貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
258 / 370

お父様、奇跡を起こす

しおりを挟む
 次は餌を幼虫に変えて釣ることにした。魚たちはいつもは人間に追い立てられることに慣れているのか、餌釣りに対して警戒心がない。スレていないのだ。なので面白いように釣れる。

「ねぇねぇお姉さん! こっちの針は何?」

 一人の少年がコッコの羽根で作った毛鉤を気にし出した。

「これはね、私は作るのが下手なのだけれど、虫に似せているの。川に落ちた虫だと思わせて釣る針なのよ」

 美樹は近所のおじいちゃまたちに、弟と共によく釣りに連れて行ってもらっていた。初めて行ったのは海釣りで、その流れで海にばかり行っていたが、ある日渓流釣りが好きなおじいちゃまたちに誘われて行ってみたのだ。
 そのおじいちゃまたちの中にテンカラをする人と、フライフィッシングをする人がいた。そこまで釣りに詳しいわけではなかったので違いがよく分からなかったが、その二人のおじいちゃまは毛鉤を自分で作っていた。その芸術作品とも言っても良い毛鉤に私と弟は魅了され、作っているのを見学していたのだ。

「本当なら水鳥の羽根を使うと良いのだけれど……試してみましょうか。この釣り方は私は下手よ?」

 笑いながら竿を変え、水面に毛鉤を投げる。リールがないのでこれはテンカラと言っていいだろう。水面に浮いた毛鉤はコッコの羽根で作られているため、濡れて沈み始めた。その時にアタリが来た。

「やったー! 私、この釣り方は本当に下手であまり釣ったことがないのよ!」

 ヤマメのような魚を釣り上げ、私ははしゃぐ。

「ねぇ見て! お父様! ……お父様?」

 振り返り、お父様を探すが見える範囲にはいない。兵たちもトビ爺さんも「釣りに夢中になっていた!」と青ざめる。

「向こう岸には行っていないですよね? 村に戻ったのでは?」

「……一人で戻れるとは思えないわ……。ただ、何があっても何日でも生き残れるのは間違いないのだけれど……」

 私の言葉を聞いた兵は、慌てて「村へ行ってみます!」と走り出した。私はこの土地の地理は分からないので捜索に加わることが出来ない。
 不穏な空気に少年たちの表情が曇り始めたが、「釣りを続けましょう」と少年たちに声をかけ、不安を取り除かせる。激しく迷子になるだけで、命にかかわることにならないのは分かっているからだ。

 何回か魚を釣り上げているうちに、少年たちには笑顔が戻って来た。その間に一度兵が戻り、「村にはいませんでした」との報告を受けた。間違いなく何かをしようとして、見当違いな場所に向かって行ったのだろう。

「……大丈夫よ。どこかで人を見たら城の方向を聞くくらいは出来るわ」

 お父様がだいぶ前に砂を掘ろうとした時に、あさっての方向へ掘り始めた時があったが、あの時タデが『放っておけ』と言ったその気持ちが今ではよく分かる。

 父親が行方不明になっているのに冷静な娘を見て大人たちは引いていたが、兵たちはお父様の人間離れした部分を少しだけ知っているので「まぁモクレンさんなら……」などと言い始めた。
 そのことにトビ爺さんは困惑していたが、私は子どもたちと引っ掛け釣りをする為に構わず川に入る。

「きゃあ! 本当に冷たい!」

 そう叫びながら少年たちと一緒に石や岩で川をせき止めるようにし、魚の逃げ場をなくす。そしてバシャバシャと音を立てながら魚を追い立て、釣り竿を持っている少年が引っ掛け釣りを楽しんでいた。その時だった。

「ん?」
「え?」
「は?」
「わ!」

 私たちは一斉に同じ方向を見た。風に乗って動物の断末魔が聞こえて来たのだ。

「獣が出たのかもしれません! 少し見て来ます!」

 兵の一人がその方向へ走り出した。私と少年たちも川から出た。下手に動くよりはと、残った兵たちは私たちを守るように前に出る。私も体の冷えた少年たちを守るように抱きしめる。

 じっと息を殺し兵の向かった先を見ていると、その方向から足音が聞こえて来た。

「……カレンさん……」

 現れた兵は酷く青ざめ、そしてなぜか私の名前を呼んだ。意味が分からずに固まっていると、その後ろからお父様が笑顔で現れた。その姿を見て兵が青ざめている理由が分かった。この場にいる私以外の人たちも青ざめている。

「……お父様? それは何かしら?」

「おぉカレン! 私も釣りをしてみたくてな? 村へ戻ったつもりが『オオムギ村』という場所に行ってしまったらしくてな。オオゾラ村への戻り方を聞いた時に記念に貰ったのだ!」

 お父様の手には、ピッチフォークと呼ばれる牧草などを持ち上げたりする巨大なフォークが握られていた。それだけならまだ良い。そのフォークには小型のイノシシのような生き物が突き刺さっていたのだ。皆が青ざめるのも無理はない。

「……オオムギ村って、すごく遠いはずだよね?」
「あれって……凶暴な野生のブーだよね……?」

 少年たちもお父様の、一般では考えられない所業にざわめき始めた。

「村に戻るつもりが次は川に出てな。川沿いを走ればここに戻れると思っていたが、すぐそこでコイツが現れてな。オオゾラ村に被害が出たらいけないと思い、魚を獲りたかったのだがこの武器で仕留めた。おお、魚もだいぶ獲れたのだな。帰って食おうではないか」

 私以外は皆絶句している。まず、それは武器ではないことと、普通ならここまで胴体を貫通しないことを伝えたが、お父様は「そうか!」と笑うだけである。

 何はともあれお父様とは無事に合流し、食糧も大量捕獲することが出来た。私たちはそのまま村へと戻ることにした。
 ちなみにこっそりとお父様に、前世の死因はこの動物に似たものに崖から落とされたと言うと、上腕と前腕で首を挟み、筋力だけで首の骨を折っていた……。うっかりそれを見た私と兵たちは、ガチガチと震え始めたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...