貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
293 / 370

鍛えられた大人たち

しおりを挟む
 ブルーノさんの帰郷の喜びか、はたまた賭け事の勝敗についてか分からないほどの歓声が飛び交う中で揉みくちゃにされ、私たち一同はようやくリトールの町へと足を踏み入れることが出来た。

「やぁみんな。ただいま」

 ブルーノさんは笑顔でゆっくりと、そして実にマイペースにそう言うと、リトールの町の人々から拍手と歓声が上がる。

「ブルーノ! お……」

 ペーターさんはブルーノさんを見つめ、プルプルと震えながら言葉を溜めた。私たちは顔を見合わせ微笑み合い、『お帰り』のその言葉を待った。

「お前だけズルい!」

 散々溜めたペーターさんの言葉に、私たちはズッコケそうになり、リトールの町の人たちは爆笑している。

「ははは、積もる話は後にしよう。まずは一度自宅に帰るよ。カレンちゃんたちもおいで」

 大人の対応のブルーノさんは、ペーターさんにツッコむこともせず、人混みを掻き分けるように進む。

「では私はブルーノさんを無事に送り届けたということで、これで帰ります」

 そんな中、ジェイソンさんはペーターさんにそう報告していた。

「せっかく来たのにもう帰るのか? 夜に宴をする予定だが、参加しないか?」

 私たちの国に一緒に来た仲なので、ペーターさんはジェイソンさんを引き止めているようだ。

「隊員たちが待っているので……」

「夜に隊員たちと来たらどうだ?」

 食い下がるペーターさんに、ジェイソンさんは真面目な顔をして答えた。

「誰も来ない国境だとは思いますが、もし何かがあった場合、私はヒーズル王国のために国境を守らなければなりません」

 私とシャガ、ハマスゲは顔を見合わせた。シャイアーク国に仕えていながら、私たちの国を守ると言ってくれたのだ。あのジェイソンさんが、じいやのためではなく『ヒーズル王国のため』と言い切ったのだ。
 こんなにも嬉しい言葉はなく、私は自然とジェイソンさんの元へと駆け寄っていた。

「ジェイソンさん、本当に本当にありがとう!」

 そう言いながら抱きつくと、ジェイソンさんは慌てふためき、ダラダラと汗を流しながら絞るように言葉を発した。

「こんな場面をもし先生に見られたら……」

 最後の最後でじいやのことを気にするジェイソンさんに、ブルーノさんまでもが足を止め笑っている。

 和やかで笑いの絶えない別れとなったが、ジェイソンさんは一人国境へと戻って行った。私たちが帰る時にまた会うのだ。それにきっといつかは、ジェイソンさんもヒーズル王国に来てくれる。
 そう思いながら、ジェイソンさんが見えなくなるまで私たちは手を振って見送った。

────

「自宅なのに、自宅じゃない気がするなぁ」

 リビングの椅子に腰掛けたブルーノさんは苦笑いでそう言う。
 お弟子さんたちが、この住居兼工房に毎日出入りをしていたので、掃除なども行き届いている。

「だいぶ長いことヒーズル王国にいたものね。ブルーノさんもありがとう」

 ブルーノさんの向かいに腰掛けていた私が頭を下げると、シャガもハマスゲも一緒に頭を下げている。

「お礼を言われるようなことを私はしていないよ。むしろたくさんのことを学ばせてくれて、カレンちゃんたちヒーズル王国の皆さんには感謝しているよ」

 今度はブルーノさんが頭を下げ、私たちはあたふたとしてしまう。
 むしろ酒の席での派手な失敗談や、普通の人に見せたら恥ずかしいくらいのお父様とじいやの競争ばかりが頭に浮かび、どこに学ぶ要素があったのかと困惑してしまった。

「ところで今から植物の採取に行ったとしても、夜までにあの小屋には到着しないだろう? というわけで、三人とも今夜は泊まっていきなさい」

 思ってもいなかった言葉に、お父様とじいやの恥ずかしい場面ばかりが脳内で繰り返されていた私は、ハッと正気に戻る。
 このまま植物を採取して帰るつもりだったが、帰ったとしたら確かにあの監視小屋まで行けない上に、おそらくあの砂嵐地帯で夜を明かすことになるだろう。

「……本当に申し訳ないわ……。長旅すぎる長旅でブルーノさんも疲れているでしょうに、お言葉に甘えさせてもらいます……」

 苦笑いを通り越して、泣き笑いに近い表情でそう言うとブルーノさんは声を出して笑った。

「今夜は町を挙げての宴になると思うよ。根掘り葉掘り聞かれるだろうけど、秘密は漏らさないから安心したまえ。その宴の前に、商品を売りさばいておいで。そして明日の朝一番に沼に向かうと良い」

 ブルーノさんの言葉に従い、私たちはジョーイさんやカーラさんのお店に向かった。
 商品を卸したそばから人々が買い物に訪れ、ヒーズル王国製品の需要にさらに手応えを感じた。

 とはいえ、カーラさんのマシンガントークに付き合っているうちに気がつけば夕方となっており、急いでポニーとロバをブルーノさんの家の裏庭に繋ぎ、私たちはアンソニーさんの店へと向かった。

 店内には入りきれない程の人がいて、主役であるブルーノさんや私たち、そしてペーターさん以外は、店と外とを入れ替わり立ち替わり行き来するほどの大盛況だった。

 もちろん私以外の大人はしこたま酒を飲まされたが、あのデーツから作られた酒で鍛えられたのか、シャガとハマスゲだけでなくブルーノさんまでも涼しい顔をして、リトールの町の大人たちを酔い潰していたのだった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...