貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

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アツい戦い

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 いつの間にか筋肉談義の第二ラウンドが始まったようだ。ただし第一ラウンドは始まってもいなかったが。

「愛する妻のために全力でいかせてもらう!」

 やる気スイッチの入ったタデは、ヒーロー顔負けだがとてつもなく恥ずかしいセリフを真顔で叫んでいる。いつもの冷静沈着なツッコミ役のタデはどこに行ったのだろう。
 そんなタデの横に立っているオヒシバはものの見事に影響を受け、「ご老体とはいえ、手加減は失礼にあたると判断した!」と、こちらもやる気満々のようだ。

「武器は?」

 ゴードンさんが静かに問いかけた。

「あっても無くてもいい」

 タデが素っ気なく返答すると、お父様が口を挟む。

「我ら森…………ゴホン。我らは己の身体が武器であり、そして大地も木々も全てのものが武器になる」

 一瞬「森の民」と言いそうになってハラハラしたが、私やお母様の眼力に気付き言い直した。かなり格好良いセリフだっただけに、一発で決めてほしかった。

 その時なぜかペーターさんが前に進み出て、号令をかけようとしている。安定の我が道を行くスタイルだが、どうやらとてつもなく楽しんでいるようだ。

「始め!」

 突如叫んだペーターさんの号令で真っ先に動いたのはゴードンさんだった。じいやという超例外がいるが、年齢を感じさせないかなりの速さでタデに向かって行く。
 少し驚いた様子のタデだったが、ゴードンさんの右ストレートを左手で弾くと、観客席には歓声が響いた。

 対するエドワードさんとオヒシバはまだにらみ合っている。というよりも、エドワードさんが「待たれよ!」と叫び、おもむろに鎧を脱ぎ始めたのだ。
 脱ぐのなら初めから着なければ良いのにと思ったが、男には見栄を張ったり格好をつけなければいけない時があるのだろう。
 そしてオヒシバは律儀に待っている。動物相手ではなく人相手には比較的従順である。

 どれほどの重さがあったのか、地面に鎧のパーツを脱ぎ落としていくたびにガシャンと重い音が響く。

 鎧を脱いだエドワードさんは、四股を踏むように重心を下げて腰を落とすと、一気にオヒシバに詰め寄った。
 両者共掴み合い、こちらの二人は相撲、あるいはレスリングのような戦いを始めた。

「タデ。なまってるな」

 お父様が笑いながらからかっているが、ゴードンさんの速さはなかなかのものだ。主に手技と足技の連続攻撃だが、タデは躱したり受け止めたりしているうちに徐々に後ろに下がって行っている。

「何だと!」

 お父様の言葉にカチンときたのか、タデはそう叫ぶとゴードンさんのハイキックを躱しながら回り込み、ゴードンさんの背後を取った。
 そのままお返しだと言わんばかりに、至近距離からジャブのように拳を突き出すが、ゴードンさんは背中を向けたまま自分の拳でそれを受け止めた。これは格好良すぎだろう。思わず私も黄色い声を上げてしまった。

「なにぃ!?」

 タデは決まったと思ったのだろう。完全に頭に血が上ったらしいタデのスピードが増す。今度はタデが連続攻撃を始めた。
 お父様の動きを見慣れているのでどうしても比べてしまうが、それでもタデの動きは普通の人よりも速いのだろう。次第にゴードンさんが後ろに下がっている。

 そして掴み合いのまま動かなかったオヒシバとエドワードさんだが、いつの間にかなぜかこちらはお互いに渾身の一撃をわざと受け、効かないとばかりにお返しの一撃を放っている。
 お互いに笑っているのが怖いが、もっと怖いのは本気の殴り合いだからだ。顔は腫れ、一部は出血している。
 スイレンは顔やボディーに一撃が入る度に「うわぁ……」と、顔を歪めながら小さな声を漏らしている。

 埒が明かないと思ったのか、今度はお互いに投げ技に移行したようだ。投げられては立ち上がり、そして投げ返している。
 オヒシバは性格はアレだが、とても働き者だ。非常にスタミナがあり、力仕事も難なくこなす。いつもポニーたちや黒王たちと張り合ってる様は残念極まりない姿だが、それだけ動物と張り合えるだけの力があるのだ。

「どりゃー!!」
「ダー!!」

 タデたちの戦いと違い、見ていてとても暑苦しいが、応援の声はこちらの方が多い。スイレンも「オヒシバ頑張れ!」と声を出している。

 次第にオヒシバたちは、相手をどれだけ遠くに飛ばすかの勝負になったようだ。濃い戦いに暑苦しさが増す。

 それにしても受け身を取っているとはいえ、投げ飛ばされても普通に起き上がる二人の身体はどうなっているのだろう?
 オヒシバならまだ理解できなくもないが、ご老体のエドワードさんの全盛期は、おそらく今のオヒシバ以上なのだろう。

「ふん!」

 気合いを入れたエドワードさんがガッチリとオヒシバを掴み、巴投げのように投げた。ただ私の知っている巴投げとは違い、投げた瞬間にエドワードさんが手を離したので、オヒシバは豪快に空中に飛んだ。

 地面に顔を向けていたオヒシバが、空中で仰向けになった頃には地面とオヒシバの間には、柔道の巴投げではありえない高さ、というか距離ができていた。
 そのオヒシバを中心として、地面側にゴードンさんが滑り込み、飛んでいるオヒシバを飛び越えようとタデが跳ねて来た。

 その一瞬を私は見逃さなかった。

 タデの姿を目で確認したオヒシバは、バレーのアンダーハンドパスのように手を組んだ。それを見たタデは空中で上手くオヒシバの手に乗り、オヒシバの力技のパスでさらに高く跳んだ。
 タデはそのまま蹴りをお見舞いしようと、空中からゴードンさんに突っ込んだ。予想外の動きに驚いていたゴードンさんに、見事に一発当てたのだ。
 そしてオヒシバは振り上げた腕を使い、体をバネのようにしならせひねりながら、体操選手のように地面に手をつき両足で地面に立った。

「キャ……キャー!!!!」

 もちろんこの一連の動きに観客たちは大いに沸いた。私も歓声を上げた。だが最初の「キャ」の部分だけである。
 私が「キャ」と言った時点で、暇を持て余したアオーンが子アオーンを引き連れ、私の背中をチョイチョイと引っ掻いたからだ。振り返るとアオーンは小首を傾げ「遊んで?」と言っているようだった。
 そして二回目の「キャー」の方が女子らしい声だったことを付け加えておく。

 非情な私は試合観戦よりも、この可愛らしいアオーンたちと遊ぶことに決めたのだった。
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