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花の香り
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お父様は私とお母様が見つけた小さな花畑からだいぶ離れた場所にいた。しかも木の上にいたのだ。なぜそんな場所にいたのかと聞くと、お父様からすると私とお母様がはぐれてしまったと思ったようで木の上から探そうと思ったようである。木に登ると森の民が生活していた森を思い出し、太い枝から枝へと飛び移っているうちに楽しくなってしまったそうだ。
「なぜそんなにも後先を考えずに行動をして、なおかつなぜそんなにも方角が分からなくなるのだ?」
誰もが思う疑問をタデはお父様に投げかけた。
「タデ、登ってみろ。そこに枝があれば飛び移りたくなるのだ。これは森の民が生まれ持った本能だ」
答えにならない答えを言うお父様にタデは呆れて溜め息を吐き、お母様とハコベさんは二人のやり取りを見て笑う。きっと子どもの頃から二人は幾度となく同じようなやり取りをしていたのだろう。美樹のお父さんは古い友人や知人に騙されてばかりだったので、こんなに親しげに交流する人をほとんど見たことがなかったので新鮮な気持ちになる。町内の人とは上手くやれていたが、お父さんにはこんなに砕けた間柄の人はいなかったのだ。
「何を言っても無駄なのは分かっていたが……さすがだな……」
「そんなに褒めるな!」
誰も褒めていないのに、ポジティブな思考の持ち主であるお父様は嬉しそうに豪快に笑う。二人のやり取りが面白くて私も笑いが止まらなくなってしまった。
「……はぁ。……それにしてもここまで森が育っているとはな」
溜め息を吐きながら話すタデに疑問を投げかけた。
「ここまでって? 私もここがどこなのか分からないのだけれど……」
四方が木々に囲まれているため、辺り一面が同じ景色に見えてしまう。ただ私はお父様とは違い、木漏れ日などからおおよその方角は分かっているが。
「そうか、姫は初めてか」
タデの言葉に小首を傾げるとお母様が口を開く。
「墓……死者が眠る場所の近くよ」
以前お父様は広場から北西方向に墓があるのでナーの花を植えるなと言っていたことを思い出す。私たちは今日広場の北や北東方向に向かっていたはずだ。タデが溜め息を吐くのも頷ける。
「せっかく近くまで来たのだから、少し寄っていくか」
「待ってお父様! お供物を調達しなきゃ!」
墓とは違う方向に歩き出し、タデに止められているお父様に声をかける。すると全員が「オソナエモノ?」と言うではないか。
「えぇと……前世の私のいた国ではお墓に行く時は花や食べ物などの供えるものを持って行ったの。森の民は違うの?」
そう言うと大人たちは森の民の風習を語ってくれた。人が亡くなると村からできるだけ離れた場所に埋めるらしいのだが、本来なら一ヶ所に埋めることはないらしい。この国に来た時にたくさんの人が亡くなり、この場所に来るまでにも移動しながら埋めて来たらしいが、その墓はもう砂に埋もれているだろうと大人たちは言う。
そしてこの場所を定住の地と決めた後も人は亡くなり続けた。もう体力が尽きかけている民たちは、あちらこちらに埋めるよりもこの際一ヶ所に埋めようと何体もの遺体を背負いここに墓を作ったそうだ。なぜこの場所なのかと聞いたら、当時は広場から見てこの北西方面が比較的平坦な道のりだったからだそうだ。
「花や食べ物を供えるとは思いもしなかったな」
お父様は続ける。そもそも村から離れた場所に埋めるのは、死者が寂しがって村に戻って来ないようにする為らしい。森に埋められた死者は森の一部となり、そして森の神となり、森の民の暮らしを見守る存在となるそうだ。
「それなら、なおさらお供物をしましょう。きっと今も私たちを見守ってくれているのだから感謝しなくちゃ」
そう言うとお父様に頭を撫でられる。しかし足元には花が咲いていない。ふと上を見上げると見覚えのある花が咲いていた。木々の花たちは風の力で枝が触れて受粉していたのか、ここまで種が旅して来ていたようである。
「あ! あの花!」
指をさすとタデは私たちに、いや、特にお父様に「一歩も動くな」と言い木に登る。腰にいつも付けている刃物で枝ごと花を採ってきてくれた。縦長の紫の花と白い花は肉厚の花びらを上に向けて咲かせている。
「この花はお父様よ」
枝を抱きかかえてそう言うが誰も意味を分かってくれない。
「マーグノーラがモクレン?」
お母様が言うにはこの花はマーグノーラというらしい。私のいた世界では『モクレン』と呼んでいたというと驚きの声が上がった。
「ならば私が持とう」
お父様は優しく微笑み私からマーグノーラの束を受け取った。マーグノーラの香りが辺りに広がり、私たちはその香りを吸い込む。しかしお父様の前では饒舌なタデは毒を吐く。
「こんなにも気品高く爽やかな香りはモクレンからはしないぞ?」
一瞬動きを止めたお父様はお母様にマーグノーラを手渡し、お父様とタデは掴み合いになってしまったのだった。ちなみにお母様とハコベさんは「いつものことよ。放っておけばじきに収まるわ」と笑って見ていた。
「なぜそんなにも後先を考えずに行動をして、なおかつなぜそんなにも方角が分からなくなるのだ?」
誰もが思う疑問をタデはお父様に投げかけた。
「タデ、登ってみろ。そこに枝があれば飛び移りたくなるのだ。これは森の民が生まれ持った本能だ」
答えにならない答えを言うお父様にタデは呆れて溜め息を吐き、お母様とハコベさんは二人のやり取りを見て笑う。きっと子どもの頃から二人は幾度となく同じようなやり取りをしていたのだろう。美樹のお父さんは古い友人や知人に騙されてばかりだったので、こんなに親しげに交流する人をほとんど見たことがなかったので新鮮な気持ちになる。町内の人とは上手くやれていたが、お父さんにはこんなに砕けた間柄の人はいなかったのだ。
「何を言っても無駄なのは分かっていたが……さすがだな……」
「そんなに褒めるな!」
誰も褒めていないのに、ポジティブな思考の持ち主であるお父様は嬉しそうに豪快に笑う。二人のやり取りが面白くて私も笑いが止まらなくなってしまった。
「……はぁ。……それにしてもここまで森が育っているとはな」
溜め息を吐きながら話すタデに疑問を投げかけた。
「ここまでって? 私もここがどこなのか分からないのだけれど……」
四方が木々に囲まれているため、辺り一面が同じ景色に見えてしまう。ただ私はお父様とは違い、木漏れ日などからおおよその方角は分かっているが。
「そうか、姫は初めてか」
タデの言葉に小首を傾げるとお母様が口を開く。
「墓……死者が眠る場所の近くよ」
以前お父様は広場から北西方向に墓があるのでナーの花を植えるなと言っていたことを思い出す。私たちは今日広場の北や北東方向に向かっていたはずだ。タデが溜め息を吐くのも頷ける。
「せっかく近くまで来たのだから、少し寄っていくか」
「待ってお父様! お供物を調達しなきゃ!」
墓とは違う方向に歩き出し、タデに止められているお父様に声をかける。すると全員が「オソナエモノ?」と言うではないか。
「えぇと……前世の私のいた国ではお墓に行く時は花や食べ物などの供えるものを持って行ったの。森の民は違うの?」
そう言うと大人たちは森の民の風習を語ってくれた。人が亡くなると村からできるだけ離れた場所に埋めるらしいのだが、本来なら一ヶ所に埋めることはないらしい。この国に来た時にたくさんの人が亡くなり、この場所に来るまでにも移動しながら埋めて来たらしいが、その墓はもう砂に埋もれているだろうと大人たちは言う。
そしてこの場所を定住の地と決めた後も人は亡くなり続けた。もう体力が尽きかけている民たちは、あちらこちらに埋めるよりもこの際一ヶ所に埋めようと何体もの遺体を背負いここに墓を作ったそうだ。なぜこの場所なのかと聞いたら、当時は広場から見てこの北西方面が比較的平坦な道のりだったからだそうだ。
「花や食べ物を供えるとは思いもしなかったな」
お父様は続ける。そもそも村から離れた場所に埋めるのは、死者が寂しがって村に戻って来ないようにする為らしい。森に埋められた死者は森の一部となり、そして森の神となり、森の民の暮らしを見守る存在となるそうだ。
「それなら、なおさらお供物をしましょう。きっと今も私たちを見守ってくれているのだから感謝しなくちゃ」
そう言うとお父様に頭を撫でられる。しかし足元には花が咲いていない。ふと上を見上げると見覚えのある花が咲いていた。木々の花たちは風の力で枝が触れて受粉していたのか、ここまで種が旅して来ていたようである。
「あ! あの花!」
指をさすとタデは私たちに、いや、特にお父様に「一歩も動くな」と言い木に登る。腰にいつも付けている刃物で枝ごと花を採ってきてくれた。縦長の紫の花と白い花は肉厚の花びらを上に向けて咲かせている。
「この花はお父様よ」
枝を抱きかかえてそう言うが誰も意味を分かってくれない。
「マーグノーラがモクレン?」
お母様が言うにはこの花はマーグノーラというらしい。私のいた世界では『モクレン』と呼んでいたというと驚きの声が上がった。
「ならば私が持とう」
お父様は優しく微笑み私からマーグノーラの束を受け取った。マーグノーラの香りが辺りに広がり、私たちはその香りを吸い込む。しかしお父様の前では饒舌なタデは毒を吐く。
「こんなにも気品高く爽やかな香りはモクレンからはしないぞ?」
一瞬動きを止めたお父様はお母様にマーグノーラを手渡し、お父様とタデは掴み合いになってしまったのだった。ちなみにお母様とハコベさんは「いつものことよ。放っておけばじきに収まるわ」と笑って見ていた。
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