301 / 370
仲良し夫妻
しおりを挟む
タデとヒイラギが髪を切った後、ヒイラギは「この王国に小さな命が産まれたんだ」と言い、二組の夫妻は浄化設備という名のビオトープへとデートに出かけてしまった。
更にはしっかりと、果実という名のおやつまで持って行ったのだ。ピクニックデートとはラブラブすぎて羨ましい。
そして髪を切り終わったスイレンと、やる気に満ち溢れたお父様は元気に作業現場へと戻り、残された私は延々と民たちの髪を切り続けた。
そのおかげで長くしなやかな髪がたくさん手に入り、女性陣はアワノキで洗うと言っておババさんの家へと向かい、皆私の周りから立ち去ってしまった。
取り残された私は疲れと、そしてなんとも言えないやりきれないような思いでいっぱいとなり、広場の椅子に座りボーっと遠くの山を見ていた。
遥か遠くに見える山々だが、その一つの山頂が瞬きの間に無くなったような気がした。けれど、音も聞こえず振動も感じなかったため気のせいだと思い、私は農作業をしようとそのまま畑へと入って行った。
────
夕食時となり、畑からの収穫物を持って広場へ戻ると、スイレンやお父様たちが作業を終えて戻って来たところだった。
「……お疲れ様……」
「あ! カレン! 今日はすごく作業が進んだの! 頭が軽くなったからかな?」
色々な意味で疲れた私が労いの言葉をかけると、スイレンは嬉しそうに髪を触る。
悔しいが、この純粋な笑顔と仕草に私は弱いのだ。
そうこうしているうちに、遠くから「モクレン様~!」という声が聞こえて来た。
「どうした?」
声の主が全力疾走で森から出て来ると、お父様は一歩前に出て真面目なトーンになる。
「あちらからの作業がだいぶ進んでいるようです! あとほんの数日で国境が出来るかと思われます! あの高い山が崩れたようで、地も揺れました! 私の耳では分かりませんが、モクレン様の耳であれば向こうの会話も聞こえるかと思いまして!」
肩で息をしながら、身振り手振りで話す民をその場の全員が見ていたが、視線は自然とお父様に注がれる。
「なるほど。そうであれば、私が行ったほうが良いかもしれないな。……タデとヒイラギはどこだ? まだ戻ってないのか?」
顎に手を当て呟いたお父様だが、辺りを見回しタデとヒイラギを探している。
「そうね、まだ戻ってないわ。住居に戻ったのかしら?」
「ならば作業をしていた私たちが気付くだろう? タデたちは住居には来ていない」
いくらピクニックデートとはいえ、あまりにも時間が経ち過ぎている。四人の身を案じ、広場にいる皆はザワザワとし始めた。
ちょうどその時だった。
「モクレン……! みんなっ……!」
ヒイラギの声が聞こえ、そちらを見ると泣き腫らした顔のヒイラギと、とめどなく涙を流すタデが、青ざめてぐったりとしたそれぞれの奥様をお姫様抱っこをして、こちらへゆっくりと歩いて来ていた。
「ハコベ!? ナズナ!?」
いち早く動いたのは、ハコベさんとナズナさんの親友であるお母様だ。駆け出すお母様を見て、お父様もその後ろを追った。
「何が……何があったの!? 二人ともどうしたの!?」
お母様が錯乱状態となり泣いて騒ぎ出すと、お父様が後ろからお母様を抱き締め、落ち着くように言い聞かせている。
その様子を見て、ようやく呆けていた私たちもその場へ走り出した。
「……! ……っ!!」
お父様に「……どうした?」と聞かれたタデは、泣きすぎて声を出せそうにない。
普段、表情があまり変わらないタデの、見たことのない様子に私たちは困惑している。
「姫……ありがとう……。姫が浄化設備を作ってくれたから……」
ヒイラギに唐突にお礼を言われ、さらに困惑していると、ヒイラギの目からも涙がこぼれ落ちた。
「……レンゲ……うっ……」
ぐったりとしていたハコベさんが薄っすらと目を開け、そして弱々しい声でお母様の名前を呼ぶと、また苦しそうに目をつむった。
すぐに四人を広場へと誘導し、ムギンの藁や敷物を敷いて、ハコベさんとナズナさんをその場に寝かせた。
私たちが不安げにハコベさんとナズナさんを見守る中、タデと目配せし合っていたヒイラギが口を開いた。というよりも、タデは話せるような状態ではない。
「あのね……二人はずっと言い出せなかったみたいなんだ……」
「何を!? こんな状態になるまで、私にも言えなかったということ!?」
感情的に叫ぶお母様をお父様がなだめる。
「……浄化設備を見て……決心がついたらしいんだ……。……私たちに……っ……子どもが出来た……!」
一瞬、何を言っているのか理解出来ず、その場が静まり返った。その数秒後、一気に広場が沸いた。
タデもヒイラギも、お父様もお母様も、その場のほとんどの者が笑顔となり、喜びの歓声をあげる。
「……浄化設備に小さな命が産まれたと聞いて……それをみんなが喜んでいたと聞いたから……。これから国境も出来て……忙しくなるのに……ごめんなさい……」
どうにか声を振り絞ったナズナさんがそう言うと、私たちは「謝ることじゃない!」と笑顔で一喝した。
ようやくタデもヒイラギも笑顔を見せてくれ、お父様は号泣しながら親友である二人を抱き締め、自分のことのように喜んでいた。
以前はお父様の抱きつきを躱した二人だが、今は三人で抱き合って泣いたり笑ったりしている。
お母様も地面に突っ伏して声を上げて泣いている。その様子を見て、私も涙が止まらなくなってしまったのだった。
更にはしっかりと、果実という名のおやつまで持って行ったのだ。ピクニックデートとはラブラブすぎて羨ましい。
そして髪を切り終わったスイレンと、やる気に満ち溢れたお父様は元気に作業現場へと戻り、残された私は延々と民たちの髪を切り続けた。
そのおかげで長くしなやかな髪がたくさん手に入り、女性陣はアワノキで洗うと言っておババさんの家へと向かい、皆私の周りから立ち去ってしまった。
取り残された私は疲れと、そしてなんとも言えないやりきれないような思いでいっぱいとなり、広場の椅子に座りボーっと遠くの山を見ていた。
遥か遠くに見える山々だが、その一つの山頂が瞬きの間に無くなったような気がした。けれど、音も聞こえず振動も感じなかったため気のせいだと思い、私は農作業をしようとそのまま畑へと入って行った。
────
夕食時となり、畑からの収穫物を持って広場へ戻ると、スイレンやお父様たちが作業を終えて戻って来たところだった。
「……お疲れ様……」
「あ! カレン! 今日はすごく作業が進んだの! 頭が軽くなったからかな?」
色々な意味で疲れた私が労いの言葉をかけると、スイレンは嬉しそうに髪を触る。
悔しいが、この純粋な笑顔と仕草に私は弱いのだ。
そうこうしているうちに、遠くから「モクレン様~!」という声が聞こえて来た。
「どうした?」
声の主が全力疾走で森から出て来ると、お父様は一歩前に出て真面目なトーンになる。
「あちらからの作業がだいぶ進んでいるようです! あとほんの数日で国境が出来るかと思われます! あの高い山が崩れたようで、地も揺れました! 私の耳では分かりませんが、モクレン様の耳であれば向こうの会話も聞こえるかと思いまして!」
肩で息をしながら、身振り手振りで話す民をその場の全員が見ていたが、視線は自然とお父様に注がれる。
「なるほど。そうであれば、私が行ったほうが良いかもしれないな。……タデとヒイラギはどこだ? まだ戻ってないのか?」
顎に手を当て呟いたお父様だが、辺りを見回しタデとヒイラギを探している。
「そうね、まだ戻ってないわ。住居に戻ったのかしら?」
「ならば作業をしていた私たちが気付くだろう? タデたちは住居には来ていない」
いくらピクニックデートとはいえ、あまりにも時間が経ち過ぎている。四人の身を案じ、広場にいる皆はザワザワとし始めた。
ちょうどその時だった。
「モクレン……! みんなっ……!」
ヒイラギの声が聞こえ、そちらを見ると泣き腫らした顔のヒイラギと、とめどなく涙を流すタデが、青ざめてぐったりとしたそれぞれの奥様をお姫様抱っこをして、こちらへゆっくりと歩いて来ていた。
「ハコベ!? ナズナ!?」
いち早く動いたのは、ハコベさんとナズナさんの親友であるお母様だ。駆け出すお母様を見て、お父様もその後ろを追った。
「何が……何があったの!? 二人ともどうしたの!?」
お母様が錯乱状態となり泣いて騒ぎ出すと、お父様が後ろからお母様を抱き締め、落ち着くように言い聞かせている。
その様子を見て、ようやく呆けていた私たちもその場へ走り出した。
「……! ……っ!!」
お父様に「……どうした?」と聞かれたタデは、泣きすぎて声を出せそうにない。
普段、表情があまり変わらないタデの、見たことのない様子に私たちは困惑している。
「姫……ありがとう……。姫が浄化設備を作ってくれたから……」
ヒイラギに唐突にお礼を言われ、さらに困惑していると、ヒイラギの目からも涙がこぼれ落ちた。
「……レンゲ……うっ……」
ぐったりとしていたハコベさんが薄っすらと目を開け、そして弱々しい声でお母様の名前を呼ぶと、また苦しそうに目をつむった。
すぐに四人を広場へと誘導し、ムギンの藁や敷物を敷いて、ハコベさんとナズナさんをその場に寝かせた。
私たちが不安げにハコベさんとナズナさんを見守る中、タデと目配せし合っていたヒイラギが口を開いた。というよりも、タデは話せるような状態ではない。
「あのね……二人はずっと言い出せなかったみたいなんだ……」
「何を!? こんな状態になるまで、私にも言えなかったということ!?」
感情的に叫ぶお母様をお父様がなだめる。
「……浄化設備を見て……決心がついたらしいんだ……。……私たちに……っ……子どもが出来た……!」
一瞬、何を言っているのか理解出来ず、その場が静まり返った。その数秒後、一気に広場が沸いた。
タデもヒイラギも、お父様もお母様も、その場のほとんどの者が笑顔となり、喜びの歓声をあげる。
「……浄化設備に小さな命が産まれたと聞いて……それをみんなが喜んでいたと聞いたから……。これから国境も出来て……忙しくなるのに……ごめんなさい……」
どうにか声を振り絞ったナズナさんがそう言うと、私たちは「謝ることじゃない!」と笑顔で一喝した。
ようやくタデもヒイラギも笑顔を見せてくれ、お父様は号泣しながら親友である二人を抱き締め、自分のことのように喜んでいた。
以前はお父様の抱きつきを躱した二人だが、今は三人で抱き合って泣いたり笑ったりしている。
お母様も地面に突っ伏して声を上げて泣いている。その様子を見て、私も涙が止まらなくなってしまったのだった。
52
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる