うと
「言わないよ!自分で考えなー?ほら妄想妄想!」
と、からかうように答えた。
…そんな事、言われたら
「…俺の都合の良いように考えちまうけど、それでも良いのかよ。」
気付いたら、そう言っていた。
訂正しようにも訂正出来ず、黙り込んでしまう。
廊下の喧騒が遠くに聞こえて、何故か耳の奥で昔聞いたバラードが流れていた。
『意味深な歌詞の羅列』から始まるバラードで、捉え方によって意味が180度変わってしまうような歌詞の、そんな曲が。
喉と眼球がカラカラに乾いたその時、朱里がほんのり頬を染め
「……それで良いんだよ、馬鹿明。」
と答えてから、俺を置いて食堂へ向かった。
両想いだと気付いたのは、耳の奥に流れている曲がバラードじゃないと気付いた時だった。
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