幽幻會社 夢現堂

Levi

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四鬼夜行

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 不動産屋さんに行く前に、まずはぬんさんたちとどの辺にお店を出すか話し合いました。

「やっぱり駅の周辺ですかねぇ?」

 そう言いながら上目遣いで皆さんを観察しますが、全員が腕組をして考え込んでいます。

「駅か……」

 ユキさんは渋い顔をしています。

「ふぅむ……駅……か」

 ぬんさんもまた、ユキさんと同じく渋い表情です。

「そうねぇ……人は集まると思うけど~、妖怪たちのみんながみんな~、人間に慣れてる訳じゃないわよね~? 百合ちゃんも~仕事なんてしたことないでしょ~? だから~ちょっと駅から離れて~、人が少ない場所からやったらどうかしら~? それに駅付近だと~家賃も高いわよ~?」

 萌さんが的確な意見とアドバイスをくれました。

「そっか……家賃ですか……確かに高すぎると赤字まっしぐらですもんね……」

 元々、大金持ちになりたい訳ではなく、みんなが生活に困らなければそれでいいという、緩~い考えの私たちです。

「だとすれば、どこがいいでしょうね? そもそも私、この辺の土地勘ないです……」

「あぁ、そうじゃったな。萌、どこか良い場所はないか?」

 実家の周りは分かりますが、今住んでいる自宅アパート周辺すらも、ほとんど土地勘がないんです。

「ん~そうね~……鈴木さんは~もう少し離れた所から通うのよね~? じゃあ~事務所は~、駅からバスに乗り換えて行ける場所~って感じでいいんじゃな~い?」

 ふむふむなるほど。

「それで~私たちのためにも~この屋敷から~あまり離れてない場所がいいと思うわ~。……鈴木さんも~電車とバス通勤って形にして~、烏天狗に毎日送り迎えさせたらいいと思うけど~。烏天狗の都合が悪い時だけ~本当に電車とバスを乗り継いで来たらいいじゃな~い」

 烏天狗さんの都合も鈴木さんの都合も聞かず、さも当たり前のように言い放つ萌さんです。

「しかしその案は大丈夫か? 妖怪と話せるってだけであんなに盛り上がってる鈴木さんだぞ? 烏天狗におぶさって空まで飛んだら、心臓発作でも起こすんじゃないか?」

 相変わらずユキさんの突っ込みは独特ですが、あの鈴木さんの喜び方を見ると私もそれは思います……。

「もしそうなった時は、あの手この手で生き返らせたり、延命措置を取ればいいじゃろ」

 何気にさらっと問題発言をしたぬんさんですが、聞かなかった事にしますね……。

「ととと……とりあえず! まずは不動産屋さんに行ってみましょう! すぐに良さげな店舗と事務所が見つかるかもしれませんし」

 それもそうだ、と口々に言い、皆さん立ち上がりました。

「ねぇ百合ちゃ~ん? 人間生活の~リハビリの一環として~、私たち着いていくけど姿は消していいかしら~?」

「……え?」

「別に~面白そうとか思ってないから~! あくまで~リハビリの一環よ~」

 面白そうと思ってるんですね、萌さん。顔がめっちゃ笑ってますよ? あ、ユキさんにぬんさんまで……。

「……分かりました……頑張ります……」

 色々と思う所はありますが、覚悟を決めた私は玄関へと向かいました。

「ところで……不動産屋さんはどこですか?」

 私の心からの疑問に、さっそく笑い出す皆さんでした。

 玄関から外に出ると、ぬんさんは烏天狗を呼びました。そして私たちは烏天狗さんに乗って街中へ向かいました。
 街の中心部から少し外れた場所で、人間たちの目から隠れられる目立たない所で降ろしてもらい、そこから不動産屋さんへと歩いて行きます。
 先頭は私です。そして私の後ろには大妖怪が三人です。百鬼夜行ならぬ、百人力な三鬼夜行ですよこれ。私を入れたら四鬼夜行ですね。
 視える人がいたら、いや力の弱い妖怪さんだって、この状況見たらチビりますよホントに。私だって変な汗とか汁とか止まらないんですから。

『百合ちゃ~ん? 周りには~、私たちの~姿も見えなければ~声も聞こえないから~気を付けてね~』

 おっと! 危うく『はーい』と話すところでした。端から見たら一人でブツブツ言いながら歩くという、立派な不審者になるところでした。
 そもそもこの辺りに来たのは初めてで、キョロキョロと街並みを眺めながら歩いて行くと、テレビCMもやっている有名な全国チェーンの不動産屋さんの看板が見えてきました。

「がががが……頑張るぞ……」

 気合いを入れるために小声で呟いたのに、後ろの三人にしっかりと聞こえたみたいで、全員が吹き出しています。

 勇気を出して自動ドアをくぐると、女性店員さんが「いらっしゃいませー」と、にこやかに出迎えてくれました。けど物凄く私をガン見しています。

「こちらへどうぞ。今日はどういったご用件でしょうか?」

「……えっと……あの……あの……」

 女性店員さんは笑顔ですが、笑っていない目で私の上から下まで、穴が開くほど見つめております。

「あの……お店を探していまして……」

「えーと……店舗物件をお探し……という事でしょうか? どういった物件をお探しですか?」

「えっと……えっと……エステ店を……」

 そこまで言うと、店員さんは堪えきれないという様に吹き出しました。

「上司も同僚も出払ってて良かったわ。ねぇエステって言った? エステに行きたいのかしら? 覚えてる? 私あなたと同じ大学で、講義の時によく近くに座ってたんだけど。あまりにも当時と変わらないから驚いたわ」

 店員さんは同期だったらしく、営業スマイルから嫌らしい笑顔に変わりました。今日はスッピンですし、頬撫でさんの効果も切れているのでありのままの私です……。

「桃……井さんだったかしら? あなた大学辞めてから、引きこもりやってるって聞いたけど?」

「……桃田、です……覚えてなくてすみません……。引きこもりをやめて、エステ店を開こうと思ってるんですが……」

 怖くてもう目を見て話せません……。店内には私とこの店員さんしかいません……妖怪を除いては。

「ちょっと嘘でしょ~! 引きこもりがエステって! あんまり笑わせないでよ!」

 明らかにバカにした笑いをしながら私を責め立てます……。

「あのさ~エステって柄じゃないでしょアナタ。身の程を知ってる? エステ店を開く? 無駄よ無駄」

 上目遣いでチラリと見ると、外から見られても大丈夫なように笑顔なのですが、とにかく口調が私をバカにしているのが分かります……。

「ねぇ聞いてる~?」

 すごく美人さんなのですが、今度はそのお顔には似合わないとても歪んだ笑顔で私を見ています。言い返せない私は『またバカにされる……』と、思った時でした。

『  パ  キ  ン  』

 どこからか聞きなれない音が聞こえました。そして私の背後から、ぬんさんの声が聞こえました。

『すまん百合子。ワシらが限界じゃ』

 ぬんさんの言葉が言い終わると同時に、室内に『パキパキッピキピキッ』と音が鳴り響きだしました。

「あら? なんの音かしら?」

 私の向かいに座る店員さんがキョロキョロとし始めましたが、私はブルブルしています……いえ、ブルブルというかガクガクと震え始めました。
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