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飴と鞭
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画像が消去されたと知った俺氏は呆然と持っているスマホを見つめていた。すっかり冷えたスマホは電源ボタンを押しても反応はなく、画面は真っ暗なままである。
俺氏の心もまた冷え切り、真っ暗闇の中にいるのだが。
「サテ、軽ハズミな行動ヲしたアナタをどうシテくれまショウ?」
目だけをメメたんに向けると、そこには目が据わり口元だけ薄っすらと笑っているメメたんがいた。はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。
「メ……メメた「問答無用」」
俺氏の発言に被せたメメたんは瞬時に髪を伸ばし、お仕置きとばかりに俺氏の両耳に髪を突っ込む。
「やややややややめてぃー! ごべべんなささぎー!」
「あァ、こうイウのモ良いデスネ」
メメたんは怒りが治まらないのか両耳に入っている髪を少量抜き、それを俺氏の鼻穴に突っ込んだ。
「ばばばばばば! びびびびびび!」
耳よりも鼻の奥へ入れられたほうが痛く、というか、わざと痛いように動かしているとしか考えられない。四つに分かれた髪で耳の中からと鼻の奥を伝って顔の中を進み、そして脳みそをまさぐられるのはもはや拷問だった。痛みと気持ち悪さから涙が止まらない。
そうしている内に気が済んだのか、メメたんはようやく全部の髪を抜いてくれた。不思議なことに血の一滴も流れない。涙と鼻水はダラダラと流れて来るのだが。どうやって血を出さずにしているのか聞いたら、また同じことをされそうなので賢い俺氏は黙る。
「今後、こうイッタ軽はずミな行動はヤメテ下さイネ」
天使のような微笑みで俺氏を見下ろすメメたんが悪魔に見えてしまう。しかし痛みと恐怖で涙と鼻水を大量に流している俺氏は素直に頷くしかない。
その後俺氏は泣きやみ、鼻をかんだあとに小さな声で呟いた。自分でも驚くほどその呟きは小さく鼻声で、そしてとても深く悲しげだった。
「……画像……消去されちゃったんだね……じいちゃんとばあちゃんの思い出が……無くなっちゃった……」
実は俺氏は、物心ついた時にはじいちゃんとばあちゃんに育てられていた。その辺りまでの記憶がなく、しかも親がいないことに何の疑問も抱かずに俺氏は小学校へ入学した。
今の俺氏と違い、細かいことにこだわらないビッグな子だったのである。
学校行事には二人とも必ず来てくれ、本当にじいちゃんとばあちゃんに可愛がられて育った。同級生には父親と母親がいるのは分かっていたが、俺氏にはいないものはいないんだ、と納得し深く考えることもなかったし、俺氏にはじいちゃんとばあちゃんがいればそれで良かった。
訳あって中学からは登校拒否をしてしまったが、怒ることも悲しむこともせず、かと言って無理に学校へ行けと言うこともなく、だが勉強はした方がいいと言い、近所や知り合いの元校長や元教師を家に呼んで勉強の時間を作ってくれた。じいちゃんもばあちゃんも交友関係が広かったおかげである。
だがメメたんが知的さを感じないと言う通り、俺氏はあまり頭の出来が良くなかったので、申し訳ないことに勉強の内容はそれほど理解は出来なかったが。
そんなじいちゃんは六年前に亡くなり、ばあちゃんは三年前に亡くなってしまった。
友人のいない俺氏はじいちゃんとばあちゃんとなら何に怯えること無く、どこへでも一緒に出かけることが出来た。
近所の散歩から国内旅行まで三人でよく出かけたものだ。本当に大好きな二人だったから、俺氏は行く先々でたくさん写真を撮ってパソコンやスマホに保存していた。それがメメたんを怒らせたせいで消えてしまった。
それを独り言のようにポツリポツリと呟いた。
「……はァ~……仕方のナイ人ですネ!」
メメたんはおもいっきりため息を吐くと、俺氏が持つスマホに髪を伸ばした。その毛先の行方を見ていると、本体の充電器の差し込み口にスルスルと髪が数本入って行く。もぬけの殻となっていた俺氏は、ただただその光景をボーッと見ていた。
すると画像を消された時のようにスマホが熱を持ち始めた。また持っていられない程の熱を発し、熱さから俺氏はぽとりとスマホを落とした。
「確認してミテくだサイ」
投げやりに言い放つメメたんの言葉の意味は分からなかったが、すぐに電源ボタンを押すと電源が入った。信じられない思いの俺氏は、すぐに画像フォルダを立ち上げた。
「……! じいちゃん! ばあちゃん!」
画像フォルダの中には、俺氏の大切な思い出が復活していた。三人で出かけた思い出がしっかりとスマホに復活したんだ。むしろブレていた写真すら綺麗に補正されていて俺氏は驚いた。まるで奇跡だ!
「……あまりニモ女々しいノデ、その機械ヲ直しデータを復元してあげまシタ」
プイッとそっぽをむくメメたん。その姿は間違いない。ツンデレだ! 俺氏の前にツンデレがいる!
「……! メメた~ん!」
「触らなイデ下さイ! 次に悪いコトをしたラ、消去スるのは画像だけデハありマセン!」
どさくさに紛れて抱きつこうとした俺氏を闘牛士のようにサッと躱すメメたん。そしてハッとする俺氏。
「もしかして、パソコンの復活も……?」
「ハードディスクは壊しマシタ。……たダ新しい物ガあれバ、復元してアゲテもいいデスヨ」
またまたプイッとするメメたんにキュンキュンが止まらない。俺氏はメメたんの下僕になることを誓ったのは言うまでもない。
俺氏の心もまた冷え切り、真っ暗闇の中にいるのだが。
「サテ、軽ハズミな行動ヲしたアナタをどうシテくれまショウ?」
目だけをメメたんに向けると、そこには目が据わり口元だけ薄っすらと笑っているメメたんがいた。はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。
「メ……メメた「問答無用」」
俺氏の発言に被せたメメたんは瞬時に髪を伸ばし、お仕置きとばかりに俺氏の両耳に髪を突っ込む。
「やややややややめてぃー! ごべべんなささぎー!」
「あァ、こうイウのモ良いデスネ」
メメたんは怒りが治まらないのか両耳に入っている髪を少量抜き、それを俺氏の鼻穴に突っ込んだ。
「ばばばばばば! びびびびびび!」
耳よりも鼻の奥へ入れられたほうが痛く、というか、わざと痛いように動かしているとしか考えられない。四つに分かれた髪で耳の中からと鼻の奥を伝って顔の中を進み、そして脳みそをまさぐられるのはもはや拷問だった。痛みと気持ち悪さから涙が止まらない。
そうしている内に気が済んだのか、メメたんはようやく全部の髪を抜いてくれた。不思議なことに血の一滴も流れない。涙と鼻水はダラダラと流れて来るのだが。どうやって血を出さずにしているのか聞いたら、また同じことをされそうなので賢い俺氏は黙る。
「今後、こうイッタ軽はずミな行動はヤメテ下さイネ」
天使のような微笑みで俺氏を見下ろすメメたんが悪魔に見えてしまう。しかし痛みと恐怖で涙と鼻水を大量に流している俺氏は素直に頷くしかない。
その後俺氏は泣きやみ、鼻をかんだあとに小さな声で呟いた。自分でも驚くほどその呟きは小さく鼻声で、そしてとても深く悲しげだった。
「……画像……消去されちゃったんだね……じいちゃんとばあちゃんの思い出が……無くなっちゃった……」
実は俺氏は、物心ついた時にはじいちゃんとばあちゃんに育てられていた。その辺りまでの記憶がなく、しかも親がいないことに何の疑問も抱かずに俺氏は小学校へ入学した。
今の俺氏と違い、細かいことにこだわらないビッグな子だったのである。
学校行事には二人とも必ず来てくれ、本当にじいちゃんとばあちゃんに可愛がられて育った。同級生には父親と母親がいるのは分かっていたが、俺氏にはいないものはいないんだ、と納得し深く考えることもなかったし、俺氏にはじいちゃんとばあちゃんがいればそれで良かった。
訳あって中学からは登校拒否をしてしまったが、怒ることも悲しむこともせず、かと言って無理に学校へ行けと言うこともなく、だが勉強はした方がいいと言い、近所や知り合いの元校長や元教師を家に呼んで勉強の時間を作ってくれた。じいちゃんもばあちゃんも交友関係が広かったおかげである。
だがメメたんが知的さを感じないと言う通り、俺氏はあまり頭の出来が良くなかったので、申し訳ないことに勉強の内容はそれほど理解は出来なかったが。
そんなじいちゃんは六年前に亡くなり、ばあちゃんは三年前に亡くなってしまった。
友人のいない俺氏はじいちゃんとばあちゃんとなら何に怯えること無く、どこへでも一緒に出かけることが出来た。
近所の散歩から国内旅行まで三人でよく出かけたものだ。本当に大好きな二人だったから、俺氏は行く先々でたくさん写真を撮ってパソコンやスマホに保存していた。それがメメたんを怒らせたせいで消えてしまった。
それを独り言のようにポツリポツリと呟いた。
「……はァ~……仕方のナイ人ですネ!」
メメたんはおもいっきりため息を吐くと、俺氏が持つスマホに髪を伸ばした。その毛先の行方を見ていると、本体の充電器の差し込み口にスルスルと髪が数本入って行く。もぬけの殻となっていた俺氏は、ただただその光景をボーッと見ていた。
すると画像を消された時のようにスマホが熱を持ち始めた。また持っていられない程の熱を発し、熱さから俺氏はぽとりとスマホを落とした。
「確認してミテくだサイ」
投げやりに言い放つメメたんの言葉の意味は分からなかったが、すぐに電源ボタンを押すと電源が入った。信じられない思いの俺氏は、すぐに画像フォルダを立ち上げた。
「……! じいちゃん! ばあちゃん!」
画像フォルダの中には、俺氏の大切な思い出が復活していた。三人で出かけた思い出がしっかりとスマホに復活したんだ。むしろブレていた写真すら綺麗に補正されていて俺氏は驚いた。まるで奇跡だ!
「……あまりニモ女々しいノデ、その機械ヲ直しデータを復元してあげまシタ」
プイッとそっぽをむくメメたん。その姿は間違いない。ツンデレだ! 俺氏の前にツンデレがいる!
「……! メメた~ん!」
「触らなイデ下さイ! 次に悪いコトをしたラ、消去スるのは画像だけデハありマセン!」
どさくさに紛れて抱きつこうとした俺氏を闘牛士のようにサッと躱すメメたん。そしてハッとする俺氏。
「もしかして、パソコンの復活も……?」
「ハードディスクは壊しマシタ。……たダ新しい物ガあれバ、復元してアゲテもいいデスヨ」
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