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オオルリさんの里帰り
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「おぉい! アオジ! ツグミ! オオルリが帰って来たぞー! まだくたばってねぇだろうな!」
とてつもなく口の悪いトビ爺さんは、時代劇などで見るような農民の家に似た建物の戸を開ける。
ちらりとトビ爺さんの背中越しに中を覗くと、思った以上に広い土間とかなり大きな座敷、そして奥座敷と呼べばよいのか、戸が閉められたいくつかの部屋が見えた。
「ジジ上! ババ上! お元気か!? お転婆クジャクが遊びに来たのじゃ!」
初めて知ったが、クジャはスワンさんのことは『ババ様』と呼ぶが、オオルリさん側の祖父母はこう呼ぶらしい。そして自分から『お転婆クジャク』と名乗っている。
けれど家の中からは反応がなく、トビ爺さんは勝手に上がり込み奥座敷へと向かった。この村では日本のように履物を脱いで家に入るようだ。
「アオジ! ツグミ! ……なんだ、寝てたのか。オオルリたちが来たぞ! ……なんだって? 冗談だと思ってただと? おい! オオルリ! こっちに来い! 全員は入れねぇからな! オオルリの家族だけだぞ!」
トビ爺さんは会話をしているようだが、オオルリさんのご両親の声は聞こえない。ふとオオルリさんの方を見ると、声を出さずに泣きじゃくっている。その様子にクジャは困惑して固まってしまい、動けそうにない。
「……おっとさん……おっかさん……」
皆が戸惑う中、泣きながら小さな声でオオルリさんは呟いている。持っていた手拭いでオオルリさんの涙を拭いて声をかけた。
「オオルリさん、行きましょう? 久しぶりのご実家よ。この車椅子の汚れを払うから、少し待ってくださいね」
段差がある上に履物を脱ぐ家だ。車輪の土などを払ってから中に入ったほうが良いと思い声をかけたが、オオルリさんは小さく首を振って声を出した。
「……歩きます……カレンさん、メジロ……手伝って……」
ポロポロと涙をこぼしながらオオルリさんはそう言う。私とメジロさんは一瞬見つめ合い、頷きあった。
履物を脱ぐ場所と、座敷の段差のギリギリまで車椅子を移動させた。足置きの板を取り外し、そのまま履物を脱がせる。
「お父様、オオルリさんをこちらに」
そう言って座敷を指さすと、お父様はオオルリさんをお姫様抱っこする。そしてそのまま降ろすのではなく、立ちやすいように足からそっと降ろす。私とメジロさんは横から転ばないように支える。
「おっとさん……おっかさん……!」
そう言いながらオオルリさんは前に向かって必死に歩こうとしている。私とメジロさんは毎日お世話をしているので、オオルリさんの筋力や体力をだいたい把握している。オオルリさんは今、あり得ない程に力を出している。いや、力を振り絞っている。
スワンさんと二人で使っている療養用の寝室よりも広いのではないかという座敷を、一歩、また一歩と進んでいく。もどかしく思うが、それはオオルリさんが一番そう思っていることだろう。
オオルリさんの気迫に、私とメジロさん以外の誰も動けず、口を閉ざしたままオオルリさんを見つめている。
「おっとさん! おっかさん! ……ただいま!」
最後の数歩はトビ爺さんも手を引き手伝ってくれた。部屋の入り口についたオオルリさんは大粒の涙をこぼしながらそう叫んだ。
部屋へ入ろうとしたオオルリさんは、ご両親の部屋に着き安堵したからかバランスを崩した。私が前面に回り込み、クッション代わりに一緒に倒れた。
「……ウソだろう……またトビの冗談かと……」
「……オオルリ!」
そんな男女の声が聞こえた。けれどその声は倒れている私の頭のすぐ近くで聞こえた。私に謝るオオルリさんをなだめ、このまま座るというので座らせたが、オオルリさんのご両親は布団から動かない。いや、動けないのだろう。
顔色は悪く、酷く痩せこけ、あの日の王家の人たちのような状態で布団に横たわっていた。
「……会いたかった……! うわぁぁぁぁん!」
オオルリさんはまるで小さな子どものように泣き叫び、ご両親の布団に覆いかぶさる。その時背後から声が聞こえた。
「アオジ殿、ツグミ殿……これまでのことを謝罪させていただきたい。今まで申し訳なかった!」
ハヤブサさんが部屋の入り口でそう言い、そのままオオルリさんの隣に座ったかと思うと、まさかの土下座をし始めた。これにはオオルリさんのご両親も慌てふためき、起きようとしても起き上がれないようだったので、私とメジロさんが二人を起こして座らせた。
ハヤブサさんはそんな二人にずっと謝り続けている。どうやらオオルリさんが何不自由なく城にいるのが一番の幸せだと思っていたらしい。
サギはこの小さな村の出身のオオルリさんを良く思っておらず、ハヤブサさんに『それが女の一番の幸せだ』と繰り返し吹き込んだ挙句に村との行き来を無くすように迫り、里帰りさせるという考えを全くしなかったと謝っている。今のこのオオルリさんを見て、長年どれほどの我慢をさせていたのかとオオルリさんにも謝っている。
「ハヤブサ王……お止めください……!」
「あちきらも……それがオオルリの幸せだと思っておりました……」
オオルリさんのご両親はそう言うが、ハヤブサさんは今までの細々としたことまで謝り始めた。しばらくするとオオルリさんは泣き止み、クスリと笑い出した。
「そういうのは、思った時に言ってくださいね」
そのオオルリさんの一言で、ようやくハヤブサさんの謝罪が止まった。
オオルリさんのご両親との絆も、夫婦の絆も結び直されたようだ。気付けば家の入り口からたくさんの拍手が聞こえてきていた。
とてつもなく口の悪いトビ爺さんは、時代劇などで見るような農民の家に似た建物の戸を開ける。
ちらりとトビ爺さんの背中越しに中を覗くと、思った以上に広い土間とかなり大きな座敷、そして奥座敷と呼べばよいのか、戸が閉められたいくつかの部屋が見えた。
「ジジ上! ババ上! お元気か!? お転婆クジャクが遊びに来たのじゃ!」
初めて知ったが、クジャはスワンさんのことは『ババ様』と呼ぶが、オオルリさん側の祖父母はこう呼ぶらしい。そして自分から『お転婆クジャク』と名乗っている。
けれど家の中からは反応がなく、トビ爺さんは勝手に上がり込み奥座敷へと向かった。この村では日本のように履物を脱いで家に入るようだ。
「アオジ! ツグミ! ……なんだ、寝てたのか。オオルリたちが来たぞ! ……なんだって? 冗談だと思ってただと? おい! オオルリ! こっちに来い! 全員は入れねぇからな! オオルリの家族だけだぞ!」
トビ爺さんは会話をしているようだが、オオルリさんのご両親の声は聞こえない。ふとオオルリさんの方を見ると、声を出さずに泣きじゃくっている。その様子にクジャは困惑して固まってしまい、動けそうにない。
「……おっとさん……おっかさん……」
皆が戸惑う中、泣きながら小さな声でオオルリさんは呟いている。持っていた手拭いでオオルリさんの涙を拭いて声をかけた。
「オオルリさん、行きましょう? 久しぶりのご実家よ。この車椅子の汚れを払うから、少し待ってくださいね」
段差がある上に履物を脱ぐ家だ。車輪の土などを払ってから中に入ったほうが良いと思い声をかけたが、オオルリさんは小さく首を振って声を出した。
「……歩きます……カレンさん、メジロ……手伝って……」
ポロポロと涙をこぼしながらオオルリさんはそう言う。私とメジロさんは一瞬見つめ合い、頷きあった。
履物を脱ぐ場所と、座敷の段差のギリギリまで車椅子を移動させた。足置きの板を取り外し、そのまま履物を脱がせる。
「お父様、オオルリさんをこちらに」
そう言って座敷を指さすと、お父様はオオルリさんをお姫様抱っこする。そしてそのまま降ろすのではなく、立ちやすいように足からそっと降ろす。私とメジロさんは横から転ばないように支える。
「おっとさん……おっかさん……!」
そう言いながらオオルリさんは前に向かって必死に歩こうとしている。私とメジロさんは毎日お世話をしているので、オオルリさんの筋力や体力をだいたい把握している。オオルリさんは今、あり得ない程に力を出している。いや、力を振り絞っている。
スワンさんと二人で使っている療養用の寝室よりも広いのではないかという座敷を、一歩、また一歩と進んでいく。もどかしく思うが、それはオオルリさんが一番そう思っていることだろう。
オオルリさんの気迫に、私とメジロさん以外の誰も動けず、口を閉ざしたままオオルリさんを見つめている。
「おっとさん! おっかさん! ……ただいま!」
最後の数歩はトビ爺さんも手を引き手伝ってくれた。部屋の入り口についたオオルリさんは大粒の涙をこぼしながらそう叫んだ。
部屋へ入ろうとしたオオルリさんは、ご両親の部屋に着き安堵したからかバランスを崩した。私が前面に回り込み、クッション代わりに一緒に倒れた。
「……ウソだろう……またトビの冗談かと……」
「……オオルリ!」
そんな男女の声が聞こえた。けれどその声は倒れている私の頭のすぐ近くで聞こえた。私に謝るオオルリさんをなだめ、このまま座るというので座らせたが、オオルリさんのご両親は布団から動かない。いや、動けないのだろう。
顔色は悪く、酷く痩せこけ、あの日の王家の人たちのような状態で布団に横たわっていた。
「……会いたかった……! うわぁぁぁぁん!」
オオルリさんはまるで小さな子どものように泣き叫び、ご両親の布団に覆いかぶさる。その時背後から声が聞こえた。
「アオジ殿、ツグミ殿……これまでのことを謝罪させていただきたい。今まで申し訳なかった!」
ハヤブサさんが部屋の入り口でそう言い、そのままオオルリさんの隣に座ったかと思うと、まさかの土下座をし始めた。これにはオオルリさんのご両親も慌てふためき、起きようとしても起き上がれないようだったので、私とメジロさんが二人を起こして座らせた。
ハヤブサさんはそんな二人にずっと謝り続けている。どうやらオオルリさんが何不自由なく城にいるのが一番の幸せだと思っていたらしい。
サギはこの小さな村の出身のオオルリさんを良く思っておらず、ハヤブサさんに『それが女の一番の幸せだ』と繰り返し吹き込んだ挙句に村との行き来を無くすように迫り、里帰りさせるという考えを全くしなかったと謝っている。今のこのオオルリさんを見て、長年どれほどの我慢をさせていたのかとオオルリさんにも謝っている。
「ハヤブサ王……お止めください……!」
「あちきらも……それがオオルリの幸せだと思っておりました……」
オオルリさんのご両親はそう言うが、ハヤブサさんは今までの細々としたことまで謝り始めた。しばらくするとオオルリさんは泣き止み、クスリと笑い出した。
「そういうのは、思った時に言ってくださいね」
そのオオルリさんの一言で、ようやくハヤブサさんの謝罪が止まった。
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