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イモ祭り
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毎度毎度、どうしてこういうことになるのか分からない。
「カレン! 頼むぞ!」
「姫様! 楽しみにしております!」
「カレンちゃんの作るものにハズレはないからな」
「カレン嬢の勇姿を目に焼き付けます!」
「本当に楽しみですね」
「手伝いますので指示をお願いいたします!」
たくさんのギャラリーが見守る中、いや、好き放題に野次を飛ばしている中、私は厨房にいた。手伝うと言ってくれたのは宮殿の専属料理人たちだけで、それ以外は声が邪魔なくらい厨房に陣取って騒いでいる。
ただ宮殿の大きさから想像していたが、ここの厨房はかなり広く、こんなにもギャラリーが詰めかけても料理をする場所は確保できた。
私の掘り出したサツマイモの調理法を聞かれ、落ち葉を集めて燃やした中に入れるだけだと言っても信じてもらえなかった。
スイレンはなんの気なしに「嘘でしょ!?」と言い、確かに他の調理も美味しいと言い合っているうちに、あれよあれよと料理をすることになってしまったのだ。
私にも意地がある。やってやろうじゃないかと気合を入れたところ、このように全員が集まってしまったのだ。ルーカス王の従者は、黒板とチョークンまで用意している徹底ぶりだ。
イモは山ほど採れた。食べ尽くしてやろうではないか。
まずはサツマイモを洗い、適当な大きさに切っていく。一部は皮を剥き、塩水につける。さらに一部はただの水につける。
そういえば驚くべきことに、この二階にある厨房は床に扉があり、そこからつるべ落としのように一階を流れる湧水を汲むのだ。
イモの山を三分の一ほどに減らし、厚手の鍋を用意してもらった。そこに植物園などで拾った小石を敷き詰めた。もちろん火起こしは苦手なので、料理長に火を起こしてもらった。
他国の人たちが食べるものなので小石を洗ったほうが良いのかもしれないが、濡らすと飛んでくる可能性があるので洗っていない。熱消毒もされるので、おそらく大丈夫だろう。いつも通りの大ざっぱさである。
「石が温まったら、この残っているものを石の上に置いてください。少し焦げ目がついたらひっくり返してください」
料理長に「え!?」と言われたが、これは石焼き芋である。ただの焼き芋よりも手間がかかっているのを理解してもらいたい。
そんな料理長を鍋の前に放置し、別の料理人に声をかけた。
「蒸し器を準備してください」
そう言われた料理人は急いで蒸し器をセットする。
「準備が出来たら、この塩水につけてある皮付きのものを入れてください」
またしても「え!?」と聞き返された。これは焼き芋の次に好きな蒸し芋だ。本当なら一本まんまを入れたいが、品がなさそうなのでわざわざ切ったのだ。ちゃんと手間がかかっている。
さて、ここからは本当に手間のかかるものを作ることにする。厨房のものは好きに使っても良いと言われているので、この際遠慮はしない。
まずはお湯を沸かしてもらい、塩水につけた皮を剥いたイモを茹でているうちに、料理人たちとジンガーをすりおろす。茹でたイモを潰しながら、そのジンガーと砂糖を混ぜたが、少々水分が足りずお湯を少し加えた。
あとは混ぜ合わせれば完成なのが、このサツマイモきんとんである。美樹の家では、ほんの少ししょうがを入れたこれを作っていた。
クチナシの実がなくても問題ない。あれは色付けに使うものだ。みりんもあれば使ったが、もちろんない。日本酒と砂糖を合わせれば代用品が出来るが、これから作るものに集中したいのでリーンウン国の酒はあるかと聞かなかったのだ。
さぁここからが本番だ。手のこんだ料理を作る料理人たちを前に、焼くだけ、蒸すだけ、混ぜるだけの料理で終わりとは言いたくない。私のプライドが許さなかったのだ。
またお湯を沸かしてもらい、焼き窯にも火を起こして暖めてもらう。
「お父様、タデ、オヒシバ。こっちへ」
人間重機は料理にも使えるのだ。使えるものはとことん使う。
「三人とも、私が良いと言うまでこれを振り続けて」
三人には透明なガラス瓶にモーの乳を入れて渡した。困惑した表情をしていたが「始め!」と言うと、無我夢中で瓶を振っている。暑苦しい行動に、テックノン王国側の皆さんは引いている。
イモを煮ている間にお父様たちを停止させた。瓶の中には見覚えのある塊が出来ている。バターだ。
料理長は、毎日新鮮なモーの乳を運んでもらっていると言っていた。スーパーで売っている成分調整などをした牛乳とは違い、搾ったままの乳には脂肪分が多く含まれているため、ひたすら振るとバターが出来るのだ。
手の空いている料理人にバターの塊を集めてもらい、私はまた茹で上がったイモを潰す。
潰したイモが冷めないうちに、バター、砂糖、塩を入れる。無塩バターなので塩は少し多めに入れた。
これにモーの乳を少しずつ入れ、混ぜ合わせる。もちろんいつもの目分量だが問題ない。これも美樹は作り慣れていたので、わざわざ計るまでもないのだ。
あとは形を整え、上に卵黄を塗って焼き窯に入れるだけである。それにしてもこの厨房は、調理道具が揃っていて本当に羨ましい。
「表面に軽く焼き色が付けば完成よ」
そう言うと拍手が起きたが、私の疲労が回復するわけではないのだ……。
何回か窯の中を確認し、程よく焼けたスイートポテトが完成した。
「今すぐ食べたいです!」
ニコライさんはそう叫んだが、お行儀が悪いと思っていると全員が首を縦に振っている。料理人たちはすぐに動き出し、石焼き芋や蒸し芋をお洒落にカットし、皿に可愛らしく盛り付けた。……見習おうと思う。
サツマイモきんとんも、スプーンで形を丸く整えお皿に盛り付けている。ただのきんとんが、とてつもなくお洒落である。
スイートポテトすら縦に半分に切り、それをさらに半分に切って上手く重ね合わせて盛り付けている。ここの料理人たちは素晴らしい。
「いただきます!」
ルーカス王の言葉で全員が食べ始めた。皆の顔を見ていると、それぞれが驚き無言になっている。そしてそのまま手を動かす速度が上がっていく。
「あ……あの……」
私の言葉に誰も反応しない。それどころか私の前にある、私のお皿の争奪戦が始まってしまったのだ。
もちろん私は大好物を食べることが出来ず、お鍋の底に残っている、わずかな潰したサツマイモしか味わうことが出来なかったのだった……。
「カレン! 頼むぞ!」
「姫様! 楽しみにしております!」
「カレンちゃんの作るものにハズレはないからな」
「カレン嬢の勇姿を目に焼き付けます!」
「本当に楽しみですね」
「手伝いますので指示をお願いいたします!」
たくさんのギャラリーが見守る中、いや、好き放題に野次を飛ばしている中、私は厨房にいた。手伝うと言ってくれたのは宮殿の専属料理人たちだけで、それ以外は声が邪魔なくらい厨房に陣取って騒いでいる。
ただ宮殿の大きさから想像していたが、ここの厨房はかなり広く、こんなにもギャラリーが詰めかけても料理をする場所は確保できた。
私の掘り出したサツマイモの調理法を聞かれ、落ち葉を集めて燃やした中に入れるだけだと言っても信じてもらえなかった。
スイレンはなんの気なしに「嘘でしょ!?」と言い、確かに他の調理も美味しいと言い合っているうちに、あれよあれよと料理をすることになってしまったのだ。
私にも意地がある。やってやろうじゃないかと気合を入れたところ、このように全員が集まってしまったのだ。ルーカス王の従者は、黒板とチョークンまで用意している徹底ぶりだ。
イモは山ほど採れた。食べ尽くしてやろうではないか。
まずはサツマイモを洗い、適当な大きさに切っていく。一部は皮を剥き、塩水につける。さらに一部はただの水につける。
そういえば驚くべきことに、この二階にある厨房は床に扉があり、そこからつるべ落としのように一階を流れる湧水を汲むのだ。
イモの山を三分の一ほどに減らし、厚手の鍋を用意してもらった。そこに植物園などで拾った小石を敷き詰めた。もちろん火起こしは苦手なので、料理長に火を起こしてもらった。
他国の人たちが食べるものなので小石を洗ったほうが良いのかもしれないが、濡らすと飛んでくる可能性があるので洗っていない。熱消毒もされるので、おそらく大丈夫だろう。いつも通りの大ざっぱさである。
「石が温まったら、この残っているものを石の上に置いてください。少し焦げ目がついたらひっくり返してください」
料理長に「え!?」と言われたが、これは石焼き芋である。ただの焼き芋よりも手間がかかっているのを理解してもらいたい。
そんな料理長を鍋の前に放置し、別の料理人に声をかけた。
「蒸し器を準備してください」
そう言われた料理人は急いで蒸し器をセットする。
「準備が出来たら、この塩水につけてある皮付きのものを入れてください」
またしても「え!?」と聞き返された。これは焼き芋の次に好きな蒸し芋だ。本当なら一本まんまを入れたいが、品がなさそうなのでわざわざ切ったのだ。ちゃんと手間がかかっている。
さて、ここからは本当に手間のかかるものを作ることにする。厨房のものは好きに使っても良いと言われているので、この際遠慮はしない。
まずはお湯を沸かしてもらい、塩水につけた皮を剥いたイモを茹でているうちに、料理人たちとジンガーをすりおろす。茹でたイモを潰しながら、そのジンガーと砂糖を混ぜたが、少々水分が足りずお湯を少し加えた。
あとは混ぜ合わせれば完成なのが、このサツマイモきんとんである。美樹の家では、ほんの少ししょうがを入れたこれを作っていた。
クチナシの実がなくても問題ない。あれは色付けに使うものだ。みりんもあれば使ったが、もちろんない。日本酒と砂糖を合わせれば代用品が出来るが、これから作るものに集中したいのでリーンウン国の酒はあるかと聞かなかったのだ。
さぁここからが本番だ。手のこんだ料理を作る料理人たちを前に、焼くだけ、蒸すだけ、混ぜるだけの料理で終わりとは言いたくない。私のプライドが許さなかったのだ。
またお湯を沸かしてもらい、焼き窯にも火を起こして暖めてもらう。
「お父様、タデ、オヒシバ。こっちへ」
人間重機は料理にも使えるのだ。使えるものはとことん使う。
「三人とも、私が良いと言うまでこれを振り続けて」
三人には透明なガラス瓶にモーの乳を入れて渡した。困惑した表情をしていたが「始め!」と言うと、無我夢中で瓶を振っている。暑苦しい行動に、テックノン王国側の皆さんは引いている。
イモを煮ている間にお父様たちを停止させた。瓶の中には見覚えのある塊が出来ている。バターだ。
料理長は、毎日新鮮なモーの乳を運んでもらっていると言っていた。スーパーで売っている成分調整などをした牛乳とは違い、搾ったままの乳には脂肪分が多く含まれているため、ひたすら振るとバターが出来るのだ。
手の空いている料理人にバターの塊を集めてもらい、私はまた茹で上がったイモを潰す。
潰したイモが冷めないうちに、バター、砂糖、塩を入れる。無塩バターなので塩は少し多めに入れた。
これにモーの乳を少しずつ入れ、混ぜ合わせる。もちろんいつもの目分量だが問題ない。これも美樹は作り慣れていたので、わざわざ計るまでもないのだ。
あとは形を整え、上に卵黄を塗って焼き窯に入れるだけである。それにしてもこの厨房は、調理道具が揃っていて本当に羨ましい。
「表面に軽く焼き色が付けば完成よ」
そう言うと拍手が起きたが、私の疲労が回復するわけではないのだ……。
何回か窯の中を確認し、程よく焼けたスイートポテトが完成した。
「今すぐ食べたいです!」
ニコライさんはそう叫んだが、お行儀が悪いと思っていると全員が首を縦に振っている。料理人たちはすぐに動き出し、石焼き芋や蒸し芋をお洒落にカットし、皿に可愛らしく盛り付けた。……見習おうと思う。
サツマイモきんとんも、スプーンで形を丸く整えお皿に盛り付けている。ただのきんとんが、とてつもなくお洒落である。
スイートポテトすら縦に半分に切り、それをさらに半分に切って上手く重ね合わせて盛り付けている。ここの料理人たちは素晴らしい。
「いただきます!」
ルーカス王の言葉で全員が食べ始めた。皆の顔を見ていると、それぞれが驚き無言になっている。そしてそのまま手を動かす速度が上がっていく。
「あ……あの……」
私の言葉に誰も反応しない。それどころか私の前にある、私のお皿の争奪戦が始まってしまったのだ。
もちろん私は大好物を食べることが出来ず、お鍋の底に残っている、わずかな潰したサツマイモしか味わうことが出来なかったのだった……。
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