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オオゾラ村
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城下町のメインストリートと呼ぶべき場所はそんなに長くなく、クジャの寄り道に付き合いながらそこを抜けると景色は一気に田舎の農村地帯のように変わった。城が小高い丘に建っているので、緩やかな坂道から畑や水田を見下ろしている。
美樹の住んでいた場所を思い出し、その景色をボーッと眺めているとあるものに気付いた。
「ねぇクジャ。あれは何?」
私の指さす先には『円』の形のような、丸太で作られた大きな建造物が道に設置され、その下を歩けるようになっている。
「あれは『トーリ』じゃ。この国では死んだ者は鳥となって空へ向かうと信じておる。じゃがその鳥も故郷に帰って来たくなることもあろう。その時はあの『トーリ』に止まり、家族を見守るのじゃ。城の入り口にもあったが、気付かなかったか?」
……トーリ。見ようによっては鳥居に見える。鳥居の語源に、鶏の止まり木という説がある。この国は日本を連想させるものが多い。他の国では売れないと言われる野菜は、大根や白菜など、私にとってはとても親しみやすいものが多い。私とこの国は相性が良すぎる。
そんなことを考えながら、トビ爺さんのいるオオゾラ村を探した。目で道を辿るとすぐに木々に囲まれた村を見つけたが、様子がおかしいことに気付いた。
「……ねぇクジャ……あの村は、いつもああなの?」
クジャは「ん?」と、よく分からないといった風にオオゾラ村を見る。
「……あれは……歓迎の旗じゃな……」
オオゾラ村のいたる所にカラフルな布が掲げられている。木々の間からそれを確認出来るということは、実際はもっと掲げているのだろう。
「……わらわたちが先に行くのも……父上たちを待つか……」
クジャが苦笑いでそう言い、私とクジャは王家の人たちが通るはずの城下町を振り返る。すると道の真ん中に馬車が止まり、モズさんがあっちの露店、こっちの露店と走り回って頭を下げている。……クジャが食べ歩きをした代金を支払っているようだ。
────
「よく来なすった!」
「ようこそオオゾラ村へ!」
「オオルリ! おかえり!」
「お転婆! 元気か!」
王家の馬車と合流し、私たちはまとまってオオゾラ村へと向かった。大きな道から小道に入り、少し進むとこのオオゾラ村があった。
村のいたる所に旗や布がはためき、村人たちもまた熱烈歓迎をしてくれ、私たちは揉みくちゃになっている。
「ハヤブサ、良いか?」
「確認せずともモクレンならば良いと何回も言っている」
お父様たちは名前を呼び捨てにし合うほど仲を深めている。お父様が確認したのは、オオルリさんやスワンさんを馬車から降ろすために、体に触れてしまうことを気遣ってのことだ。
ここで活躍するのが昨日、私とお父様とじいやとで作ったものである。
「じいや、準備を」
「はい、姫様」
じいやが別の馬車から降ろしたのは車椅子である。美樹の記憶を頼りに、椅子に大きな車輪と小さな車輪、そして手押し用のハンドルと足置きの板を取り付けたものだ。
ただゴム製の車輪ではないので、試しに座って動かしてもらった時は衝撃がお尻に伝わり大変だった。なのでもう必要のなくなったおむつや綿、柔らかい布などを、クッションカバーのようなものを作り詰め込んだ。
「オオルリさん、スワンさん、あまり座り心地が良くなくてごめんなさい」
私がそう言うと、お二人は「何を言うの、こんなにもありがたいものはないわ」と言い、私はたしなめられた。
お父様とじいやが車椅子を動かすとお二人は「まぁ!」と楽しそうな声を上げ、初めて車椅子を見る者たちは驚きの表情でその様子を眺めていた。
「お尻は痛くないですか? 我慢をすると炎症を起こすかもしれないのですぐに言ってくださいね? お父様、じいや、昨日も言った通り、草や土の上をゆっくり移動よ」
オオルリさんもスワンさんも、お父様もじいやも私の言葉に頷く。
「ではオオルリさん、ご実家に向かいましょう」
私の言葉に村人たちから拍手が起こる。オオルリさんのご両親はお体の調子が悪く、ご実家で休んでいるらしい。そして「おめでとう」や「おかえり」という迎え入れてくれる言葉に、オオルリさんだけではなく王家の全員が涙ぐんでいた。
「オオルリ! オメェさんが家を言わなきゃ、そちらさん方がどこに行ったらいいのか分かんねぇだろうが!」
突如聞こえて来たのは口の悪いトビ爺さんの声だ。けれどトビ爺さんもオオルリさんの里帰りを喜び、笑いながら嬉し涙を滲ませている。
オオルリさんは両手で口元を覆い、頷くので精一杯だ。
「トビ爺さん! 遊びに来たわよ! クジャとオオルリさんと……ううん、オオルリさんの家族みんなと遊びに来たわ。トビ爺さんがそんな怖い口調だから、みんなが驚いて動けないでいるわ。トビ爺さんが案内してちょうだい!」
別に誰もトビ爺さんの口調に怯えているわけではない。オオルリさんはこの村に戻って来れて感激しているだけだ。そしてその様子を子どもであるチュウヒさんとクジャが喜び、貰い泣き寸前というわけだ。
ただハヤブサさんとスワンさんの表情を見るに、今まで里帰りさせてあげられなかった後悔から涙ぐんでいるようだ。
だから何も悪くないトビ爺さんにおどけて話したのだが、トビ爺さんもそれを察してくれたようである。
「任せろ! そりゃあ、昔と村の様子が変わったから混乱しても仕方ねぇ! 昔より家が増えただろ!」
それを聞いたオオルリさんは、うんうんと何回も頷いている。のどかで小さな村だと思ったが、昔はもっと小さな村だったようだ。
そして私たちはトビ爺さんの後ろをぞろぞろと、大名行列のようについて行ったのだった。
美樹の住んでいた場所を思い出し、その景色をボーッと眺めているとあるものに気付いた。
「ねぇクジャ。あれは何?」
私の指さす先には『円』の形のような、丸太で作られた大きな建造物が道に設置され、その下を歩けるようになっている。
「あれは『トーリ』じゃ。この国では死んだ者は鳥となって空へ向かうと信じておる。じゃがその鳥も故郷に帰って来たくなることもあろう。その時はあの『トーリ』に止まり、家族を見守るのじゃ。城の入り口にもあったが、気付かなかったか?」
……トーリ。見ようによっては鳥居に見える。鳥居の語源に、鶏の止まり木という説がある。この国は日本を連想させるものが多い。他の国では売れないと言われる野菜は、大根や白菜など、私にとってはとても親しみやすいものが多い。私とこの国は相性が良すぎる。
そんなことを考えながら、トビ爺さんのいるオオゾラ村を探した。目で道を辿るとすぐに木々に囲まれた村を見つけたが、様子がおかしいことに気付いた。
「……ねぇクジャ……あの村は、いつもああなの?」
クジャは「ん?」と、よく分からないといった風にオオゾラ村を見る。
「……あれは……歓迎の旗じゃな……」
オオゾラ村のいたる所にカラフルな布が掲げられている。木々の間からそれを確認出来るということは、実際はもっと掲げているのだろう。
「……わらわたちが先に行くのも……父上たちを待つか……」
クジャが苦笑いでそう言い、私とクジャは王家の人たちが通るはずの城下町を振り返る。すると道の真ん中に馬車が止まり、モズさんがあっちの露店、こっちの露店と走り回って頭を下げている。……クジャが食べ歩きをした代金を支払っているようだ。
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「よく来なすった!」
「ようこそオオゾラ村へ!」
「オオルリ! おかえり!」
「お転婆! 元気か!」
王家の馬車と合流し、私たちはまとまってオオゾラ村へと向かった。大きな道から小道に入り、少し進むとこのオオゾラ村があった。
村のいたる所に旗や布がはためき、村人たちもまた熱烈歓迎をしてくれ、私たちは揉みくちゃになっている。
「ハヤブサ、良いか?」
「確認せずともモクレンならば良いと何回も言っている」
お父様たちは名前を呼び捨てにし合うほど仲を深めている。お父様が確認したのは、オオルリさんやスワンさんを馬車から降ろすために、体に触れてしまうことを気遣ってのことだ。
ここで活躍するのが昨日、私とお父様とじいやとで作ったものである。
「じいや、準備を」
「はい、姫様」
じいやが別の馬車から降ろしたのは車椅子である。美樹の記憶を頼りに、椅子に大きな車輪と小さな車輪、そして手押し用のハンドルと足置きの板を取り付けたものだ。
ただゴム製の車輪ではないので、試しに座って動かしてもらった時は衝撃がお尻に伝わり大変だった。なのでもう必要のなくなったおむつや綿、柔らかい布などを、クッションカバーのようなものを作り詰め込んだ。
「オオルリさん、スワンさん、あまり座り心地が良くなくてごめんなさい」
私がそう言うと、お二人は「何を言うの、こんなにもありがたいものはないわ」と言い、私はたしなめられた。
お父様とじいやが車椅子を動かすとお二人は「まぁ!」と楽しそうな声を上げ、初めて車椅子を見る者たちは驚きの表情でその様子を眺めていた。
「お尻は痛くないですか? 我慢をすると炎症を起こすかもしれないのですぐに言ってくださいね? お父様、じいや、昨日も言った通り、草や土の上をゆっくり移動よ」
オオルリさんもスワンさんも、お父様もじいやも私の言葉に頷く。
「ではオオルリさん、ご実家に向かいましょう」
私の言葉に村人たちから拍手が起こる。オオルリさんのご両親はお体の調子が悪く、ご実家で休んでいるらしい。そして「おめでとう」や「おかえり」という迎え入れてくれる言葉に、オオルリさんだけではなく王家の全員が涙ぐんでいた。
「オオルリ! オメェさんが家を言わなきゃ、そちらさん方がどこに行ったらいいのか分かんねぇだろうが!」
突如聞こえて来たのは口の悪いトビ爺さんの声だ。けれどトビ爺さんもオオルリさんの里帰りを喜び、笑いながら嬉し涙を滲ませている。
オオルリさんは両手で口元を覆い、頷くので精一杯だ。
「トビ爺さん! 遊びに来たわよ! クジャとオオルリさんと……ううん、オオルリさんの家族みんなと遊びに来たわ。トビ爺さんがそんな怖い口調だから、みんなが驚いて動けないでいるわ。トビ爺さんが案内してちょうだい!」
別に誰もトビ爺さんの口調に怯えているわけではない。オオルリさんはこの村に戻って来れて感激しているだけだ。そしてその様子を子どもであるチュウヒさんとクジャが喜び、貰い泣き寸前というわけだ。
ただハヤブサさんとスワンさんの表情を見るに、今まで里帰りさせてあげられなかった後悔から涙ぐんでいるようだ。
だから何も悪くないトビ爺さんにおどけて話したのだが、トビ爺さんもそれを察してくれたようである。
「任せろ! そりゃあ、昔と村の様子が変わったから混乱しても仕方ねぇ! 昔より家が増えただろ!」
それを聞いたオオルリさんは、うんうんと何回も頷いている。のどかで小さな村だと思ったが、昔はもっと小さな村だったようだ。
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