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カレンの冒険〜餌釣り〜

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 ザー……っと、風に吹かれぶつかり合う葉の音と、流れ行く川の音とが混ざり合う。心地良い音に心が落ち着く。

 村から歩いて数分のところに小さな森があり、その中に岩が多数ある沢があった。川幅は狭く水深も浅い。子どもたちが遊ぶには打ってつけの場所だろう。
 お父様は少年たちを肩車したり、背負ったり、腕にぶら下げて歩いたりと、その強靭な肉体を使って遊んでいる。きっと私やスイレンが閉じ込められる生活でなければ、きっとああやって小さなスイレンとも遊んでいたことだろう。

「ちょっと良いかしら?」

 そんなお父様の背中を見つめながら、トビ爺さんと兵たちを手招きして近くに呼んだ。

「私、夢中になると周りが見えなくなることがあるのだけれど、おそらく釣りを始めてしまったら周囲に気を配れなくなると思うの」

 私の言葉を聞いたトビ爺さんたちは笑う。

「……問題はここからよ。それはお父様もなのだけれど、兵の方たちはなんとなく気付いているでしょうけど、お父様は体力や他のあれこれが人間離れしているの。……何よりも、尋常じゃなく迷子になるのよ。気付けばいなくなることが多々あるから、どうかお父様を見張っていてください!」

 その言葉にトビ爺さんたちは声を出して笑っている。

「分かった分かった。隣から離れんようにするから、安心して遊んでこい」

 トビ爺さんは笑いが止まらなくなりつつあったが、そう言って私の頭を撫でてくれた。やはり口だけが悪い人なのだ。

「おーい! 私はどうすれば良いのだー?」

 少し先を行くお父様が振り返って私たちに叫んだ。日頃から鍛錬だとしごかれていた兵は、お父様の迷子になるという弱点を知りツボに入ってしまったようだ。
 けれど私たちは普通に会話をしてたように装って、お父様や少年たちの元へ小走りで駆け寄り合流した。

「わぁ……綺麗な川ね。冷たいでしょうね」

 その場にしゃがみ、水に手を入れるとかなり冷たい。これは美味しい魚がいるに違いない。

「冷たいけど、みんなで入れば楽しいよ!」

 少年たちは元気いっぱいに答えてくれた。いつもこの遊びをしているのだろう。その時、私に釣り竿を貸してくれた少年が不思議そうに問いかけてきた。

「お姉さんはどうやって釣るの?」

「私? 私は一人よ。魚と人間の戦いをするのよ」

 釣りを知らないお父様以外の人たちは、私の言葉を聞いて小首を傾げる。

「えぇと……何と言ったら良いかしら? みんなのやり方は魚を驚かせて、逃げている魚を引っ掛けるわよね? 私のやり方は、餌を使って食いついた魚を釣るの。魚は人の気配に敏感でしょう? その魚に気付かれないように、餌を目の前に落とすのよ」

 釣りとは言っても、いざ説明をすると難しいことに気付いた。大人たちは私の言いたいことが何となく分かったようだが、少年たちは分からないようだった。

「うーん……難しいよ……。お姉さん、やってみせて!」

 少年たちにリクエストされた私は「分かったわ!」と返事をし、足元の石や岩をひっくり返す。全員が『何をしているんだ?』という表情の中、一匹の丸々と太ったミズズを見つけた。
 さらに何かの幼虫も見つけ、素手で捕まえていくとトビ爺さんは「お転婆よりもお転婆だ!」と笑い、普段は『カレンさん!』と呼ぶ兵たちは「……カレンさん……」と残念そうな声を出し、お父様と少年たちは楽しそうにミズズと幼虫を集めるのを手伝ってくれた。

「良いこと? 魚にも目があるから、この針を見えないようにするの。で、ミズズはここが急所だから、そこに触れないようにこうやって……針を刺すの」

 素手でミズズを捕まえたばかりか、何の躊躇もなくそのミズズに針を刺す私にその場の全員が引いている。ミズズだけは逃れようとビチビチと動いているが、この場にじいやがいなくて良かったと思う。

「そして私たちが見えないだろう場所……あの岩の陰とかね、そういう場所を狙うの。みんな静かにね」

 ヒュン……と水面に向かって竿を振る。ウキもなければ重りもない為、思ったところには投げられなかったが、水の流れにより白泡の立つ良い場所に流れて行った。するとすぐにアタリがあり、美樹の記憶を思い起こしながらアワセをする。

「はい! まずは一匹!」

 この国の人たちが見たことのない釣り方をして釣り上げたのは、かなりサイズの大きなイワナのような魚だった。これには見ていた全員が大声で歓声を上げている。

「お姉さんすごい!」
「もう一回見せて!」

 釣り上げた魚から針を外していると、少年たちは私の周りに集まりヒーローを見るかのように、キラキラと目を輝かせて私を見ている。

「良いわよ。私も楽しくなってきちゃったわ。魚が隠れていそうな場所を一緒に考えましょう」

 そう言うと、トビ爺さんも兵たちも集まり「あそこは?」「ここは?」と楽しそうにポイント探しが始まった。

 だが、この時はまだ誰も気付いていなかったのだ。お父様がいなくなっていたことに……。
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