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余った籾殻
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当初、こじんまりとした移民の町の敷地を考えていたが、お父様の迷走により広大な町となってしまった。店を何軒も建てられるほどその敷地は広い。
移民の町の人たちは笑って済ませてくれたが、一緒になって笑っているお父様を見て、私もじいやもため息ばかり吐いていた。
予定では、杭の外側に最終浄化設備の池がある状態だったが、じいやが気付いた時にはその池すらも杭の内側にあった。
そのおかげで作業工程と日数が増え、元の最終浄化設備の水深を浅くし、杭の外側に新たに池を作る羽目になった。私とじいや以外、ため息を吐かない皆は仏か何かだろうか?
その新たな最終浄化設備から東に向かって小さな水路を作り、その水路を挟んで南北に畑を作ったのだ。畑を敷地内には入れたくなかったからだ。
当然ながら最初に掘り返していた部分は埋め直し、新たに畑を作るために砂を掘り返すという、二度手間であり重労働に怒り心頭だった。
全ての怒りを、砂を掘り返すことで発散させたのは言うまでもない。
畑の造りは、ヒーズル王国の改修版と同じものにした。もちろん暗渠排水も作り、小さな水路にその水が流れるようにもした。
この水路は最終浄化設備に水が溜まったら、オーバーフローした分が流れるようにしている。オーバーフローしない場合の対策も考えているので、水やりに苦労することはない。
そして畑地帯を通り過ぎると、水路の水が溜まるようにここにも池を作った。いずれ畑が広がったら、この池の水も水やりに使えば良い。
移民の町に住んでいる人数が少ないので、畑の数はまずは少なめにし、主にムギンの栽培に使ってもらうようにした。風車小屋ではそのムギンの脱穀や精米をする。
新たな最終浄化設備の西側には、エルザさんのリーモン畑を作る。
あの日から数日が経ち、今日はようやく形となった畑に、ついに、今度こそ土を入れるのだ。
「ようやく……ようやくこの日が来たわ……」
感動に浸っているのに、大げさだと移民の町の人たちは笑う。しかし皆は冬前に農業をやりたいとこの国に来てくれたのに、もうすっかり春である。
あまりにも待たせてしまって申し訳無い気持ちでいっぱいなのに、農業以外の例えば布作りなどをやり、ちゃんと収入になっていたから気にしなくて良いと言うのだ。
やはりこの移民たちは神か仏なのだろう。
掘り返した砂は水はけが良すぎるので、これを戻したただの砂の畑ではなく、土を混ぜた畑にしたい。
その為、今日は黒王たちやポニーたちを総動員し、森から土を掘り返して持ってきた。これであれば土の中にミズズが入っているので、ミズズを捕まえるよりも効率も良いし、じいやが見て卒倒する可能性も低いだろう。
そしてこの日までにバイオトイレやコンポスト、バ糞を発酵させた堆肥などがたくさん溜まっている。これも混ぜ込むのだ。
作業は順調に進んでいたが、堆肥を混ぜ合わせた辺りから、ヒーズル王国側の人間がどんどんと作業スピードが遅くなり、酷い者だと体調不良まで訴えるではないか。
私や移民の町の人たちは何ともないので詳しく話を聞くと、どうやらバ糞の堆肥の匂いに負けているらしい。
嗅覚は主観や個人差があるが、私はバ糞の堆肥はほとんど匂いを感じないし、移民たちもリトールの町で農業をやっていたので、匂いの耐性があるのだろう。ただ、ナーの花が苦手な森の民にはやはりキツイようだ。
「元森の民のみなさーん! こっちで作ってもらいたいものがありまーす!」
あえておちゃらけて元気に言いながら手を上げて歩くと、匂いに負けた森の民たちがぞろぞろとついてくる。向かう場所はブルーノさんの工房だ。
ニコライさんは蛇腹のホースの試作品をいくつか持って来てくれ、スイレンたちはそれらで水量の計算を休みなしにしている。
そのホースの一部をもらい、ある物を作りたいのだ。
「お父様とじいやはこれを切って」
金切りばさみを渡すと、よほど具合が悪いのか黙々と切ってくれる。お父様には太いものを短く、じいやには細いものを長く切ってもらった。
「お父様。この上部をすぼめて、じいやの切った筒に嵌まるようにして」
さすが筋肉オバケだ。あの硬い金属を難なく切っただけでなく、力技で曲げてじいやの切ったものにねじ入れた。
念の為、じいやには接合部分を針金できつく締めてもらった。
「はい、みんなはコレに適度に穴を開けてちょうだい」
金槌と太めのキリを渡すと、皆はガンガンと穴を開けていく。さらに鉄板にも穴を開けてもらい、レンガの上にその鉄板を敷いた。
「……今さらだがカレンよ、コレはなんだ?」
少し体調が良くなったのか、お父様が問いかけてきた。
円錐に煙突がついたような不格好なコレは、なんちゃって『くん炭機』である。
木炭は木から出来ているが、自然に返らないものなので放置しては絶対にいけない。バーベキューをした後、その場に放置など許されることではない。木炭の処分は、灰になるまで燃やさなければいけないのだ。
だが農業で使う炭がある。それが『くん炭』だ。クジャたちが私たちのために用意してくれた籾殻は、使いきれないほどの量だった。
実際、この場所の暗渠排水に使ってもまだ余っていた。
「これは『くん炭』というものを作る装置よ。誰か火を起こして」
何が何やら分からないようだが、実際にやったほうが早い。鉄板の上で火を起こしてもらい薪をくべ、その上にくん炭機を乗せた。開けた穴は空気の通り道となる。
「はい! この周りに籾殻をかけるの!」
テキパキと籾殻をくん炭機の周りにかぶせると、皆も真似をしてくれた。
ちょうど休憩をしに来た移民たちも、なんだなんだと集まり始めた。
このくん炭は植物に必要な栄養があるが、窒素はほとんどないので堆肥と混ぜても化学反応を起こさない。
畑の表面に撒けば、泥はね防止にもなるし、土に混ぜれば通気性が良くなり、土がフカフカになるのだ。
何よりも、無数の小さな小さな穴に匂いの成分が入り込み、防臭効果もあるのだ。他にもメリットはあるが、匂いに負ける者たちのために作っていると言うと、お父様たちは歓喜の雄叫びを上げ、移民たちは見学すると言う。
しばらくくん炭について説明をしていると、籾殻が黒く炭化してきた。
熱いのを我慢しながら、まだ炭化していない部分とを混ぜ合わせ、完全に炭化したらたくさんの水をかけて消火する。混ぜては水をかけるを繰り返すのだ。
この時、しっかりと冷やさないとまた発火し、火事の原因にもなってしまう。あとはこれを乾燥させれば使用可能だ。
だいぶ長い、休憩なのか作業なのか分からない時間を過ごしたが、全員が学びと喜びを分かち合えたようなので良しとしよう。
移民の町の人たちは笑って済ませてくれたが、一緒になって笑っているお父様を見て、私もじいやもため息ばかり吐いていた。
予定では、杭の外側に最終浄化設備の池がある状態だったが、じいやが気付いた時にはその池すらも杭の内側にあった。
そのおかげで作業工程と日数が増え、元の最終浄化設備の水深を浅くし、杭の外側に新たに池を作る羽目になった。私とじいや以外、ため息を吐かない皆は仏か何かだろうか?
その新たな最終浄化設備から東に向かって小さな水路を作り、その水路を挟んで南北に畑を作ったのだ。畑を敷地内には入れたくなかったからだ。
当然ながら最初に掘り返していた部分は埋め直し、新たに畑を作るために砂を掘り返すという、二度手間であり重労働に怒り心頭だった。
全ての怒りを、砂を掘り返すことで発散させたのは言うまでもない。
畑の造りは、ヒーズル王国の改修版と同じものにした。もちろん暗渠排水も作り、小さな水路にその水が流れるようにもした。
この水路は最終浄化設備に水が溜まったら、オーバーフローした分が流れるようにしている。オーバーフローしない場合の対策も考えているので、水やりに苦労することはない。
そして畑地帯を通り過ぎると、水路の水が溜まるようにここにも池を作った。いずれ畑が広がったら、この池の水も水やりに使えば良い。
移民の町に住んでいる人数が少ないので、畑の数はまずは少なめにし、主にムギンの栽培に使ってもらうようにした。風車小屋ではそのムギンの脱穀や精米をする。
新たな最終浄化設備の西側には、エルザさんのリーモン畑を作る。
あの日から数日が経ち、今日はようやく形となった畑に、ついに、今度こそ土を入れるのだ。
「ようやく……ようやくこの日が来たわ……」
感動に浸っているのに、大げさだと移民の町の人たちは笑う。しかし皆は冬前に農業をやりたいとこの国に来てくれたのに、もうすっかり春である。
あまりにも待たせてしまって申し訳無い気持ちでいっぱいなのに、農業以外の例えば布作りなどをやり、ちゃんと収入になっていたから気にしなくて良いと言うのだ。
やはりこの移民たちは神か仏なのだろう。
掘り返した砂は水はけが良すぎるので、これを戻したただの砂の畑ではなく、土を混ぜた畑にしたい。
その為、今日は黒王たちやポニーたちを総動員し、森から土を掘り返して持ってきた。これであれば土の中にミズズが入っているので、ミズズを捕まえるよりも効率も良いし、じいやが見て卒倒する可能性も低いだろう。
そしてこの日までにバイオトイレやコンポスト、バ糞を発酵させた堆肥などがたくさん溜まっている。これも混ぜ込むのだ。
作業は順調に進んでいたが、堆肥を混ぜ合わせた辺りから、ヒーズル王国側の人間がどんどんと作業スピードが遅くなり、酷い者だと体調不良まで訴えるではないか。
私や移民の町の人たちは何ともないので詳しく話を聞くと、どうやらバ糞の堆肥の匂いに負けているらしい。
嗅覚は主観や個人差があるが、私はバ糞の堆肥はほとんど匂いを感じないし、移民たちもリトールの町で農業をやっていたので、匂いの耐性があるのだろう。ただ、ナーの花が苦手な森の民にはやはりキツイようだ。
「元森の民のみなさーん! こっちで作ってもらいたいものがありまーす!」
あえておちゃらけて元気に言いながら手を上げて歩くと、匂いに負けた森の民たちがぞろぞろとついてくる。向かう場所はブルーノさんの工房だ。
ニコライさんは蛇腹のホースの試作品をいくつか持って来てくれ、スイレンたちはそれらで水量の計算を休みなしにしている。
そのホースの一部をもらい、ある物を作りたいのだ。
「お父様とじいやはこれを切って」
金切りばさみを渡すと、よほど具合が悪いのか黙々と切ってくれる。お父様には太いものを短く、じいやには細いものを長く切ってもらった。
「お父様。この上部をすぼめて、じいやの切った筒に嵌まるようにして」
さすが筋肉オバケだ。あの硬い金属を難なく切っただけでなく、力技で曲げてじいやの切ったものにねじ入れた。
念の為、じいやには接合部分を針金できつく締めてもらった。
「はい、みんなはコレに適度に穴を開けてちょうだい」
金槌と太めのキリを渡すと、皆はガンガンと穴を開けていく。さらに鉄板にも穴を開けてもらい、レンガの上にその鉄板を敷いた。
「……今さらだがカレンよ、コレはなんだ?」
少し体調が良くなったのか、お父様が問いかけてきた。
円錐に煙突がついたような不格好なコレは、なんちゃって『くん炭機』である。
木炭は木から出来ているが、自然に返らないものなので放置しては絶対にいけない。バーベキューをした後、その場に放置など許されることではない。木炭の処分は、灰になるまで燃やさなければいけないのだ。
だが農業で使う炭がある。それが『くん炭』だ。クジャたちが私たちのために用意してくれた籾殻は、使いきれないほどの量だった。
実際、この場所の暗渠排水に使ってもまだ余っていた。
「これは『くん炭』というものを作る装置よ。誰か火を起こして」
何が何やら分からないようだが、実際にやったほうが早い。鉄板の上で火を起こしてもらい薪をくべ、その上にくん炭機を乗せた。開けた穴は空気の通り道となる。
「はい! この周りに籾殻をかけるの!」
テキパキと籾殻をくん炭機の周りにかぶせると、皆も真似をしてくれた。
ちょうど休憩をしに来た移民たちも、なんだなんだと集まり始めた。
このくん炭は植物に必要な栄養があるが、窒素はほとんどないので堆肥と混ぜても化学反応を起こさない。
畑の表面に撒けば、泥はね防止にもなるし、土に混ぜれば通気性が良くなり、土がフカフカになるのだ。
何よりも、無数の小さな小さな穴に匂いの成分が入り込み、防臭効果もあるのだ。他にもメリットはあるが、匂いに負ける者たちのために作っていると言うと、お父様たちは歓喜の雄叫びを上げ、移民たちは見学すると言う。
しばらくくん炭について説明をしていると、籾殻が黒く炭化してきた。
熱いのを我慢しながら、まだ炭化していない部分とを混ぜ合わせ、完全に炭化したらたくさんの水をかけて消火する。混ぜては水をかけるを繰り返すのだ。
この時、しっかりと冷やさないとまた発火し、火事の原因にもなってしまう。あとはこれを乾燥させれば使用可能だ。
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