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ゴンさんとの出会い
①
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萌さんのお部屋のお風呂にお邪魔します。個室にお風呂が付いてるなんて、旅館のようじゃないですか! それに脱衣場の匂いが女子のような香りがします!
「百合ちゃ~ん、シャンプーとか~好きなの使っていいからね~? そう言えば~百合ちゃんって~けっこう髪の毛ゴワゴワタイプよね~? 普段は~何を使ってるの~?」
「あぁ……面倒なので全身レモン石鹸です」
「え?」
「え?」
なぜか聞き返されました。私、何か変なことを言ったでしょうか?
「…………百合ちゃん、シャンプーはコレ、トリートメントはコレ、洗顔はコレ、ボディソープはコレで、上がる時にこのクリーム全身に塗って」
……萌さんの口調が早口でテキパキに変わるほど、どうやらレモン石鹸はタブーだったようです……。妖怪にすら引かれる私って……。
「……世の女子はこんなに色々使うんですね……」
「上がったらさらに色々使うわよ。準備しなきゃ!」
どう考えても一個一個違う物を使うなんて面倒だと思うのですが、ラッキーなことに萌さんは私の心を読まないまま、足早に脱衣場から出て行きました。有難くシャワーお借りします。
シャワーから上がると、自分が女子になったような気がします。いや、元々女子なんですが、こんなに良い香りを振りまくなんて初めてです。
そして世の女子はこんなに色々な物を使って自分を磨いているんだなと、心の底から驚きました。とても面倒くさいな、と思ったのは口が裂けても絶対に言えません。
着替え終わると、ちょうど萌さんが入ってきました。
「百合ちゃ~ん、普段って~化粧水はどこのメーカーの使ってるの~?」
あ、口調が元に戻ってます。良かった。
「化粧水とか……使ったことありません……」
「え?」
「え?」
「……勝手に塗らせてもらうわ」
また口調の変わった萌さんは、何やらいろんな液体を私の顔に無言で塗っています……。
本当にこんな液体で何か変わるのでしょうか? というか、本当に世の女子はこんなことを毎日毎日やっているのでしょうか?
「……後で頬撫でにやってもらいましょうか」
なんと萌さん、私の顔のお手入れにお手上げのようです。というか、私は頬撫でさんに会えるのが楽しみです。ただ頬を触るだけという、スネ子ちゃん並に人畜無害な妖怪です!
そんなことを呑気に思っていると、部屋の外から怒鳴り声が聞こえてきました。
「あら~ゴンが来たわ~。相変わらず大きな声ね~。今日はご機嫌ナナメなのかしら~? 百合ちゃん、行くわよ~」
口調がまた元に戻った萌さんと一緒に、ドキドキしながらリビングへと向かいました。リビングからは相変わらず大きな声が聞こえてきます。
「だから! そんなモンはいらん!」
「まぁそう言うな。ワシらからの気持ちじゃ」
萌さんがドアを開けても、ゴンさんという人はこちらに気付かないようで、ぬんさんと延々と言い争っています。
「ゴン~おはよ~。久しぶり~」
「萌! お前ら何を考えとる!?」
萌さんの挨拶で振り向いた男性は、スーツ姿でお髭を生やしている60代くらいの、胸板の厚そうなガタイのいい方です。でも、どこかで見たことのあるような……?
「朝っぱらから~何を怒ってるの~? そうそう~紹介するわね~、こちら百合ちゃんで~す! 私たちと一緒に~働くの~」
めちゃくちゃ笑顔の萌さんに、ゴンさんという方はめちゃめちゃしかめっ面で睨んでいたかと思うと、突然叫びました。
「お前ら! こんな純粋そうな人間のお嬢さんをたぶらかしおって! 金などいらん!」
「……え? 私、たぶらかされたんですか……?」
驚きの発言に、間抜け顔でポカーンとするしかありません。
「違うんじゃよ百合子。ゴンが話を聞かないんじゃ」
困り顔のぬんさんですが、昨日からぬんさんはニコニコばかりしていたので、これはきっとレアショットです。
「はぁ……自己紹介もまだだったな。こっちに来て座りなさい。私は犬山 権左衛門という者だ。コイツらがスマンな」
ぬんさんの隣に座ると、ゴンさんはテーブルの向こうで深々と頭を下げます。こんなに立派そうな大人に頭を下げられるなんて……。
っていうか、犬山? え? 犬山!?
「あわわわわ……もしかして……もしかしなくても……犬山財閥の社長さん!?」
「おや、知っているのかい? ありがとう」
ゴンさんは少し気恥ずかしそうに笑っていますが、いやいや……。この地方、特に隣の市に本社を構えるあの犬山財閥のトップ……。
ありとあらゆる業種を手広くやっていて、この辺では知らない人はいない程の大会社の社長ですよ! 地元のメディアに多数出演しているので、引きこもりの私ですら知ってる有名人です!
「それで、君は?」
「ももももも……桃田百合子と申しましゅ……」
噛むほどにガチガチに緊張しながら、さながら就職の面接のように、これまでの自分の経歴を話しました。
大学中退から引きこもりになるまで、引きこもり期間、そして今回親に家を追い出されたことまで。
「……ふぅむ……」
私の生い立ちを聞いたゴンさんは、腕組をしたまま考え込んでいます。
「……なので、今回のぬんさんの申し出は、渡りに船と申しますか……私にとっても働けるのはありがたい話でして……」
「桃田さん。妖怪と幽霊の違いは分かるかな?」
えー! 唐突ー!
「え……えぇと……物理干渉ができるかどうか……ですよね?」
「そうだ。余程の大怨霊じゃない限り、物を動かしたりなどできん。他には?」
おぅふ……さすが長年妖怪たちと触れ合っているゴンさんこと犬山社長です。満足のいく答えではなかったようです。
『私の脳細胞よ! 活性化して! 記憶を呼び戻せ!』
脳内で白装束を着て、天に両手を上げて祈っている私を想像していると、また心を読まれたのか萌さんもぬんさんも笑いを堪えています。そちらはスルーして、一所懸命に考えていると思い出しました!
「……えぇと……あ! 信仰ですか!?」
私の脳細胞がだいぶ頑張ったようです!
「おぉ~! 若いのにちゃんと理解しておるんだな」
犬山社長はちょっと驚いた顔をしています。
「百合ちゃ~ん、シャンプーとか~好きなの使っていいからね~? そう言えば~百合ちゃんって~けっこう髪の毛ゴワゴワタイプよね~? 普段は~何を使ってるの~?」
「あぁ……面倒なので全身レモン石鹸です」
「え?」
「え?」
なぜか聞き返されました。私、何か変なことを言ったでしょうか?
「…………百合ちゃん、シャンプーはコレ、トリートメントはコレ、洗顔はコレ、ボディソープはコレで、上がる時にこのクリーム全身に塗って」
……萌さんの口調が早口でテキパキに変わるほど、どうやらレモン石鹸はタブーだったようです……。妖怪にすら引かれる私って……。
「……世の女子はこんなに色々使うんですね……」
「上がったらさらに色々使うわよ。準備しなきゃ!」
どう考えても一個一個違う物を使うなんて面倒だと思うのですが、ラッキーなことに萌さんは私の心を読まないまま、足早に脱衣場から出て行きました。有難くシャワーお借りします。
シャワーから上がると、自分が女子になったような気がします。いや、元々女子なんですが、こんなに良い香りを振りまくなんて初めてです。
そして世の女子はこんなに色々な物を使って自分を磨いているんだなと、心の底から驚きました。とても面倒くさいな、と思ったのは口が裂けても絶対に言えません。
着替え終わると、ちょうど萌さんが入ってきました。
「百合ちゃ~ん、普段って~化粧水はどこのメーカーの使ってるの~?」
あ、口調が元に戻ってます。良かった。
「化粧水とか……使ったことありません……」
「え?」
「え?」
「……勝手に塗らせてもらうわ」
また口調の変わった萌さんは、何やらいろんな液体を私の顔に無言で塗っています……。
本当にこんな液体で何か変わるのでしょうか? というか、本当に世の女子はこんなことを毎日毎日やっているのでしょうか?
「……後で頬撫でにやってもらいましょうか」
なんと萌さん、私の顔のお手入れにお手上げのようです。というか、私は頬撫でさんに会えるのが楽しみです。ただ頬を触るだけという、スネ子ちゃん並に人畜無害な妖怪です!
そんなことを呑気に思っていると、部屋の外から怒鳴り声が聞こえてきました。
「あら~ゴンが来たわ~。相変わらず大きな声ね~。今日はご機嫌ナナメなのかしら~? 百合ちゃん、行くわよ~」
口調がまた元に戻った萌さんと一緒に、ドキドキしながらリビングへと向かいました。リビングからは相変わらず大きな声が聞こえてきます。
「だから! そんなモンはいらん!」
「まぁそう言うな。ワシらからの気持ちじゃ」
萌さんがドアを開けても、ゴンさんという人はこちらに気付かないようで、ぬんさんと延々と言い争っています。
「ゴン~おはよ~。久しぶり~」
「萌! お前ら何を考えとる!?」
萌さんの挨拶で振り向いた男性は、スーツ姿でお髭を生やしている60代くらいの、胸板の厚そうなガタイのいい方です。でも、どこかで見たことのあるような……?
「朝っぱらから~何を怒ってるの~? そうそう~紹介するわね~、こちら百合ちゃんで~す! 私たちと一緒に~働くの~」
めちゃくちゃ笑顔の萌さんに、ゴンさんという方はめちゃめちゃしかめっ面で睨んでいたかと思うと、突然叫びました。
「お前ら! こんな純粋そうな人間のお嬢さんをたぶらかしおって! 金などいらん!」
「……え? 私、たぶらかされたんですか……?」
驚きの発言に、間抜け顔でポカーンとするしかありません。
「違うんじゃよ百合子。ゴンが話を聞かないんじゃ」
困り顔のぬんさんですが、昨日からぬんさんはニコニコばかりしていたので、これはきっとレアショットです。
「はぁ……自己紹介もまだだったな。こっちに来て座りなさい。私は犬山 権左衛門という者だ。コイツらがスマンな」
ぬんさんの隣に座ると、ゴンさんはテーブルの向こうで深々と頭を下げます。こんなに立派そうな大人に頭を下げられるなんて……。
っていうか、犬山? え? 犬山!?
「あわわわわ……もしかして……もしかしなくても……犬山財閥の社長さん!?」
「おや、知っているのかい? ありがとう」
ゴンさんは少し気恥ずかしそうに笑っていますが、いやいや……。この地方、特に隣の市に本社を構えるあの犬山財閥のトップ……。
ありとあらゆる業種を手広くやっていて、この辺では知らない人はいない程の大会社の社長ですよ! 地元のメディアに多数出演しているので、引きこもりの私ですら知ってる有名人です!
「それで、君は?」
「ももももも……桃田百合子と申しましゅ……」
噛むほどにガチガチに緊張しながら、さながら就職の面接のように、これまでの自分の経歴を話しました。
大学中退から引きこもりになるまで、引きこもり期間、そして今回親に家を追い出されたことまで。
「……ふぅむ……」
私の生い立ちを聞いたゴンさんは、腕組をしたまま考え込んでいます。
「……なので、今回のぬんさんの申し出は、渡りに船と申しますか……私にとっても働けるのはありがたい話でして……」
「桃田さん。妖怪と幽霊の違いは分かるかな?」
えー! 唐突ー!
「え……えぇと……物理干渉ができるかどうか……ですよね?」
「そうだ。余程の大怨霊じゃない限り、物を動かしたりなどできん。他には?」
おぅふ……さすが長年妖怪たちと触れ合っているゴンさんこと犬山社長です。満足のいく答えではなかったようです。
『私の脳細胞よ! 活性化して! 記憶を呼び戻せ!』
脳内で白装束を着て、天に両手を上げて祈っている私を想像していると、また心を読まれたのか萌さんもぬんさんも笑いを堪えています。そちらはスルーして、一所懸命に考えていると思い出しました!
「……えぇと……あ! 信仰ですか!?」
私の脳細胞がだいぶ頑張ったようです!
「おぉ~! 若いのにちゃんと理解しておるんだな」
犬山社長はちょっと驚いた顔をしています。
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