《五鳳繚乱~運命の紅い痣~》

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第七章:天門の開扉

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第七章:天門の開扉
金色の門から溢れ出す光が、蘇玲瓏の視界を覆い尽くした。耳をつんざく轟音の中、彼女は必死に氷床にしがみついた。崩れ落ちる氷柱の間から、開きつつある門の向こう側が見える――そこには現代の実験室が広がっていた。

「あれは...私の...」

蘇玲瓏の声は、突然の衝撃でかき消された。背後から伸びた腕が、彼女の腰を強く抱き締める。振り向くと、傷だらけの裴雲昭が歯を食いしばっていた。血に濡れた白髪が、不思議と光を反射している。

「放すな!」

彼の声は、門から湧き上がる風に引き裂かれる。蘇玲瓏が必死に腕を伸ばすと、祭壇の上で泣き叫ぶ赤子の姿が見えた。赫連翊の血にまみれた小さな体は、門に向かってゆっくりと引き寄せられていく。

「助けなければ...!」

「待て!」裴雲昭の腕がさらに力強くなる。「あれは『器』に過ぎぬ。お前の魂の一部ではない」

その言葉と同時に、赤子の体が不自然に歪んだ。肌が透き通り、中から無数の光の粒が飛び散る。蘇玲瓏の眉間が鋭く疼き、また記憶が――

――培養槽の中の自分を見つめる、若き研究員の顔。
――注射器を握る、赫連翊の手。
――そして、誰かが扉を蹴破る音。

「思い出したか...」裴雲昭の声が風に乗って聞こえる。「お前が最初に目にした、この顔を」

蘇玲瓏は愕然とした。氷に映る自分の背後に立つ裴雲昭の顔が、幻覚の中で見た研究員と重なる。白髪が黒く染まり、傷が消えていく――まさに、現代の彼の姿だ。

「あなたは...あの時...」

「赫連翊の実験室から、お前を連れ出した」傷の消えた裴雲昭が、静かに頷いた。「それが全ての始まりだった」

突然、門が大きく開いた。強烈な吸引力が、二人の体を引き寄せる。蘇玲瓏が必死に氷柱にしがみつこうとするが、その氷も次々と崩れていく。

「蘇玲瓏」裴雲昭の手が彼女の頬に触れた。「今度こそ、一緒に帰ろう」

その瞬間、門から放たれた光の渦が二人を飲み込んだ。蘇玲瓏は最後に、崩れゆく氷の宮殿の天井に、見覚えのある星図が浮かび上がるのを見た――三百年前、二人が初めて出会った夜の星空だ。

***

「――蘇玲瓏!」

目を開けると、真っ白な天井が視界に広がった。消毒液の匂い。機械の電子音。そして、自分の名を呼ぶ声...。

「目を覚ましたか?」

ベッドの脇に立っていたのは、白衣を着た若い男だった。その顔は、紛れもなく――

「裴...雲昭...?」

蘇玲瓏の声はかすれていた。男は驚いたように目を見開き、すぐに笑みを浮かべた。

「いや、私は裴雲(はい・うん)です。この病院の神経内科医師ですよ」

彼の名札には確かに「Dr. Pei Yun」と記されている。だが、首筋から覗く青い痣は、紛れもなく氷の鎖の痕だ。

「赫連翊の実験...培養槽...」

蘇玲瓏が呟くと、裴雲の表情が一瞬凍りついた。彼は急いでカーテンを閉め、声を潜めて言った。

「よく覚えているな。だが、ここではその名を口にするな」

窓の外を見ると、見覚えのある研究所の建物が見えた。蘇玲瓏は自分の腕を見た――点滴の針が刺さっているが、その隣には「7」という数字が刻印されている。

「実験体第七号...そうだよね?」

裴雲が頷いた。その目は、古代の宰相と同じ深い紫色に変わっていた。

「お前は特別だ。赫連翊の術を破り、『天門』を通り抜けた唯一の成功例なのだから」

廊下から近づく足音が聞こえた。裴雲は素早く普通の医師の顔に戻り、カルテに何かを書き込んだ。

「今夜、ここから脱出する」彼の囁きは、ほとんど唇の動きだけだった。「今度こそ、本当の意味で自由になろう」

ドアが開き、看護師が入ってくる。その胸元には、赤い宝石をあしらった名札が光っている。蘇玲瓏の眉間が再び疼き始めた――この病院そのものが、まだ赫連翊の支配下にあることを悟った。

看護師が去った後、ベッドの下から小さな物音がした。覗き込むと、そこには青い短剣が隠されていた。柄には、古代文字で「玲瓏」と刻まれている。

窓の外では、赤い月がゆっくりと昇り始めていた。
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