350 / 370
お料理談義
しおりを挟む
完全に不貞腐れている私に皆が謝るが、過ぎたるは猶及ばざるが如しである。
「カレン、あれを少し分けてもらって、ヒーズル王国で育てるのはどうかしら?」
「…………」
お母様の提案に無言の抵抗をしたものの、小さく頷いてしまった。サツマイモは素直に欲しい。
「……荒れた土地でも育つから、この国でも育てるべきよ」
ポツリとつぶやいたが、従者たちは聞き逃さずそれすらも黒板に記入している。その従者の一人に恐る恐るといった感じで「どうやって増やすのですか?」と問われたが、誰も答えない。そうだった、私しか知らないものだった。
「……ツルを切って畑に挿せば、根っこが生えてくるわ。その根があのサツマイモよ。ツルは伸びてきたら地面になるべく触れないようにすること。理由は……」
サツマイモのツルは地面に触れると、そこから根っこが生えてしまう。そうするとイモに栄養が行かず、葉だけが茂るツルボケという状態になるのだ。
そうならないためにツル返しという、畑に伸びたツルをひっくり返して根っこが生えないようにする作業をするのだが、あの植物園では知らずに支柱にツルを這わせてたおかげで、見事なサツマイモを収穫出来たのだ。
……私は微々たる量しか食べていないが。
さてこれからどうするかという話になっているが、子どもの頃にヒーズル王国へ来たオヒシバと、シャイアーク国出身のペーターさんチームは、分からない植物が多かったらしい。
なのでもう一度植物園へ行こうという話になっている。その時だ。
「カレン姫様、大変申し訳無いのですが、先程のこれは何なのでしょう……?」
そこには使い切れなかったバターを手にする料理人がいた。
「……モーの乳の脂肪分よ。お料理にもお菓子作りにも欠かせないものよ」
そう説明すると、料理人たちは「詳しく教えてください!」と私の周りに殺到した。
どうやら私は植物園へ行けそうにないようだ。私だけがこの場に残る空気が漂っていたが、スイレンも残ると言う。当たり前すぎて気にしていなかったが、小さな虫たちをあまり見たくないとのことだった。
「では二手に別れましょう」
こうして私とスイレンがこの場に残った。
────
厨房から人が、というより、ルーカス王たちがいなくなると、料理人たちは「座りましょう」とお茶を淹れてくれた。料理人たちも王が来るとは思わず緊張していたらしい。
「あ……リーンウン国の……」
一口飲むと、リーンウン国産だと分かる香り高いお茶だった。そこから少しずつ会話をしているうちに意気投合し、気付けばいつの間にか料理人たちの愚痴を聞いていた。
主にニコライさんの愚痴で、私もスイレンも笑ってしまった。
「ニコライ様は良い人なんです。それは間違いない。ですが、こっそりとここに侵入して食べ物を食べてしまうんです!」
あまりにも想像できるニコライさんの姿に、私もスイレンも吹き出した。
「他にも逸話はいくつもありますよ!」
「最近の面白い話はあるの?」
スイレンの問いかけに、料理人たちは「面白くはないかもしれません」と前置きし、厨房が困っていることを言い出した。
「食材を輸入してくれるのはありがたいのですが、調理法を詳しく聞かずに輸入するんです」
思わず笑ってしまったが、どんな食材なのかと問うと、『マイ』だと言う。しかも気を利かせたリーンウン国はたくさんのマイを輸出してくれるが、白米と玄米の違いが分からないこの国にマイを輸出しているので、特に調理に困っていると言う。そしてこの国の人たちは、あまりマイが好みではないと言う。
炊き方を間違ってるだけかと思い、そこから短時間で炊けるリーンウン国にも教えた玄米の『びっくり炊き』のやり方を実践しながら事細かに説明した。
「確かに芯もなく、私たちが作ったものよりも柔らかく美味しい」
美味しいとは言ってくれるが、それは自分たちが作ったものと比べての話なのだろう。表情がそれを物語っている。
「これだけを食べるのは私たちもあまりしないわ。味の濃いものと一緒に食べると美味しいわよ? ただのブレッドよりも、何かを塗ったブレッドのほうが美味しいでしょう?」
そこから話題はブレッドに変わった。ルーカス王はこの国のブレッドをもっと普及させたいようだが、あの硬さと酸味はこの国の住人ですら食べる人を選ぶと言う。スイレンは素直に「あれはちょっと苦手かな……」と口にした。
「ムギンにも種類があるでしょう? この国のムギンはちょっと特殊ね」
食べて分かったが、この国のムギンは地球で言うライ麦だ。
「でもひと工夫すれば、子どもも喜ぶブレッドになるわよ」
私の言葉を聞いた料理人たちはざわめいた。だがさすがに今から作業するのもどうかということになり、明日以降の私の予定が空いている時にお邪魔することになった。
「この余ったバターは冷やして保存しても良いし、これを使って肉を焼いても美味しくなるわよ。ところで……」
私は目ざとく見つけていた厨房内にあった鍋を指さす。中身はブイヨンスープだ。
いくつか質問すると、このブイヨンスープを元にコンソメスープを作ると言う。ならば話は早い。
「手間はかかるけど、これは長期保存できるって知ってたかしら?」
私の発言に再度料理人たちはざわめく。
「最低限この野菜は用意して欲しいわ」
料理人たちは黒板に材料と分量を記入していく。ただのスープであれば、簡単に言えば野菜を煮込んで汁の部分だけ飲む。
だが野菜をペースト状にしてひたすら弱火で煮詰め、それを乾燥させればコンソメ顆粒になるのだ。
「作るのは大変だけれど、作ってしまえば料理の幅が広がるわよ」
こうして私はリーンウン国だけでなく、テックノン王国でも厨房の人たちと仲良くなったのだった。
「カレン、あれを少し分けてもらって、ヒーズル王国で育てるのはどうかしら?」
「…………」
お母様の提案に無言の抵抗をしたものの、小さく頷いてしまった。サツマイモは素直に欲しい。
「……荒れた土地でも育つから、この国でも育てるべきよ」
ポツリとつぶやいたが、従者たちは聞き逃さずそれすらも黒板に記入している。その従者の一人に恐る恐るといった感じで「どうやって増やすのですか?」と問われたが、誰も答えない。そうだった、私しか知らないものだった。
「……ツルを切って畑に挿せば、根っこが生えてくるわ。その根があのサツマイモよ。ツルは伸びてきたら地面になるべく触れないようにすること。理由は……」
サツマイモのツルは地面に触れると、そこから根っこが生えてしまう。そうするとイモに栄養が行かず、葉だけが茂るツルボケという状態になるのだ。
そうならないためにツル返しという、畑に伸びたツルをひっくり返して根っこが生えないようにする作業をするのだが、あの植物園では知らずに支柱にツルを這わせてたおかげで、見事なサツマイモを収穫出来たのだ。
……私は微々たる量しか食べていないが。
さてこれからどうするかという話になっているが、子どもの頃にヒーズル王国へ来たオヒシバと、シャイアーク国出身のペーターさんチームは、分からない植物が多かったらしい。
なのでもう一度植物園へ行こうという話になっている。その時だ。
「カレン姫様、大変申し訳無いのですが、先程のこれは何なのでしょう……?」
そこには使い切れなかったバターを手にする料理人がいた。
「……モーの乳の脂肪分よ。お料理にもお菓子作りにも欠かせないものよ」
そう説明すると、料理人たちは「詳しく教えてください!」と私の周りに殺到した。
どうやら私は植物園へ行けそうにないようだ。私だけがこの場に残る空気が漂っていたが、スイレンも残ると言う。当たり前すぎて気にしていなかったが、小さな虫たちをあまり見たくないとのことだった。
「では二手に別れましょう」
こうして私とスイレンがこの場に残った。
────
厨房から人が、というより、ルーカス王たちがいなくなると、料理人たちは「座りましょう」とお茶を淹れてくれた。料理人たちも王が来るとは思わず緊張していたらしい。
「あ……リーンウン国の……」
一口飲むと、リーンウン国産だと分かる香り高いお茶だった。そこから少しずつ会話をしているうちに意気投合し、気付けばいつの間にか料理人たちの愚痴を聞いていた。
主にニコライさんの愚痴で、私もスイレンも笑ってしまった。
「ニコライ様は良い人なんです。それは間違いない。ですが、こっそりとここに侵入して食べ物を食べてしまうんです!」
あまりにも想像できるニコライさんの姿に、私もスイレンも吹き出した。
「他にも逸話はいくつもありますよ!」
「最近の面白い話はあるの?」
スイレンの問いかけに、料理人たちは「面白くはないかもしれません」と前置きし、厨房が困っていることを言い出した。
「食材を輸入してくれるのはありがたいのですが、調理法を詳しく聞かずに輸入するんです」
思わず笑ってしまったが、どんな食材なのかと問うと、『マイ』だと言う。しかも気を利かせたリーンウン国はたくさんのマイを輸出してくれるが、白米と玄米の違いが分からないこの国にマイを輸出しているので、特に調理に困っていると言う。そしてこの国の人たちは、あまりマイが好みではないと言う。
炊き方を間違ってるだけかと思い、そこから短時間で炊けるリーンウン国にも教えた玄米の『びっくり炊き』のやり方を実践しながら事細かに説明した。
「確かに芯もなく、私たちが作ったものよりも柔らかく美味しい」
美味しいとは言ってくれるが、それは自分たちが作ったものと比べての話なのだろう。表情がそれを物語っている。
「これだけを食べるのは私たちもあまりしないわ。味の濃いものと一緒に食べると美味しいわよ? ただのブレッドよりも、何かを塗ったブレッドのほうが美味しいでしょう?」
そこから話題はブレッドに変わった。ルーカス王はこの国のブレッドをもっと普及させたいようだが、あの硬さと酸味はこの国の住人ですら食べる人を選ぶと言う。スイレンは素直に「あれはちょっと苦手かな……」と口にした。
「ムギンにも種類があるでしょう? この国のムギンはちょっと特殊ね」
食べて分かったが、この国のムギンは地球で言うライ麦だ。
「でもひと工夫すれば、子どもも喜ぶブレッドになるわよ」
私の言葉を聞いた料理人たちはざわめいた。だがさすがに今から作業するのもどうかということになり、明日以降の私の予定が空いている時にお邪魔することになった。
「この余ったバターは冷やして保存しても良いし、これを使って肉を焼いても美味しくなるわよ。ところで……」
私は目ざとく見つけていた厨房内にあった鍋を指さす。中身はブイヨンスープだ。
いくつか質問すると、このブイヨンスープを元にコンソメスープを作ると言う。ならば話は早い。
「手間はかかるけど、これは長期保存できるって知ってたかしら?」
私の発言に再度料理人たちはざわめく。
「最低限この野菜は用意して欲しいわ」
料理人たちは黒板に材料と分量を記入していく。ただのスープであれば、簡単に言えば野菜を煮込んで汁の部分だけ飲む。
だが野菜をペースト状にしてひたすら弱火で煮詰め、それを乾燥させればコンソメ顆粒になるのだ。
「作るのは大変だけれど、作ってしまえば料理の幅が広がるわよ」
こうして私はリーンウン国だけでなく、テックノン王国でも厨房の人たちと仲良くなったのだった。
51
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる