119 / 370
カレンの水泳教室
しおりを挟む
プールどころか全く水に入ったことのない人がいきなり川で泳げるかと心配になりつつも、クレソンの生えている浅瀬にイチビを連れてきた。
「あ……私は脱ぐわけにいかないけれど、服が濡れると重くなるし泳ぎ辛くなるわ……」
気付いたことを独りごちるとイチビは上半身裸になる。川の水温は雪解け水のような冷たさではないが、やはり外気温よりは冷たい。だけどイチビは「気持ちいいですね」と笑顔で水に入ってくれた。
「まずは水に顔をつける練習よ」
イチビが着ていた服から腰紐を借りて髪をまとめ、ザブッと水に顔を入れた後すぐに顔を上げる。泳げない人は顔に水が触れるのも怖いと聞くがイチビはどうだろうか?
「プハッ!気持ちいい!」
爽やかな笑顔でイチビは水から顔を上げた。次の段階に進むことにする。
「じゃあ同じように顔を水につけて、五を数えましょう」
すると手持ち無沙汰になっているシャガとハマスゲもやると川に入って来た。大丈夫かと聞くと「これくらいは問題ありません」と二人が答えたので続行する。そしてみんなで同時に顔を水に入れ五まで数えて顔を上げる。イチビたち三人は少年のように笑いはしゃいでいる。あまり見ることが出来ない笑顔はレアだ。
「次は十まで数えましょう。その間に目を開けて」
時間との勝負なので少々ペースが早いかと心配になったが、三人はやる気に満ち溢れている。私が顔をつける前に三人とも川に顔を突っ込んだ。驚きつつも見守ると十を数えたあたりで三人は顔を上げ、最初から目を開けていたとか途中で目を開けたと盛り上がっている。水中で目を開けることは全員がクリアしたようだ。
「本当はもっとゆっくり教えるべきなんでしょうけど、みんなごめんなさい。次は同じように水に顔を入れて目を開け、息を吐き続けてちょうだい。苦しくなったら顔を上げて息を吸うの。私が先にやるわね」
大きく息を吸ってから水面に顔をつけて目を開く。そしてブクブクと口から気泡を出しながら川底に何か生き物はいないかと目だけ動かす。クレソンの根元には小魚やエビが見え隠れし、顔の真下を小さなカニが慌てて走り去って行く。名前の知らない貝の殻も見つけることが出来た。ここで息を吸うために顔を上げる。
「プハッ!……生き物がたくさんいたわ……じゃなくて、これが息継ぎの時の呼吸法でもあるの」
それを聞くと三人はすぐに実行する。それぞれのタイミングで顔を上げ息を吸う。
「みんな上手よ。本当に急で申し訳ないのだけれど、次に浮く為の話をするわ。水に入ったらとにかく力を抜くの。それだけで普通は浮くわ。変に力を入れると沈むし、驚いて手足をバタつかせると溺れるわ。溺れた時こそ冷静に力を抜いて」
少しだけ上流に向かい仰向けで水面に浮き、水の流れに任せてみんなの前に流されてくる。イチビも同じ所に移動し恐る恐る水面に体を浮かせようとする。
「うわっ!」
「大丈夫よ!力を抜いて!」
そう叫ぶとイチビは力を抜き、見事に浮くことが出来た。私のいる場所まで流されて来たタイミングで腕を掴み起き上がらせる。
「シャガたちも試したい気持ちは分かるけど、今度ゆっくりやりましょう。その応用で一番簡単な泳ぎ方を教えるわね」
水に浮こうとしていたシャガたちを止めつつそちらに向かい川辺に座る。
「さっきは仰向けだったけど今度はうつ伏せよ。水に浮いたら力を抜きつつ足を真っ直ぐに伸ばして交互に動かすの。こんな感じよ」
深さがない場所でやるのでやり難くはあったが、足と足を離さず膝ではなく足の付け根を使って動かす。そして「見てて」と川に入る。バタ足で泳いでいるだけで遠い昔の記憶を思い出すが、今は懐かしんでいる暇はない。あっという間にじいやの前に泳ぎ着き顔を上げると、ポニーとロバはじいやに慣れたのか隣に座ってくつろいでいる。
「イチビ、やってみて」
そう声をかけるとイチビはバタ足で泳いで来た。だがまだ足の動きに力が入り過ぎている。
「もっと細かく動かす感じで」
そう伝えるとまたシャガたちの所へ戻り、必死にバタ足をして泳いで来る。何回か繰り返してもらい、イチビ自身もコツを掴んだ所で川の向こうに向かって進むことにした。
「イチビ、もしかしたら川底に足が届かない場所もあるかもしれないわ。そうなったらとにかく冷静に力を抜いて浮くことを考えて。そして落ち着いたら斜めに川岸に向かって泳ぐのよ?いざとなったら助けるから安心して」
とは言ったものの、この子どもの体で上手くいくか心配ではある。イチビも気合いを入れ直している。
「そろそろ行きましょうか。足元に気を付けてね」
水泳教室を開いているうちにもタッケは伸びていたが、他のタッケと同様麻袋に入れたものを体にくくりつけた。私の頭上を超えている分はイチビが抑えているというシュールな図になっている。だけど私は危険があろうとも、まだ誰も行ったことのない場所に行くのが楽しみなのだ。
「あ……私は脱ぐわけにいかないけれど、服が濡れると重くなるし泳ぎ辛くなるわ……」
気付いたことを独りごちるとイチビは上半身裸になる。川の水温は雪解け水のような冷たさではないが、やはり外気温よりは冷たい。だけどイチビは「気持ちいいですね」と笑顔で水に入ってくれた。
「まずは水に顔をつける練習よ」
イチビが着ていた服から腰紐を借りて髪をまとめ、ザブッと水に顔を入れた後すぐに顔を上げる。泳げない人は顔に水が触れるのも怖いと聞くがイチビはどうだろうか?
「プハッ!気持ちいい!」
爽やかな笑顔でイチビは水から顔を上げた。次の段階に進むことにする。
「じゃあ同じように顔を水につけて、五を数えましょう」
すると手持ち無沙汰になっているシャガとハマスゲもやると川に入って来た。大丈夫かと聞くと「これくらいは問題ありません」と二人が答えたので続行する。そしてみんなで同時に顔を水に入れ五まで数えて顔を上げる。イチビたち三人は少年のように笑いはしゃいでいる。あまり見ることが出来ない笑顔はレアだ。
「次は十まで数えましょう。その間に目を開けて」
時間との勝負なので少々ペースが早いかと心配になったが、三人はやる気に満ち溢れている。私が顔をつける前に三人とも川に顔を突っ込んだ。驚きつつも見守ると十を数えたあたりで三人は顔を上げ、最初から目を開けていたとか途中で目を開けたと盛り上がっている。水中で目を開けることは全員がクリアしたようだ。
「本当はもっとゆっくり教えるべきなんでしょうけど、みんなごめんなさい。次は同じように水に顔を入れて目を開け、息を吐き続けてちょうだい。苦しくなったら顔を上げて息を吸うの。私が先にやるわね」
大きく息を吸ってから水面に顔をつけて目を開く。そしてブクブクと口から気泡を出しながら川底に何か生き物はいないかと目だけ動かす。クレソンの根元には小魚やエビが見え隠れし、顔の真下を小さなカニが慌てて走り去って行く。名前の知らない貝の殻も見つけることが出来た。ここで息を吸うために顔を上げる。
「プハッ!……生き物がたくさんいたわ……じゃなくて、これが息継ぎの時の呼吸法でもあるの」
それを聞くと三人はすぐに実行する。それぞれのタイミングで顔を上げ息を吸う。
「みんな上手よ。本当に急で申し訳ないのだけれど、次に浮く為の話をするわ。水に入ったらとにかく力を抜くの。それだけで普通は浮くわ。変に力を入れると沈むし、驚いて手足をバタつかせると溺れるわ。溺れた時こそ冷静に力を抜いて」
少しだけ上流に向かい仰向けで水面に浮き、水の流れに任せてみんなの前に流されてくる。イチビも同じ所に移動し恐る恐る水面に体を浮かせようとする。
「うわっ!」
「大丈夫よ!力を抜いて!」
そう叫ぶとイチビは力を抜き、見事に浮くことが出来た。私のいる場所まで流されて来たタイミングで腕を掴み起き上がらせる。
「シャガたちも試したい気持ちは分かるけど、今度ゆっくりやりましょう。その応用で一番簡単な泳ぎ方を教えるわね」
水に浮こうとしていたシャガたちを止めつつそちらに向かい川辺に座る。
「さっきは仰向けだったけど今度はうつ伏せよ。水に浮いたら力を抜きつつ足を真っ直ぐに伸ばして交互に動かすの。こんな感じよ」
深さがない場所でやるのでやり難くはあったが、足と足を離さず膝ではなく足の付け根を使って動かす。そして「見てて」と川に入る。バタ足で泳いでいるだけで遠い昔の記憶を思い出すが、今は懐かしんでいる暇はない。あっという間にじいやの前に泳ぎ着き顔を上げると、ポニーとロバはじいやに慣れたのか隣に座ってくつろいでいる。
「イチビ、やってみて」
そう声をかけるとイチビはバタ足で泳いで来た。だがまだ足の動きに力が入り過ぎている。
「もっと細かく動かす感じで」
そう伝えるとまたシャガたちの所へ戻り、必死にバタ足をして泳いで来る。何回か繰り返してもらい、イチビ自身もコツを掴んだ所で川の向こうに向かって進むことにした。
「イチビ、もしかしたら川底に足が届かない場所もあるかもしれないわ。そうなったらとにかく冷静に力を抜いて浮くことを考えて。そして落ち着いたら斜めに川岸に向かって泳ぐのよ?いざとなったら助けるから安心して」
とは言ったものの、この子どもの体で上手くいくか心配ではある。イチビも気合いを入れ直している。
「そろそろ行きましょうか。足元に気を付けてね」
水泳教室を開いているうちにもタッケは伸びていたが、他のタッケと同様麻袋に入れたものを体にくくりつけた。私の頭上を超えている分はイチビが抑えているというシュールな図になっている。だけど私は危険があろうとも、まだ誰も行ったことのない場所に行くのが楽しみなのだ。
65
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる