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鍛えられた大人たち
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ブルーノさんの帰郷の喜びか、はたまた賭け事の勝敗についてか分からないほどの歓声が飛び交う中で揉みくちゃにされ、私たち一同はようやくリトールの町へと足を踏み入れることが出来た。
「やぁみんな。ただいま」
ブルーノさんは笑顔でゆっくりと、そして実にマイペースにそう言うと、リトールの町の人々から拍手と歓声が上がる。
「ブルーノ! お……」
ペーターさんはブルーノさんを見つめ、プルプルと震えながら言葉を溜めた。私たちは顔を見合わせ微笑み合い、『お帰り』のその言葉を待った。
「お前だけズルい!」
散々溜めたペーターさんの言葉に、私たちはズッコケそうになり、リトールの町の人たちは爆笑している。
「ははは、積もる話は後にしよう。まずは一度自宅に帰るよ。カレンちゃんたちもおいで」
大人の対応のブルーノさんは、ペーターさんにツッコむこともせず、人混みを掻き分けるように進む。
「では私はブルーノさんを無事に送り届けたということで、これで帰ります」
そんな中、ジェイソンさんはペーターさんにそう報告していた。
「せっかく来たのにもう帰るのか? 夜に宴をする予定だが、参加しないか?」
私たちの国に一緒に来た仲なので、ペーターさんはジェイソンさんを引き止めているようだ。
「隊員たちが待っているので……」
「夜に隊員たちと来たらどうだ?」
食い下がるペーターさんに、ジェイソンさんは真面目な顔をして答えた。
「誰も来ない国境だとは思いますが、もし何かがあった場合、私はヒーズル王国のために国境を守らなければなりません」
私とシャガ、ハマスゲは顔を見合わせた。シャイアーク国に仕えていながら、私たちの国を守ると言ってくれたのだ。あのジェイソンさんが、じいやのためではなく『ヒーズル王国のため』と言い切ったのだ。
こんなにも嬉しい言葉はなく、私は自然とジェイソンさんの元へと駆け寄っていた。
「ジェイソンさん、本当に本当にありがとう!」
そう言いながら抱きつくと、ジェイソンさんは慌てふためき、ダラダラと汗を流しながら絞るように言葉を発した。
「こんな場面をもし先生に見られたら……」
最後の最後でじいやのことを気にするジェイソンさんに、ブルーノさんまでもが足を止め笑っている。
和やかで笑いの絶えない別れとなったが、ジェイソンさんは一人国境へと戻って行った。私たちが帰る時にまた会うのだ。それにきっといつかは、ジェイソンさんもヒーズル王国に来てくれる。
そう思いながら、ジェイソンさんが見えなくなるまで私たちは手を振って見送った。
────
「自宅なのに、自宅じゃない気がするなぁ」
リビングの椅子に腰掛けたブルーノさんは苦笑いでそう言う。
お弟子さんたちが、この住居兼工房に毎日出入りをしていたので、掃除なども行き届いている。
「だいぶ長いことヒーズル王国にいたものね。ブルーノさんもありがとう」
ブルーノさんの向かいに腰掛けていた私が頭を下げると、シャガもハマスゲも一緒に頭を下げている。
「お礼を言われるようなことを私はしていないよ。むしろたくさんのことを学ばせてくれて、カレンちゃんたちヒーズル王国の皆さんには感謝しているよ」
今度はブルーノさんが頭を下げ、私たちはあたふたとしてしまう。
むしろ酒の席での派手な失敗談や、普通の人に見せたら恥ずかしいくらいのお父様とじいやの競争ばかりが頭に浮かび、どこに学ぶ要素があったのかと困惑してしまった。
「ところで今から植物の採取に行ったとしても、夜までにあの小屋には到着しないだろう? というわけで、三人とも今夜は泊まっていきなさい」
思ってもいなかった言葉に、お父様とじいやの恥ずかしい場面ばかりが脳内で繰り返されていた私は、ハッと正気に戻る。
このまま植物を採取して帰るつもりだったが、帰ったとしたら確かにあの監視小屋まで行けない上に、おそらくあの砂嵐地帯で夜を明かすことになるだろう。
「……本当に申し訳ないわ……。長旅すぎる長旅でブルーノさんも疲れているでしょうに、お言葉に甘えさせてもらいます……」
苦笑いを通り越して、泣き笑いに近い表情でそう言うとブルーノさんは声を出して笑った。
「今夜は町を挙げての宴になると思うよ。根掘り葉掘り聞かれるだろうけど、秘密は漏らさないから安心したまえ。その宴の前に、商品を売りさばいておいで。そして明日の朝一番に沼に向かうと良い」
ブルーノさんの言葉に従い、私たちはジョーイさんやカーラさんのお店に向かった。
商品を卸したそばから人々が買い物に訪れ、ヒーズル王国製品の需要にさらに手応えを感じた。
とはいえ、カーラさんのマシンガントークに付き合っているうちに気がつけば夕方となっており、急いでポニーとロバをブルーノさんの家の裏庭に繋ぎ、私たちはアンソニーさんの店へと向かった。
店内には入りきれない程の人がいて、主役であるブルーノさんや私たち、そしてペーターさん以外は、店と外とを入れ替わり立ち替わり行き来するほどの大盛況だった。
もちろん私以外の大人はしこたま酒を飲まされたが、あのデーツから作られた酒で鍛えられたのか、シャガとハマスゲだけでなくブルーノさんまでも涼しい顔をして、リトールの町の大人たちを酔い潰していたのだった。
「やぁみんな。ただいま」
ブルーノさんは笑顔でゆっくりと、そして実にマイペースにそう言うと、リトールの町の人々から拍手と歓声が上がる。
「ブルーノ! お……」
ペーターさんはブルーノさんを見つめ、プルプルと震えながら言葉を溜めた。私たちは顔を見合わせ微笑み合い、『お帰り』のその言葉を待った。
「お前だけズルい!」
散々溜めたペーターさんの言葉に、私たちはズッコケそうになり、リトールの町の人たちは爆笑している。
「ははは、積もる話は後にしよう。まずは一度自宅に帰るよ。カレンちゃんたちもおいで」
大人の対応のブルーノさんは、ペーターさんにツッコむこともせず、人混みを掻き分けるように進む。
「では私はブルーノさんを無事に送り届けたということで、これで帰ります」
そんな中、ジェイソンさんはペーターさんにそう報告していた。
「せっかく来たのにもう帰るのか? 夜に宴をする予定だが、参加しないか?」
私たちの国に一緒に来た仲なので、ペーターさんはジェイソンさんを引き止めているようだ。
「隊員たちが待っているので……」
「夜に隊員たちと来たらどうだ?」
食い下がるペーターさんに、ジェイソンさんは真面目な顔をして答えた。
「誰も来ない国境だとは思いますが、もし何かがあった場合、私はヒーズル王国のために国境を守らなければなりません」
私とシャガ、ハマスゲは顔を見合わせた。シャイアーク国に仕えていながら、私たちの国を守ると言ってくれたのだ。あのジェイソンさんが、じいやのためではなく『ヒーズル王国のため』と言い切ったのだ。
こんなにも嬉しい言葉はなく、私は自然とジェイソンさんの元へと駆け寄っていた。
「ジェイソンさん、本当に本当にありがとう!」
そう言いながら抱きつくと、ジェイソンさんは慌てふためき、ダラダラと汗を流しながら絞るように言葉を発した。
「こんな場面をもし先生に見られたら……」
最後の最後でじいやのことを気にするジェイソンさんに、ブルーノさんまでもが足を止め笑っている。
和やかで笑いの絶えない別れとなったが、ジェイソンさんは一人国境へと戻って行った。私たちが帰る時にまた会うのだ。それにきっといつかは、ジェイソンさんもヒーズル王国に来てくれる。
そう思いながら、ジェイソンさんが見えなくなるまで私たちは手を振って見送った。
────
「自宅なのに、自宅じゃない気がするなぁ」
リビングの椅子に腰掛けたブルーノさんは苦笑いでそう言う。
お弟子さんたちが、この住居兼工房に毎日出入りをしていたので、掃除なども行き届いている。
「だいぶ長いことヒーズル王国にいたものね。ブルーノさんもありがとう」
ブルーノさんの向かいに腰掛けていた私が頭を下げると、シャガもハマスゲも一緒に頭を下げている。
「お礼を言われるようなことを私はしていないよ。むしろたくさんのことを学ばせてくれて、カレンちゃんたちヒーズル王国の皆さんには感謝しているよ」
今度はブルーノさんが頭を下げ、私たちはあたふたとしてしまう。
むしろ酒の席での派手な失敗談や、普通の人に見せたら恥ずかしいくらいのお父様とじいやの競争ばかりが頭に浮かび、どこに学ぶ要素があったのかと困惑してしまった。
「ところで今から植物の採取に行ったとしても、夜までにあの小屋には到着しないだろう? というわけで、三人とも今夜は泊まっていきなさい」
思ってもいなかった言葉に、お父様とじいやの恥ずかしい場面ばかりが脳内で繰り返されていた私は、ハッと正気に戻る。
このまま植物を採取して帰るつもりだったが、帰ったとしたら確かにあの監視小屋まで行けない上に、おそらくあの砂嵐地帯で夜を明かすことになるだろう。
「……本当に申し訳ないわ……。長旅すぎる長旅でブルーノさんも疲れているでしょうに、お言葉に甘えさせてもらいます……」
苦笑いを通り越して、泣き笑いに近い表情でそう言うとブルーノさんは声を出して笑った。
「今夜は町を挙げての宴になると思うよ。根掘り葉掘り聞かれるだろうけど、秘密は漏らさないから安心したまえ。その宴の前に、商品を売りさばいておいで。そして明日の朝一番に沼に向かうと良い」
ブルーノさんの言葉に従い、私たちはジョーイさんやカーラさんのお店に向かった。
商品を卸したそばから人々が買い物に訪れ、ヒーズル王国製品の需要にさらに手応えを感じた。
とはいえ、カーラさんのマシンガントークに付き合っているうちに気がつけば夕方となっており、急いでポニーとロバをブルーノさんの家の裏庭に繋ぎ、私たちはアンソニーさんの店へと向かった。
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もちろん私以外の大人はしこたま酒を飲まされたが、あのデーツから作られた酒で鍛えられたのか、シャガとハマスゲだけでなくブルーノさんまでも涼しい顔をして、リトールの町の大人たちを酔い潰していたのだった。
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