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主従関係
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翌日、完全にくん炭が乾いているのを確認し、総出で畑の土と混ぜ合わせることにした。乾燥している土地のおかげで、たった一晩で予想以上に早く乾いてくれたのは助かる。
「ペーターさんは、今日もじいやと国境に行くのかしら?」
その日その時の気分で納品に行ったり、ブルーノさんの工房へ向かうペーターさんに笑いながら問いかけると、今日は納品に行くと言う。
今日は特に納品の種類が多く、じいや一人では大変だろうとのことだった。
畑にくん炭を入れると、私には違いが分からないが、明らかにお父様たちは匂いが減ったと喜んでいた。
納品を終わらせたじいやも加わり、パワー部隊が増えたことによって、作業がどんどんと進む。
その時だ。
「カ! レ! ン! 嬢ー!!」
疲れで幻聴が聞こえ始めたと思ったが、私だけでなく全員が振り向いた。そこには門番のいない移民の町の門から、ルンルンと走って来るニコライさんがいたのだ。
「ニコライさん!?」
「おぉ! ニコライ! ……よーしよし」
私たちは目玉が飛び出るほど驚いているというのに、お父様はニコライさんの元へと行き、大型犬を愛でるようにワシャワシャと撫でる。
「モクレン様ー! 遊びに来ました!」
「そうか。よく来たな」
呆気にとられているのは私たちだけで、二人はそれは楽しそうにはしゃいでいるではないか。
「ちょっと! 勝手に来たらダメでしょう!? そもそもどうやってここまで来たのよ!?」
怒気を帯び語気を強めてそう問えば、実にあっけらかんとニコライさんは答えた。
「門番たちも荷物を取りに来た者も、今日の納品に夢中だったので、その隙に走って来ました! 皆さんは何をしているんです?」
「そうか。ニコライ、私がお前の気配に気付かないなんて、なかなかやるな」
お父様以外は盛大にため息を吐いているというのに、このご主人様と犬もどきはキャッキャウフフと楽しそうだ。
「畑を作っているのよ。はい、じゃあニコライさんは帰りましょう。誰か国境まで連れて行って」
呆れを通り越して抑揚のない声で言うと、ニコライさんはシュンとなり、それを見たお父様が声を上げた。
「カレンよ……ニコライだぞ?」
お父様は、なぜかショックを受けたような表情をしている。
「えぇ。間違いなくニコライさんよ。まったく……両国に迷惑をかけて……」
ぶちぶちと文句を垂れ流すと、お父様は続ける。
「この従順なニコライが、何か悪さをするわけがないだろう? それにここから飛び出したとしても、ニコライが望む砂の中で野垂れ死にするだけだ。もし悪いことをしたのなら、私がひねり潰せば良いだろう?」
要約するとニコライさんと離れたくないということなのだが、物騒な言葉が端々にあるせいでニコライさんはカタカタと震えている。
そしてお父様はこれでもヒーズル王国の王様だ。もう結果は目に見えている。
「よしニコライ! 存分に見学していけ!」
キラッキラの笑顔を振りまくお父様と、目がハートになっているニコライさんに、その場の全員がため息を吐いたのは言うまでもない。
────
「……畑って作れるんですねぇ。私にとっては『その場所に当たり前にあるもの』として認識をしていたので、驚きを隠せません。誰かがこうやって畑を作って、そして今に至っているんですねぇ……」
くん炭を混ぜ込む作業をジーッと見ていたニコライさんは、珍しく真面目な顔とトーンでポツリとつぶやいた。
「言われてみれば、なかなか見ることはないのかもしれないわね。特に農家は親から譲り受け、その親もまた親から譲り受けてと、代々受け継いでいくものですものね」
作業をしながら答えると、また無言となったニコライさんだったが、やがて小さな声でつぶやいた。
「やはり、カレン嬢たちにテックノン王国へ来ていただきたい……」
「というか、テックノン王国は食料をほとんど輸入しているのでしょう? 畑はあるの?」
なんとなく質問をすると、ニコライさんは畑を見つめたまま、いつもとは違うトーンで答えた。
「あります。ありますが、使えないのです」
その言葉の意味が分からなかったが、もう少しで作業が終わりそうだったので会話をそこでやめ、そしてついに移民の町の畑が全て完成した。
「完成よ! あとは土を数日寝かせたら、今度こそ種や苗を植えられるわ!」
皆が拍手や口笛、思い思いに完成の喜びを叫んでいると、ズズズイっとニコライさんが私の前に現れた。
「カレン嬢、作業が終わったのですね? 数日寝かせると言いましたね?」
真顔のニコライさんにタジタジになりながら、「えぇ……」と答えると、ニコライさんはお父様のところへと小走りで向かった。
「モクレン様! 数日は時間の余裕が出来たんですよね? 明日にでもどうか我が国に来てください!」
ニコライさんの状態を言うならば、犬がエサを待っている時のように、「ヘッヘッヘッ!」と尻尾を高速で振っているように見える。
そしてこの後の展開も予想できる。ニコライさんはお父様を、甘やかしてくれるご主人様だと認識しているようだ。
「よしよしニコライ。分かった。レンゲとスイレンも良いか?」
「もちろんですー!」
「いやいや、お父様! いきなりすぎるわ! それにスイレンにはやることがあるでしょう!?」
三つ巴でギャーギャー騒いでいると、気分転換を兼ねて外に出たらしいスイレンとブルーノさんが畑へとやって来た。
「何か騒いでると思ったらニコライさん? どうしてここにいるの?」
キョトンとした顔のスイレンに、私よりも先にニコライさんが答えてしまった。
「スイレン坊っちゃん! 明日からテックノン王国に来ていただくことになりました!」
「だから勝手に決め……」
そこまで叫んだ時に、まさかのブルーノさんが気を利かせてしまった。
「スイレン君、行っておいで。あとは建設を始めるだけだし、それは私たちで出来るよ。違う土地の文化や風習を見るのもまた、君の知識をより豊富にしてくれるだろう」
大好きなブルーノさんにそんなことを言われたスイレンは、笑顔で「ブルーノさんが言うなら分かった!」と聞き分けの良い子になっている。
「ではモクレン様! 明日の納品の時間にここで落ち合いましょう!」
そこまで言ったニコライさんを、じいやが強制的に国境へ連れて行った。
お父様はスイレンと楽しみだとはしゃいでいるが、私はため息どころかその場にへたり込んだ。
ちなみにじいやによると、国境ではニコライさん捜索隊が結成されており、ニコライさんはサイモン大臣とマークさんに怒鳴り散らされていたそうだ……。
「ペーターさんは、今日もじいやと国境に行くのかしら?」
その日その時の気分で納品に行ったり、ブルーノさんの工房へ向かうペーターさんに笑いながら問いかけると、今日は納品に行くと言う。
今日は特に納品の種類が多く、じいや一人では大変だろうとのことだった。
畑にくん炭を入れると、私には違いが分からないが、明らかにお父様たちは匂いが減ったと喜んでいた。
納品を終わらせたじいやも加わり、パワー部隊が増えたことによって、作業がどんどんと進む。
その時だ。
「カ! レ! ン! 嬢ー!!」
疲れで幻聴が聞こえ始めたと思ったが、私だけでなく全員が振り向いた。そこには門番のいない移民の町の門から、ルンルンと走って来るニコライさんがいたのだ。
「ニコライさん!?」
「おぉ! ニコライ! ……よーしよし」
私たちは目玉が飛び出るほど驚いているというのに、お父様はニコライさんの元へと行き、大型犬を愛でるようにワシャワシャと撫でる。
「モクレン様ー! 遊びに来ました!」
「そうか。よく来たな」
呆気にとられているのは私たちだけで、二人はそれは楽しそうにはしゃいでいるではないか。
「ちょっと! 勝手に来たらダメでしょう!? そもそもどうやってここまで来たのよ!?」
怒気を帯び語気を強めてそう問えば、実にあっけらかんとニコライさんは答えた。
「門番たちも荷物を取りに来た者も、今日の納品に夢中だったので、その隙に走って来ました! 皆さんは何をしているんです?」
「そうか。ニコライ、私がお前の気配に気付かないなんて、なかなかやるな」
お父様以外は盛大にため息を吐いているというのに、このご主人様と犬もどきはキャッキャウフフと楽しそうだ。
「畑を作っているのよ。はい、じゃあニコライさんは帰りましょう。誰か国境まで連れて行って」
呆れを通り越して抑揚のない声で言うと、ニコライさんはシュンとなり、それを見たお父様が声を上げた。
「カレンよ……ニコライだぞ?」
お父様は、なぜかショックを受けたような表情をしている。
「えぇ。間違いなくニコライさんよ。まったく……両国に迷惑をかけて……」
ぶちぶちと文句を垂れ流すと、お父様は続ける。
「この従順なニコライが、何か悪さをするわけがないだろう? それにここから飛び出したとしても、ニコライが望む砂の中で野垂れ死にするだけだ。もし悪いことをしたのなら、私がひねり潰せば良いだろう?」
要約するとニコライさんと離れたくないということなのだが、物騒な言葉が端々にあるせいでニコライさんはカタカタと震えている。
そしてお父様はこれでもヒーズル王国の王様だ。もう結果は目に見えている。
「よしニコライ! 存分に見学していけ!」
キラッキラの笑顔を振りまくお父様と、目がハートになっているニコライさんに、その場の全員がため息を吐いたのは言うまでもない。
────
「……畑って作れるんですねぇ。私にとっては『その場所に当たり前にあるもの』として認識をしていたので、驚きを隠せません。誰かがこうやって畑を作って、そして今に至っているんですねぇ……」
くん炭を混ぜ込む作業をジーッと見ていたニコライさんは、珍しく真面目な顔とトーンでポツリとつぶやいた。
「言われてみれば、なかなか見ることはないのかもしれないわね。特に農家は親から譲り受け、その親もまた親から譲り受けてと、代々受け継いでいくものですものね」
作業をしながら答えると、また無言となったニコライさんだったが、やがて小さな声でつぶやいた。
「やはり、カレン嬢たちにテックノン王国へ来ていただきたい……」
「というか、テックノン王国は食料をほとんど輸入しているのでしょう? 畑はあるの?」
なんとなく質問をすると、ニコライさんは畑を見つめたまま、いつもとは違うトーンで答えた。
「あります。ありますが、使えないのです」
その言葉の意味が分からなかったが、もう少しで作業が終わりそうだったので会話をそこでやめ、そしてついに移民の町の畑が全て完成した。
「完成よ! あとは土を数日寝かせたら、今度こそ種や苗を植えられるわ!」
皆が拍手や口笛、思い思いに完成の喜びを叫んでいると、ズズズイっとニコライさんが私の前に現れた。
「カレン嬢、作業が終わったのですね? 数日寝かせると言いましたね?」
真顔のニコライさんにタジタジになりながら、「えぇ……」と答えると、ニコライさんはお父様のところへと小走りで向かった。
「モクレン様! 数日は時間の余裕が出来たんですよね? 明日にでもどうか我が国に来てください!」
ニコライさんの状態を言うならば、犬がエサを待っている時のように、「ヘッヘッヘッ!」と尻尾を高速で振っているように見える。
そしてこの後の展開も予想できる。ニコライさんはお父様を、甘やかしてくれるご主人様だと認識しているようだ。
「よしよしニコライ。分かった。レンゲとスイレンも良いか?」
「もちろんですー!」
「いやいや、お父様! いきなりすぎるわ! それにスイレンにはやることがあるでしょう!?」
三つ巴でギャーギャー騒いでいると、気分転換を兼ねて外に出たらしいスイレンとブルーノさんが畑へとやって来た。
「何か騒いでると思ったらニコライさん? どうしてここにいるの?」
キョトンとした顔のスイレンに、私よりも先にニコライさんが答えてしまった。
「スイレン坊っちゃん! 明日からテックノン王国に来ていただくことになりました!」
「だから勝手に決め……」
そこまで叫んだ時に、まさかのブルーノさんが気を利かせてしまった。
「スイレン君、行っておいで。あとは建設を始めるだけだし、それは私たちで出来るよ。違う土地の文化や風習を見るのもまた、君の知識をより豊富にしてくれるだろう」
大好きなブルーノさんにそんなことを言われたスイレンは、笑顔で「ブルーノさんが言うなら分かった!」と聞き分けの良い子になっている。
「ではモクレン様! 明日の納品の時間にここで落ち合いましょう!」
そこまで言ったニコライさんを、じいやが強制的に国境へ連れて行った。
お父様はスイレンと楽しみだとはしゃいでいるが、私はため息どころかその場にへたり込んだ。
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