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水回り
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住居の場所へと到着すると、とんでもない変化に気付いた。昨日は住居にしか目が行っていなかったということだ。リーンウン国という全てが豊富な土地で長く暮らしていた為に、それが当たり前となり、ヒーズル王国の変化に気付かないなんて五感が鈍っている証拠でもある。
「待って待って! 大変なことにたった今気付いたわ!」
住居前で指をさして大騒ぎをすると、工事に来てくれた皆に笑われる。
「住めるどころか快適に暮らせるじゃない!」
そう叫びながら向かった先は水路だ。見事に成長したヤンナギの並木の間から水路が見える。水量が足りず、追加で石管を作って延長作業をしていたあの水路が水で満たされている。耳を澄まさなくても流れる水の音に気付かないなんて不覚だった。
「そっか……カレンが旅立った時はまだ途中だったもんね。けっこう前に完成したから、この光景が当たり前になってた」
いつの間にか隣に立っていたスイレンが、キョトンとしながら呟いていた。一度やった作業だっただけに、かなりハイペースで工事が進んだらしい。
「じゃあカレンちゃんはアレにも気付いていないのかい?」
後ろからブルーノさんに声をかけられ振り向くと、ブルーノさんは笑顔で指をさしている。その指先を目で辿ると、オオゾラ村でオドリキッコを見た時のように小躍りをしてしまい皆から笑われた。
「えっ!? 本当の本当に暮らせるじゃないの!」
踊りながら叫ぶという器用な芸当を見せると、皆からは「本当に気付いていなかったんだ」とさらに笑われた。
「よし! 本気で仕事をするわ!」
完全にやる気になった私は、昨夜泊まった住居へと足を踏み入れた。
昨夜はお便所が使えないからと、裏庭のさらに裏側にある、住居建設当時の穴を掘ったお便所を使った。今日はお便所の工事など、最低限の水回りを完成させようと思っていたが、これは気合いを入れねばならない。
「細かい作業が苦手な人はおが屑を持って来て」
私の言葉に数名が走り出した。お便所の中を覗くと、便槽にはまだ何も入っていない状態だ。この国のお便所は水洗でも汲み取りでもなく、おが屑を使ってコンポストのようにし尿を堆肥に変えるのだ。リーンウン国へ行く前に貯めておくように伝えてある。
そして使用後は撹拌をしなければいけないため、お便所内にある撹拌機を動かしてみる。船の舵のようなハンドルを回すと便槽内でそれが動くのを確認出来た。
「おが屑が来る前に台所へ!」
バタバタと台所へと移動し、石で作られたシンクを見て誤算に気付いた。
「そっか……溶接も出来ないしパッキンもないんだ……」
石のシンクと手に持っているステンレスのパイプを見て呟くと、いち早くブルーノさんが反応し「詳しく聞かせてくれないか!」と迫って来た。
テックノン王国へ行けば金属同士の溶接は出来るだろうが、今は石と金属をくっつける方法がないこと、そしてこの世界ではまだ見たことのない『ゴム』について簡単に説明をした。ブルーノさんの鼻息は今日も荒い。
「不可能を可能にするのが私よね」
やる気に満ちている私は持って来た道具の確認をする。
「あぁ……タッケを使えば……でも今から伐採に行くのは……」
一人でブツブツと呟いていると、スイレンが口を開いた。
「タッケ? 小屋にあるよ? イチビたちがね、川遊びに没頭しちゃって、誰が遠くまで泳げるかって競争をいつもしてるの。その時に増え過ぎないように、タッケとかタッケノコを採って来るんだ」
私が以前水泳教室を開いたのは間違いではなかったのだ。かゆいところに手が届く行動をするイチビたちには感謝しかない。そして他にも川遊びをする者が増えたともスイレンは言う。
「まずはタッケを!」
そう叫んで住居から出ようとすると、先程の呟きを聞いて既に取りに行ってくれた者がいると言う。少し見ないうちに、建設に関わる者たちも成長し、先を考えて動けるようになったようだ。おそらくブルーノさんやジェイソンさんのおかげだろう。
しばし待つと外から声が聞こえる。
「姫様、タッケを持って参りましたが、おが屑も到着したようです!」
「ありがとう! おが屑は外から入れてちょうだい。念の為に畑の横のコンポストの土も少し混ぜ込んでもらっても良いかしら?」
窓から顔を出して指示を飛ばすと、元気に「はい!」と返事が返って来る。お便所に排泄したし尿はいずれ堆肥になるので、取り出し口が外にあるのだ。そこからおが屑を入れてもらう。
そしてタッケを受け取った私は、様々なサイズから程よい太さのタッケを見繕った。そして小刀で工作をする。
「タデー!」
「ここにいるぞ」
すぐ側で、私の様子を見ていたタデに気付かないほど没頭していたようだ。
シンクにある小さな穴と言っても良いほどの排水口にタッケを差し込み、そのタッケにステンレスのパイプをはめ込む作戦にした。なのでパイプに合うタッケを使用したので、シンクの排水口の穴を広くし、凸の形に仕上げたタッケが上手く嵌まるようにシンクも加工してもらった。
タッケは不自由しないほど採れる上に、腐ったら交換すれば良いのだ
「順調順調」
思わずニヤリと笑ってしまう。出来ないことを工夫して出来るようにし、無いのなら作るという美樹の家での方針がこういうところで生きるのである。貧乏暮らしはマイナスなことだけではないのだ。むしろ今ではプラスだ。私は美樹のお父さんとお母さんに密かに感謝をしていたのだった。
「待って待って! 大変なことにたった今気付いたわ!」
住居前で指をさして大騒ぎをすると、工事に来てくれた皆に笑われる。
「住めるどころか快適に暮らせるじゃない!」
そう叫びながら向かった先は水路だ。見事に成長したヤンナギの並木の間から水路が見える。水量が足りず、追加で石管を作って延長作業をしていたあの水路が水で満たされている。耳を澄まさなくても流れる水の音に気付かないなんて不覚だった。
「そっか……カレンが旅立った時はまだ途中だったもんね。けっこう前に完成したから、この光景が当たり前になってた」
いつの間にか隣に立っていたスイレンが、キョトンとしながら呟いていた。一度やった作業だっただけに、かなりハイペースで工事が進んだらしい。
「じゃあカレンちゃんはアレにも気付いていないのかい?」
後ろからブルーノさんに声をかけられ振り向くと、ブルーノさんは笑顔で指をさしている。その指先を目で辿ると、オオゾラ村でオドリキッコを見た時のように小躍りをしてしまい皆から笑われた。
「えっ!? 本当の本当に暮らせるじゃないの!」
踊りながら叫ぶという器用な芸当を見せると、皆からは「本当に気付いていなかったんだ」とさらに笑われた。
「よし! 本気で仕事をするわ!」
完全にやる気になった私は、昨夜泊まった住居へと足を踏み入れた。
昨夜はお便所が使えないからと、裏庭のさらに裏側にある、住居建設当時の穴を掘ったお便所を使った。今日はお便所の工事など、最低限の水回りを完成させようと思っていたが、これは気合いを入れねばならない。
「細かい作業が苦手な人はおが屑を持って来て」
私の言葉に数名が走り出した。お便所の中を覗くと、便槽にはまだ何も入っていない状態だ。この国のお便所は水洗でも汲み取りでもなく、おが屑を使ってコンポストのようにし尿を堆肥に変えるのだ。リーンウン国へ行く前に貯めておくように伝えてある。
そして使用後は撹拌をしなければいけないため、お便所内にある撹拌機を動かしてみる。船の舵のようなハンドルを回すと便槽内でそれが動くのを確認出来た。
「おが屑が来る前に台所へ!」
バタバタと台所へと移動し、石で作られたシンクを見て誤算に気付いた。
「そっか……溶接も出来ないしパッキンもないんだ……」
石のシンクと手に持っているステンレスのパイプを見て呟くと、いち早くブルーノさんが反応し「詳しく聞かせてくれないか!」と迫って来た。
テックノン王国へ行けば金属同士の溶接は出来るだろうが、今は石と金属をくっつける方法がないこと、そしてこの世界ではまだ見たことのない『ゴム』について簡単に説明をした。ブルーノさんの鼻息は今日も荒い。
「不可能を可能にするのが私よね」
やる気に満ちている私は持って来た道具の確認をする。
「あぁ……タッケを使えば……でも今から伐採に行くのは……」
一人でブツブツと呟いていると、スイレンが口を開いた。
「タッケ? 小屋にあるよ? イチビたちがね、川遊びに没頭しちゃって、誰が遠くまで泳げるかって競争をいつもしてるの。その時に増え過ぎないように、タッケとかタッケノコを採って来るんだ」
私が以前水泳教室を開いたのは間違いではなかったのだ。かゆいところに手が届く行動をするイチビたちには感謝しかない。そして他にも川遊びをする者が増えたともスイレンは言う。
「まずはタッケを!」
そう叫んで住居から出ようとすると、先程の呟きを聞いて既に取りに行ってくれた者がいると言う。少し見ないうちに、建設に関わる者たちも成長し、先を考えて動けるようになったようだ。おそらくブルーノさんやジェイソンさんのおかげだろう。
しばし待つと外から声が聞こえる。
「姫様、タッケを持って参りましたが、おが屑も到着したようです!」
「ありがとう! おが屑は外から入れてちょうだい。念の為に畑の横のコンポストの土も少し混ぜ込んでもらっても良いかしら?」
窓から顔を出して指示を飛ばすと、元気に「はい!」と返事が返って来る。お便所に排泄したし尿はいずれ堆肥になるので、取り出し口が外にあるのだ。そこからおが屑を入れてもらう。
そしてタッケを受け取った私は、様々なサイズから程よい太さのタッケを見繕った。そして小刀で工作をする。
「タデー!」
「ここにいるぞ」
すぐ側で、私の様子を見ていたタデに気付かないほど没頭していたようだ。
シンクにある小さな穴と言っても良いほどの排水口にタッケを差し込み、そのタッケにステンレスのパイプをはめ込む作戦にした。なのでパイプに合うタッケを使用したので、シンクの排水口の穴を広くし、凸の形に仕上げたタッケが上手く嵌まるようにシンクも加工してもらった。
タッケは不自由しないほど採れる上に、腐ったら交換すれば良いのだ
「順調順調」
思わずニヤリと笑ってしまう。出来ないことを工夫して出来るようにし、無いのなら作るという美樹の家での方針がこういうところで生きるのである。貧乏暮らしはマイナスなことだけではないのだ。むしろ今ではプラスだ。私は美樹のお父さんとお母さんに密かに感謝をしていたのだった。
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