貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
226 / 370

厨房へ

しおりを挟む
 服を脱いで浴室へと入ったが、私は井戸に興味津々だ。さすがの美樹ですら使ったことのない『つるべ井戸』が、どーんと目の前にあるのだ。
 つるべを井戸の中に落とし、滑車を使ってカラカラと引き上げると水が組み上げられ、それを用意されている桶ともタライとも言えるようなものに入れ、貯まったところで一気にかぶった。

「冷た~い! けど気持ちいい!」

 一人で広い浴室を貸し切り状態で使っているのだが、叫ばずにはいられない。頭からかぶった水はすのこ状の隙間から流れ落ち、排水溝へと続いているのだろう。
 よく見れば小さな『片手桶』のようなものもある。これに持ち替え、水を浴びながら体を擦り汚れを落とす。分かってはいたが、普段拭くだけの体からは垢が大量に出て、自分の体から出たものなのに恐ろしく感じてしまったほどだ。
 それでもただの水浴びよりは遥かに気持ちが良く、全身くまなく洗っているとクジャの声が聞こえてきた。

「カレンよ。カレンが望む服を持って来たが……気に入らなかったら、先程メジロが持って来た服を着るのじゃ」

「分かったわ!」

 脱衣場から出て行くクジャの気配を感じ、着替えるために脱衣場へ行くと、棚にはクジャが持って来た服とメジロさんが持って来た服とが置かれている。ひとまず下着を身につけるが、この世界のパンツは色気の欠片もないトランクスのようなパンツだ。それをずり落ちないように紐で結ぶ。慣れれば、これはこれで通気性が良く着心地が良いのだ。
 さて服を着ようと、クジャの持って来た服を広げて見ると、まさかの代物だった。なんの迷いもなくそれを着て、脱衣場から出る。

「クジャ! ありがとう! 最高よ!」

「……似合い過ぎてはおらんか?」

 私の格好を見たクジャは、自分で渡した服なのに驚いた表情で私を見ている。色や柄こそ違うが、デザイン的には『もんぺ』に『上っぱり』という、見事なまでに日本的スタイルの服だったのだ。

「最高に動きやすいわ!」

「村に遊びに行った時に村人から貰ったのだが……農民が着る服らしいのじゃ。わらわが着ても、そんなには似合わんぞ」

 クジャはそう言って私を見て笑う。

「農作業にも、他のことにも、この服なら動きやすいわ。ということで、厨房へ行きましょうか!」

 こうして私とクジャとメジロさんが厨房へと向かうと、厨房の前でスズメちゃんが騒いでいた。スズメちゃんは、私が厨房を使えるかの確認に行っていたはずだ。

「も~! わからずや!」

「ダメなものはダメなんです! 私たちが王家のお食事を作るんです!」

 どうやら厨房専門の女中と揉めているようである。メジロさんはそんなスズメちゃんの後ろ姿を見て、「あらあら……」と苦笑いになっている。するとクジャはツカツカと厨房へと向かって歩く。

「父上とわらわが許可をしたのじゃ! 厨房へ入らせてもらうぞ!」

 お姫様の登場に、スズメちゃんも女中も慌てて頭を下げている。さらにメジロさんを見て驚いているのを見ると、立場的にメジロさんのほうが上なのだろう。

「すみません。ほんの少し厨房を貸してください。王家の皆さんは今、食べることが危険なんです」

 そう言うと女中は、意味が分からないという表情になる。先程クジャのお父様であるハヤブサさんの部屋で話したことを説明すると、半分は意味が分かっていないようではあったが納得はしてくれた。私だけが来たのなら追い返されていたのであろうが、クジャの手前納得するしかないのだろう。

「部外者が突然やって来て、厨房を借りるなんてというお気持ちも分かりますが、王家のために貸してください。でもクジャは元気だから、クジャにその料理の腕をふるって存分に食べさせてあげてください」

 頭を下げてからそう言うと、女中は慌てて厨房への入り口を開けてくれた。その流れで厨房へと入ると、クジャもメジロさんもスズメちゃんも入って来る。どうやら見学をしたいらしい。

「すみません、この布を一枚いただいて良いかしら?」

 厨房の棚に置かれていた手ぬぐいのような布を指さすと、「どうぞ」と抑揚のない声で言われる。やはり歓迎はされていないらしい。私も特に気にするわけでもなく、その手ぬぐいを頭に載せて後ろで結び、姉さんかぶりをする。むしろ、もんぺに上っぱりに姉さんかぶりなんて、美樹ですらしたことのない古き良き日本のスタイルに興奮すらしている。

「……じゃから、似合い過ぎておろう」

 またしても私の姿を見たクジャが苦笑いでそう言う。

「うふふ、最高の褒め言葉だわ」

 そう返すと、クジャは出来れば言って欲しくなかったことを言ってしまった。

「本当にカレンは虫も怖がらんし、誰よりも勇敢であるし、今はわらわの家族のために看病もし、料理を作るなど……本当に姫かと疑ってしまうことが多々あるわ」

 さらりとクジャは言うが、厨房内の空気が凍りついた。

「……姫……?」

 メジロさんが言葉を発すると、あっけらかんとクジャは言う。

「なんじゃ? 聞いておらぬのか? カレンはわらわの親友であり、この国の救世主であり、某国の姫であるぞ?」

 その瞬間、私とクジャ以外の全員が土下座をしてしまった。逆にやりにくくなってしまったこの状況に、どうしようかと頭を悩ませてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...