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墓参り
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お父様とタデのいつもの喧嘩は終わりそうにないので、私たち女性陣は地面に座り語り合う。私は森の民の風習について知りたいと言うが、お母様もハコベさんも「どれが変わった風習なのかが分からない」と言う。確かにそうだ。けれど二人はたくさんの話を聞かせてくれた。
お父様はとにかく迷子になるが、森の民であれば当時あった村からどの方角にどれくらい進んでいるのかが分かったそうだ。それは今もそうらしく、広場からどの方角にいるかが分かるらしい。動物の帰巣本能のようなものだろうか? この感覚は説明が難しいとも言われ、お父様にも何回も説明をしたがお父様は理解が出来なかったそうだ。あの方向音痴っぷりを見れば納得だ。
それと、広大な森の中を歩いていると古い墓を見つけることがあったそうだ。誰がいつ埋葬したのか分からないが、森の一部となり神として見守るその存在に感謝し頭を下げるということも聞いた。
「仮に森の中で迷ったとしても、墓さえ見つけたら村からは二時間から三時間くらいの距離よ。だからモクレンはなんとか帰って来れていたのだけど、そのうちの半分は違う方向に進んでいて大人たちが探しに行っていたわよね」
お母様とハコベさんは「懐かしい!」と声を出して笑っている。
「それにしても随分と遠い場所に埋葬していたのね」
私が素直な感想を言うと、お母様とハコベさんは村に伝わる昔話をしてくれた。
その昔、とても仲の良い夫婦がいて奥さんが病気で亡くなってしまったらしい。悲しんだ旦那さんは奥さんと離れたくないからと、家のすぐ近くに埋葬したそうだ。奥さんを埋葬してから森には雨が降り続けた。
『きっと奥さんが悲しいと泣いているに違いない』
村人たちはそんなことを囁きあっていたそうだ。旦那さんも寂しがり毎日泣いていた。
そんなある日のこと、降り続けた雨により地面が緩み始め俗にいう土砂崩れが起こった。小規模ではあったが、その旦那さんの家だけに土砂が直撃し埋まってしまった。
村人たちが総出で掘り起こすと旦那さんは無事生きていた。けれどその背中には腐り始めた奥さんが抱きついていたらしい……。
「……イヤー!!」
まさか怪談話になるとは思っておらず、その光景を想像して叫んでしまった。
「だから戻って来ないように遠くに埋めるのよ」
あまりの絶叫ぶりにお母様たちは苦笑いだ。教訓だとしても本当の話だとしても、あまりホラーが得意ではない私にはなかなかに怖い話であった。
「カレン! どうした!?」
「姫! 何かあったか!?」
さっきまで掴み合いの喧嘩をしていたお父様とタデが私の絶叫を聞いて駆けつけた。お母様が「村に伝わるあの昔話をしたのよ」と言うと、お父様とタデは口を開いた。
「初めて聞いた夜は眠ることが出来なかったな」
「あぁ。恐ろしすぎてヒイラギと三人で夜通し話し続けたな」
それを聞いたお母様とハコベさんは初耳だと騒ぐ。男のプライドで内緒にしていたらしいが、今うっかりと話してしまったようだ。大人たちは腹を抱えて笑い合っている。
「さて、何をしていたんだったか……そうか、墓に行くんだったな」
さっきまでの喧嘩は何だったのだろうと思ったがあえて口に出さず、タデを筆頭に森の中を進んで行く。この辺りになると成長しきっていない小さな木がまばらに生えているくらいで、足元は草のほうが多い。私だけがキョロキョロと辺りを見回しているうちに草原のような場所に辿り着いた。
「着いたぞ」
足を止めた大人たちの顔を見ると、懐かしむような悲しむような、言葉では言い表すことの出来ない表情をしている。それは当然だろう。森を奪われ知らない土地に追いやられ、どんどんと仲間が亡くなっていくのはどれほどの絶望だったのか私には想像もつかない。そしてこの石を置いただけの簡素な墓の下には、その仲間や自分たちの親族が埋まっているのだ。
「……久しいな……。今では森が広がり……食糧にも困ることはない……。次第にここは森の一部になるだろう……我らを見守ってくれ……」
お父様は墓の一つ一つにマーグノーラの花を供えながら語りかけている。その声は時折涙声で言葉に詰まっている。お母様はグスグスと鼻を啜りながらお父様とマーグノーラを供えている。
「姫」
私にとっては面識のない人たちの墓だ。けれど『森の民』の墓だと思うと私も涙ぐんでしまう。お父様もお母様も触れないが、この中に祖父母もいるのだろう。そんな時にタデに呼ばれた。ハコベさんと一緒に小さな石が置かれた墓の前にしゃがんでいる。それを見ただけで泣きそうになってしまった。こぼれ落ちそうになる涙をこらえてタデとハコベさんの元へ向かった。
「姫の……兄だぞ」
私のことを子どものようだと言ってくれたタデは亡くなったお子さんのことを「兄」と紹介してくれた。それは満面の笑顔で。そしてとめどなく涙を流して。微笑みながら涙を流していたハコベさんは堪えきれなくなったのか、口元を押さえその小さな墓石に抱きついた。
いろんな感情や人の想いに触れ、自分自身の感情を制御出来なくなった私はただただ声をあげて泣きわめいた。
お父様はとにかく迷子になるが、森の民であれば当時あった村からどの方角にどれくらい進んでいるのかが分かったそうだ。それは今もそうらしく、広場からどの方角にいるかが分かるらしい。動物の帰巣本能のようなものだろうか? この感覚は説明が難しいとも言われ、お父様にも何回も説明をしたがお父様は理解が出来なかったそうだ。あの方向音痴っぷりを見れば納得だ。
それと、広大な森の中を歩いていると古い墓を見つけることがあったそうだ。誰がいつ埋葬したのか分からないが、森の一部となり神として見守るその存在に感謝し頭を下げるということも聞いた。
「仮に森の中で迷ったとしても、墓さえ見つけたら村からは二時間から三時間くらいの距離よ。だからモクレンはなんとか帰って来れていたのだけど、そのうちの半分は違う方向に進んでいて大人たちが探しに行っていたわよね」
お母様とハコベさんは「懐かしい!」と声を出して笑っている。
「それにしても随分と遠い場所に埋葬していたのね」
私が素直な感想を言うと、お母様とハコベさんは村に伝わる昔話をしてくれた。
その昔、とても仲の良い夫婦がいて奥さんが病気で亡くなってしまったらしい。悲しんだ旦那さんは奥さんと離れたくないからと、家のすぐ近くに埋葬したそうだ。奥さんを埋葬してから森には雨が降り続けた。
『きっと奥さんが悲しいと泣いているに違いない』
村人たちはそんなことを囁きあっていたそうだ。旦那さんも寂しがり毎日泣いていた。
そんなある日のこと、降り続けた雨により地面が緩み始め俗にいう土砂崩れが起こった。小規模ではあったが、その旦那さんの家だけに土砂が直撃し埋まってしまった。
村人たちが総出で掘り起こすと旦那さんは無事生きていた。けれどその背中には腐り始めた奥さんが抱きついていたらしい……。
「……イヤー!!」
まさか怪談話になるとは思っておらず、その光景を想像して叫んでしまった。
「だから戻って来ないように遠くに埋めるのよ」
あまりの絶叫ぶりにお母様たちは苦笑いだ。教訓だとしても本当の話だとしても、あまりホラーが得意ではない私にはなかなかに怖い話であった。
「カレン! どうした!?」
「姫! 何かあったか!?」
さっきまで掴み合いの喧嘩をしていたお父様とタデが私の絶叫を聞いて駆けつけた。お母様が「村に伝わるあの昔話をしたのよ」と言うと、お父様とタデは口を開いた。
「初めて聞いた夜は眠ることが出来なかったな」
「あぁ。恐ろしすぎてヒイラギと三人で夜通し話し続けたな」
それを聞いたお母様とハコベさんは初耳だと騒ぐ。男のプライドで内緒にしていたらしいが、今うっかりと話してしまったようだ。大人たちは腹を抱えて笑い合っている。
「さて、何をしていたんだったか……そうか、墓に行くんだったな」
さっきまでの喧嘩は何だったのだろうと思ったがあえて口に出さず、タデを筆頭に森の中を進んで行く。この辺りになると成長しきっていない小さな木がまばらに生えているくらいで、足元は草のほうが多い。私だけがキョロキョロと辺りを見回しているうちに草原のような場所に辿り着いた。
「着いたぞ」
足を止めた大人たちの顔を見ると、懐かしむような悲しむような、言葉では言い表すことの出来ない表情をしている。それは当然だろう。森を奪われ知らない土地に追いやられ、どんどんと仲間が亡くなっていくのはどれほどの絶望だったのか私には想像もつかない。そしてこの石を置いただけの簡素な墓の下には、その仲間や自分たちの親族が埋まっているのだ。
「……久しいな……。今では森が広がり……食糧にも困ることはない……。次第にここは森の一部になるだろう……我らを見守ってくれ……」
お父様は墓の一つ一つにマーグノーラの花を供えながら語りかけている。その声は時折涙声で言葉に詰まっている。お母様はグスグスと鼻を啜りながらお父様とマーグノーラを供えている。
「姫」
私にとっては面識のない人たちの墓だ。けれど『森の民』の墓だと思うと私も涙ぐんでしまう。お父様もお母様も触れないが、この中に祖父母もいるのだろう。そんな時にタデに呼ばれた。ハコベさんと一緒に小さな石が置かれた墓の前にしゃがんでいる。それを見ただけで泣きそうになってしまった。こぼれ落ちそうになる涙をこらえてタデとハコベさんの元へ向かった。
「姫の……兄だぞ」
私のことを子どものようだと言ってくれたタデは亡くなったお子さんのことを「兄」と紹介してくれた。それは満面の笑顔で。そしてとめどなく涙を流して。微笑みながら涙を流していたハコベさんは堪えきれなくなったのか、口元を押さえその小さな墓石に抱きついた。
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