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寝起きの喧嘩

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 私たちが寝ていたのは家の後ろ側だったので直射日光が当たることなく快適に眠ることが出来た。けれど変な時間に寝ていつもと違う時間に起きたせいか頭がボーッとする。
 にもかかわらず二人は「なぜカレンでもレンゲでもなくお前を腕枕しなければならんのだ!?」とか「勝手にしたのはお前だろう!?」と目を開いた瞬間から大声で怒鳴り合っている。怒鳴り合うくらいで殴り合いには発展しないのは親友だからこそだろう。二人はいつも元気な子どものような喧嘩をするのだ。

「お前の子どもは私の子どものようなものだ!」

「何度も言うがカレンは私の娘だ!」

 相変わらずやんちゃ坊主たちのような喧嘩ではあったが、タデの一言で私の頭は覚醒した。私のことをそんな風に思っていてくれたのかと。普段から表情は乏しくキツめの口調で職人気質のタデだが、心の中では自分の子どものようだと愛情を持っていてくれたことが猛烈に嬉しい。

「……お父さん」

 私は怒鳴り合う二人の間に割って入り、笑顔でタデに抱きついた。

「「な!? な!? なっ!?」」

 二人は顔を真っ赤にするが、理由はそれぞれ違うようだ。タデは『照れ』や『恥ずかしさ』から赤くなっているが、お父様は『怒り』や『嫉妬』だ。二人がまたヒートアップし始めたところで後ろから声をかけられた。

「……何してるの?」

 そこには呆れ果てた表情のヒイラギがいた。どうやら私たちの様子を伺いに来たようだ。これまでの経緯を話すと呆れつつも不貞腐れた顔になる。どうしたのかと思っているとヒイラギは口を開いた。

「姫、じゃあ私は? モクレンがお父様でタデがお父さんなら、私は何なの?」

 いつも飄々としているようなヒイラギだが、仲の良いタデを「お父さん」と呼んだことが引っかかっているらしい。

「ヒイラギはヒイラギだ」

「あぁ。紛れもなくただのヒイラギだ」

 さっきまであんなに怒鳴り合っていたお父様とタデはなぜかタッグを組み、ドヤ顔でヒイラギにそう言い放つとヒイラギの眉毛がピクピクと動いている。相当ご立腹のようだ。けれど私はヒイラギに対して思っている感情がある。

「ヒイラギはね、歳の離れたお兄ちゃんだと思っているわ。優しくて、いつも私を気にかけてくれて、こんなお兄ちゃんがいたら良いなっていつも思うのよ。だから私は素直にヒイラギに甘えることが出来るんだもの」

 この国で家族以外にフランクに接してくれるのはヒイラギくらいなのだ。思っていたことを口にすれば、気恥ずかしさから赤面してしまいうつむいてしまう。けれどあんなに騒いでいた三人は誰も言葉を発さない。どうしたのかと思い顔を上げると、ヒイラギは驚きの表情のまま固まり真っ赤になっている。チラリとお父様とタデを見れば、二人は『何だって!?』というような表情で固まっている。お父様とタデの表情を確認したヒイラギは勝ち誇った顔で言い放った。

「聞いた? お兄ちゃんだって! 『父親』よりも若く見られているのかな? それとも私はいつも姫に優しいからかな」

 ドヤ顔のヒイラギに対して二人は「歳は私たちとほとんど変わらないだろう!」とか「私だって優しく接している!」と、また子どものように騒ぎ始めるが、ヒイラギは高笑いをして相手にしていない。というか私はお父様に引っ張られたかと思うとタデに引っ張られ、なす術もないままそれを繰り返されているので頭が揺れ動きクラクラとしてきた。

「ほら、そういうところが優しくないんだよ。私の『妹』のことを大事に扱ってくれない?」

 そう言ったヒイラギは真正面から私を抱き締め二人から引き離してくれた。けれどまだめまいのようにクラクラする頭のせいで首を真っ直ぐにすることが出来ず、まるで首が座らない赤子のような状態になっている。

「こんな扱いをされてかわいそうに」

 そう呟いたヒイラギは悲しげな表情をしながら右手で私の後頭部を、そして左手で体を包みギュウッと抱き締めた。その行動はお父様たちへの当て付けなのは分かるが、兄のようだと慕っているヒイラギにされて嫌な気持ちにはならない。私も体を固定する為にヒイラギに抱き着く。

「なーーー!!」
「あーーー!!」

 お父様とタデの絶叫を聞きながら、ヒイラギと見つめ合いクスクスと笑っていると近くから「ドサッ」という鈍い音がした。ヒイラギの肩越しに確認すると、住宅建設をしているはずの面々がいた。ジェイソンさん以外の、しかもブルーノさんまでもが持っていた荷物を地面に落とし、各々が尻もちをついたり四つん這いになったりしながら絶望的な表情をしている。その中でもオヒシバは地面の上で大の字になっているではないか。

「オヒシバ!? どうしたの!? 大丈夫!?」

 頭の具合が良くなった私は駆け寄り声をかけるが、オヒシバの目は焦点が合わず見開き何かをブツブツと呟いている。

「え? 何? 聞こえないわ」

 聞き取ろうと耳に手を当てるとオヒシバは狂ったように「接吻接吻……」と繰り返している。

「接吻なんて……そんなことするわけがないでしょう!?」

 今度は私が怒鳴り散らす番となったようだ。どうやらタデとヒイラギがいないことで上手く作業が進まず、一度戻って来たところで見た光景は私とヒイラギがそんなことをしているように見えてしまったらしい。お父様とタデも証人となり誤解は解けたが、『接吻』という言葉を口にしたオヒシバだけは私とお父様とタデの逆鱗に触れ、理不尽にも怒鳴られ続けたのだった。
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