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浄化設備
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まだ試してはいないがお風呂らしいものが完成した。けれどまだ終わりではない。
「カレン、イチビたちのほうは確認しなくていいの?」
スイレンの言葉にハッとする。朝から作業を任せきりにしてしまっている。
「そうね、一度確認に行ったほうが……でもここがまだ……」
「それなら僕たちがやるし大丈夫だよ。この家が終わったら隣もやるから」
そう言ってスイレンは笑う。浴槽と洗い場の下水への配管工事と、浴槽の湯を貯めるための『栓』の作成をヒイラギに頼み、私はイチビたちの作業現場へと向かうことにした。
────
畑を移動させた場所には、少し距離を空けてU字溝が並行して埋めてある。住居付近に水路を作り川からは近くなったとはいえ、畑が増えている分やはり水やりの水を確保するのは大変なのだろう。とは言えそのU字溝に水を流すのは私たちが帰って来てからと決めていたようなので、まだ水は流れていないのだが。
オアシス側に作った貯水池に向かってU字溝は続いているが、途中小さな貯水池を作り、そこに流れて来た砂を貯められるよう沈殿槽の役割も果たしている。皆で話し合ってここまで作ったのだろう。
そしてもう一つのU字溝は下水用だ。誤って水を使ったりしないように石や木の蓋がされ、落ちる心配もない。その下水用のU字溝を辿り作業現場へ向かう。
「いたいた。イチビー! シャガー! ハマスゲー! オヒシバー!」
他にも作業をしてくれている者たちがいるので、大きく手を振りながら駆け寄ると、皆は一度手を止めこちらに振り返る。
「姫様、住居のほうは良いのですか?」
「うん! スイレンたちが後はやってくれるって言うの。むしろこっちを気にかけていたわ。事前に言っておくべきだったわね。無理させてしまってごめんなさい」
そう言いながら作業現場の確認をする。当初、二つのU字溝の行き着く先は一番最初に作った貯水池だったようなのだ。
普通の水であればそのままにしたが、下水までもがその貯水池に繋がっていたと聞き、急きょ穴を掘ってもらっているのだ。
「姫様に頼まれると、私たちもどんなものが出来るのかと作るのが楽しみなんですよ」
作業員を代表して、イチビが額の汗を拭いながら爽やかに答えてくれた。
「先のことを考えたら、今やっておくべきだと思ったの」
この国は超自然派な暮らしをしているので、言葉はおかしいが下水自体が環境に優しい汚水になるであろうが、これから各家庭で生活をしていくとなると、どうしても食べかすや油汚れも流すことになるだろう。風呂に入れば皮脂や汚れも流れていくのだ。そうなれば貯水池も汚れてしまう。
その為に自然の力を利用した浄化設備を作っているのだ。
「前世ではね、川が汚れて生き物が住めない場所が増えたの」
それは洗剤や工業排水などの影響や、護岸整備をしすぎたせいでもあるが、あえてその部分は伝えなかった。ただ、水を汚すと長い月日をかけてしっぺ返しが来ることを改めて説明すると、皆はちゃんと分かってくれた。
それは森の民として、自然と共に生きて来たからこそすんなりと受け入れてくれたのだろう。
「……そろそろじいやの出番ね。じいやはどこかしら?」
「ここにおりますぞー!」
どうやらじいやは近くの畑にいたらしく、エビネやタラたちと共にリーンウン国から持って来た種や苗を植えていたようだ。植え方についてはじいやが直接聞いて来ていたため、じいやが中心となり新しい野菜の注意点などを話していたらしい。
「姫様、噂のマイはないのですか?」
「この土地では作るのが難しいから、キッパリと諦めて来たわ」
じいやと共にエビネが現れ質問をされたが、この砂だらけの土地に水田を作ることを想像しただけで気が遠くなったので私は諦めたのだ。それを聞いたエビネは少し残念そうに肩を落としながら畑へと戻って行った。農業の魅力にどっぷりとハマっているエビネの後ろ姿に苦笑いしてしまう。
「私はどうすれば良いのですかな?」
同じようにエビネの後ろ姿を笑って見ていたじいやが口を開いた。
「貯水池を作った時のように岩盤を掘って欲しいの。そして……」
この国の汚水は人工的な湿地を作り、そこに生える植物の力で浄化することにしたのだ。湿地といっても広大なものにはせず、管理がしやすいように程よい大きさの池を棚田のように作り、最終的に川に流れるようにする。
上から見て真っ直ぐに続く棚田ではなく、斜めに配置していくようにして、あまりにヘドロが貯まるようであれば縁から手入れがしやすいようにするのだ。
「……ということなのよ」
「お任せください」
じいやだけではなく全員に説明をすると、皆真剣に話を聞いてくれ、さぁ作業を再開するぞというところで背後から声をかけられた。
「カレン」
振り向くとあからさまに不機嫌なお母様と、青ざめているお父様が立っていた。朝までのラブラブはどこかへ消え去ったようだ。不穏な空気を感じた皆は「さぁ頑張ろう!」などと声を上げ、こちらに構わず作業を始める。
……どうやら名前を呼ばれた私だけで対処しなければいけないらしい。私はお母様に気付かれないように、小さく溜め息を吐いたのだった。
「カレン、イチビたちのほうは確認しなくていいの?」
スイレンの言葉にハッとする。朝から作業を任せきりにしてしまっている。
「そうね、一度確認に行ったほうが……でもここがまだ……」
「それなら僕たちがやるし大丈夫だよ。この家が終わったら隣もやるから」
そう言ってスイレンは笑う。浴槽と洗い場の下水への配管工事と、浴槽の湯を貯めるための『栓』の作成をヒイラギに頼み、私はイチビたちの作業現場へと向かうことにした。
────
畑を移動させた場所には、少し距離を空けてU字溝が並行して埋めてある。住居付近に水路を作り川からは近くなったとはいえ、畑が増えている分やはり水やりの水を確保するのは大変なのだろう。とは言えそのU字溝に水を流すのは私たちが帰って来てからと決めていたようなので、まだ水は流れていないのだが。
オアシス側に作った貯水池に向かってU字溝は続いているが、途中小さな貯水池を作り、そこに流れて来た砂を貯められるよう沈殿槽の役割も果たしている。皆で話し合ってここまで作ったのだろう。
そしてもう一つのU字溝は下水用だ。誤って水を使ったりしないように石や木の蓋がされ、落ちる心配もない。その下水用のU字溝を辿り作業現場へ向かう。
「いたいた。イチビー! シャガー! ハマスゲー! オヒシバー!」
他にも作業をしてくれている者たちがいるので、大きく手を振りながら駆け寄ると、皆は一度手を止めこちらに振り返る。
「姫様、住居のほうは良いのですか?」
「うん! スイレンたちが後はやってくれるって言うの。むしろこっちを気にかけていたわ。事前に言っておくべきだったわね。無理させてしまってごめんなさい」
そう言いながら作業現場の確認をする。当初、二つのU字溝の行き着く先は一番最初に作った貯水池だったようなのだ。
普通の水であればそのままにしたが、下水までもがその貯水池に繋がっていたと聞き、急きょ穴を掘ってもらっているのだ。
「姫様に頼まれると、私たちもどんなものが出来るのかと作るのが楽しみなんですよ」
作業員を代表して、イチビが額の汗を拭いながら爽やかに答えてくれた。
「先のことを考えたら、今やっておくべきだと思ったの」
この国は超自然派な暮らしをしているので、言葉はおかしいが下水自体が環境に優しい汚水になるであろうが、これから各家庭で生活をしていくとなると、どうしても食べかすや油汚れも流すことになるだろう。風呂に入れば皮脂や汚れも流れていくのだ。そうなれば貯水池も汚れてしまう。
その為に自然の力を利用した浄化設備を作っているのだ。
「前世ではね、川が汚れて生き物が住めない場所が増えたの」
それは洗剤や工業排水などの影響や、護岸整備をしすぎたせいでもあるが、あえてその部分は伝えなかった。ただ、水を汚すと長い月日をかけてしっぺ返しが来ることを改めて説明すると、皆はちゃんと分かってくれた。
それは森の民として、自然と共に生きて来たからこそすんなりと受け入れてくれたのだろう。
「……そろそろじいやの出番ね。じいやはどこかしら?」
「ここにおりますぞー!」
どうやらじいやは近くの畑にいたらしく、エビネやタラたちと共にリーンウン国から持って来た種や苗を植えていたようだ。植え方についてはじいやが直接聞いて来ていたため、じいやが中心となり新しい野菜の注意点などを話していたらしい。
「姫様、噂のマイはないのですか?」
「この土地では作るのが難しいから、キッパリと諦めて来たわ」
じいやと共にエビネが現れ質問をされたが、この砂だらけの土地に水田を作ることを想像しただけで気が遠くなったので私は諦めたのだ。それを聞いたエビネは少し残念そうに肩を落としながら畑へと戻って行った。農業の魅力にどっぷりとハマっているエビネの後ろ姿に苦笑いしてしまう。
「私はどうすれば良いのですかな?」
同じようにエビネの後ろ姿を笑って見ていたじいやが口を開いた。
「貯水池を作った時のように岩盤を掘って欲しいの。そして……」
この国の汚水は人工的な湿地を作り、そこに生える植物の力で浄化することにしたのだ。湿地といっても広大なものにはせず、管理がしやすいように程よい大きさの池を棚田のように作り、最終的に川に流れるようにする。
上から見て真っ直ぐに続く棚田ではなく、斜めに配置していくようにして、あまりにヘドロが貯まるようであれば縁から手入れがしやすいようにするのだ。
「……ということなのよ」
「お任せください」
じいやだけではなく全員に説明をすると、皆真剣に話を聞いてくれ、さぁ作業を再開するぞというところで背後から声をかけられた。
「カレン」
振り向くとあからさまに不機嫌なお母様と、青ざめているお父様が立っていた。朝までのラブラブはどこかへ消え去ったようだ。不穏な空気を感じた皆は「さぁ頑張ろう!」などと声を上げ、こちらに構わず作業を始める。
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