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呪いの解除
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雑炊を食べ終わる頃には、重湯が程よく冷めている。まずはクジャのお父様の部屋から回ろうと、私たちは重湯や食器を持って向かった。
「ほとんど味もないですが、ゆっくりとこれを飲んでください」
重湯を少量スプーンに取り、クジャのお父様の口へと運ぶ。コゲラさんも私のやり方を見ながら、クジャのお兄様であるチュウヒさんの口へとスプーンを運んでいる。
「無理と焦りは禁物よ。ゆっくりと治しましょうね」
そう言ってまた一口スプーンを運ぶ。もしここが美樹のいた日本であったなら、即座に様々な検査をし、体の中のあれやこれやが足りない、ならばそれやこれを投与しようという流れになると思うのだが、そんな病院などここにはない。
テックノン王国の医療はどの程度の医療技術なのか分からないし、そもそもこことテックノン王国は遠すぎてすぐに連絡することも出来ない。頼れるのはその人自身の自然治癒力なのだ。
「うむ……ゆっくりと……治すことにしよう……」
幸いなのは、王家の皆が前向きに治そうとしてくれることだ。病は気からというだけあって、気持ちがプラスならば良い方向に向かうだろう。
「さぁ次はクジャのお母様たちの番よ。行きましょう」
そう声をかけるとクジャの顔が曇る。
「……母上は迷惑だと思わないだろうか? ……ババ様も怒ってはいないだろうか……?」
呪いなんてものはないのに、クジャ自身が呪いに囚われている。サギのような人たちに、長年呪いだなんだと言われたせいだろう。
「大丈夫よ。私と一緒に行って、声をかけてあげましょう」
クジャの手を取ると、クジャは静かに頷き一緒に来ることとなった。
初めてこの部屋に来たクジャは、目を瞑ったままでやせ細ったお二人を見て泣きそうになっていた。さらに横向きの体勢から仰向けに変える時に、お二人の床ずれの処置も見せたので、よほどショックだったのかしゃがみ込み声を上げずに泣いていた。
「まずはお祖母様のお食事にしましょう。クジャ、手を握ってあげて」
クジャは触れても良いのかと躊躇っているように見えたが、恐る恐る、そっとお祖母様の手を握った。
「今日はあまり味のしない汁物ですが、少しでも飲んでくださいね。ゆっくりと治して行きましょう」
「っ! ババ様!」
目は瞑ったままではあるが、意識はあるらしく、お祖母様はクジャの手を弱弱しくも握り返したようである。極少量の重湯を飲ませ、次にお母様の方へ移動する。クジャは、お祖母様の時よりも躊躇しながらも、お母様の指先を握った。
「……母上……」
「……ク……ャ……」
クジャが声をかけると、お母様は小さな声を漏らした。クジャは片手で口元を押さえ、泣き声を漏らさないようにしている。
「クジャのお母様もお食事にしましょうね。良くなったら、クジャの子どもの頃のお話を聞かせてくださいね」
私がそう言うと、かすかに口元が動き微笑んでくれた。それを見たクジャは、アメジストのような美しい瞳からポロポロと大粒の涙をこぼす。
以前、クジャは家臣たちに母娘共々にいろいろと言われ、お母様との関係がギクシャクしていると言っていた。目の前の二人はそんなことなど無かったかのように見える。母娘の関係もまた、家臣たちによって作られた呪いのようなものだったのだろう。
今後、二人の関係に水を差す者もいないだろう。王家の病気の回復のように、ゆっくりと改善していくことを願うばかりだ。
「ではまた後で来ますね。クジャもまだ本調子じゃないんだから、モズさんと一緒に今から休むこと! メジロさん、クジャをお願いします」
メジロさんにそう言うと、「かしこまりました」と、まだ泣いているクジャを連れて部屋から出て行った。部屋に残っているのは、緊張の面持ちのスズメちゃんである。
「スズメちゃん、食器の片付けに厨房まで一緒に行ってくれないかしら? 一人だとちょっと……」
本当は一人でも全くかまわないけれど、スズメちゃんと仲良くなりたいが故の口実だ。さっきの女中たちのこともあったためか、ハッとしたスズメちゃんは頷く。
「じゃあその前に」
隣にあてがわれた私たち用の部屋から、お父様たちの声が聞こえている。少し休憩をしているようだ。
「お父様、じいや。少し席を外すから、メジロさんが戻るまでお二人の様子を見ていてほしいの」
厨房に向かいつつ、隣の部屋に声をかけると「任せろ」とお父様たちは出て来てくれた。これで安心である。
スズメちゃんと共に厨房へと入ると、女中たちはピタリと動きを止める。刺々しさは和らいだが、向こうもどうしたら良いのか分からないのだろう。スズメちゃんと共に食器を洗い、手早く片付ける。
「一日に何回もお邪魔してしまいますが、ご協力よろしくお願いします」
そう言いながら女中たちに頭を下げると、向こうもどぎまぎしつつ頭を下げてくれた。
これからのことを考えると、女中たちとも上手くやって行かなければならないのだ。千里の道も一歩からだ。コツコツとコミュニケーションを取っていこう。
「ほとんど味もないですが、ゆっくりとこれを飲んでください」
重湯を少量スプーンに取り、クジャのお父様の口へと運ぶ。コゲラさんも私のやり方を見ながら、クジャのお兄様であるチュウヒさんの口へとスプーンを運んでいる。
「無理と焦りは禁物よ。ゆっくりと治しましょうね」
そう言ってまた一口スプーンを運ぶ。もしここが美樹のいた日本であったなら、即座に様々な検査をし、体の中のあれやこれやが足りない、ならばそれやこれを投与しようという流れになると思うのだが、そんな病院などここにはない。
テックノン王国の医療はどの程度の医療技術なのか分からないし、そもそもこことテックノン王国は遠すぎてすぐに連絡することも出来ない。頼れるのはその人自身の自然治癒力なのだ。
「うむ……ゆっくりと……治すことにしよう……」
幸いなのは、王家の皆が前向きに治そうとしてくれることだ。病は気からというだけあって、気持ちがプラスならば良い方向に向かうだろう。
「さぁ次はクジャのお母様たちの番よ。行きましょう」
そう声をかけるとクジャの顔が曇る。
「……母上は迷惑だと思わないだろうか? ……ババ様も怒ってはいないだろうか……?」
呪いなんてものはないのに、クジャ自身が呪いに囚われている。サギのような人たちに、長年呪いだなんだと言われたせいだろう。
「大丈夫よ。私と一緒に行って、声をかけてあげましょう」
クジャの手を取ると、クジャは静かに頷き一緒に来ることとなった。
初めてこの部屋に来たクジャは、目を瞑ったままでやせ細ったお二人を見て泣きそうになっていた。さらに横向きの体勢から仰向けに変える時に、お二人の床ずれの処置も見せたので、よほどショックだったのかしゃがみ込み声を上げずに泣いていた。
「まずはお祖母様のお食事にしましょう。クジャ、手を握ってあげて」
クジャは触れても良いのかと躊躇っているように見えたが、恐る恐る、そっとお祖母様の手を握った。
「今日はあまり味のしない汁物ですが、少しでも飲んでくださいね。ゆっくりと治して行きましょう」
「っ! ババ様!」
目は瞑ったままではあるが、意識はあるらしく、お祖母様はクジャの手を弱弱しくも握り返したようである。極少量の重湯を飲ませ、次にお母様の方へ移動する。クジャは、お祖母様の時よりも躊躇しながらも、お母様の指先を握った。
「……母上……」
「……ク……ャ……」
クジャが声をかけると、お母様は小さな声を漏らした。クジャは片手で口元を押さえ、泣き声を漏らさないようにしている。
「クジャのお母様もお食事にしましょうね。良くなったら、クジャの子どもの頃のお話を聞かせてくださいね」
私がそう言うと、かすかに口元が動き微笑んでくれた。それを見たクジャは、アメジストのような美しい瞳からポロポロと大粒の涙をこぼす。
以前、クジャは家臣たちに母娘共々にいろいろと言われ、お母様との関係がギクシャクしていると言っていた。目の前の二人はそんなことなど無かったかのように見える。母娘の関係もまた、家臣たちによって作られた呪いのようなものだったのだろう。
今後、二人の関係に水を差す者もいないだろう。王家の病気の回復のように、ゆっくりと改善していくことを願うばかりだ。
「ではまた後で来ますね。クジャもまだ本調子じゃないんだから、モズさんと一緒に今から休むこと! メジロさん、クジャをお願いします」
メジロさんにそう言うと、「かしこまりました」と、まだ泣いているクジャを連れて部屋から出て行った。部屋に残っているのは、緊張の面持ちのスズメちゃんである。
「スズメちゃん、食器の片付けに厨房まで一緒に行ってくれないかしら? 一人だとちょっと……」
本当は一人でも全くかまわないけれど、スズメちゃんと仲良くなりたいが故の口実だ。さっきの女中たちのこともあったためか、ハッとしたスズメちゃんは頷く。
「じゃあその前に」
隣にあてがわれた私たち用の部屋から、お父様たちの声が聞こえている。少し休憩をしているようだ。
「お父様、じいや。少し席を外すから、メジロさんが戻るまでお二人の様子を見ていてほしいの」
厨房に向かいつつ、隣の部屋に声をかけると「任せろ」とお父様たちは出て来てくれた。これで安心である。
スズメちゃんと共に厨房へと入ると、女中たちはピタリと動きを止める。刺々しさは和らいだが、向こうもどうしたら良いのか分からないのだろう。スズメちゃんと共に食器を洗い、手早く片付ける。
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