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大きな子どもたち
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昨日はオヒシバに怒鳴り散らしたせいで喉が痛い。お父様とタデと一緒に延々と怒鳴っているとオヒシバは涙目で反省をしていた。けれど私以上にお父様とタデの怒りが凄まじく、「カレンがそんなにふしだらな娘だと思っているのか!?」と、怒り狂っていた。
その怒り具合からお母様ですら、いや、誰も止めに入ることが出来ずにいたところにスイレンが帰って来た。周りの者から事情を聞いたであろうスイレンはいつの間にか私の横に立っていた。
「ねぇオヒシバ」
私以外はスイレンに気付いていなかったようで、声をかけられたオヒシバもお父様もタデも驚き一瞬辺りは静寂に包まれた。
「僕もカレンもまだ子どもだよ? 冷静に考えて、そんな子どもがお父様の友人にそんなことするわけがないと思わない? 子どもに対してそんなことを思うって、どういう思考をしたの?」
小首を傾げながらスイレンは言うが、特大の天然砲が炸裂したのである。天然でありながら冷静で、なおかつ純粋な疑問を口にしただけなのだが、よほどオヒシバの心に刺さったのか胸を押さえて倒れ込んだところで解散となった。
一夜明け朝食も終えた今現在もお父様とタデは腹が立っているらしい。昨日あれだけ口喧嘩をしていたのに、「オヒシバのあの発言は許せない」と二人で語り合っている。お母様とハコベさんは呆れ笑いをしつつ、私たちの喉を気遣って薬草を使ったお茶を淹れてくれた。そのお茶を一口飲んだタデがおもむろに口を開いた。
「……駄目だ。私は今日オヒシバの顔を見たくない」
「同感だ。私もあちら方面に今日は行きたくない」
まるで子どものような駄々をこね始め、私が呆気にとられている内に二人はじいやを呼び出している。そんな内容を聞かされたじいやも「気持ちは分かります」と同意してしまい、「スイレン様にも伝えておきます。今日は三人ともお休みください」と作業へと向かってしまった。そして気付けば腫れ物を触るような扱いをされている私たちの周りには誰もいなくなってしまった。
「……暇だな」
作業を休んだくせにお父様はいきなりそんなことを口走る。今日は作業をするつもりだったにもかかわらず、私もなぜか一緒に休みになってしまったのだ。開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
「姫、何か良い案はないか?」
タデもタデでかなりの無茶振りをしてくる。三人で遊ぶわけにもいかないので、先日思い付いたことを話すことにした。
「この前思ったのだけれど、わざわざ粘土をここに運んでレンガを作るより、粘土のある場所でレンガを焼いたらどうかしら? お父様たちは以前レンガがあれば炭を焼くことが出来ると言っていたわよね? 今粘土が採れる場所は川沿いでしょう? あの辺に炭に適した木を植えて炭焼きもしたらどうかしら?」
「ふむ……ならばカッシやナーラなどが良いな」
お父様は森の方向を見てそう話す。カッシは樫の木でナーラはナラの木のことかしら? どちらも炭を作るのに適した木である。そしてどちらもブナ科の木なのでそれぞれ形は違うがどんぐりが成る。
「ドングーリが実る木のことよね?」
「あぁそうだ」
タデが肯定してくれた。竹ことタッケも良い炭になると言うと二人は驚いている。
「ならばカッシとナーラの若木を集めようではないか。まとめて植えて、それが育ったら焼き場の移動をしよう。それらは炭を焼く時の薪にもなるからな」
お父様とタデは立ち上がると善は急げとばかりに森へ向かう。途中でお母様とハコベさんのみに声をかけて連れ出すのは癒やしを求めてなのか、ご機嫌取りなのか。そんなお母様たちも少し嬉しそうである。
「では二手に分かれるぞ。カッシとナーラだぞ? 間違えるなよタデ」
「誰に言っている」
森へ入ると私たち親子と、タデとハコベさん夫妻とでカッシとナーラを探すことになった。かなり広くなった森は道を外れると迷子になってしまいそうで一人で入ることはない。なので私は久しぶりの森の探索にワクワクとしている。
さすがは森の民だ。お父様もお母様もすぐに目当てのものを見つけ出す。そんなに木に詳しくない私は大木であれば葉や幹からなんとなくブナ科だと気付くが、それが何の木なのかまでは判断がつかない。それなのにお父様もお母様も、地表から十数センチほどに育った小さな苗木を見ても判断がついている。
ひたすら苗木や若木を集めていると間伐された場所に出た。少し広めの地表には小さな花が咲き乱れていた。
「スミレにホトケノザ!?」
「カレンはそう呼んでいたの? これはビオレートとヘーンビートと私たちは呼んでいるわ」
お母様としゃがんで薄紫色の花と紫がかったピンクの花を鑑賞する。虫もいないのになぜこんなにも繁殖してるのかと思ったが、そういえばこの二種類は閉鎖花といって、花を咲かせなくても種が成る植物だったことを思い出す。閉鎖花は花を咲かすことなく種になるが、普通の蕾は花となりそれも種が成る。受粉しなくても種が成るこの小さな植物たちは自力でここまで増え、一斉に花を咲かせているのだろう。
「綺麗ね……」
風にそよぐ花たちを見ていたが、ハッと大変なことに気付く。お父様がいないのだ。そしてお父様は迷子の天才だ。
「大変! お父様がいないわ!」
慌てたお母様は指笛を吹くが、男性陣ほど大きな音が鳴らない。私たちは指笛を吹きながら移動すると、遠くから甲高い音が聞こえた。お父様が見つかったと思いホッとすると、お母様は「違う……タデだわ」と言う。
その後タデ夫妻と合流した私たちはお父様の捜索に出たのは言うまでもない。
その怒り具合からお母様ですら、いや、誰も止めに入ることが出来ずにいたところにスイレンが帰って来た。周りの者から事情を聞いたであろうスイレンはいつの間にか私の横に立っていた。
「ねぇオヒシバ」
私以外はスイレンに気付いていなかったようで、声をかけられたオヒシバもお父様もタデも驚き一瞬辺りは静寂に包まれた。
「僕もカレンもまだ子どもだよ? 冷静に考えて、そんな子どもがお父様の友人にそんなことするわけがないと思わない? 子どもに対してそんなことを思うって、どういう思考をしたの?」
小首を傾げながらスイレンは言うが、特大の天然砲が炸裂したのである。天然でありながら冷静で、なおかつ純粋な疑問を口にしただけなのだが、よほどオヒシバの心に刺さったのか胸を押さえて倒れ込んだところで解散となった。
一夜明け朝食も終えた今現在もお父様とタデは腹が立っているらしい。昨日あれだけ口喧嘩をしていたのに、「オヒシバのあの発言は許せない」と二人で語り合っている。お母様とハコベさんは呆れ笑いをしつつ、私たちの喉を気遣って薬草を使ったお茶を淹れてくれた。そのお茶を一口飲んだタデがおもむろに口を開いた。
「……駄目だ。私は今日オヒシバの顔を見たくない」
「同感だ。私もあちら方面に今日は行きたくない」
まるで子どものような駄々をこね始め、私が呆気にとられている内に二人はじいやを呼び出している。そんな内容を聞かされたじいやも「気持ちは分かります」と同意してしまい、「スイレン様にも伝えておきます。今日は三人ともお休みください」と作業へと向かってしまった。そして気付けば腫れ物を触るような扱いをされている私たちの周りには誰もいなくなってしまった。
「……暇だな」
作業を休んだくせにお父様はいきなりそんなことを口走る。今日は作業をするつもりだったにもかかわらず、私もなぜか一緒に休みになってしまったのだ。開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
「姫、何か良い案はないか?」
タデもタデでかなりの無茶振りをしてくる。三人で遊ぶわけにもいかないので、先日思い付いたことを話すことにした。
「この前思ったのだけれど、わざわざ粘土をここに運んでレンガを作るより、粘土のある場所でレンガを焼いたらどうかしら? お父様たちは以前レンガがあれば炭を焼くことが出来ると言っていたわよね? 今粘土が採れる場所は川沿いでしょう? あの辺に炭に適した木を植えて炭焼きもしたらどうかしら?」
「ふむ……ならばカッシやナーラなどが良いな」
お父様は森の方向を見てそう話す。カッシは樫の木でナーラはナラの木のことかしら? どちらも炭を作るのに適した木である。そしてどちらもブナ科の木なのでそれぞれ形は違うがどんぐりが成る。
「ドングーリが実る木のことよね?」
「あぁそうだ」
タデが肯定してくれた。竹ことタッケも良い炭になると言うと二人は驚いている。
「ならばカッシとナーラの若木を集めようではないか。まとめて植えて、それが育ったら焼き場の移動をしよう。それらは炭を焼く時の薪にもなるからな」
お父様とタデは立ち上がると善は急げとばかりに森へ向かう。途中でお母様とハコベさんのみに声をかけて連れ出すのは癒やしを求めてなのか、ご機嫌取りなのか。そんなお母様たちも少し嬉しそうである。
「では二手に分かれるぞ。カッシとナーラだぞ? 間違えるなよタデ」
「誰に言っている」
森へ入ると私たち親子と、タデとハコベさん夫妻とでカッシとナーラを探すことになった。かなり広くなった森は道を外れると迷子になってしまいそうで一人で入ることはない。なので私は久しぶりの森の探索にワクワクとしている。
さすがは森の民だ。お父様もお母様もすぐに目当てのものを見つけ出す。そんなに木に詳しくない私は大木であれば葉や幹からなんとなくブナ科だと気付くが、それが何の木なのかまでは判断がつかない。それなのにお父様もお母様も、地表から十数センチほどに育った小さな苗木を見ても判断がついている。
ひたすら苗木や若木を集めていると間伐された場所に出た。少し広めの地表には小さな花が咲き乱れていた。
「スミレにホトケノザ!?」
「カレンはそう呼んでいたの? これはビオレートとヘーンビートと私たちは呼んでいるわ」
お母様としゃがんで薄紫色の花と紫がかったピンクの花を鑑賞する。虫もいないのになぜこんなにも繁殖してるのかと思ったが、そういえばこの二種類は閉鎖花といって、花を咲かせなくても種が成る植物だったことを思い出す。閉鎖花は花を咲かすことなく種になるが、普通の蕾は花となりそれも種が成る。受粉しなくても種が成るこの小さな植物たちは自力でここまで増え、一斉に花を咲かせているのだろう。
「綺麗ね……」
風にそよぐ花たちを見ていたが、ハッと大変なことに気付く。お父様がいないのだ。そしてお父様は迷子の天才だ。
「大変! お父様がいないわ!」
慌てたお母様は指笛を吹くが、男性陣ほど大きな音が鳴らない。私たちは指笛を吹きながら移動すると、遠くから甲高い音が聞こえた。お父様が見つかったと思いホッとすると、お母様は「違う……タデだわ」と言う。
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