79 / 370
姫は大忙し
しおりを挟む
コンポストの完成を喜んでいると畑からタラが現れた。タラはコンポストを見て興味を示していたので、堆肥を作るものだと伝えると喜んでくれた。
「栄養のある土になる日が楽しみですね!……と、姫様。果実が実り始めましたよ。オックラーやパンキプンも見ていただきたいのですが」
どうやら先日新たに植えたものたちが収穫の時期を迎えたようだ。と、ここでエビネも思い出したかのように話し始める。
「姫様、先日耕した畑ですが何を植えたら良いでしょう?」
あの東側に作ってもらった畑は一部が完成し、まだまだ拡大を続けてもらっている。
「あの畑は全てナーの花を植えて。匂いが苦手なのは知っているけれど、慣れればそんなに気にならないと思うのだけれど……」
そう言うとエビネもタラも絶句する。だがすぐに二人は我にかえる。
「わ……分かりました。では後で種の採取を致します」
苦手なことを頼んで申し訳なさもあるが、なんとかこの苦手を克服して欲しいと願う。そして私はタラと畑に入った。オヒシバはコンポストの蓋を作ると材木置き場へと向かって行った。
果樹を植えている一画に立ち入ると、最初に植えたものが実を付け始めている。挿し木をしたものはもう少し成長に時間がかかりそうだ。ベーリ類は宝石のようにツヤツヤと輝き、試しに摘んで食べてみるとベーリは程よい酸味を感じ、黒ベーリは甘さと酸味の調和がとれている。
オーレンジンはリトールの町で購入したものよりも甘さが強く、味見をしたタラも驚くほどだった。チェーリは少し収穫には早そうではあったが、これも日本のサクランボのように甘さと酸味が感じられ、もう少し熟すと甘さが増しそうだ。
さらにアポーも数個実を付けていたが、こちらは日本のものよりも一回り小さいようだ。グレップは巨峰やマスカットを想像させる品種のようだ。味見だけでお腹が膨れ、そのままパンキプン畑に向かう。
「わぁ!立派に育ったわね!」
畑には日本のカボチャとそっくりな濃い緑の実がたくさん実っていた。大きな葉をめくってみれば、葉の陰に隠れたパンキプンもある。
「これは体にも良いのよ。お父様たちも食べられるように夕食に出しましょう」
そのままオックラーの畑に移動すると、こちらも実がなっている。自分の知っているオクラのように、空に向かって伸びる茎の下の部分から徐々に上に向かって花が咲き実になるようだ。
「これはね種を採るには茶色になるまで乾燥させなければいけないの。数株はこのまま残しましょう。収穫したものは、実よりも下の葉を全部落とすのよ」
そうやって見せるとタラはしっかりとやり方を見て頷いている。早めに収穫をしないとすぐに固くて食べられなくことも伝える。そして隣の緑のペパー畑を見ると、ピーマンとししとうが実っている。
「これは食べ頃ね。収穫しても大丈夫よ。後で調理法を教えるわね。あと種を採取するにはこのまま実を収穫しないで。真っ赤に色が変わったら種が採れるわ」
一つピーマン型のほうを収穫し、手で割って食べてみる。みずみずしくパリッとした食感を楽しむと、ピーマン独特のほんのりとした苦味を感じる。タラにも食べさせてみると不思議そうな顔をしながら噛んでいる。
「少し苦味があるのですね」
「そうね、これが美味しいのだけれど。私のいた世界と人体の作りは一緒なのか分からないけれど、子どものほうが味覚が敏感なの。だから苦味を嫌がるかもしれないわね」
そう言うと目から鱗が落ちるような表情をするタラ。聞いてみるとやはりこの世界でもそうらしく、子どもの頃に苦手だった山菜が大人になると普通に食べれるようになったと言う。
「栄養のあるものだから、出来れば子どもたちにも食べてもらいたいわね」
そう苦笑いで言うと、タラも「そうですね」と苦笑いで答えた。二人で笑いあっていると広場からエビネに呼ばれた。タラにあとは任せ、畑から広場へと移動する。
「どうかした?」
歩きやすいあぜ道を歩きながらエビネに声をかける。少し疲れた表情のエビネが口を開いた。
「ナーの種の採取が終わりました。……姫様の言う通り、慣れるものですね」
匂いのことを言っているのだろうが、その疲れた顔からは苦戦したあとが伺える。
「畑に撒くには少々足りないと思いますので、もう数日かかると思われます。ところで姫様、ペパーの実の乾燥も充分そうなのですが」
一度ナーの花の群生を返り見たエビネは、ペパーの実について語る。確認したいと言うとバラックの方から持って来てくれた。私は民たちからあまりバラックに近付くなと言われているので広場でおとなしく待っていた。
エビネはザルを二つ持って来たのでその中を確認すると、しっかりと黒胡椒と白胡椒が出来ている。一つここで問題が起きた。ペッパーミルがないのだ。しばしペパーの実を前に考え込んでいるとエビネに声をかけられる。
「どうされました?」
「えぇと……これをすり潰すというか砕くというか……細かくしたいのだけれど、どうしようかなって」
そう言うとエビネは「お待ちください」と言い、またバラックの方へ走る。すぐに戻ってきたエビネの手には、貧乏育ちの美樹ですら時代劇でしか見たことのない薬研があった。
「これは売らずに隠し持っていたのですが、薬草などをすり潰したりするのに使っていたのですが……」
隠し持っていたと言うエビネは都合の悪そうな顔をするが、よく売らずにいてくれたと感謝せずにいられない。
早速エビネは石で作られた舟形の中央の窪みにペパーを入れ、握り手を掴み円盤状の車輪を動かす。ゴリゴリとすり潰しているうちに粗挽き胡椒が出来上がる。それを木製の容器に移し、次に白胡椒を同じようにすり潰す。こちらはサラサラになるまですり潰してもらった。
「エビネ、本当にありがとう。これで料理の幅が広がったわ!」
「お役に立てて光栄です。これからはペパーの収穫を終えましたら粉にいたしますね」
エビネを褒め称え感謝し過ぎと言われるほどお礼を告げた。これでお料理に定番の胡椒が手に入ったわ。きっとお母様も喜んでくれることでしょう!
「栄養のある土になる日が楽しみですね!……と、姫様。果実が実り始めましたよ。オックラーやパンキプンも見ていただきたいのですが」
どうやら先日新たに植えたものたちが収穫の時期を迎えたようだ。と、ここでエビネも思い出したかのように話し始める。
「姫様、先日耕した畑ですが何を植えたら良いでしょう?」
あの東側に作ってもらった畑は一部が完成し、まだまだ拡大を続けてもらっている。
「あの畑は全てナーの花を植えて。匂いが苦手なのは知っているけれど、慣れればそんなに気にならないと思うのだけれど……」
そう言うとエビネもタラも絶句する。だがすぐに二人は我にかえる。
「わ……分かりました。では後で種の採取を致します」
苦手なことを頼んで申し訳なさもあるが、なんとかこの苦手を克服して欲しいと願う。そして私はタラと畑に入った。オヒシバはコンポストの蓋を作ると材木置き場へと向かって行った。
果樹を植えている一画に立ち入ると、最初に植えたものが実を付け始めている。挿し木をしたものはもう少し成長に時間がかかりそうだ。ベーリ類は宝石のようにツヤツヤと輝き、試しに摘んで食べてみるとベーリは程よい酸味を感じ、黒ベーリは甘さと酸味の調和がとれている。
オーレンジンはリトールの町で購入したものよりも甘さが強く、味見をしたタラも驚くほどだった。チェーリは少し収穫には早そうではあったが、これも日本のサクランボのように甘さと酸味が感じられ、もう少し熟すと甘さが増しそうだ。
さらにアポーも数個実を付けていたが、こちらは日本のものよりも一回り小さいようだ。グレップは巨峰やマスカットを想像させる品種のようだ。味見だけでお腹が膨れ、そのままパンキプン畑に向かう。
「わぁ!立派に育ったわね!」
畑には日本のカボチャとそっくりな濃い緑の実がたくさん実っていた。大きな葉をめくってみれば、葉の陰に隠れたパンキプンもある。
「これは体にも良いのよ。お父様たちも食べられるように夕食に出しましょう」
そのままオックラーの畑に移動すると、こちらも実がなっている。自分の知っているオクラのように、空に向かって伸びる茎の下の部分から徐々に上に向かって花が咲き実になるようだ。
「これはね種を採るには茶色になるまで乾燥させなければいけないの。数株はこのまま残しましょう。収穫したものは、実よりも下の葉を全部落とすのよ」
そうやって見せるとタラはしっかりとやり方を見て頷いている。早めに収穫をしないとすぐに固くて食べられなくことも伝える。そして隣の緑のペパー畑を見ると、ピーマンとししとうが実っている。
「これは食べ頃ね。収穫しても大丈夫よ。後で調理法を教えるわね。あと種を採取するにはこのまま実を収穫しないで。真っ赤に色が変わったら種が採れるわ」
一つピーマン型のほうを収穫し、手で割って食べてみる。みずみずしくパリッとした食感を楽しむと、ピーマン独特のほんのりとした苦味を感じる。タラにも食べさせてみると不思議そうな顔をしながら噛んでいる。
「少し苦味があるのですね」
「そうね、これが美味しいのだけれど。私のいた世界と人体の作りは一緒なのか分からないけれど、子どものほうが味覚が敏感なの。だから苦味を嫌がるかもしれないわね」
そう言うと目から鱗が落ちるような表情をするタラ。聞いてみるとやはりこの世界でもそうらしく、子どもの頃に苦手だった山菜が大人になると普通に食べれるようになったと言う。
「栄養のあるものだから、出来れば子どもたちにも食べてもらいたいわね」
そう苦笑いで言うと、タラも「そうですね」と苦笑いで答えた。二人で笑いあっていると広場からエビネに呼ばれた。タラにあとは任せ、畑から広場へと移動する。
「どうかした?」
歩きやすいあぜ道を歩きながらエビネに声をかける。少し疲れた表情のエビネが口を開いた。
「ナーの種の採取が終わりました。……姫様の言う通り、慣れるものですね」
匂いのことを言っているのだろうが、その疲れた顔からは苦戦したあとが伺える。
「畑に撒くには少々足りないと思いますので、もう数日かかると思われます。ところで姫様、ペパーの実の乾燥も充分そうなのですが」
一度ナーの花の群生を返り見たエビネは、ペパーの実について語る。確認したいと言うとバラックの方から持って来てくれた。私は民たちからあまりバラックに近付くなと言われているので広場でおとなしく待っていた。
エビネはザルを二つ持って来たのでその中を確認すると、しっかりと黒胡椒と白胡椒が出来ている。一つここで問題が起きた。ペッパーミルがないのだ。しばしペパーの実を前に考え込んでいるとエビネに声をかけられる。
「どうされました?」
「えぇと……これをすり潰すというか砕くというか……細かくしたいのだけれど、どうしようかなって」
そう言うとエビネは「お待ちください」と言い、またバラックの方へ走る。すぐに戻ってきたエビネの手には、貧乏育ちの美樹ですら時代劇でしか見たことのない薬研があった。
「これは売らずに隠し持っていたのですが、薬草などをすり潰したりするのに使っていたのですが……」
隠し持っていたと言うエビネは都合の悪そうな顔をするが、よく売らずにいてくれたと感謝せずにいられない。
早速エビネは石で作られた舟形の中央の窪みにペパーを入れ、握り手を掴み円盤状の車輪を動かす。ゴリゴリとすり潰しているうちに粗挽き胡椒が出来上がる。それを木製の容器に移し、次に白胡椒を同じようにすり潰す。こちらはサラサラになるまですり潰してもらった。
「エビネ、本当にありがとう。これで料理の幅が広がったわ!」
「お役に立てて光栄です。これからはペパーの収穫を終えましたら粉にいたしますね」
エビネを褒め称え感謝し過ぎと言われるほどお礼を告げた。これでお料理に定番の胡椒が手に入ったわ。きっとお母様も喜んでくれることでしょう!
87
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる