366 / 370
いつもの如く
しおりを挟む
エドワードさんと厨房へ行くと、ひと仕事終えて休んでいた数人の料理人たちが一斉にこちらを見た。
このお屋敷は若い人が少ないのか、料理人たちもそれなりにお年を召していたが、その表情は自分たちの腕前の自信とやりきった感でとても満たされたものだった。
「とても美味しいものをありがとうございました。お礼と言ってはなんですが、マイの調理法をお伝えしますね」
私のその言葉に、料理人たちは年齢を感じさせない喜びの雄叫びを上げ、厨房の奥からマイを担いで持って来た。
皆、学ぼうという意欲が旺盛で、ここではあまり品質の良くないであろう紙を用意して、しっかりと書き記そうとしている。
「や……やる気がすごいですね」
「私たちは死ぬまで料理人です。まだ知らない食材を調理し食し、それを他の方にも食べてもらい、身も心も満たされてもらいたい。それが私たち料理人の喜びです」
宮殿の料理人たちも学びの姿勢は良かったが、こちらの面々はもっと意識が高かった。
作業の途中途中で話してみると、元々は先々代の王、すなわちルーカス王とニコライさんのお祖父様が王だった頃に、宮殿の厨房で腕をふるっていた面々とのことだった。
「だからさっきティージュ料理を作ったのね?」
「それもあるが! 単純に! 産地が! 宮殿よりもここに近いのだ!」
お料理が趣味というエドワードさんは、当たり前のように料理人たちの中に混ざっているが、耳が遠い以外は手際も良く、料理人を名乗っても問題ないレベルだった。
教えたマイの研ぎ方にいたっては、日本の主婦顔負けである。
宮殿でもお料理教室を開き、私が料理人たち向けにティージュを使った料理を作りながら教え、知らずに先々代の王に焼き菓子まで作った話をすると、料理人たちは「そんなことが!?」と声を揃え、大いに盛り上がった。
むしろそのティージュ料理も教えて欲しいと懇願されていると、厨房にニコライさんとゴードンさんが入って来たではないか。
「……カレン嬢……すみません……」
「エドワード。……エドワード!」
ゴードンさんが耳の遠いエドワードさんを呼ぶのに必死な中、しゅんとしたニコライさんが謝罪の内容を語ってくれた。
「ニコライさん、今度は何をしたのかしら?」
「私じゃないですよ!」
必死に自分は悪くないと言うニコライさんの説明を聞けば、ゴードンさんもエドワードさんも元々は先々代の王付きの兵士だったそうだ。それもかなり上の役職だったらしい。
そんなゴードンさんは、ニコライさんへのこめかみグリグリに飽きてきたのか、お父様たちと会話をし始めたそうだ。
元兵士と類まれなる運動神経の持ち主は段々と意気投合し、なぜか手合わせをする流れになったらしい。
「どうしてそうなるのよ!?」
「私には分かりません! ですが、ゴードンよりもエドワードが強いので、こうやって呼びに来たんです!」
なぜこうも筋肉談議になるのか分からないが、筋肉には一定数の男を呼び寄せる、フェロモン的な何かがあるのだろう。私に理解は出来ないが、このイベントになぜか料理人たちも盛り上がりをみせている。
それよりも、この耳の遠いもはや料理人のようなエドワードさんが強いというのが意外だった。
おそらく、この屋敷全体を巻き込んだ盛り上がり方は、この屋敷には主人であるニコライさんもお客様も誰も来ないので、仕えている皆は張り合いのない日々を過ごすという、地味で分かりにくいストレスを感じていたからだろう。
そのことをゴードンさんのようにチクチクと責めると、「皆にそんなに気苦労をかけていたのですね……」と、ニコライさんは反省しきりだった。
しかし、だからこそ皆で手合わせを見て楽しもうと燃えてしまったようで、私たちは全員厨房から外に出された。
────
「カレン、こっち」
なぜか外にはベンチまで用意されており、スイレンが私の場所を取ってくれていた。
「どうしていつもこうなるのかしら?」
「僕はお父様の動きを見るのが好きだけど」
席に座るなり愚痴をこぼせば、スイレンはそんなことを言う。今までスイレンはこんなことをあまり言わなかったが、森の民としての暮らしに興味を持ち始めたのだろうか? はたまた年頃の男子らしく筋肉に目覚めてしまったのだろうか?
とはいえ、私は前世のおかげでたくましく暮らしているが、箱入り息子であるスイレンには、どちらも習得するにはなかなか難易度が高いものだと思うのだが。
「あ、始まった」
スイレンの言葉で前を向くと、楽しそうに腕組みをして立っているお父様の向かいには、なぜか鎧に着替えているエドワードさんが向かい合っている。どれだけ気合いが入っているのだろうか? そしていつの間に着たのだろうか?
応援にも熱が入っているが、観客の人数の多さからエドワードコールがすごいことになっている。この屋敷の主人であるニコライさんは、なぜかお父様を応援しているが。
「……負けた!」
突如、向かい合い見つめ合っていただけなのに、エドワードさんがあっさりと敗北宣言をし観客席はざわめく。
「私が全盛期でも! 勝てない!」
辺りに「そんな!」という野太い絶叫にも似た悲鳴が響く中、なぜかゴードンさんはエドワードさんの背後で準備運動をしている。
「二人でもか?」
準備運動が終わり、上着を脱いだゴードンさんはエドワードさんに問いかけた。
「全盛期の二人がかりでも! 勝てない!」
エドワードさんはキッパリと断言した。スイレンはそれを聞き「僕のお父様はやっぱりすごい!」と、目を輝かせている。
違うのよスイレン。お父様を普通の人類と一緒にしたらダメなのよ。
やる気満々だったゴードンさんは残念そうに溜め息を吐いたが、ふとタデと目が合ったようだ。
そして時を同じくして、エドワードさんはオヒシバと目が合ったようだ。
ニヤリと不敵に笑うゴードンさんとエドワードさんに対して、タデもオヒシバもキョトンとしている。
「なるほど。確かにちょうど良いかもしれないな。タデ! オヒシバ! 頑張れよ!」
エドワードさんたちの視線に気付いたお父様の言葉に、当然ながら二人は目をひん剥いて驚いている。
「まぁ! 頑張ってねタデ! ハコベへの土産話が出来たわ」
お母様の何気ない応援で、タデのやる気スイッチが入ったようだ。
このお屋敷は若い人が少ないのか、料理人たちもそれなりにお年を召していたが、その表情は自分たちの腕前の自信とやりきった感でとても満たされたものだった。
「とても美味しいものをありがとうございました。お礼と言ってはなんですが、マイの調理法をお伝えしますね」
私のその言葉に、料理人たちは年齢を感じさせない喜びの雄叫びを上げ、厨房の奥からマイを担いで持って来た。
皆、学ぼうという意欲が旺盛で、ここではあまり品質の良くないであろう紙を用意して、しっかりと書き記そうとしている。
「や……やる気がすごいですね」
「私たちは死ぬまで料理人です。まだ知らない食材を調理し食し、それを他の方にも食べてもらい、身も心も満たされてもらいたい。それが私たち料理人の喜びです」
宮殿の料理人たちも学びの姿勢は良かったが、こちらの面々はもっと意識が高かった。
作業の途中途中で話してみると、元々は先々代の王、すなわちルーカス王とニコライさんのお祖父様が王だった頃に、宮殿の厨房で腕をふるっていた面々とのことだった。
「だからさっきティージュ料理を作ったのね?」
「それもあるが! 単純に! 産地が! 宮殿よりもここに近いのだ!」
お料理が趣味というエドワードさんは、当たり前のように料理人たちの中に混ざっているが、耳が遠い以外は手際も良く、料理人を名乗っても問題ないレベルだった。
教えたマイの研ぎ方にいたっては、日本の主婦顔負けである。
宮殿でもお料理教室を開き、私が料理人たち向けにティージュを使った料理を作りながら教え、知らずに先々代の王に焼き菓子まで作った話をすると、料理人たちは「そんなことが!?」と声を揃え、大いに盛り上がった。
むしろそのティージュ料理も教えて欲しいと懇願されていると、厨房にニコライさんとゴードンさんが入って来たではないか。
「……カレン嬢……すみません……」
「エドワード。……エドワード!」
ゴードンさんが耳の遠いエドワードさんを呼ぶのに必死な中、しゅんとしたニコライさんが謝罪の内容を語ってくれた。
「ニコライさん、今度は何をしたのかしら?」
「私じゃないですよ!」
必死に自分は悪くないと言うニコライさんの説明を聞けば、ゴードンさんもエドワードさんも元々は先々代の王付きの兵士だったそうだ。それもかなり上の役職だったらしい。
そんなゴードンさんは、ニコライさんへのこめかみグリグリに飽きてきたのか、お父様たちと会話をし始めたそうだ。
元兵士と類まれなる運動神経の持ち主は段々と意気投合し、なぜか手合わせをする流れになったらしい。
「どうしてそうなるのよ!?」
「私には分かりません! ですが、ゴードンよりもエドワードが強いので、こうやって呼びに来たんです!」
なぜこうも筋肉談議になるのか分からないが、筋肉には一定数の男を呼び寄せる、フェロモン的な何かがあるのだろう。私に理解は出来ないが、このイベントになぜか料理人たちも盛り上がりをみせている。
それよりも、この耳の遠いもはや料理人のようなエドワードさんが強いというのが意外だった。
おそらく、この屋敷全体を巻き込んだ盛り上がり方は、この屋敷には主人であるニコライさんもお客様も誰も来ないので、仕えている皆は張り合いのない日々を過ごすという、地味で分かりにくいストレスを感じていたからだろう。
そのことをゴードンさんのようにチクチクと責めると、「皆にそんなに気苦労をかけていたのですね……」と、ニコライさんは反省しきりだった。
しかし、だからこそ皆で手合わせを見て楽しもうと燃えてしまったようで、私たちは全員厨房から外に出された。
────
「カレン、こっち」
なぜか外にはベンチまで用意されており、スイレンが私の場所を取ってくれていた。
「どうしていつもこうなるのかしら?」
「僕はお父様の動きを見るのが好きだけど」
席に座るなり愚痴をこぼせば、スイレンはそんなことを言う。今までスイレンはこんなことをあまり言わなかったが、森の民としての暮らしに興味を持ち始めたのだろうか? はたまた年頃の男子らしく筋肉に目覚めてしまったのだろうか?
とはいえ、私は前世のおかげでたくましく暮らしているが、箱入り息子であるスイレンには、どちらも習得するにはなかなか難易度が高いものだと思うのだが。
「あ、始まった」
スイレンの言葉で前を向くと、楽しそうに腕組みをして立っているお父様の向かいには、なぜか鎧に着替えているエドワードさんが向かい合っている。どれだけ気合いが入っているのだろうか? そしていつの間に着たのだろうか?
応援にも熱が入っているが、観客の人数の多さからエドワードコールがすごいことになっている。この屋敷の主人であるニコライさんは、なぜかお父様を応援しているが。
「……負けた!」
突如、向かい合い見つめ合っていただけなのに、エドワードさんがあっさりと敗北宣言をし観客席はざわめく。
「私が全盛期でも! 勝てない!」
辺りに「そんな!」という野太い絶叫にも似た悲鳴が響く中、なぜかゴードンさんはエドワードさんの背後で準備運動をしている。
「二人でもか?」
準備運動が終わり、上着を脱いだゴードンさんはエドワードさんに問いかけた。
「全盛期の二人がかりでも! 勝てない!」
エドワードさんはキッパリと断言した。スイレンはそれを聞き「僕のお父様はやっぱりすごい!」と、目を輝かせている。
違うのよスイレン。お父様を普通の人類と一緒にしたらダメなのよ。
やる気満々だったゴードンさんは残念そうに溜め息を吐いたが、ふとタデと目が合ったようだ。
そして時を同じくして、エドワードさんはオヒシバと目が合ったようだ。
ニヤリと不敵に笑うゴードンさんとエドワードさんに対して、タデもオヒシバもキョトンとしている。
「なるほど。確かにちょうど良いかもしれないな。タデ! オヒシバ! 頑張れよ!」
エドワードさんたちの視線に気付いたお父様の言葉に、当然ながら二人は目をひん剥いて驚いている。
「まぁ! 頑張ってねタデ! ハコベへの土産話が出来たわ」
お母様の何気ない応援で、タデのやる気スイッチが入ったようだ。
171
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる