214 / 370
国境到着
しおりを挟む
「貴様! 何者だ!?」
物騒な怒号が国境の建物の中から聞こえてくる。その怒号とほぼ同時に国境内から弓矢が放たれるが、じいやは高速バク転でいとも簡単にかわす。
私とクジャ、それにモズさんは呆気にとられていたが、お父様がウズウズとし始めてしまったようだ。
「楽しそうだな。私も混ざろう」
どこがどう楽しそうに見えるのか不明であるが、私が止める間もなくお父様も走り出す。そしてじいやに向かって飛んでいく弓矢を、手に持っていた枝で叩き落としている。
残っている私たちも驚いているが、国境警備隊はもっと驚いたのだろう。今度は槍を手に、警備隊は国境から飛び出して来たのだ。
「つまらんのう……」
じいやの、呟きではない大きな独り言が辺りに響く。じいやは小石を投げ、正確に相手の関節に当てるので警備隊は槍を落としてしまう。お父様は別の警備隊の槍をかわしつつ、力技で簡単にその槍を奪い取っている。
時間にしてほんの数分で制圧してしまい、国境警備隊たちは地面に膝をつき、諦めの体勢になっている。
「レオナルド! 貴様、怠け癖を直せと言ったろう!? なんじゃこの体たらくは!」
突如現れた不審者二名に、小石を投げられたくらいで武器の攻撃も食らっていないのに敗北し、絶望感が漂う国境警備隊員たちだったがその中の一人がバッと顔を上げる。私たちからは横顔しか見えないが、五十代くらいの、赤に近いオレンジの髪の細身の男性が声を上げる。
「……は? ……え? ……先……生?」
かなり混乱しているらしく、地面に膝をついたまま動かない。
「おや? クジャク姫から聞いとらんのか?」
そう言うとじいやはこちらを見る。呆然としていた私たちだったが、じいやの元へと走った。
「何回か話そうと思ったが……わらわが『稀代の森の民』と口にすると、レオナルドは思い出話しか話さんのじゃ。いつかリーンウン国に招待する時に、感動の再会になるようもう話そうとするのを止めたのじゃ」
「姫さん!? 無事だったのか!? なんで先生と一緒に!? 頼む! 説明をしてくれ!」
急に視界に現れたクジャとモズさんを見たレオナルドさんは、さらに混乱状態となったらしく両手で頭を抱えている。そして、まだ状況が分かっていない他の警備隊員に「いつも話してる、死んでしまった伝説の鬼教官だ!」と自慢気に話すが、じいやは生きて目の前にいるので、本人も他の警備隊員も混乱が増すばかりである。
ひとまず建物に入ろうということになり、シャイアーク国の国境である建物に案内された。
────
「本当に先生なのか? 本当は偽者なんじゃないのか?」
ジェイソンさんとの再会の時のように、レオナルドさんもまた森の民は滅亡したと思っていたようである。偽者扱いされたじいやは「処すぞ」とデコピンの構えをすると、レオナルドさんはガクガクと震えながら「本物だ」と喜んでいる。デコピンの構えだけで人を震え上がらせるじいやは、どれほどの鬼教官だったのだろうか。
そしてじいやが手早く森の民の今までの話を説明し、ようやく本題であるクジャたちの話をすることが出来た。
「あの時は俺たちも驚いたぜ。血まみれのモズさんと姫さんが『逃してくれ』なんて走って来るんだからな。姫さんたちがここを抜けた後、追っ手が来たようだぜ」
『追っ手』という言葉に反応し、クジャの体に力が入るのが分かった。クジャが落ち着くように私はそっと抱きしめる。
「あちらの国境を抜けて来たら徹底的に痛めつけるつもりだったが、あちらの警備隊員が追い返したようだ」
二つの国境の間は数十メートルの街道のようになっており、まだ盛んに行き来があった頃はここに露店が立ち並んでいたそうだ。今は使われていないその場所で、両国の国境警備隊員は人目を盗んで仲良く遊んでいるらしい。
クジャたちに何があったのかをそこで聞き、追いかけたかったが、もしリーンウン国の国境を突破した追っ手が来た場合、シャイアーク国側に出ないようにここを守ることに決めたとレオナルドさんは話す。
「……わらわは父上たちの奇病を治すと決めたのじゃ。カレンが言うには父上と兄上よりも、ババ様と母上が危ないらしいのじゃ」
お祖母様をババ様と呼ぶ表現が可愛らしいが、クジャは今にも泣きそうになっている。私は安心させるように、抱きしめる力を強める。
「……何としても城に戻る!」
クジャは目に涙を溜めて伏せていた顔を上げる。それを聞いたレオナルドさんは吠えるように叫ぶ。
「よし! 俺も行くぜ! どうせカラスとハトも行くって言うぜ? 俺たちが姫さんを守ってやる!」
カラスとハトというのは、リーンウン国の国境警備隊員の名前らしい。どうやら勝手に同行することに決めたようだが、お父様は「先程簡単に武器をとられたのに……」と呟き、じいやは「使い物になるのか……」と呆れている。そんな二人の声が聞こえていないレオナルドさんは、弓や剣などを装備し始めた。そして装備を終えると私に向かって言葉を発した。
「ところで小僧、いつまで姫さんに抱きついてるんだ?」
どうやら私に対して凄んでいるようだが、今まで散々「ヒーズル王国の姫」や「カレン」などと会話に出ていたのだが、男装をしているせいか私がその姫だとは思っていなかったようだ。ただそう思っていたのはレオナルドさんだけであり、他の警備隊員はレオナルドさんを止めようとあたふたとし始めた。
するとじいやはレオナルドさんの横へ移動し、こめかみに向かってデコピンをするとレオナルドさんは真横に吹っ飛んでしまった……。そして気を失っていたレオナルドさんをビンタで無理やり起こし、「私が仕える姫様に謝れ!」と怒鳴り散らしている。
お父様以外の全員がガタガタと震えているが、私の知らないじいやの、鬼教官っぷりを垣間見てしまったのだった……。
物騒な怒号が国境の建物の中から聞こえてくる。その怒号とほぼ同時に国境内から弓矢が放たれるが、じいやは高速バク転でいとも簡単にかわす。
私とクジャ、それにモズさんは呆気にとられていたが、お父様がウズウズとし始めてしまったようだ。
「楽しそうだな。私も混ざろう」
どこがどう楽しそうに見えるのか不明であるが、私が止める間もなくお父様も走り出す。そしてじいやに向かって飛んでいく弓矢を、手に持っていた枝で叩き落としている。
残っている私たちも驚いているが、国境警備隊はもっと驚いたのだろう。今度は槍を手に、警備隊は国境から飛び出して来たのだ。
「つまらんのう……」
じいやの、呟きではない大きな独り言が辺りに響く。じいやは小石を投げ、正確に相手の関節に当てるので警備隊は槍を落としてしまう。お父様は別の警備隊の槍をかわしつつ、力技で簡単にその槍を奪い取っている。
時間にしてほんの数分で制圧してしまい、国境警備隊たちは地面に膝をつき、諦めの体勢になっている。
「レオナルド! 貴様、怠け癖を直せと言ったろう!? なんじゃこの体たらくは!」
突如現れた不審者二名に、小石を投げられたくらいで武器の攻撃も食らっていないのに敗北し、絶望感が漂う国境警備隊員たちだったがその中の一人がバッと顔を上げる。私たちからは横顔しか見えないが、五十代くらいの、赤に近いオレンジの髪の細身の男性が声を上げる。
「……は? ……え? ……先……生?」
かなり混乱しているらしく、地面に膝をついたまま動かない。
「おや? クジャク姫から聞いとらんのか?」
そう言うとじいやはこちらを見る。呆然としていた私たちだったが、じいやの元へと走った。
「何回か話そうと思ったが……わらわが『稀代の森の民』と口にすると、レオナルドは思い出話しか話さんのじゃ。いつかリーンウン国に招待する時に、感動の再会になるようもう話そうとするのを止めたのじゃ」
「姫さん!? 無事だったのか!? なんで先生と一緒に!? 頼む! 説明をしてくれ!」
急に視界に現れたクジャとモズさんを見たレオナルドさんは、さらに混乱状態となったらしく両手で頭を抱えている。そして、まだ状況が分かっていない他の警備隊員に「いつも話してる、死んでしまった伝説の鬼教官だ!」と自慢気に話すが、じいやは生きて目の前にいるので、本人も他の警備隊員も混乱が増すばかりである。
ひとまず建物に入ろうということになり、シャイアーク国の国境である建物に案内された。
────
「本当に先生なのか? 本当は偽者なんじゃないのか?」
ジェイソンさんとの再会の時のように、レオナルドさんもまた森の民は滅亡したと思っていたようである。偽者扱いされたじいやは「処すぞ」とデコピンの構えをすると、レオナルドさんはガクガクと震えながら「本物だ」と喜んでいる。デコピンの構えだけで人を震え上がらせるじいやは、どれほどの鬼教官だったのだろうか。
そしてじいやが手早く森の民の今までの話を説明し、ようやく本題であるクジャたちの話をすることが出来た。
「あの時は俺たちも驚いたぜ。血まみれのモズさんと姫さんが『逃してくれ』なんて走って来るんだからな。姫さんたちがここを抜けた後、追っ手が来たようだぜ」
『追っ手』という言葉に反応し、クジャの体に力が入るのが分かった。クジャが落ち着くように私はそっと抱きしめる。
「あちらの国境を抜けて来たら徹底的に痛めつけるつもりだったが、あちらの警備隊員が追い返したようだ」
二つの国境の間は数十メートルの街道のようになっており、まだ盛んに行き来があった頃はここに露店が立ち並んでいたそうだ。今は使われていないその場所で、両国の国境警備隊員は人目を盗んで仲良く遊んでいるらしい。
クジャたちに何があったのかをそこで聞き、追いかけたかったが、もしリーンウン国の国境を突破した追っ手が来た場合、シャイアーク国側に出ないようにここを守ることに決めたとレオナルドさんは話す。
「……わらわは父上たちの奇病を治すと決めたのじゃ。カレンが言うには父上と兄上よりも、ババ様と母上が危ないらしいのじゃ」
お祖母様をババ様と呼ぶ表現が可愛らしいが、クジャは今にも泣きそうになっている。私は安心させるように、抱きしめる力を強める。
「……何としても城に戻る!」
クジャは目に涙を溜めて伏せていた顔を上げる。それを聞いたレオナルドさんは吠えるように叫ぶ。
「よし! 俺も行くぜ! どうせカラスとハトも行くって言うぜ? 俺たちが姫さんを守ってやる!」
カラスとハトというのは、リーンウン国の国境警備隊員の名前らしい。どうやら勝手に同行することに決めたようだが、お父様は「先程簡単に武器をとられたのに……」と呟き、じいやは「使い物になるのか……」と呆れている。そんな二人の声が聞こえていないレオナルドさんは、弓や剣などを装備し始めた。そして装備を終えると私に向かって言葉を発した。
「ところで小僧、いつまで姫さんに抱きついてるんだ?」
どうやら私に対して凄んでいるようだが、今まで散々「ヒーズル王国の姫」や「カレン」などと会話に出ていたのだが、男装をしているせいか私がその姫だとは思っていなかったようだ。ただそう思っていたのはレオナルドさんだけであり、他の警備隊員はレオナルドさんを止めようとあたふたとし始めた。
するとじいやはレオナルドさんの横へ移動し、こめかみに向かってデコピンをするとレオナルドさんは真横に吹っ飛んでしまった……。そして気を失っていたレオナルドさんをビンタで無理やり起こし、「私が仕える姫様に謝れ!」と怒鳴り散らしている。
お父様以外の全員がガタガタと震えているが、私の知らないじいやの、鬼教官っぷりを垣間見てしまったのだった……。
44
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる