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1話 エイプリルフール
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午前7時のお風呂あがり。
はちみつの香りのする石鹸で念入りに洗った顔に、化粧水をなじませる。コットンに化粧水をつけて、顔の下から上へ優しくたたく。べたつきの少ない液体が優しく肌をまもってくれる。
乳液タイプの日焼け止めを指の上に出す。指の腹を使って、ぷるぷるした肌に日焼け止めを重ねた。
ここからは神経を使う。
パール大を目指して下地を出す。まずは、ほっぺたに塗る。その後にTゾーン。薄く、ていねいに、でも確実に。中指と薬指がいい仕事をしたようで喜んでいる。
ここまで10分ぐらい過ぎていた。
リキッドファンデーション、コンシーラー、フェイスパウダー。ほっぺにチーク。
アイシャドウを塗ったあと、アイライナーを引く。描くラインは目じりから3mmだけはみ出すぐらいに。
マスカラが肌についたりする失敗をしながら、出来上がりに納得したのは8時だった。
「しんどっ」
綺麗に整理されたメイクボックスに、散らかした道具を片付ける。
急がなくては。
クラシックな白いブラウスにパニエで柔らかい形を整えた黒いスカート。胸元にリボンをしばって出来上がり。
足が細く見えるように、デニール高めの黒いタイツ。念のために白い手袋もした。つやつやの長い黒髪と猫耳のついたキャスケットをかぶる。
足元だけは動きやすさが大事で、ハイカットのスニーカー。
家を出る前に何回も、何回も「大丈夫かな?」「変じゃないかな?」と鏡の自分にきいてみる。
「っふ、っふー」
玄関の前で鏡を見ながら、落ち着くために息をした。
重い玄関の扉をあけた。まぶしい日差しが目に染みる。
ゆっくりとした足取りで目的地に向かって歩いた。歩いて5分。ちかくのコンビニ。
いつも立ち読みしている週刊少年誌のために、コンビニへ向かう。
青い看板のコンビニは自動ドアを開けて歓迎してくれた。
店内ではラジオが流れている。
「今日はエイプリルフール。うそが許される日。友達にちょっとうそをついて、びっくりさせてあげましょう」
男性の低くてよく通る声は、そんなことを言っていた。エイプリルフールだけのジョーク商品の話になったあたりで、窓ちかくのラックから少年誌を手にとった。
読みはじめて思った。手袋はやっぱり失敗だった。白い手袋の親指に黒いインクがついてしまった。
それでも手袋はだいじなアイテムなので、外せない。なるべく汚れないように立ち読みを続けた。
棚に読み終わった雑誌を戻した。来週がはやくこいと思えるぐらい続きが楽しみだった。
海賊の漫画とヒーローの漫画の熱いシーンがすき。単行本は必ず買うと決めていた。
店内を回る。8時を過ぎた時間、ひとの出入りは多かった。
飲み物コーナーから牛乳と豆乳を持ってレジへ向かった。
2人の後ろに並んで、順番に空いたレジへ行く。男の人が静かに黙々とレジに商品を通していった。
「ポイントカードはありますか?」
「レシートはいりますか?」
このふたつの質問には、首を横に振ることで答えた。
コンビニの白い袋を手首にひっかけるようにして持つ。
ドキドキした心臓をなだめながら、ゆっくり家へと帰った。
玄関の扉を閉じる。天井を見上げて、息をついた。
「あれ、おかえりー」
洗面所から妹がひょっこり顔をだした。
飲みもの買ってきたよとコンビニの袋を持ち上げてみせる。
そんな様子に妹はくすくす笑いながら近づいてきた。
スポーツブランドのロゴのついたレギンス。キャミソールからは黒いスポーツブラが見えていた。
風呂あがりで、ぬれているピンク色の長い髪をバスタオルで叩きながら、歩いてくる。
「あははっ、しゃべっても大丈夫だよ。お兄ちゃん」
首を左右に振ってから、俺は言った。
「悪い。メイク道具、勝手に使った」
「いいよー。わぁ、また女装のメイクうまくなってる。そろそろお兄ちゃんのこと、お姉ちゃんってよばなきゃいけないかも。ウィッグとかお洋服の片づけやっとくし、お風呂はいってきたら? それともその恰好で1日いる? エイプリルフールだから許されるかな?」
猫のような目をまばたきながら、いじわるな妹がそんなことを言う。
「俺はただ、コンビニへいく間だけ美少女でありたいだけなんだ」
「うわぁ、変態じゃん。変態お兄ちゃん」
ジト目で口角を吊り上げながらドン引きしたように言われる。
「このやろ」
「きゃーっ、あははーっ」
バスタオルでピンクの髪を乾かすようにもみくちゃに動かす。つくった表情をやめて、白い歯を見せ、口をあけながら笑っていた。
はちみつの香りのする石鹸で念入りに洗った顔に、化粧水をなじませる。コットンに化粧水をつけて、顔の下から上へ優しくたたく。べたつきの少ない液体が優しく肌をまもってくれる。
乳液タイプの日焼け止めを指の上に出す。指の腹を使って、ぷるぷるした肌に日焼け止めを重ねた。
ここからは神経を使う。
パール大を目指して下地を出す。まずは、ほっぺたに塗る。その後にTゾーン。薄く、ていねいに、でも確実に。中指と薬指がいい仕事をしたようで喜んでいる。
ここまで10分ぐらい過ぎていた。
リキッドファンデーション、コンシーラー、フェイスパウダー。ほっぺにチーク。
アイシャドウを塗ったあと、アイライナーを引く。描くラインは目じりから3mmだけはみ出すぐらいに。
マスカラが肌についたりする失敗をしながら、出来上がりに納得したのは8時だった。
「しんどっ」
綺麗に整理されたメイクボックスに、散らかした道具を片付ける。
急がなくては。
クラシックな白いブラウスにパニエで柔らかい形を整えた黒いスカート。胸元にリボンをしばって出来上がり。
足が細く見えるように、デニール高めの黒いタイツ。念のために白い手袋もした。つやつやの長い黒髪と猫耳のついたキャスケットをかぶる。
足元だけは動きやすさが大事で、ハイカットのスニーカー。
家を出る前に何回も、何回も「大丈夫かな?」「変じゃないかな?」と鏡の自分にきいてみる。
「っふ、っふー」
玄関の前で鏡を見ながら、落ち着くために息をした。
重い玄関の扉をあけた。まぶしい日差しが目に染みる。
ゆっくりとした足取りで目的地に向かって歩いた。歩いて5分。ちかくのコンビニ。
いつも立ち読みしている週刊少年誌のために、コンビニへ向かう。
青い看板のコンビニは自動ドアを開けて歓迎してくれた。
店内ではラジオが流れている。
「今日はエイプリルフール。うそが許される日。友達にちょっとうそをついて、びっくりさせてあげましょう」
男性の低くてよく通る声は、そんなことを言っていた。エイプリルフールだけのジョーク商品の話になったあたりで、窓ちかくのラックから少年誌を手にとった。
読みはじめて思った。手袋はやっぱり失敗だった。白い手袋の親指に黒いインクがついてしまった。
それでも手袋はだいじなアイテムなので、外せない。なるべく汚れないように立ち読みを続けた。
棚に読み終わった雑誌を戻した。来週がはやくこいと思えるぐらい続きが楽しみだった。
海賊の漫画とヒーローの漫画の熱いシーンがすき。単行本は必ず買うと決めていた。
店内を回る。8時を過ぎた時間、ひとの出入りは多かった。
飲み物コーナーから牛乳と豆乳を持ってレジへ向かった。
2人の後ろに並んで、順番に空いたレジへ行く。男の人が静かに黙々とレジに商品を通していった。
「ポイントカードはありますか?」
「レシートはいりますか?」
このふたつの質問には、首を横に振ることで答えた。
コンビニの白い袋を手首にひっかけるようにして持つ。
ドキドキした心臓をなだめながら、ゆっくり家へと帰った。
玄関の扉を閉じる。天井を見上げて、息をついた。
「あれ、おかえりー」
洗面所から妹がひょっこり顔をだした。
飲みもの買ってきたよとコンビニの袋を持ち上げてみせる。
そんな様子に妹はくすくす笑いながら近づいてきた。
スポーツブランドのロゴのついたレギンス。キャミソールからは黒いスポーツブラが見えていた。
風呂あがりで、ぬれているピンク色の長い髪をバスタオルで叩きながら、歩いてくる。
「あははっ、しゃべっても大丈夫だよ。お兄ちゃん」
首を左右に振ってから、俺は言った。
「悪い。メイク道具、勝手に使った」
「いいよー。わぁ、また女装のメイクうまくなってる。そろそろお兄ちゃんのこと、お姉ちゃんってよばなきゃいけないかも。ウィッグとかお洋服の片づけやっとくし、お風呂はいってきたら? それともその恰好で1日いる? エイプリルフールだから許されるかな?」
猫のような目をまばたきながら、いじわるな妹がそんなことを言う。
「俺はただ、コンビニへいく間だけ美少女でありたいだけなんだ」
「うわぁ、変態じゃん。変態お兄ちゃん」
ジト目で口角を吊り上げながらドン引きしたように言われる。
「このやろ」
「きゃーっ、あははーっ」
バスタオルでピンクの髪を乾かすようにもみくちゃに動かす。つくった表情をやめて、白い歯を見せ、口をあけながら笑っていた。
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