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トーチ
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夜が明け、今日も移民の町へと物資を運ぼうとしていると、なにやらお父様とじいやが騒いでいる。何事かと思ったら、荷車をそのまま置いて来てしまい、一度取りに行かなければいけないという。どうしようもない争いの結果がコレだ。
どうせならと、テックノン王国への出荷品を詰めた木箱を二人に持たせることにした。
「どちらが先に国境へ到着するかしら?」
と発破をかけると、二人は凄まじい勢いで移民の町へと向かった。私たちは「いつものことだ」と二人を見送ったが、その後ろ姿を見ていた黒王と松風は明らかに驚いていた。動物すらも引かせることが出来る二人は素直にすごいと思う。
その後はポニーとロバの荷車に荷物を載せて私も乗り込み、黒王と松風に鞍や鐙を装着して、今日も私はヒゲシバとエビネと共に移民の町へと向かった。
到着して驚いたのは、お父様が「黒王の分の荷車を寄越せ」と国境で駄々をこねたらしく、立派な荷車に資材がたくさん詰め込まれた状態で置かれていた。
二人でこの巨大な荷車を運んだと言うのだから、もう二人に荷車を装着すれば良いと思ったことは心の中に留めておいた。
お父様とじいやには人間重機として働いてもらい、その間に手の空いた者に広場へと資材や食材を取りに行ってもらった。
黒王も松風も気性は穏やかで、誰を背中に乗せても嫌がらないのがとても助かった。
「エルザさん! アニーさん! 昨日の続きをやりましょう!」
今日は木材も運んで来ているのだ。バ糞置き場を完成させるために、ヒゲシバに地面に細い支柱を打ち込んでもらい、同じくらいの細さの木材をエルザさんとアニーさんに支えてもらい、ヒーズル王国製の縄で『角縛り』という結び方で固定していく。
「釘やセーメントが無くても、しっかりと固定されるんだねぇ」
「どんどんと柵が完成していくわね!」
昨日は手伝えないことにしょんぼりとしていた二人だが、ほとんど力のいらないバ糞置き場作りに任命してからは楽しそうに、そして嬉しそうに作業を手伝ってくれている。
二人は昨日に引き続き「お姫様がバ糞に熱心になるなんて」と、よほどツボにハマってしまったのか、何回も同じセリフを言いながらコロコロと笑っている。
「農作業をするなら後に重要なものになるのよ! 二人とも笑いすぎよ」
そう言いながらも私も笑い、ここだけはほのぼのとした時間が過ぎていく。あちらの住居建設現場の方は、今日もお父様とじいやの人間重機モードを見て移民たちがドン引きをしている。
ブルーノさんとペーターさんは動じていないが、ジェイソンさんはうっとりとじいやを見つめている。全てがいつも通りだ。
「それにしても、この結び方は面白いねぇ」
私の手元を見るエルザさんは興味津々といった様子だ。
「縄の結び方はたくさんあるのよ。今日は柵が完成したら、他に作る物があるからそれも手伝ってちょうだい」
そう二人に言えば、二人の目は期待感でより輝く。ドキドキやワクワクに年齢や性別は関係ないのだ。
無事に柵を完成させ、手を取り合って喜びあうと、次の作業に移ることにした。
釘などはブルーノさんたちが使うだろうからと、私は釘を使わないで作るテーブルや椅子の製作に取り掛かる。
「本当に簡易のものだから、強度は少し不安かも」
そうつぶやきながら、ヒゲシバと共に太めの木材を同じ長さに切り揃える。少量ではあるが、その作業で出た木屑はお便所用にまとめておく。
エルザさんとアニーさんにまた木材を支えてもらい、角縛りをして横木を作っていく。その横木にあまり使いみちのない太さの、枝のような木材を並べて縄で『床縛り』という縛り方をし、脚の部分に筋交い用の木材を『筋交い縛り』で固定すれば、見事にテーブルの完成だ。
「どんどん作っていきましょう。これを応用すれば、椅子も作れるわ」
四人で夢中になって作業をしていると、いつの間にか様子を見に来ていたブルーノさんとペーターさんまで作業に加わっていた。
「……はっ! 二人ともいつの間に!?」
「何を熱心に作っているのかと思ったんだ」
「私はこちらの作業の方が向いているようだ」
驚く私に、ブルーノさんとペーターさんは笑顔で答える。
「勉強になるよ。今まで端材はほとんど薪に使っていたからね」
「ならもっと面白い使い方があるわ」
ヒーズル王国では、皆が簡易かまどを作ってくれた名残で今もかまどを使用しているが、地球の北欧発祥の『スウェーデントーチ』という便利なものがある。丸太の上部に切り込みを入れ、直接燃やす豪快なものだ。
私は建設現場へ走り、持てる丸太を見繕い、お父様に頼んで四等分の切り込みを入れてもらい、両手で抱えて皆の元へ戻った。
「ここに燃えやすいものを置いて……誰か火を起こしてくれないかしら? 私、本当に火起こしが下手で……」
苦笑いで言うと、半信半疑のエルザさんが慣れた手つきで火を起こす。小さな火種は大きな火になっていき、丸太が上部から燃えていく。
「この切り込み部分が空気の通り道になるのよ。乾燥しすぎている木材はダメよ。半分乾いたような木が良いの。これはドングーリの木で、この上にお鍋を置いたらこのまま料理が出来るわ。マッツの木を使えば、もっと燃えるから料理には向かないけれど、夜の照明と暖房代わりになるわよ」
リトールの町のご老人たちは口をあんぐりと開けてトーチを見ている。私が言っていることと、上部だけが燃えていることに頭が追いつかないらしい。
こんなことくらいで驚いていたら、ヒーズル王国では暮らしていけないわよ! もっともっと驚かせるんだから!
どうせならと、テックノン王国への出荷品を詰めた木箱を二人に持たせることにした。
「どちらが先に国境へ到着するかしら?」
と発破をかけると、二人は凄まじい勢いで移民の町へと向かった。私たちは「いつものことだ」と二人を見送ったが、その後ろ姿を見ていた黒王と松風は明らかに驚いていた。動物すらも引かせることが出来る二人は素直にすごいと思う。
その後はポニーとロバの荷車に荷物を載せて私も乗り込み、黒王と松風に鞍や鐙を装着して、今日も私はヒゲシバとエビネと共に移民の町へと向かった。
到着して驚いたのは、お父様が「黒王の分の荷車を寄越せ」と国境で駄々をこねたらしく、立派な荷車に資材がたくさん詰め込まれた状態で置かれていた。
二人でこの巨大な荷車を運んだと言うのだから、もう二人に荷車を装着すれば良いと思ったことは心の中に留めておいた。
お父様とじいやには人間重機として働いてもらい、その間に手の空いた者に広場へと資材や食材を取りに行ってもらった。
黒王も松風も気性は穏やかで、誰を背中に乗せても嫌がらないのがとても助かった。
「エルザさん! アニーさん! 昨日の続きをやりましょう!」
今日は木材も運んで来ているのだ。バ糞置き場を完成させるために、ヒゲシバに地面に細い支柱を打ち込んでもらい、同じくらいの細さの木材をエルザさんとアニーさんに支えてもらい、ヒーズル王国製の縄で『角縛り』という結び方で固定していく。
「釘やセーメントが無くても、しっかりと固定されるんだねぇ」
「どんどんと柵が完成していくわね!」
昨日は手伝えないことにしょんぼりとしていた二人だが、ほとんど力のいらないバ糞置き場作りに任命してからは楽しそうに、そして嬉しそうに作業を手伝ってくれている。
二人は昨日に引き続き「お姫様がバ糞に熱心になるなんて」と、よほどツボにハマってしまったのか、何回も同じセリフを言いながらコロコロと笑っている。
「農作業をするなら後に重要なものになるのよ! 二人とも笑いすぎよ」
そう言いながらも私も笑い、ここだけはほのぼのとした時間が過ぎていく。あちらの住居建設現場の方は、今日もお父様とじいやの人間重機モードを見て移民たちがドン引きをしている。
ブルーノさんとペーターさんは動じていないが、ジェイソンさんはうっとりとじいやを見つめている。全てがいつも通りだ。
「それにしても、この結び方は面白いねぇ」
私の手元を見るエルザさんは興味津々といった様子だ。
「縄の結び方はたくさんあるのよ。今日は柵が完成したら、他に作る物があるからそれも手伝ってちょうだい」
そう二人に言えば、二人の目は期待感でより輝く。ドキドキやワクワクに年齢や性別は関係ないのだ。
無事に柵を完成させ、手を取り合って喜びあうと、次の作業に移ることにした。
釘などはブルーノさんたちが使うだろうからと、私は釘を使わないで作るテーブルや椅子の製作に取り掛かる。
「本当に簡易のものだから、強度は少し不安かも」
そうつぶやきながら、ヒゲシバと共に太めの木材を同じ長さに切り揃える。少量ではあるが、その作業で出た木屑はお便所用にまとめておく。
エルザさんとアニーさんにまた木材を支えてもらい、角縛りをして横木を作っていく。その横木にあまり使いみちのない太さの、枝のような木材を並べて縄で『床縛り』という縛り方をし、脚の部分に筋交い用の木材を『筋交い縛り』で固定すれば、見事にテーブルの完成だ。
「どんどん作っていきましょう。これを応用すれば、椅子も作れるわ」
四人で夢中になって作業をしていると、いつの間にか様子を見に来ていたブルーノさんとペーターさんまで作業に加わっていた。
「……はっ! 二人ともいつの間に!?」
「何を熱心に作っているのかと思ったんだ」
「私はこちらの作業の方が向いているようだ」
驚く私に、ブルーノさんとペーターさんは笑顔で答える。
「勉強になるよ。今まで端材はほとんど薪に使っていたからね」
「ならもっと面白い使い方があるわ」
ヒーズル王国では、皆が簡易かまどを作ってくれた名残で今もかまどを使用しているが、地球の北欧発祥の『スウェーデントーチ』という便利なものがある。丸太の上部に切り込みを入れ、直接燃やす豪快なものだ。
私は建設現場へ走り、持てる丸太を見繕い、お父様に頼んで四等分の切り込みを入れてもらい、両手で抱えて皆の元へ戻った。
「ここに燃えやすいものを置いて……誰か火を起こしてくれないかしら? 私、本当に火起こしが下手で……」
苦笑いで言うと、半信半疑のエルザさんが慣れた手つきで火を起こす。小さな火種は大きな火になっていき、丸太が上部から燃えていく。
「この切り込み部分が空気の通り道になるのよ。乾燥しすぎている木材はダメよ。半分乾いたような木が良いの。これはドングーリの木で、この上にお鍋を置いたらこのまま料理が出来るわ。マッツの木を使えば、もっと燃えるから料理には向かないけれど、夜の照明と暖房代わりになるわよ」
リトールの町のご老人たちは口をあんぐりと開けてトーチを見ている。私が言っていることと、上部だけが燃えていることに頭が追いつかないらしい。
こんなことくらいで驚いていたら、ヒーズル王国では暮らしていけないわよ! もっともっと驚かせるんだから!
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