269 / 370
水回り
しおりを挟む
住居の場所へと到着すると、とんでもない変化に気付いた。昨日は住居にしか目が行っていなかったということだ。リーンウン国という全てが豊富な土地で長く暮らしていた為に、それが当たり前となり、ヒーズル王国の変化に気付かないなんて五感が鈍っている証拠でもある。
「待って待って! 大変なことにたった今気付いたわ!」
住居前で指をさして大騒ぎをすると、工事に来てくれた皆に笑われる。
「住めるどころか快適に暮らせるじゃない!」
そう叫びながら向かった先は水路だ。見事に成長したヤンナギの並木の間から水路が見える。水量が足りず、追加で石管を作って延長作業をしていたあの水路が水で満たされている。耳を澄まさなくても流れる水の音に気付かないなんて不覚だった。
「そっか……カレンが旅立った時はまだ途中だったもんね。けっこう前に完成したから、この光景が当たり前になってた」
いつの間にか隣に立っていたスイレンが、キョトンとしながら呟いていた。一度やった作業だっただけに、かなりハイペースで工事が進んだらしい。
「じゃあカレンちゃんはアレにも気付いていないのかい?」
後ろからブルーノさんに声をかけられ振り向くと、ブルーノさんは笑顔で指をさしている。その指先を目で辿ると、オオゾラ村でオドリキッコを見た時のように小躍りをしてしまい皆から笑われた。
「えっ!? 本当の本当に暮らせるじゃないの!」
踊りながら叫ぶという器用な芸当を見せると、皆からは「本当に気付いていなかったんだ」とさらに笑われた。
「よし! 本気で仕事をするわ!」
完全にやる気になった私は、昨夜泊まった住居へと足を踏み入れた。
昨夜はお便所が使えないからと、裏庭のさらに裏側にある、住居建設当時の穴を掘ったお便所を使った。今日はお便所の工事など、最低限の水回りを完成させようと思っていたが、これは気合いを入れねばならない。
「細かい作業が苦手な人はおが屑を持って来て」
私の言葉に数名が走り出した。お便所の中を覗くと、便槽にはまだ何も入っていない状態だ。この国のお便所は水洗でも汲み取りでもなく、おが屑を使ってコンポストのようにし尿を堆肥に変えるのだ。リーンウン国へ行く前に貯めておくように伝えてある。
そして使用後は撹拌をしなければいけないため、お便所内にある撹拌機を動かしてみる。船の舵のようなハンドルを回すと便槽内でそれが動くのを確認出来た。
「おが屑が来る前に台所へ!」
バタバタと台所へと移動し、石で作られたシンクを見て誤算に気付いた。
「そっか……溶接も出来ないしパッキンもないんだ……」
石のシンクと手に持っているステンレスのパイプを見て呟くと、いち早くブルーノさんが反応し「詳しく聞かせてくれないか!」と迫って来た。
テックノン王国へ行けば金属同士の溶接は出来るだろうが、今は石と金属をくっつける方法がないこと、そしてこの世界ではまだ見たことのない『ゴム』について簡単に説明をした。ブルーノさんの鼻息は今日も荒い。
「不可能を可能にするのが私よね」
やる気に満ちている私は持って来た道具の確認をする。
「あぁ……タッケを使えば……でも今から伐採に行くのは……」
一人でブツブツと呟いていると、スイレンが口を開いた。
「タッケ? 小屋にあるよ? イチビたちがね、川遊びに没頭しちゃって、誰が遠くまで泳げるかって競争をいつもしてるの。その時に増え過ぎないように、タッケとかタッケノコを採って来るんだ」
私が以前水泳教室を開いたのは間違いではなかったのだ。かゆいところに手が届く行動をするイチビたちには感謝しかない。そして他にも川遊びをする者が増えたともスイレンは言う。
「まずはタッケを!」
そう叫んで住居から出ようとすると、先程の呟きを聞いて既に取りに行ってくれた者がいると言う。少し見ないうちに、建設に関わる者たちも成長し、先を考えて動けるようになったようだ。おそらくブルーノさんやジェイソンさんのおかげだろう。
しばし待つと外から声が聞こえる。
「姫様、タッケを持って参りましたが、おが屑も到着したようです!」
「ありがとう! おが屑は外から入れてちょうだい。念の為に畑の横のコンポストの土も少し混ぜ込んでもらっても良いかしら?」
窓から顔を出して指示を飛ばすと、元気に「はい!」と返事が返って来る。お便所に排泄したし尿はいずれ堆肥になるので、取り出し口が外にあるのだ。そこからおが屑を入れてもらう。
そしてタッケを受け取った私は、様々なサイズから程よい太さのタッケを見繕った。そして小刀で工作をする。
「タデー!」
「ここにいるぞ」
すぐ側で、私の様子を見ていたタデに気付かないほど没頭していたようだ。
シンクにある小さな穴と言っても良いほどの排水口にタッケを差し込み、そのタッケにステンレスのパイプをはめ込む作戦にした。なのでパイプに合うタッケを使用したので、シンクの排水口の穴を広くし、凸の形に仕上げたタッケが上手く嵌まるようにシンクも加工してもらった。
タッケは不自由しないほど採れる上に、腐ったら交換すれば良いのだ
「順調順調」
思わずニヤリと笑ってしまう。出来ないことを工夫して出来るようにし、無いのなら作るという美樹の家での方針がこういうところで生きるのである。貧乏暮らしはマイナスなことだけではないのだ。むしろ今ではプラスだ。私は美樹のお父さんとお母さんに密かに感謝をしていたのだった。
「待って待って! 大変なことにたった今気付いたわ!」
住居前で指をさして大騒ぎをすると、工事に来てくれた皆に笑われる。
「住めるどころか快適に暮らせるじゃない!」
そう叫びながら向かった先は水路だ。見事に成長したヤンナギの並木の間から水路が見える。水量が足りず、追加で石管を作って延長作業をしていたあの水路が水で満たされている。耳を澄まさなくても流れる水の音に気付かないなんて不覚だった。
「そっか……カレンが旅立った時はまだ途中だったもんね。けっこう前に完成したから、この光景が当たり前になってた」
いつの間にか隣に立っていたスイレンが、キョトンとしながら呟いていた。一度やった作業だっただけに、かなりハイペースで工事が進んだらしい。
「じゃあカレンちゃんはアレにも気付いていないのかい?」
後ろからブルーノさんに声をかけられ振り向くと、ブルーノさんは笑顔で指をさしている。その指先を目で辿ると、オオゾラ村でオドリキッコを見た時のように小躍りをしてしまい皆から笑われた。
「えっ!? 本当の本当に暮らせるじゃないの!」
踊りながら叫ぶという器用な芸当を見せると、皆からは「本当に気付いていなかったんだ」とさらに笑われた。
「よし! 本気で仕事をするわ!」
完全にやる気になった私は、昨夜泊まった住居へと足を踏み入れた。
昨夜はお便所が使えないからと、裏庭のさらに裏側にある、住居建設当時の穴を掘ったお便所を使った。今日はお便所の工事など、最低限の水回りを完成させようと思っていたが、これは気合いを入れねばならない。
「細かい作業が苦手な人はおが屑を持って来て」
私の言葉に数名が走り出した。お便所の中を覗くと、便槽にはまだ何も入っていない状態だ。この国のお便所は水洗でも汲み取りでもなく、おが屑を使ってコンポストのようにし尿を堆肥に変えるのだ。リーンウン国へ行く前に貯めておくように伝えてある。
そして使用後は撹拌をしなければいけないため、お便所内にある撹拌機を動かしてみる。船の舵のようなハンドルを回すと便槽内でそれが動くのを確認出来た。
「おが屑が来る前に台所へ!」
バタバタと台所へと移動し、石で作られたシンクを見て誤算に気付いた。
「そっか……溶接も出来ないしパッキンもないんだ……」
石のシンクと手に持っているステンレスのパイプを見て呟くと、いち早くブルーノさんが反応し「詳しく聞かせてくれないか!」と迫って来た。
テックノン王国へ行けば金属同士の溶接は出来るだろうが、今は石と金属をくっつける方法がないこと、そしてこの世界ではまだ見たことのない『ゴム』について簡単に説明をした。ブルーノさんの鼻息は今日も荒い。
「不可能を可能にするのが私よね」
やる気に満ちている私は持って来た道具の確認をする。
「あぁ……タッケを使えば……でも今から伐採に行くのは……」
一人でブツブツと呟いていると、スイレンが口を開いた。
「タッケ? 小屋にあるよ? イチビたちがね、川遊びに没頭しちゃって、誰が遠くまで泳げるかって競争をいつもしてるの。その時に増え過ぎないように、タッケとかタッケノコを採って来るんだ」
私が以前水泳教室を開いたのは間違いではなかったのだ。かゆいところに手が届く行動をするイチビたちには感謝しかない。そして他にも川遊びをする者が増えたともスイレンは言う。
「まずはタッケを!」
そう叫んで住居から出ようとすると、先程の呟きを聞いて既に取りに行ってくれた者がいると言う。少し見ないうちに、建設に関わる者たちも成長し、先を考えて動けるようになったようだ。おそらくブルーノさんやジェイソンさんのおかげだろう。
しばし待つと外から声が聞こえる。
「姫様、タッケを持って参りましたが、おが屑も到着したようです!」
「ありがとう! おが屑は外から入れてちょうだい。念の為に畑の横のコンポストの土も少し混ぜ込んでもらっても良いかしら?」
窓から顔を出して指示を飛ばすと、元気に「はい!」と返事が返って来る。お便所に排泄したし尿はいずれ堆肥になるので、取り出し口が外にあるのだ。そこからおが屑を入れてもらう。
そしてタッケを受け取った私は、様々なサイズから程よい太さのタッケを見繕った。そして小刀で工作をする。
「タデー!」
「ここにいるぞ」
すぐ側で、私の様子を見ていたタデに気付かないほど没頭していたようだ。
シンクにある小さな穴と言っても良いほどの排水口にタッケを差し込み、そのタッケにステンレスのパイプをはめ込む作戦にした。なのでパイプに合うタッケを使用したので、シンクの排水口の穴を広くし、凸の形に仕上げたタッケが上手く嵌まるようにシンクも加工してもらった。
タッケは不自由しないほど採れる上に、腐ったら交換すれば良いのだ
「順調順調」
思わずニヤリと笑ってしまう。出来ないことを工夫して出来るようにし、無いのなら作るという美樹の家での方針がこういうところで生きるのである。貧乏暮らしはマイナスなことだけではないのだ。むしろ今ではプラスだ。私は美樹のお父さんとお母さんに密かに感謝をしていたのだった。
51
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる