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潜入!
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じいやに文字通り叩き起こされたレオナルドさんは、「ごめんなお嬢ちゃん」と謝ったのだが、私は特に何も気にしていないのにまたじいやの怒号が飛ぶ。
「もう、じいやったら。お嬢ちゃんでも姫ちゃんでも何でも構わないわ。早く行きましょう」
「おぉ! ケツの穴が広いな! 姫ちゃんっていいな!」
私がじいやをたしなめると、レオナルドさんはそんなことを言うので笑ってしまったが、じいやは「姫様に何てことを言うのだ!」と怒り心頭の様子だ。
「はいはい、行くわよ」
二人を無視し、私たちは国境と国境の間にある中立地帯に足を踏み入れた。後ろからはレオナルドさんが「何が何でもここを死守しろ」と部下に発破をかける声が聞こえる。
この道は真っ直ぐな砂利道となっており、露店のスペースが空いている以外は両サイドが壁になっている。レンガで高い壁を作っているようだ。
そのまま進むとジャリッジャリッという砂利道特有の音のせいか、リーンウン国の国境警備隊が建物からヒョコヒョコと顔を覗かせる。
「姫様! モズ殿!」
よほど二人を心配していたのか、国境警備隊員たちは血相を変えて走って来た。
「心配かけたな。主らは無事か?」
クジャがそう声をかけると、自分たちのことよりも「よくぞご無事で」や「おいたわしや……」と、まだ包帯代わりの布を、顔の半分くらいにぐるぐる巻にされているモズさんや、傷痕の残るクジャを見て声を漏らしている。
そのままリーンウン国の国境の建物へと入り、先程のようにこれまでのことを説明する。するとこちらの警備隊員は私たちの話を聞いていたのか、すんなりと会話が進む。そして噂でしか聞いたのことない稀代の森の民であるじいやや、国王であるお父様、そしてクジャの友人である私のことを、驚きつつも歓迎してくれたのだ。
「では我が国の王は、王たちは助かるのですね!?」
皆からカラスと呼ばれる、眼光の鋭い青年が声を上げる。
「はっきりと言うけれど、確実に、とは約束出来ないわ。一度診てみないことには何とも……。それに私は医者ではないのよ」
ぬか喜びさせないようにはっきりと伝えるが、それでも「突破口が開けた」と喜んでいる。それ程までに今回のこのことは、リーンウン国の民たちの心に暗い影を落としていたのだろう。
「……一つ聞いても良いかしら? あなたたちはクジャのことや病気のことを、呪いだ何だと思っていないのよね?」
警備隊員たちは顔を見合わせるが、今度はハトと呼ばれる、眠そうな垂れ目が特徴の青年が口を開いた。
「正直な話……そう悪い方に思っている民は多い。だけど私たちは姫様を小さな頃から見ているし、レオナルドたちとたくさん話をして、呪いなんてものはないと確信したんだ。今回姫様たちに暴力を振るったのは、長く王家に仕える家系の一部の人間だ。そして私たちが証言者として、姫様を慕う人たちに今回のことを話した。どこの村も大騒ぎさ」
思ったよりも大きな騒ぎになっているようね。けれどここまで来たからには、あとは突き進むのみ。
「……カラスさんとハトさんも行くのよね?」
「「もちろんだ!」」
なるべく少人数で動こうと思っていたが、一人二人増えたところでそんなに変わらないだろう。よし、突っ切ってしまおう。
「行きましょう!」
そして私たちはついにリーンウン国に足を踏み入れた。
────
建物から出てまず思ったのは、森と林道という感想しか浮かばない。ヒーズル王国の森のようなものが広がっていた。シャイアーク国側は、草原と林と街道というイメージだったが、たったこれ程の距離でこんなにも植生が違うことに驚いた。
この場所は目立つからと、一度森の中に入る。
「……私たちがいた森のようだな」
お父様が呟くとじいやも頷く。城の方向を聞くと、カラスさんとハトさんが指をさすので、当たり前のように私とお父様とじいやが木に登る。
「カカカカカレン!? 危ないのじゃ!」
「全然平気よ。あれが城ね」
木の上から指し示された方向を見ると、平屋の横に長いアジアンテイストな建物が確認出来た。日本の古い神社仏閣のような造りに懐かしさがこみ上げる。
「思ったよりも近いのだな」
地面に降り立った私たちを代表して、お父様が口を開いた。
「近く見えるが、道は曲がりくねり、途中にはいくつかの村があるのじゃ。すんなりと通してくれれば良いが……」
その言葉に、私、お父様、じいや、レオナルドさんが首を傾げる。
「えぇと……クジャ? なぜ村を通過しないといけないの?」
普通に疑問を口にすると、今度はリーンウン国の全員が首を傾げる。
「うん? 城への道が通っているからじゃが?」
「もしかして、この国は戦をしたことがないのかしら……?」
そう言えば「なぜ分かる!?」とクジャたちは驚いている。すると今度はレオナルドさんが口を開いた。
「姫さん……言いにくいんだが、戦をする時にわざわざきっちりと道を歩く律儀な奴はいないと思ったほうがいいぞ」
その言葉に私たちが頷くと、何故か、と問われた。
「道を歩いている時に森から攻撃を受けたらお終いよ。私だったらあえて囮を進軍させて、奇襲しようとする者を逆に奇襲するかしら……?」
戦のことなど分からないが、何となくイメージで話すとレオナルドさんは「そういうことだ」と言ってくれた。
「だからこの国の人たちに見つからないように、このまま森の中を進むわよ。クジャには辛いかもしれないけれど、それが最速最短よ」
そして私たちはさらに森の奥へと進み、隠密作戦で城を目指した。主に注意すべきは普通の姫であるクジャの体力と、迷子になりやすいお父様のことだけである。
「もう、じいやったら。お嬢ちゃんでも姫ちゃんでも何でも構わないわ。早く行きましょう」
「おぉ! ケツの穴が広いな! 姫ちゃんっていいな!」
私がじいやをたしなめると、レオナルドさんはそんなことを言うので笑ってしまったが、じいやは「姫様に何てことを言うのだ!」と怒り心頭の様子だ。
「はいはい、行くわよ」
二人を無視し、私たちは国境と国境の間にある中立地帯に足を踏み入れた。後ろからはレオナルドさんが「何が何でもここを死守しろ」と部下に発破をかける声が聞こえる。
この道は真っ直ぐな砂利道となっており、露店のスペースが空いている以外は両サイドが壁になっている。レンガで高い壁を作っているようだ。
そのまま進むとジャリッジャリッという砂利道特有の音のせいか、リーンウン国の国境警備隊が建物からヒョコヒョコと顔を覗かせる。
「姫様! モズ殿!」
よほど二人を心配していたのか、国境警備隊員たちは血相を変えて走って来た。
「心配かけたな。主らは無事か?」
クジャがそう声をかけると、自分たちのことよりも「よくぞご無事で」や「おいたわしや……」と、まだ包帯代わりの布を、顔の半分くらいにぐるぐる巻にされているモズさんや、傷痕の残るクジャを見て声を漏らしている。
そのままリーンウン国の国境の建物へと入り、先程のようにこれまでのことを説明する。するとこちらの警備隊員は私たちの話を聞いていたのか、すんなりと会話が進む。そして噂でしか聞いたのことない稀代の森の民であるじいやや、国王であるお父様、そしてクジャの友人である私のことを、驚きつつも歓迎してくれたのだ。
「では我が国の王は、王たちは助かるのですね!?」
皆からカラスと呼ばれる、眼光の鋭い青年が声を上げる。
「はっきりと言うけれど、確実に、とは約束出来ないわ。一度診てみないことには何とも……。それに私は医者ではないのよ」
ぬか喜びさせないようにはっきりと伝えるが、それでも「突破口が開けた」と喜んでいる。それ程までに今回のこのことは、リーンウン国の民たちの心に暗い影を落としていたのだろう。
「……一つ聞いても良いかしら? あなたたちはクジャのことや病気のことを、呪いだ何だと思っていないのよね?」
警備隊員たちは顔を見合わせるが、今度はハトと呼ばれる、眠そうな垂れ目が特徴の青年が口を開いた。
「正直な話……そう悪い方に思っている民は多い。だけど私たちは姫様を小さな頃から見ているし、レオナルドたちとたくさん話をして、呪いなんてものはないと確信したんだ。今回姫様たちに暴力を振るったのは、長く王家に仕える家系の一部の人間だ。そして私たちが証言者として、姫様を慕う人たちに今回のことを話した。どこの村も大騒ぎさ」
思ったよりも大きな騒ぎになっているようね。けれどここまで来たからには、あとは突き進むのみ。
「……カラスさんとハトさんも行くのよね?」
「「もちろんだ!」」
なるべく少人数で動こうと思っていたが、一人二人増えたところでそんなに変わらないだろう。よし、突っ切ってしまおう。
「行きましょう!」
そして私たちはついにリーンウン国に足を踏み入れた。
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建物から出てまず思ったのは、森と林道という感想しか浮かばない。ヒーズル王国の森のようなものが広がっていた。シャイアーク国側は、草原と林と街道というイメージだったが、たったこれ程の距離でこんなにも植生が違うことに驚いた。
この場所は目立つからと、一度森の中に入る。
「……私たちがいた森のようだな」
お父様が呟くとじいやも頷く。城の方向を聞くと、カラスさんとハトさんが指をさすので、当たり前のように私とお父様とじいやが木に登る。
「カカカカカレン!? 危ないのじゃ!」
「全然平気よ。あれが城ね」
木の上から指し示された方向を見ると、平屋の横に長いアジアンテイストな建物が確認出来た。日本の古い神社仏閣のような造りに懐かしさがこみ上げる。
「思ったよりも近いのだな」
地面に降り立った私たちを代表して、お父様が口を開いた。
「近く見えるが、道は曲がりくねり、途中にはいくつかの村があるのじゃ。すんなりと通してくれれば良いが……」
その言葉に、私、お父様、じいや、レオナルドさんが首を傾げる。
「えぇと……クジャ? なぜ村を通過しないといけないの?」
普通に疑問を口にすると、今度はリーンウン国の全員が首を傾げる。
「うん? 城への道が通っているからじゃが?」
「もしかして、この国は戦をしたことがないのかしら……?」
そう言えば「なぜ分かる!?」とクジャたちは驚いている。すると今度はレオナルドさんが口を開いた。
「姫さん……言いにくいんだが、戦をする時にわざわざきっちりと道を歩く律儀な奴はいないと思ったほうがいいぞ」
その言葉に私たちが頷くと、何故か、と問われた。
「道を歩いている時に森から攻撃を受けたらお終いよ。私だったらあえて囮を進軍させて、奇襲しようとする者を逆に奇襲するかしら……?」
戦のことなど分からないが、何となくイメージで話すとレオナルドさんは「そういうことだ」と言ってくれた。
「だからこの国の人たちに見つからないように、このまま森の中を進むわよ。クジャには辛いかもしれないけれど、それが最速最短よ」
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