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姫はご乱心
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呆気にとられ棒立ちになっているペーターさんに気付いているのかいないのか、クジャクさんはその横を鼻歌交じりに通り過ぎこちらへと向かってくる。私たちのことは特に気にするでもなく、入り口から先へは行かないように町の様子を見ているようだ。少し距離があった時は気付かなかったが、着ている服の所々に金糸のようなものが織り込まれ、動く度にキラキラと光り輝く。そして羽織の背中には、まるで日本の家紋のような鳥の羽を模した紋様が織り込まれている。そのクジャクさんを見つめていると彼女は振り向き私と目が合う。
「……綺麗……」
私なんかよりも姫様らしい姫様を夢見心地で見ていた為、自然と言葉が溢れた。
「うん?何か言ったか?」
クジャクさんには聞こえなかったようで、優しく微笑み問いかけられる。
「あ、いえ、綺麗だなって……。服もなんですけど……目が本当に綺麗……」
至近距離で目が合って気付いたが、彼女の瞳は紫色をしている。まるでアメジストのようなその瞳に吸い込まれそうで、心から思ったことを口にした。驚いた顔をしたクジャクさんは口を開く。
「……じい、聞いたか?」
「えぇ。クジャク様はお美しいのですよ」
優しく言い聞かせるように答えるモズさんだったが、何か言ってはいけないことを言ったのかとしどろもどろになってしまう。
「そなた名は……いや、それよりも町の者と随分と服が違うな?ん?その服は……」
クジャクさんは興味深げに私を上から下まで見ているが、その時ニコライさんが動き出した。
「クジャク嬢!違うんです!カレン嬢は森の民ではありません!」
時が止まった。
こちらへ向かって走ってくるニコライさんを全員がブリキのおもちゃのようにギギギと首を動かして見る。多分、私以外のみんなも「この男は何を言っているんだ?」と思っているに違いない。
「……じい、剣を」
クジャクさんがそう言うと、モズさんは短剣をクジャクさんに手渡す。じいややイチビたちが私の前に立ちはだかり守ろうとしているが、クジャクさんの剣はニコライさんに向けられている。
「……ニコライよ。今何と申した?」
恐ろしく冷たい眼差しでニコライさんを問い詰めるクジャクさん。ニコライさんはようやく自分のしでかしたことに気付いたようで、先ほどよりも青い顔をしてアワアワとしている。
「ニコライよ……そなた女を見れば手当り次第に口説いておるが、この娘が『カレン』だと申すか!?いくら女にモテないからと言ってもまだ少女である娘を口説くとはそれはどうかと思うぞ!……いや、そうではない!そこではない!」
クジャクさんはご乱心のようで、剣を上げたり下ろしたりしている。その度にニコライさんの肩がビクリと震える。
「……森の民とはどういう意味だ?わらわに嘘はつくな。正直に申せ」
クジャクさんは短剣の切っ先をニコライさんの喉元に当てる。ニコライさんの身から出た錆とは言え、目の前で死者が出るのは避けたい。ニコライさんは恐怖で声を出すことも出来なくなっている。リーンウン国がどういう国かまだ分からないが、私たちが森の民だと知られてしまった以上、もしかしたら戦になってしまうのかもしれない。やらかしてしまったのはニコライさんだが、それでも彼を助けようと私はじいやたちの間をすり抜け短剣を持つクジャクさんの手を握った。
「クジャクさん、落ち着いて。私は森の民の生き残り。カレンと言います。ニコライさんの恋人でも想い人でもありません。それは誤解です。私たちにとって大事な商売相手なので命だけは助けてください」
真っ直ぐにクジャクさんの目を見てそう言うと、クジャクさんは短剣を下ろしニヤリと笑った。
「気に入った。こんな男を守ろうとし、武器を持つわらわを恐れるでもない。自分の危険を顧みず相手を助けようというその心意気。見事だ。……本気で殺そうと思ったわけではない。わらわも忍んでこの国に来ている。詳しくそなたの話を聞かせてもらえぬか?」
先ほどまでの冷徹な雰囲気はどこへやら。クジャクさんはそれはもう無邪気に笑顔で私に話しかけてくる。ニコライさんはというとその場にへたり込んで泣いている。マークさんはそんなニコライさんの側へ寄り背中を撫でて慰めている。モズさんはクジャクさんから短剣を受け取り鞘に納めていて、じいややイチビたちは息をするのも忘れていたようで、その場でハァハァと息をしている。そんな中、ペーターさんの声が響いた。
「あー……私にはさっぱり分からん状況なのだが、私への説明も兼ねてもらえるとありがたい。みんなで食堂へ行こうではないか……」
ほんの数分で疲れきった様子のペーターさんはそう話す。ニコライさんが戻って来たと思ったら、断交状態の国の姫を連れて来たし、ニコライさんは『うっかり』森の民だと私たちのことをバラすし、その姫はニコライさんに剣を向けるし疲れて当然よね……。
それにしても私たちは町へと入ったわけだけれど、どうして私とクジャクさんは手を繋いでいるのかしら?一番の謎だわ。
「……綺麗……」
私なんかよりも姫様らしい姫様を夢見心地で見ていた為、自然と言葉が溢れた。
「うん?何か言ったか?」
クジャクさんには聞こえなかったようで、優しく微笑み問いかけられる。
「あ、いえ、綺麗だなって……。服もなんですけど……目が本当に綺麗……」
至近距離で目が合って気付いたが、彼女の瞳は紫色をしている。まるでアメジストのようなその瞳に吸い込まれそうで、心から思ったことを口にした。驚いた顔をしたクジャクさんは口を開く。
「……じい、聞いたか?」
「えぇ。クジャク様はお美しいのですよ」
優しく言い聞かせるように答えるモズさんだったが、何か言ってはいけないことを言ったのかとしどろもどろになってしまう。
「そなた名は……いや、それよりも町の者と随分と服が違うな?ん?その服は……」
クジャクさんは興味深げに私を上から下まで見ているが、その時ニコライさんが動き出した。
「クジャク嬢!違うんです!カレン嬢は森の民ではありません!」
時が止まった。
こちらへ向かって走ってくるニコライさんを全員がブリキのおもちゃのようにギギギと首を動かして見る。多分、私以外のみんなも「この男は何を言っているんだ?」と思っているに違いない。
「……じい、剣を」
クジャクさんがそう言うと、モズさんは短剣をクジャクさんに手渡す。じいややイチビたちが私の前に立ちはだかり守ろうとしているが、クジャクさんの剣はニコライさんに向けられている。
「……ニコライよ。今何と申した?」
恐ろしく冷たい眼差しでニコライさんを問い詰めるクジャクさん。ニコライさんはようやく自分のしでかしたことに気付いたようで、先ほどよりも青い顔をしてアワアワとしている。
「ニコライよ……そなた女を見れば手当り次第に口説いておるが、この娘が『カレン』だと申すか!?いくら女にモテないからと言ってもまだ少女である娘を口説くとはそれはどうかと思うぞ!……いや、そうではない!そこではない!」
クジャクさんはご乱心のようで、剣を上げたり下ろしたりしている。その度にニコライさんの肩がビクリと震える。
「……森の民とはどういう意味だ?わらわに嘘はつくな。正直に申せ」
クジャクさんは短剣の切っ先をニコライさんの喉元に当てる。ニコライさんの身から出た錆とは言え、目の前で死者が出るのは避けたい。ニコライさんは恐怖で声を出すことも出来なくなっている。リーンウン国がどういう国かまだ分からないが、私たちが森の民だと知られてしまった以上、もしかしたら戦になってしまうのかもしれない。やらかしてしまったのはニコライさんだが、それでも彼を助けようと私はじいやたちの間をすり抜け短剣を持つクジャクさんの手を握った。
「クジャクさん、落ち着いて。私は森の民の生き残り。カレンと言います。ニコライさんの恋人でも想い人でもありません。それは誤解です。私たちにとって大事な商売相手なので命だけは助けてください」
真っ直ぐにクジャクさんの目を見てそう言うと、クジャクさんは短剣を下ろしニヤリと笑った。
「気に入った。こんな男を守ろうとし、武器を持つわらわを恐れるでもない。自分の危険を顧みず相手を助けようというその心意気。見事だ。……本気で殺そうと思ったわけではない。わらわも忍んでこの国に来ている。詳しくそなたの話を聞かせてもらえぬか?」
先ほどまでの冷徹な雰囲気はどこへやら。クジャクさんはそれはもう無邪気に笑顔で私に話しかけてくる。ニコライさんはというとその場にへたり込んで泣いている。マークさんはそんなニコライさんの側へ寄り背中を撫でて慰めている。モズさんはクジャクさんから短剣を受け取り鞘に納めていて、じいややイチビたちは息をするのも忘れていたようで、その場でハァハァと息をしている。そんな中、ペーターさんの声が響いた。
「あー……私にはさっぱり分からん状況なのだが、私への説明も兼ねてもらえるとありがたい。みんなで食堂へ行こうではないか……」
ほんの数分で疲れきった様子のペーターさんはそう話す。ニコライさんが戻って来たと思ったら、断交状態の国の姫を連れて来たし、ニコライさんは『うっかり』森の民だと私たちのことをバラすし、その姫はニコライさんに剣を向けるし疲れて当然よね……。
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