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12話 皇樹 美月
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「月がきれいですね。そう言ったら、あなたはなんて返事をしてくれるのかしら」
いきなり隣から声をかけられた。暗くて顔はよくみえないけれど、年齢は俺ぐらいの女の人だった。ただ、近寄りがたい高貴なオーラが発されている。月と地上のように、住む場所が違うんだと思う。
その人は見上げていた月から俺に視線を移して、そう聞いてくる。
月よりも明るい青色の瞳がじっと見つめてきた。
抜き身の刀みたいな女って親父が言っていた意味がわかった気がする。恐ろしいまでに美しい。魅入られてしまいそうだ。しかし、魅入られて手を伸ばすと、必ず手を切り落とされる、そんな予感がする。きっと、だれもが一度は手を伸ばしてやめる。羨望と憧れを一身に集めたような女性だった。
「俺に死んでもいいって言わせたいのか?」
愛してるに対するイエスの答えのひとつが「死んでもいいわ」だと言われている。
「ブー。つまんない。もう一回やり直し。月が綺麗ですね?」
なんだこいつ。そう思いながら、なんて返せばいいんだろうと悩む。
「心の中の月は、もっと綺麗かな」
「へえー。好きな人いるんだ。ねえねえ、教えてほしいんだけど好きってどんな気持ち?」
車が通る音が言葉を遮った。
エンジン音を響かせた車が、俺を見つめる女の後ろから走ってくる。
ライトが俺を照らした。
となりに立つ女の顔は暗くて見えなかった。けど、その目がきらりと光る。アンティークドールのような青い瞳は、俺の目を見つめていた。
「あーーっっっ。うそっ、えーーーーーーっっ」
車の音なんかより、はるかにうるさい声が俺の鼓膜を破りにきた。
となりに立つうるさいやつは、俺を指さして口を大きく開けて絶叫している。
「なまえーー、名前、おしえて」
「天宮。天宮 時雨。謳歌学園の2年だ」
「やっぱり。ほんとに? ドッキリじゃない?」
「お前が俺の顔を見て、勝手に驚いてるだけだろ。ちなみに一応聞いておくけど、あんたは?」
「美月。美月ってよんで、絶対に。皇樹 美月。あー、もうっ! しーぐれ、とりあえずお家はいろ?」
「えっ? いや、いいけど……いや、なんで腕組むのさ」
「えへへー、組みたいから? わかんないけど、こうしたいの」
そっか、そうなんだ。そういいながら俺の腕にしがみついてくる美月は、楽しそうに頭を揺らしていた。
同級生の女の子。そう意識してしまう。意識してしまった。
なんだかいい匂いがするとか、自分以外のだれかに体を触られると許しを得た気持ちになるとか、俺の腕に押し付けられる感触は、おっぱいなんじゃないかとか、なにから感じればいいのかわからないけど、俺は今死んでもいい。
「死ぬにはいい月だった」
「はいはい。バカ言ってないで、おうちにかえろ?」
「はい」
グイグイ引っ張ってくる美月に引かれて、俺は自分の家に連れ込まれる。
おかしい。一応俺の家なのに、一切の主導権がない。
「「ただいまー」」
「お兄ちゃん、おかえ、り? あれあれ?」
リビングに2人で顔を出した。
携帯を触っていた花恋と目が合うと不思議そうな顔をしていた。
「お兄ちゃん? それは、どういう状況なのかな? なんで腕組んで帰ってくるの? 実は知り合いだった?」
「初対面だ」
「初対面よ」
「息ぴったりだね。 えっと、花恋です。皇樹さんですよね?」
「ナナエスの花恋ちゃんっ、ファンです。あと、わたしのことは美月ってよんでほしい。それよりも握手してもいい? キャーッ」
握手するという名目で近づいた美月は花恋を抱きしめていた。花恋がびっくりして慌てている。
「っわぁ、パワフル。これからよろしくお願いします。なんだかお姉ちゃんができたみたい」
「しぐれっ、花恋ちゃんが可愛すぎて困るわ。こんな可愛い子とひとつ屋根の下でいいの?」
「美月はいいやつだ。許す」
「やったーっ」
「お兄ちゃん? まぁ、お兄ちゃんがいいならいいけど。ただ、私はちょっと気になることあるかな。美月さん、ちょっと付き合ってくれますか?」
「うん、いいわよ」
そういって花恋と美月は階段を上って行った。花恋か美月かどちらかの部屋で話があるんだろう。
なんでだろう。
俺の心がこんなにざわついているのは。
なんでなのかわからない。わからないけれど、あの女は危険だと頭の中でアラームが鳴っている。
皇樹美月は危険だ。
そう思わないと、俺はきっと簡単に心への侵入を許してしまう。
落ち着かせるように、俺は思い描いた。
心に月を浮かべる。なによりも美しく輝く青い月を。
青い瞳でピアノを弾く、夜のような女の横顔が月に映っていた。
いきなり隣から声をかけられた。暗くて顔はよくみえないけれど、年齢は俺ぐらいの女の人だった。ただ、近寄りがたい高貴なオーラが発されている。月と地上のように、住む場所が違うんだと思う。
その人は見上げていた月から俺に視線を移して、そう聞いてくる。
月よりも明るい青色の瞳がじっと見つめてきた。
抜き身の刀みたいな女って親父が言っていた意味がわかった気がする。恐ろしいまでに美しい。魅入られてしまいそうだ。しかし、魅入られて手を伸ばすと、必ず手を切り落とされる、そんな予感がする。きっと、だれもが一度は手を伸ばしてやめる。羨望と憧れを一身に集めたような女性だった。
「俺に死んでもいいって言わせたいのか?」
愛してるに対するイエスの答えのひとつが「死んでもいいわ」だと言われている。
「ブー。つまんない。もう一回やり直し。月が綺麗ですね?」
なんだこいつ。そう思いながら、なんて返せばいいんだろうと悩む。
「心の中の月は、もっと綺麗かな」
「へえー。好きな人いるんだ。ねえねえ、教えてほしいんだけど好きってどんな気持ち?」
車が通る音が言葉を遮った。
エンジン音を響かせた車が、俺を見つめる女の後ろから走ってくる。
ライトが俺を照らした。
となりに立つ女の顔は暗くて見えなかった。けど、その目がきらりと光る。アンティークドールのような青い瞳は、俺の目を見つめていた。
「あーーっっっ。うそっ、えーーーーーーっっ」
車の音なんかより、はるかにうるさい声が俺の鼓膜を破りにきた。
となりに立つうるさいやつは、俺を指さして口を大きく開けて絶叫している。
「なまえーー、名前、おしえて」
「天宮。天宮 時雨。謳歌学園の2年だ」
「やっぱり。ほんとに? ドッキリじゃない?」
「お前が俺の顔を見て、勝手に驚いてるだけだろ。ちなみに一応聞いておくけど、あんたは?」
「美月。美月ってよんで、絶対に。皇樹 美月。あー、もうっ! しーぐれ、とりあえずお家はいろ?」
「えっ? いや、いいけど……いや、なんで腕組むのさ」
「えへへー、組みたいから? わかんないけど、こうしたいの」
そっか、そうなんだ。そういいながら俺の腕にしがみついてくる美月は、楽しそうに頭を揺らしていた。
同級生の女の子。そう意識してしまう。意識してしまった。
なんだかいい匂いがするとか、自分以外のだれかに体を触られると許しを得た気持ちになるとか、俺の腕に押し付けられる感触は、おっぱいなんじゃないかとか、なにから感じればいいのかわからないけど、俺は今死んでもいい。
「死ぬにはいい月だった」
「はいはい。バカ言ってないで、おうちにかえろ?」
「はい」
グイグイ引っ張ってくる美月に引かれて、俺は自分の家に連れ込まれる。
おかしい。一応俺の家なのに、一切の主導権がない。
「「ただいまー」」
「お兄ちゃん、おかえ、り? あれあれ?」
リビングに2人で顔を出した。
携帯を触っていた花恋と目が合うと不思議そうな顔をしていた。
「お兄ちゃん? それは、どういう状況なのかな? なんで腕組んで帰ってくるの? 実は知り合いだった?」
「初対面だ」
「初対面よ」
「息ぴったりだね。 えっと、花恋です。皇樹さんですよね?」
「ナナエスの花恋ちゃんっ、ファンです。あと、わたしのことは美月ってよんでほしい。それよりも握手してもいい? キャーッ」
握手するという名目で近づいた美月は花恋を抱きしめていた。花恋がびっくりして慌てている。
「っわぁ、パワフル。これからよろしくお願いします。なんだかお姉ちゃんができたみたい」
「しぐれっ、花恋ちゃんが可愛すぎて困るわ。こんな可愛い子とひとつ屋根の下でいいの?」
「美月はいいやつだ。許す」
「やったーっ」
「お兄ちゃん? まぁ、お兄ちゃんがいいならいいけど。ただ、私はちょっと気になることあるかな。美月さん、ちょっと付き合ってくれますか?」
「うん、いいわよ」
そういって花恋と美月は階段を上って行った。花恋か美月かどちらかの部屋で話があるんだろう。
なんでだろう。
俺の心がこんなにざわついているのは。
なんでなのかわからない。わからないけれど、あの女は危険だと頭の中でアラームが鳴っている。
皇樹美月は危険だ。
そう思わないと、俺はきっと簡単に心への侵入を許してしまう。
落ち着かせるように、俺は思い描いた。
心に月を浮かべる。なによりも美しく輝く青い月を。
青い瞳でピアノを弾く、夜のような女の横顔が月に映っていた。
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