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世界の謎と乙女心
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へなへなとその場にへたり込んだニコライさんを無視し、私は疑問を投げかけた。
「ルーカス王……この土地は人工物が無い上に、生き物がほとんどいない『呪われた土地』と呼ばれた場所よ? まさか大昔には人がいたということ……?」
お父様やじいやも「何かの間違いでは?」と口を揃えている。
「……初代王がわざわざ嘘をつく理由がありません。おそらくこの土地には人がいたはずです。そして『存在を知られないように』と書かれていた通り、シャイアーク国はこの土地の存在をここ数十年までは確実に知らなかった。それに……」
ルーカス王がそこまで言うと、へたり込んでいたニコライさんが立ち上がった。
「テックノン王国の北部にある村なんですが、その村は伝承で『私たちは南から移り住んだ』と伝わっているらしいのです」
頭が追いつかず、小首を傾げているとニコライさんは続けた。
「あぁ! 以前お話した『メー』や『エエエエエー』を育てている村ですよ!」
そういえばヒツジ擬きやヤギ擬きは、少し寒い場所で飼育されていると言っていたことを思い出す。
「ヒーズル王国の皆さん、気付いておりますか? 貴方たちは、私たちと顔立ちや服装が違うことに」
ニコライさんにそう言われても、国が違えば見た目も違うだろうと思ってしまう。けれどすぐにリトールの町の人たちを思い出した。
同じシャイアーク国に住んでいながら、リトールの町の人たちは目や髪は黒やこげ茶色でありながら、顔立ちは西洋人のようであった。
「私はいろいろな国に行きますが、まず髪の色や質が違うんです。貴方たちは真っ黒で真っ直ぐな髪をしている。そして顔立ちも独特なんです」
確かに私たち以外の人は、いわゆる西洋人の顔立ちをしている。
「先程言いました村の人々もですね、森の民のような髪と顔立ちなんですよ! そして村には『この血を絶やしてはいけない』と伝わっているそうなんです!」
そう力説するニコライさんに、さらなる疑問を投げかけた。
「……待って。ならクジャたちは? クジャたちリーンウン国の人たちも私たちと似ていたわ」
そう言うとニコライさんはいつもの調子に戻った。
「そうなんです! そこが謎なんですよ! 毎回ハヤブサ王にお聞きしようとしているんですが、美しい女性たちに心を奪われて忘れてしまうんですよ! 一度クジャク嬢に聞いたことがあるのですが、『お主のような尻軽男に話すことはない』と冷たくあしらわれてしまったんです!」
オイオイと泣き真似をするニコライさんに誰も触れることなく、私たちはルーカス王を見つめる。
「私はまだクジャク姫にお会いしたことはありませんが、ニコライから聞く限り、おそらくリーンウン国の人たちも同じ出自なのではないのでしょうか」
確かにリーンウン国の人たちと私たちは似ていた。似ていたというより、どちらも日本人のようにしか見えない。
もしかしたら大昔はこの土地に文明があったのかもしれない。そして何かがあって、人々が散り散りになった……?
「カレン、考えても分からないことは、今考えても仕方がないよ。僕たちだってこの国のほとんどを知らないでしょ? いつか時間が出来たらたくさん冒険をしよう。今は民たちのために頑張る時だ」
眉間に皺を寄せて考えていると、スイレンが優しくそう言ってくれる。そうだ。今は疑問や謎は一旦保留にしておこう。
「そうね……そうよね。今はヒーズル王国を発展させることに集中しましょう」
そう言うと、スイレンはいつものように優しく微笑んでくれた。そのタイミングでお父様が「あ!」と声を漏らした。
「そうだ! この崩落で忘れていた! 初めに渡すつもりだったのだが、我が国からの贈り物だ」
お父様はそう言いながら手招きをすると、いつでも動けるようにスタンバイしていたハマナスが動こうとする。けれどポニーとロバは立ったままよだれを垂らして眠っていた。
ハマナスが小声で「起きてくれ」と言いながら二頭を揺さぶると、寝ぼけ眼で二頭は歩き始めた。その姿を見て両国から笑いが起きる。
「全て我が国で採れたものだ。このようなものを今度からそちらに売ることになる。私としては物々交換で良いのだが……」
すかさず「ダメよ!」と言うとお父様は口ごもる。ハマナスが木箱の蓋を開けると、ルーカス王は驚きの表情と共にサイモン大臣を呼んだ。
「……これはなんと素晴らしい!」
サイモン大臣の初めての言葉は褒め言葉だった。まるで宝石に触れるように果実や野菜を手に取り、いろいろな角度から農作物を見ている。
「冷えていないですが、一口いかがですか? アポーの実をどうぞ」
そう言ったハマナスはなにげにパワー部隊なのだが、芯の部分に親指を突っ込み「フンッ!」と力を入れると、アポーの実は真っ二つに割れた。
その腰に下げているナイフを使えば良いのに……とは、少し緊張気味のハマナスには言えなかった。
ハマナスは、その豪快さに驚いているルーカス王とサイモン大臣に割れたアポーの実を渡すと、二人はまじまじとそれを見つめている。
「水分がすごい……」
そう呟いたルーカス王が頬張るのと同時に、サイモン大臣もその実を一噛りする。目を見開いた二人は小動物のようにむさぼり始めた。
「美味い!」
「甘い!」
ルーカス王とサイモン大臣が同時に叫ぶ。そのルーカス王の表情は少年のような笑顔で、その表情にときめいてしまった。……間違いないわ、これは恋だわ……。
「ルーカス王……この土地は人工物が無い上に、生き物がほとんどいない『呪われた土地』と呼ばれた場所よ? まさか大昔には人がいたということ……?」
お父様やじいやも「何かの間違いでは?」と口を揃えている。
「……初代王がわざわざ嘘をつく理由がありません。おそらくこの土地には人がいたはずです。そして『存在を知られないように』と書かれていた通り、シャイアーク国はこの土地の存在をここ数十年までは確実に知らなかった。それに……」
ルーカス王がそこまで言うと、へたり込んでいたニコライさんが立ち上がった。
「テックノン王国の北部にある村なんですが、その村は伝承で『私たちは南から移り住んだ』と伝わっているらしいのです」
頭が追いつかず、小首を傾げているとニコライさんは続けた。
「あぁ! 以前お話した『メー』や『エエエエエー』を育てている村ですよ!」
そういえばヒツジ擬きやヤギ擬きは、少し寒い場所で飼育されていると言っていたことを思い出す。
「ヒーズル王国の皆さん、気付いておりますか? 貴方たちは、私たちと顔立ちや服装が違うことに」
ニコライさんにそう言われても、国が違えば見た目も違うだろうと思ってしまう。けれどすぐにリトールの町の人たちを思い出した。
同じシャイアーク国に住んでいながら、リトールの町の人たちは目や髪は黒やこげ茶色でありながら、顔立ちは西洋人のようであった。
「私はいろいろな国に行きますが、まず髪の色や質が違うんです。貴方たちは真っ黒で真っ直ぐな髪をしている。そして顔立ちも独特なんです」
確かに私たち以外の人は、いわゆる西洋人の顔立ちをしている。
「先程言いました村の人々もですね、森の民のような髪と顔立ちなんですよ! そして村には『この血を絶やしてはいけない』と伝わっているそうなんです!」
そう力説するニコライさんに、さらなる疑問を投げかけた。
「……待って。ならクジャたちは? クジャたちリーンウン国の人たちも私たちと似ていたわ」
そう言うとニコライさんはいつもの調子に戻った。
「そうなんです! そこが謎なんですよ! 毎回ハヤブサ王にお聞きしようとしているんですが、美しい女性たちに心を奪われて忘れてしまうんですよ! 一度クジャク嬢に聞いたことがあるのですが、『お主のような尻軽男に話すことはない』と冷たくあしらわれてしまったんです!」
オイオイと泣き真似をするニコライさんに誰も触れることなく、私たちはルーカス王を見つめる。
「私はまだクジャク姫にお会いしたことはありませんが、ニコライから聞く限り、おそらくリーンウン国の人たちも同じ出自なのではないのでしょうか」
確かにリーンウン国の人たちと私たちは似ていた。似ていたというより、どちらも日本人のようにしか見えない。
もしかしたら大昔はこの土地に文明があったのかもしれない。そして何かがあって、人々が散り散りになった……?
「カレン、考えても分からないことは、今考えても仕方がないよ。僕たちだってこの国のほとんどを知らないでしょ? いつか時間が出来たらたくさん冒険をしよう。今は民たちのために頑張る時だ」
眉間に皺を寄せて考えていると、スイレンが優しくそう言ってくれる。そうだ。今は疑問や謎は一旦保留にしておこう。
「そうね……そうよね。今はヒーズル王国を発展させることに集中しましょう」
そう言うと、スイレンはいつものように優しく微笑んでくれた。そのタイミングでお父様が「あ!」と声を漏らした。
「そうだ! この崩落で忘れていた! 初めに渡すつもりだったのだが、我が国からの贈り物だ」
お父様はそう言いながら手招きをすると、いつでも動けるようにスタンバイしていたハマナスが動こうとする。けれどポニーとロバは立ったままよだれを垂らして眠っていた。
ハマナスが小声で「起きてくれ」と言いながら二頭を揺さぶると、寝ぼけ眼で二頭は歩き始めた。その姿を見て両国から笑いが起きる。
「全て我が国で採れたものだ。このようなものを今度からそちらに売ることになる。私としては物々交換で良いのだが……」
すかさず「ダメよ!」と言うとお父様は口ごもる。ハマナスが木箱の蓋を開けると、ルーカス王は驚きの表情と共にサイモン大臣を呼んだ。
「……これはなんと素晴らしい!」
サイモン大臣の初めての言葉は褒め言葉だった。まるで宝石に触れるように果実や野菜を手に取り、いろいろな角度から農作物を見ている。
「冷えていないですが、一口いかがですか? アポーの実をどうぞ」
そう言ったハマナスはなにげにパワー部隊なのだが、芯の部分に親指を突っ込み「フンッ!」と力を入れると、アポーの実は真っ二つに割れた。
その腰に下げているナイフを使えば良いのに……とは、少し緊張気味のハマナスには言えなかった。
ハマナスは、その豪快さに驚いているルーカス王とサイモン大臣に割れたアポーの実を渡すと、二人はまじまじとそれを見つめている。
「水分がすごい……」
そう呟いたルーカス王が頬張るのと同時に、サイモン大臣もその実を一噛りする。目を見開いた二人は小動物のようにむさぼり始めた。
「美味い!」
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