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お父様、奇跡を起こす
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次は餌を幼虫に変えて釣ることにした。魚たちはいつもは人間に追い立てられることに慣れているのか、餌釣りに対して警戒心がない。スレていないのだ。なので面白いように釣れる。
「ねぇねぇお姉さん! こっちの針は何?」
一人の少年がコッコの羽根で作った毛鉤を気にし出した。
「これはね、私は作るのが下手なのだけれど、虫に似せているの。川に落ちた虫だと思わせて釣る針なのよ」
美樹は近所のおじいちゃまたちに、弟と共によく釣りに連れて行ってもらっていた。初めて行ったのは海釣りで、その流れで海にばかり行っていたが、ある日渓流釣りが好きなおじいちゃまたちに誘われて行ってみたのだ。
そのおじいちゃまたちの中にテンカラをする人と、フライフィッシングをする人がいた。そこまで釣りに詳しいわけではなかったので違いがよく分からなかったが、その二人のおじいちゃまは毛鉤を自分で作っていた。その芸術作品とも言っても良い毛鉤に私と弟は魅了され、作っているのを見学していたのだ。
「本当なら水鳥の羽根を使うと良いのだけれど……試してみましょうか。この釣り方は私は下手よ?」
笑いながら竿を変え、水面に毛鉤を投げる。リールがないのでこれはテンカラと言っていいだろう。水面に浮いた毛鉤はコッコの羽根で作られているため、濡れて沈み始めた。その時にアタリが来た。
「やったー! 私、この釣り方は本当に下手であまり釣ったことがないのよ!」
ヤマメのような魚を釣り上げ、私ははしゃぐ。
「ねぇ見て! お父様! ……お父様?」
振り返り、お父様を探すが見える範囲にはいない。兵たちもトビ爺さんも「釣りに夢中になっていた!」と青ざめる。
「向こう岸には行っていないですよね? 村に戻ったのでは?」
「……一人で戻れるとは思えないわ……。ただ、何があっても何日でも生き残れるのは間違いないのだけれど……」
私の言葉を聞いた兵は、慌てて「村へ行ってみます!」と走り出した。私はこの土地の地理は分からないので捜索に加わることが出来ない。
不穏な空気に少年たちの表情が曇り始めたが、「釣りを続けましょう」と少年たちに声をかけ、不安を取り除かせる。激しく迷子になるだけで、命にかかわることにならないのは分かっているからだ。
何回か魚を釣り上げているうちに、少年たちには笑顔が戻って来た。その間に一度兵が戻り、「村にはいませんでした」との報告を受けた。間違いなく何かをしようとして、見当違いな場所に向かって行ったのだろう。
「……大丈夫よ。どこかで人を見たら城の方向を聞くくらいは出来るわ」
お父様がだいぶ前に砂を掘ろうとした時に、あさっての方向へ掘り始めた時があったが、あの時タデが『放っておけ』と言ったその気持ちが今ではよく分かる。
父親が行方不明になっているのに冷静な娘を見て大人たちは引いていたが、兵たちはお父様の人間離れした部分を少しだけ知っているので「まぁモクレンさんなら……」などと言い始めた。
そのことにトビ爺さんは困惑していたが、私は子どもたちと引っ掛け釣りをする為に構わず川に入る。
「きゃあ! 本当に冷たい!」
そう叫びながら少年たちと一緒に石や岩で川をせき止めるようにし、魚の逃げ場をなくす。そしてバシャバシャと音を立てながら魚を追い立て、釣り竿を持っている少年が引っ掛け釣りを楽しんでいた。その時だった。
「ん?」
「え?」
「は?」
「わ!」
私たちは一斉に同じ方向を見た。風に乗って動物の断末魔が聞こえて来たのだ。
「獣が出たのかもしれません! 少し見て来ます!」
兵の一人がその方向へ走り出した。私と少年たちも川から出た。下手に動くよりはと、残った兵たちは私たちを守るように前に出る。私も体の冷えた少年たちを守るように抱きしめる。
じっと息を殺し兵の向かった先を見ていると、その方向から足音が聞こえて来た。
「……カレンさん……」
現れた兵は酷く青ざめ、そしてなぜか私の名前を呼んだ。意味が分からずに固まっていると、その後ろからお父様が笑顔で現れた。その姿を見て兵が青ざめている理由が分かった。この場にいる私以外の人たちも青ざめている。
「……お父様? それは何かしら?」
「おぉカレン! 私も釣りをしてみたくてな? 村へ戻ったつもりが『オオムギ村』という場所に行ってしまったらしくてな。オオゾラ村への戻り方を聞いた時に記念に貰ったのだ!」
お父様の手には、ピッチフォークと呼ばれる牧草などを持ち上げたりする巨大なフォークが握られていた。それだけならまだ良い。そのフォークには小型のイノシシのような生き物が突き刺さっていたのだ。皆が青ざめるのも無理はない。
「……オオムギ村って、すごく遠いはずだよね?」
「あれって……凶暴な野生のブーだよね……?」
少年たちもお父様の、一般では考えられない所業にざわめき始めた。
「村に戻るつもりが次は川に出てな。川沿いを走ればここに戻れると思っていたが、すぐそこでコイツが現れてな。オオゾラ村に被害が出たらいけないと思い、魚を獲りたかったのだがこの武器で仕留めた。おお、魚もだいぶ獲れたのだな。帰って食おうではないか」
私以外は皆絶句している。まず、それは武器ではないことと、普通ならここまで胴体を貫通しないことを伝えたが、お父様は「そうか!」と笑うだけである。
何はともあれお父様とは無事に合流し、食糧も大量捕獲することが出来た。私たちはそのまま村へと戻ることにした。
ちなみにこっそりとお父様に、前世の死因はこの動物に似たものに崖から落とされたと言うと、上腕と前腕で首を挟み、筋力だけで首の骨を折っていた……。うっかりそれを見た私と兵たちは、ガチガチと震え始めたのは言うまでもない。
「ねぇねぇお姉さん! こっちの針は何?」
一人の少年がコッコの羽根で作った毛鉤を気にし出した。
「これはね、私は作るのが下手なのだけれど、虫に似せているの。川に落ちた虫だと思わせて釣る針なのよ」
美樹は近所のおじいちゃまたちに、弟と共によく釣りに連れて行ってもらっていた。初めて行ったのは海釣りで、その流れで海にばかり行っていたが、ある日渓流釣りが好きなおじいちゃまたちに誘われて行ってみたのだ。
そのおじいちゃまたちの中にテンカラをする人と、フライフィッシングをする人がいた。そこまで釣りに詳しいわけではなかったので違いがよく分からなかったが、その二人のおじいちゃまは毛鉤を自分で作っていた。その芸術作品とも言っても良い毛鉤に私と弟は魅了され、作っているのを見学していたのだ。
「本当なら水鳥の羽根を使うと良いのだけれど……試してみましょうか。この釣り方は私は下手よ?」
笑いながら竿を変え、水面に毛鉤を投げる。リールがないのでこれはテンカラと言っていいだろう。水面に浮いた毛鉤はコッコの羽根で作られているため、濡れて沈み始めた。その時にアタリが来た。
「やったー! 私、この釣り方は本当に下手であまり釣ったことがないのよ!」
ヤマメのような魚を釣り上げ、私ははしゃぐ。
「ねぇ見て! お父様! ……お父様?」
振り返り、お父様を探すが見える範囲にはいない。兵たちもトビ爺さんも「釣りに夢中になっていた!」と青ざめる。
「向こう岸には行っていないですよね? 村に戻ったのでは?」
「……一人で戻れるとは思えないわ……。ただ、何があっても何日でも生き残れるのは間違いないのだけれど……」
私の言葉を聞いた兵は、慌てて「村へ行ってみます!」と走り出した。私はこの土地の地理は分からないので捜索に加わることが出来ない。
不穏な空気に少年たちの表情が曇り始めたが、「釣りを続けましょう」と少年たちに声をかけ、不安を取り除かせる。激しく迷子になるだけで、命にかかわることにならないのは分かっているからだ。
何回か魚を釣り上げているうちに、少年たちには笑顔が戻って来た。その間に一度兵が戻り、「村にはいませんでした」との報告を受けた。間違いなく何かをしようとして、見当違いな場所に向かって行ったのだろう。
「……大丈夫よ。どこかで人を見たら城の方向を聞くくらいは出来るわ」
お父様がだいぶ前に砂を掘ろうとした時に、あさっての方向へ掘り始めた時があったが、あの時タデが『放っておけ』と言ったその気持ちが今ではよく分かる。
父親が行方不明になっているのに冷静な娘を見て大人たちは引いていたが、兵たちはお父様の人間離れした部分を少しだけ知っているので「まぁモクレンさんなら……」などと言い始めた。
そのことにトビ爺さんは困惑していたが、私は子どもたちと引っ掛け釣りをする為に構わず川に入る。
「きゃあ! 本当に冷たい!」
そう叫びながら少年たちと一緒に石や岩で川をせき止めるようにし、魚の逃げ場をなくす。そしてバシャバシャと音を立てながら魚を追い立て、釣り竿を持っている少年が引っ掛け釣りを楽しんでいた。その時だった。
「ん?」
「え?」
「は?」
「わ!」
私たちは一斉に同じ方向を見た。風に乗って動物の断末魔が聞こえて来たのだ。
「獣が出たのかもしれません! 少し見て来ます!」
兵の一人がその方向へ走り出した。私と少年たちも川から出た。下手に動くよりはと、残った兵たちは私たちを守るように前に出る。私も体の冷えた少年たちを守るように抱きしめる。
じっと息を殺し兵の向かった先を見ていると、その方向から足音が聞こえて来た。
「……カレンさん……」
現れた兵は酷く青ざめ、そしてなぜか私の名前を呼んだ。意味が分からずに固まっていると、その後ろからお父様が笑顔で現れた。その姿を見て兵が青ざめている理由が分かった。この場にいる私以外の人たちも青ざめている。
「……お父様? それは何かしら?」
「おぉカレン! 私も釣りをしてみたくてな? 村へ戻ったつもりが『オオムギ村』という場所に行ってしまったらしくてな。オオゾラ村への戻り方を聞いた時に記念に貰ったのだ!」
お父様の手には、ピッチフォークと呼ばれる牧草などを持ち上げたりする巨大なフォークが握られていた。それだけならまだ良い。そのフォークには小型のイノシシのような生き物が突き刺さっていたのだ。皆が青ざめるのも無理はない。
「……オオムギ村って、すごく遠いはずだよね?」
「あれって……凶暴な野生のブーだよね……?」
少年たちもお父様の、一般では考えられない所業にざわめき始めた。
「村に戻るつもりが次は川に出てな。川沿いを走ればここに戻れると思っていたが、すぐそこでコイツが現れてな。オオゾラ村に被害が出たらいけないと思い、魚を獲りたかったのだがこの武器で仕留めた。おお、魚もだいぶ獲れたのだな。帰って食おうではないか」
私以外は皆絶句している。まず、それは武器ではないことと、普通ならここまで胴体を貫通しないことを伝えたが、お父様は「そうか!」と笑うだけである。
何はともあれお父様とは無事に合流し、食糧も大量捕獲することが出来た。私たちはそのまま村へと戻ることにした。
ちなみにこっそりとお父様に、前世の死因はこの動物に似たものに崖から落とされたと言うと、上腕と前腕で首を挟み、筋力だけで首の骨を折っていた……。うっかりそれを見た私と兵たちは、ガチガチと震え始めたのは言うまでもない。
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