VaD

正君

文字の大きさ
上 下
17 / 40
avid

04.♡♡24/7♡♡

しおりを挟む
 僕は変わらず捜査を続けた。

 劇場の全てを見た。
 全てを漁って、全てを捜査したが、大した成果が得られず悩んでいると、ふと、思い出した。

 深夜、唸り声が聞こえると噂の。
 幽霊が出ると噂の地下室を思い出した。
 その地下室に、もし、本当に悪魔がいたら?
 幽霊なんて信じていないくせに、悪魔を信じて地下室に向かった。
 今思うと、馬鹿だったと思う。
 でも、その時の僕は藁にも縋る思いだった。
 弟の無実を証明するため。
 弟を罵る馬鹿を見返すため。


 地下室に足を踏み入れると、目の前に現れる黒ずくめで、背丈がやけに大きい影。
 まさかこいつは、僕の義妹が苦しんでいる元凶の悪魔か?
 そう思った途端、影が僕へ飛びかかった。

 押し倒され、床に押さえつけられる僕。昔から人と喧嘩などした事が無かった僕には、悪魔らしき大柄の影を突き飛ばすことも、こいつの顔を一発ぶん殴ってやることも出来なかった。

 すると、大柄の影は抵抗のしない僕を不思議に思ったのか、手を離し、僕の顔をまじまじと見つめた。


「…」
「…!」
 直感でこう思った。こいつに勝てるかもしれないと。
 こいつを突き飛ばし、さっきのように押し倒してから首元を押さえつけると、大柄の影は驚いたようだった。

 それから、しばらくそうやってお互いをひっくり返したりして遊んだ。
 呑気に思えるだろうが、こうやって誰かと転げ回るなんて、僕の人生で初めての事で、ついつい熱中して影と遊んでしまった。
 しかしそれは影も同じだったようで、殴れない僕を、殴れない自分を笑いながら何度も転げ回っていた。

「あ、貴方、なんなんですか」
 息を切らし、床に寝転ぶ影にそう言う僕。
 よく見ると影は端正な顔つきで、どこかで見たこあるような顔で、背丈に似合わず童顔だ、なんて思っていると、その影が突然、僕の名を呼んだ。

「貴方は、私が思っていたよりも不思議な人だ。ベク・ルックスさん」
 それを聞いた僕はひっくり返った。これは比喩。
「ベク・ルックス…その名の通り、お美しい方だ」
 僕はまたひっくり返った。これは比喩ではない。

 影はクスクスと笑ってから、こう続けた。
「自己紹介をしましょう。私は、悪魔です」
 僕はまたひっくり返った。
 悪魔と名乗った影は僕の肩を抱き受け止めた。

「あ、悪魔……?」
 僕の言葉に、悪魔は頷いた。
「……と、言えと、言われました」
「…誰に…?」
「イプシオン・ルピー、あなたの、義妹です」
しおりを挟む

処理中です...