83 / 370
織物職人カレン
しおりを挟む
朝食を終えると私を呼ぶ声が聞こえる。
「姫!こっち!」
声の主を探せば、ヒイラギが森の近くで手招きしている。その声に導かれるように向かえば、満面の笑みのヒイラギが口を開く。
「見て。このリバーシだったら金貨一枚で買えないでしょ?」
はい、と手渡されたリバーシは蓋が付いていて、それを開ける為に近くの丸太の上に置く。そっと蓋を開ければ盤面は外枠部分に独自の模様が彫られ、コマを入れる部分に見事に収まっているコマは四角形だが全部の角が丸く整えられている。コマを一枚手にして見れば、以前はただのバツ印を彫ったものだったがこれには絵のようなものが彫られている。
「この王国を象徴するものを彫ったんだ。表が種を表していて、裏が葉っぱだよ」
「すごいすごい!何これすごい!」
親指と人差し指で摘んだコマを手首をひねりながら表裏を確認する。ヒイラギは自慢気に微笑んでいる。確かに盤面もコマも文句の付けようがない。だけれど、もうひと工夫がほしいと思った私は蓋に注目する。
「……ねぇヒイラギ。お父様の『モクレン』もお母様の『レンゲ』も『スイレン』も、共通する『レン』というのは私が住んでいた国では『ハス』という花のことなの。その『ハス』を題材としたものを蓋に彫らない?」
近くに置いてあった黒板を手にし、空いているスペースにデフォルメ化した横から見たハスの花を描く。
「不思議な花だね」
隣で見ていたヒイラギはそう感想を漏らす。
「きっとこの世界のどこかにもあるわよ。それでね、このハス……レンだけだと、私たち家族しか表さないでしょう?この花の形をそのままに、こう筋を入れれば……」
そう言いながら花弁の部分に葉脈を描き足す。
「『レン』の花の形はそのままに、でも葉に似せれば……私たち家族と森の民を示すと思わない?」
隣にいるヒイラギに視線を投げかければ、ヒイラギも良いと思ってくれたのかやる気に満ち溢れた目で私を見る。
「蓋に彫れば良いのですね。お任せあれ」
仰々しく頭を垂れるヒイラギに笑いが込み上げると、ヒイラギもまた笑い出す。
「と、その前に。織機も作ったから確認して」
こっち、と呼ばれ着いて行くと、新たに作られた机に織機は置かれていた。まだ糸は張られていないが、軽く触れてみた感じだとどこも問題はない。
「みんなを呼んだほうがいいかしら?」
そう聞けばヒイラギが女性陣を呼びに行ってくれた。集まってきた女性陣はみんなワクワクとした表情で、お母様が代表して「早く教えて」と言っている。いくつかの糸の束を用意し、私は口を開く。
「経糸を張るのが一番大変なのよね……私が糸を張っている間、誰かにこれをお願いしてもいいかしら?」
シャトルこと杼に緯糸となる糸を巻くと「私がやるよ」とナズナさんが私の手から杼を受け取る。そのまま私は織機の奥側の部分に糸を固定する。
「みんなの布の織り方と基本的に一緒よ」
そう呟きながら綜絖に糸を通す。横に長い綜絖の溝の部分に一本ずつ糸を通す。これが面倒なのだが、今日は幅の短い布を織るのである程度糸を通すだけにする。奥から綜絖を通した糸を手前にある溝に真っ直ぐに引っ掛ける。この部分は布が出来たら巻いていけるようになっている。
「よし、出来た。あとはみんなと同じく織るだけよ」
経糸は綜絖のおかげで一本おきに上下に分かれ隙間が出来ている。杼をその隙間に通す。そうしたら綜絖をひねるように動かす。そのように作ってもらった仕組みのおかげで、綜絖に刻まれた溝の上下に分かれていた糸が逆になるのだ。そしてまた杼を通す。たまに櫛で糸と糸の間に隙間がないようにキュッと締める。布が出来てきたら奥側の経糸を巻いている部分を緩め、手前の経糸を引っ掛けている部分を巻いていけば糸がある限り織れるのだ。
「……と、まぁこんな感じよ。座って作業が出来るし、手しか使わないから楽でしょう?糸を染めれば模様も入れられるし、どんどんいろんな物が作れるわ」
みんなが使っている腰機はある程度布が織れたらお尻をずって前に移動していく。その移動の手間がないしお尻も汚れないのだ。これには女性陣が大いに喜んでいた。私が頼んだタイプの綜絖は溝に糸を通すだけの簡単なものだ。いろいろなタイプがあるが、穴に糸を通すタイプは面倒なのでこのタイプを頼んだが、どうやらこれで正解だったようだ。
そして横に大きいサイズで作ってもらったので、全ての溝に経糸を張れば腰機と同じくらいの幅の布が織れるのだ。
私にとっては慣れたものなので、すぐに一枚の布が出来上がる。
「この布をぞうりの鼻緒にしましょう」
最初からそのつもりで織っていたが、セリさんを中心としたわらじ作りチームの人たちに「もったいない!」と騒がれてしまった。さらに布を織るとなんとか説得し、腰機を使っていた人を一人この織機を使ってもらうようにして新しいわらじ作りが始まった。この鼻緒が布で出来ているわらじもリトールの町で売るつもりだ。
もちろん手間がかかっている分、値段は吊り上げるけれどね。
「姫!こっち!」
声の主を探せば、ヒイラギが森の近くで手招きしている。その声に導かれるように向かえば、満面の笑みのヒイラギが口を開く。
「見て。このリバーシだったら金貨一枚で買えないでしょ?」
はい、と手渡されたリバーシは蓋が付いていて、それを開ける為に近くの丸太の上に置く。そっと蓋を開ければ盤面は外枠部分に独自の模様が彫られ、コマを入れる部分に見事に収まっているコマは四角形だが全部の角が丸く整えられている。コマを一枚手にして見れば、以前はただのバツ印を彫ったものだったがこれには絵のようなものが彫られている。
「この王国を象徴するものを彫ったんだ。表が種を表していて、裏が葉っぱだよ」
「すごいすごい!何これすごい!」
親指と人差し指で摘んだコマを手首をひねりながら表裏を確認する。ヒイラギは自慢気に微笑んでいる。確かに盤面もコマも文句の付けようがない。だけれど、もうひと工夫がほしいと思った私は蓋に注目する。
「……ねぇヒイラギ。お父様の『モクレン』もお母様の『レンゲ』も『スイレン』も、共通する『レン』というのは私が住んでいた国では『ハス』という花のことなの。その『ハス』を題材としたものを蓋に彫らない?」
近くに置いてあった黒板を手にし、空いているスペースにデフォルメ化した横から見たハスの花を描く。
「不思議な花だね」
隣で見ていたヒイラギはそう感想を漏らす。
「きっとこの世界のどこかにもあるわよ。それでね、このハス……レンだけだと、私たち家族しか表さないでしょう?この花の形をそのままに、こう筋を入れれば……」
そう言いながら花弁の部分に葉脈を描き足す。
「『レン』の花の形はそのままに、でも葉に似せれば……私たち家族と森の民を示すと思わない?」
隣にいるヒイラギに視線を投げかければ、ヒイラギも良いと思ってくれたのかやる気に満ち溢れた目で私を見る。
「蓋に彫れば良いのですね。お任せあれ」
仰々しく頭を垂れるヒイラギに笑いが込み上げると、ヒイラギもまた笑い出す。
「と、その前に。織機も作ったから確認して」
こっち、と呼ばれ着いて行くと、新たに作られた机に織機は置かれていた。まだ糸は張られていないが、軽く触れてみた感じだとどこも問題はない。
「みんなを呼んだほうがいいかしら?」
そう聞けばヒイラギが女性陣を呼びに行ってくれた。集まってきた女性陣はみんなワクワクとした表情で、お母様が代表して「早く教えて」と言っている。いくつかの糸の束を用意し、私は口を開く。
「経糸を張るのが一番大変なのよね……私が糸を張っている間、誰かにこれをお願いしてもいいかしら?」
シャトルこと杼に緯糸となる糸を巻くと「私がやるよ」とナズナさんが私の手から杼を受け取る。そのまま私は織機の奥側の部分に糸を固定する。
「みんなの布の織り方と基本的に一緒よ」
そう呟きながら綜絖に糸を通す。横に長い綜絖の溝の部分に一本ずつ糸を通す。これが面倒なのだが、今日は幅の短い布を織るのである程度糸を通すだけにする。奥から綜絖を通した糸を手前にある溝に真っ直ぐに引っ掛ける。この部分は布が出来たら巻いていけるようになっている。
「よし、出来た。あとはみんなと同じく織るだけよ」
経糸は綜絖のおかげで一本おきに上下に分かれ隙間が出来ている。杼をその隙間に通す。そうしたら綜絖をひねるように動かす。そのように作ってもらった仕組みのおかげで、綜絖に刻まれた溝の上下に分かれていた糸が逆になるのだ。そしてまた杼を通す。たまに櫛で糸と糸の間に隙間がないようにキュッと締める。布が出来てきたら奥側の経糸を巻いている部分を緩め、手前の経糸を引っ掛けている部分を巻いていけば糸がある限り織れるのだ。
「……と、まぁこんな感じよ。座って作業が出来るし、手しか使わないから楽でしょう?糸を染めれば模様も入れられるし、どんどんいろんな物が作れるわ」
みんなが使っている腰機はある程度布が織れたらお尻をずって前に移動していく。その移動の手間がないしお尻も汚れないのだ。これには女性陣が大いに喜んでいた。私が頼んだタイプの綜絖は溝に糸を通すだけの簡単なものだ。いろいろなタイプがあるが、穴に糸を通すタイプは面倒なのでこのタイプを頼んだが、どうやらこれで正解だったようだ。
そして横に大きいサイズで作ってもらったので、全ての溝に経糸を張れば腰機と同じくらいの幅の布が織れるのだ。
私にとっては慣れたものなので、すぐに一枚の布が出来上がる。
「この布をぞうりの鼻緒にしましょう」
最初からそのつもりで織っていたが、セリさんを中心としたわらじ作りチームの人たちに「もったいない!」と騒がれてしまった。さらに布を織るとなんとか説得し、腰機を使っていた人を一人この織機を使ってもらうようにして新しいわらじ作りが始まった。この鼻緒が布で出来ているわらじもリトールの町で売るつもりだ。
もちろん手間がかかっている分、値段は吊り上げるけれどね。
81
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる