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帰宅
②
しおりを挟む「はぁ~!? なにその小童は~!? それに百合ちゃんに何てこと言ってるの~!?」
ぬんさんから小滝さんの孫のことを聞いた萌さんは、怒りからかまさかの小童発言をしています。
萌さんの正体を知っていますし、ものすごい美人が怒ってる姿はめちゃくちゃ怖いんですが。しかも普通にさらっと小童ってなかなか出ないですよ……。いや、私のことで怒ってくれているのは嬉しいんですけどね……。
「それにな、そやつを成り行きで雇ってしまったんじゃよ。もし会うことがあったら遠慮なくやって構わんぞ」
ぬんさん、あれは成り行きですか? そうですか。遠慮なく『殺って』に聞こえるのは私だけですか?
「分かったわ~。いろんな意味で会うのが楽しみねぇ~」
うわぁ……今、怖~い狐のような顔で笑ったぁ……。あ、狐の妖怪でしたね……。
「私は氷漬けにしたが、萌だったらはっ倒してると思うぞ? 福の神すら次はないって言ってたしな」
うわぁ……今、凍りついたような目をしたぁ……。あ、雪女でしたね……。
「え~!? ユキも福の神も、それくらいしちゃったの~? 何なのそいつ~。本当にお仕置きが必要ね~。楽しみ~」
笑顔でキャッキャウフフしているようですが、とても物騒な内容ですよ……。
「こっちもね~、みんな人は良いんだけど~非科学的な事は信じないって人ばかりで~……」
萌さんは今日は化粧品工場へと行ったのですが、まずはいきなり自分の正体が妖怪だとバラしたそうです。
もちろん信じない社員さんたちに見せるために、狐火やら尻尾やらを出しても物凄いマジシャンだと思われただけらしく、拍手喝采を浴びたそうで。
仕方がないので、明日は材料と共にコロポックルさんや木霊さん、桶に入れたミニ泥田坊さんなど、人型ではない妖怪を連れて行くそうです。
そしてそのまま製造開始まで進める予定だそうです。
連れて行った妖怪を見てもなお信じない場合は、最終手段の幻覚と記憶操作の合わせ技をするとかなんとか……こわっ!
「普通の人間だったら~あんなに色々見せたら半信半疑でも少しは信じるのに~頑ななのよね~。とにかく~少しでも早く製造して貰わないと困るわ~」
「ですよね。お店も改装したり準備が大変ですし……てか、もう四月に突入する所なのに、ゴールデンウィーク前に本当にオープン出来るんでしょうか……?」
「大丈夫よ~妖怪の力をなめたらダメよ~」
ニッコリと笑う萌さん。萌さんの笑顔って安心するなぁ。ダークな内容の時はめちゃくちゃ怖いけど。
「じゃあ今日は帰ろうかな……」
私がそう呟くと、引き止めるようにぬんさんが話しかけて来ました。
「その事なんじゃが百合子。ここに住まんか?」
ふぁっ!?
「そうだ百合子! 住め! これから忙しくなるなら、みんなまとまっていた方がいいだろう?」
ユキさん、先ほどの物騒な話の時とは違いワクワクした表情ですよ。
「そうよ~! 部屋だってたくさんあるし~、垢舐めのご飯を提供して貰わないといけないし~」
あ! 垢舐め君の事忘れてたー! っていうかご飯……。
「いや……ご飯……あー……でもその方がいいのかもしれないですね……それに皆さんが迷惑でなければ……」
「「「迷惑な訳ない!」」」
見事に皆さんが揃った嬉しいハモリです。キッチンからは赤さん青さんも顔を出し、ウンウンと頷いています。
「……今日は一旦帰って、頑張って大家さんに連絡します」
大家への連絡は頑張ってするものなのか? とみんなに笑われ、明日の正午に商店街に集合と約束して、烏天狗の黒羽さんに送ってもらいました。
「百合子様、順調に事が進んで喜ばしい限りですね」
あうう……百合子『様』ってやっぱり慣れない……。
「そうですね……けどやる事がたくさんで、正直不安でいっぱいいっぱいですよ」
おんぶされている私を見ようと、振り返るように顔をこちらに向ける黒羽さん。
「大丈夫ですよ。妖怪は気ままな性格の者が多いですが、今回の件については皆一丸となり頑張っております。やる気になった妖怪の力は凄いんですよ」
……そうだよね、萌さんも言ってたけど、みんなで頑張れば乗り越えられるよね……。
「ありがとうございます、黒羽さん。元気が出ました!」
「それは何よりです」
「烏天狗の皆さんにもお礼をしないとダメですよね。……皆さんお好きな物とかあります?」
「お礼など! 本当にお気遣いなく!」
うん、あとでぬんさんに相談してコッソリお礼を考えよう。そう思っているうちに自宅近くに着きました。
明日の昼前に迎えに来てもらう約束をして自宅に戻り、勇気を出して部屋の解約の電話をするという一大イベントをこなし、ドキドキしながら眠りにつきました。
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