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厨房へ
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服を脱いで浴室へと入ったが、私は井戸に興味津々だ。さすがの美樹ですら使ったことのない『つるべ井戸』が、どーんと目の前にあるのだ。
つるべを井戸の中に落とし、滑車を使ってカラカラと引き上げると水が組み上げられ、それを用意されている桶ともタライとも言えるようなものに入れ、貯まったところで一気にかぶった。
「冷た~い! けど気持ちいい!」
一人で広い浴室を貸し切り状態で使っているのだが、叫ばずにはいられない。頭からかぶった水はすのこ状の隙間から流れ落ち、排水溝へと続いているのだろう。
よく見れば小さな『片手桶』のようなものもある。これに持ち替え、水を浴びながら体を擦り汚れを落とす。分かってはいたが、普段拭くだけの体からは垢が大量に出て、自分の体から出たものなのに恐ろしく感じてしまったほどだ。
それでもただの水浴びよりは遥かに気持ちが良く、全身くまなく洗っているとクジャの声が聞こえてきた。
「カレンよ。カレンが望む服を持って来たが……気に入らなかったら、先程メジロが持って来た服を着るのじゃ」
「分かったわ!」
脱衣場から出て行くクジャの気配を感じ、着替えるために脱衣場へ行くと、棚にはクジャが持って来た服とメジロさんが持って来た服とが置かれている。ひとまず下着を身につけるが、この世界のパンツは色気の欠片もないトランクスのようなパンツだ。それをずり落ちないように紐で結ぶ。慣れれば、これはこれで通気性が良く着心地が良いのだ。
さて服を着ようと、クジャの持って来た服を広げて見ると、まさかの代物だった。なんの迷いもなくそれを着て、脱衣場から出る。
「クジャ! ありがとう! 最高よ!」
「……似合い過ぎてはおらんか?」
私の格好を見たクジャは、自分で渡した服なのに驚いた表情で私を見ている。色や柄こそ違うが、デザイン的には『もんぺ』に『上っぱり』という、見事なまでに日本的スタイルの服だったのだ。
「最高に動きやすいわ!」
「村に遊びに行った時に村人から貰ったのだが……農民が着る服らしいのじゃ。わらわが着ても、そんなには似合わんぞ」
クジャはそう言って私を見て笑う。
「農作業にも、他のことにも、この服なら動きやすいわ。ということで、厨房へ行きましょうか!」
こうして私とクジャとメジロさんが厨房へと向かうと、厨房の前でスズメちゃんが騒いでいた。スズメちゃんは、私が厨房を使えるかの確認に行っていたはずだ。
「も~! わからずや!」
「ダメなものはダメなんです! 私たちが王家のお食事を作るんです!」
どうやら厨房専門の女中と揉めているようである。メジロさんはそんなスズメちゃんの後ろ姿を見て、「あらあら……」と苦笑いになっている。するとクジャはツカツカと厨房へと向かって歩く。
「父上とわらわが許可をしたのじゃ! 厨房へ入らせてもらうぞ!」
お姫様の登場に、スズメちゃんも女中も慌てて頭を下げている。さらにメジロさんを見て驚いているのを見ると、立場的にメジロさんのほうが上なのだろう。
「すみません。ほんの少し厨房を貸してください。王家の皆さんは今、食べることが危険なんです」
そう言うと女中は、意味が分からないという表情になる。先程クジャのお父様であるハヤブサさんの部屋で話したことを説明すると、半分は意味が分かっていないようではあったが納得はしてくれた。私だけが来たのなら追い返されていたのであろうが、クジャの手前納得するしかないのだろう。
「部外者が突然やって来て、厨房を借りるなんてというお気持ちも分かりますが、王家のために貸してください。でもクジャは元気だから、クジャにその料理の腕をふるって存分に食べさせてあげてください」
頭を下げてからそう言うと、女中は慌てて厨房への入り口を開けてくれた。その流れで厨房へと入ると、クジャもメジロさんもスズメちゃんも入って来る。どうやら見学をしたいらしい。
「すみません、この布を一枚いただいて良いかしら?」
厨房の棚に置かれていた手ぬぐいのような布を指さすと、「どうぞ」と抑揚のない声で言われる。やはり歓迎はされていないらしい。私も特に気にするわけでもなく、その手ぬぐいを頭に載せて後ろで結び、姉さんかぶりをする。むしろ、もんぺに上っぱりに姉さんかぶりなんて、美樹ですらしたことのない古き良き日本のスタイルに興奮すらしている。
「……じゃから、似合い過ぎておろう」
またしても私の姿を見たクジャが苦笑いでそう言う。
「うふふ、最高の褒め言葉だわ」
そう返すと、クジャは出来れば言って欲しくなかったことを言ってしまった。
「本当にカレンは虫も怖がらんし、誰よりも勇敢であるし、今はわらわの家族のために看病もし、料理を作るなど……本当に姫かと疑ってしまうことが多々あるわ」
さらりとクジャは言うが、厨房内の空気が凍りついた。
「……姫……?」
メジロさんが言葉を発すると、あっけらかんとクジャは言う。
「なんじゃ? 聞いておらぬのか? カレンはわらわの親友であり、この国の救世主であり、某国の姫であるぞ?」
その瞬間、私とクジャ以外の全員が土下座をしてしまった。逆にやりにくくなってしまったこの状況に、どうしようかと頭を悩ませてしまったのだった。
つるべを井戸の中に落とし、滑車を使ってカラカラと引き上げると水が組み上げられ、それを用意されている桶ともタライとも言えるようなものに入れ、貯まったところで一気にかぶった。
「冷た~い! けど気持ちいい!」
一人で広い浴室を貸し切り状態で使っているのだが、叫ばずにはいられない。頭からかぶった水はすのこ状の隙間から流れ落ち、排水溝へと続いているのだろう。
よく見れば小さな『片手桶』のようなものもある。これに持ち替え、水を浴びながら体を擦り汚れを落とす。分かってはいたが、普段拭くだけの体からは垢が大量に出て、自分の体から出たものなのに恐ろしく感じてしまったほどだ。
それでもただの水浴びよりは遥かに気持ちが良く、全身くまなく洗っているとクジャの声が聞こえてきた。
「カレンよ。カレンが望む服を持って来たが……気に入らなかったら、先程メジロが持って来た服を着るのじゃ」
「分かったわ!」
脱衣場から出て行くクジャの気配を感じ、着替えるために脱衣場へ行くと、棚にはクジャが持って来た服とメジロさんが持って来た服とが置かれている。ひとまず下着を身につけるが、この世界のパンツは色気の欠片もないトランクスのようなパンツだ。それをずり落ちないように紐で結ぶ。慣れれば、これはこれで通気性が良く着心地が良いのだ。
さて服を着ようと、クジャの持って来た服を広げて見ると、まさかの代物だった。なんの迷いもなくそれを着て、脱衣場から出る。
「クジャ! ありがとう! 最高よ!」
「……似合い過ぎてはおらんか?」
私の格好を見たクジャは、自分で渡した服なのに驚いた表情で私を見ている。色や柄こそ違うが、デザイン的には『もんぺ』に『上っぱり』という、見事なまでに日本的スタイルの服だったのだ。
「最高に動きやすいわ!」
「村に遊びに行った時に村人から貰ったのだが……農民が着る服らしいのじゃ。わらわが着ても、そんなには似合わんぞ」
クジャはそう言って私を見て笑う。
「農作業にも、他のことにも、この服なら動きやすいわ。ということで、厨房へ行きましょうか!」
こうして私とクジャとメジロさんが厨房へと向かうと、厨房の前でスズメちゃんが騒いでいた。スズメちゃんは、私が厨房を使えるかの確認に行っていたはずだ。
「も~! わからずや!」
「ダメなものはダメなんです! 私たちが王家のお食事を作るんです!」
どうやら厨房専門の女中と揉めているようである。メジロさんはそんなスズメちゃんの後ろ姿を見て、「あらあら……」と苦笑いになっている。するとクジャはツカツカと厨房へと向かって歩く。
「父上とわらわが許可をしたのじゃ! 厨房へ入らせてもらうぞ!」
お姫様の登場に、スズメちゃんも女中も慌てて頭を下げている。さらにメジロさんを見て驚いているのを見ると、立場的にメジロさんのほうが上なのだろう。
「すみません。ほんの少し厨房を貸してください。王家の皆さんは今、食べることが危険なんです」
そう言うと女中は、意味が分からないという表情になる。先程クジャのお父様であるハヤブサさんの部屋で話したことを説明すると、半分は意味が分かっていないようではあったが納得はしてくれた。私だけが来たのなら追い返されていたのであろうが、クジャの手前納得するしかないのだろう。
「部外者が突然やって来て、厨房を借りるなんてというお気持ちも分かりますが、王家のために貸してください。でもクジャは元気だから、クジャにその料理の腕をふるって存分に食べさせてあげてください」
頭を下げてからそう言うと、女中は慌てて厨房への入り口を開けてくれた。その流れで厨房へと入ると、クジャもメジロさんもスズメちゃんも入って来る。どうやら見学をしたいらしい。
「すみません、この布を一枚いただいて良いかしら?」
厨房の棚に置かれていた手ぬぐいのような布を指さすと、「どうぞ」と抑揚のない声で言われる。やはり歓迎はされていないらしい。私も特に気にするわけでもなく、その手ぬぐいを頭に載せて後ろで結び、姉さんかぶりをする。むしろ、もんぺに上っぱりに姉さんかぶりなんて、美樹ですらしたことのない古き良き日本のスタイルに興奮すらしている。
「……じゃから、似合い過ぎておろう」
またしても私の姿を見たクジャが苦笑いでそう言う。
「うふふ、最高の褒め言葉だわ」
そう返すと、クジャは出来れば言って欲しくなかったことを言ってしまった。
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さらりとクジャは言うが、厨房内の空気が凍りついた。
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メジロさんが言葉を発すると、あっけらかんとクジャは言う。
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