幽幻會社 夢現堂

Levi

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四鬼夜行

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 だって……店員さんの横に立ち、見たことのない冷徹な表情をしながらブツブツと小声で呟く萌さん。
 憤怒の表情で腕組をして、同じく店員さんの横で仁王立ちのぬんさん。
 そして店員さんの後ろに立ち、いつものカジュアルな服装から白い着物姿に変化したユキさん。その目は氷のような冷たさです。

 皆さんの表情が、目が、普通に生きていたら絶対に見る事がない感情を表していて、私は恐怖で震えるばかりでした。

「やだ……なんの音なの? あなたが何かしたんじゃないでしょうね?」

 不穏な空気を感じているのか、かなり苛立っているようです。

『百合ちゃん。コイツの命貰っていいかしら? いいわよね』

 いつものおっとりとした、語尾を伸ばす口調の萌さんではなく、そこにいるのは大妖怪の玉藻前でした。
 直視もはばかられる圧倒的なオーラに気圧され、首を横に振るので精一杯です。
 そんな私の様子にぬんさんが気付いたようです。

『お前たち。百合子が恐怖で動けなくなっている。そしてコイツの死を望んではいない』

『……命拾いしたわね』

 ぬんさんが伝えてくれたおかげで、皆さんの殺気はどんどんと感じなくなっていきます。そんな中、ユキさんが口を開きました。

『百合子。ならばこれくらいは許せ』

 なにが? と思ったのも束の間、パキパキ音がどんどん大きくなっていきます。音の出処を探すとまさかのエアコンでした。

 送風口からユキさんを避けるように小さな氷の塊が飛んできて、店員さんにいくつか当たります。ちなみにエアコンの場所は店員さんの真後ろです。氷の塊が後頭部に直撃した事になります。
 さらにバキバキッと音がしたかと思うと、エアコンのカバーが外れ、そのまま店員さんに飛んで行きました……。

「きゃー! 何よコレ! アンタは帰って!」

 帰ってと言われたので、逃げるようにお店から出ました。そのまま人通りの少ない場所まで走り、ゼーハーと息を整えました。

「百合子、すまんな。ちゃんとワシらも見えるように同行すべきだった」

「それでも百合子にあんな事を言う奴は許せない」

「百合ちゃ~ん……怖がらせてごめんね?」

 皆さんはそれぞれ反省はしているようです。

「あの……こういうことに私は慣れているので大丈夫です……」

 皆さんを落ち着かせようと思って発した言葉でしたが、逆に皆さんを怒らせてしまいました……。
 ようやく皆さんを落ち着かせ、一息ついたところで各々が口々に話し始めました。

「とりあえず~死なない程度に祟っておいたわ~。狐をなめるんじゃないわよ~」

「ワシは明日から三日三晩、特に見た目が異形の者を中心にした百鬼夜行を、あやつの周囲に行くように配置した」

「あのエアコンを氷漬けにした」

 最後のユキさんの発言にみんなで吹き出しました。

「ちょっと~ユキ~! それ地味~に見えて最高の嫌がらせじゃない。……エアコンの氷漬けって~……じわじわくるわ~」

 ユキさん以外が、じわじわきて笑い出しました。

「ふん。なぜ笑われているのか分からないが、百合子に嫌がらせしたんだ。当然の報いだ」

「あの……ありがとうございます……けど、呪いも百鬼夜行も……やり過ぎないでくださいね……怪我とか望んでないので……」

 そう言うと、皆さんに優しすぎると怒られてしまいました。とはいえ、結局私もあの人の名前を思い出せないのですから、私だって酷い人なんです……。

「あの……気を取り直して、不動産屋さんを探しましょう」

 強引に話を変え、今度はみんなで歩いて行くと、チェーン店ではないこじんまりとした不動産屋さんを見つけました。

「百合子、今度はワシらも一緒に入るぞ」

 ぬんさんに言われ、みんなで中に入ると中は狭く、カウンターに椅子が二つだけです。誰か二人は立ってる事になります。

「いらっしゃいませ」

 そう声をかけてくれたのは、人柄の良さそうなおじさん店員さんです。少ーし頭頂部が寂しくなっているのがいい味を出してます。
 萌さんは社長二人が座るべきだと、無理やりぬんさんと私を椅子に座らせました。

「今日はどうされましたか?」

 にこにこ笑顔のおじさん店員さんは、さっきの店とは違い安心感がありました。

「店舗物件を探してるんじゃが」

「店舗ですね。どのような業種ですかね?」

「……えっと……エステ、美容室、猫カフェ……それに事務所ですかね……」

 すると驚く店員さんは叫びました。

「そんなにですか!? いや、こんなに小さな不動産屋に探しに来るのも珍しいですよ!」

 豪快に笑う店員さんは嫌味もなく、「ウチは店舗物件は少ないんですよー」と言いながらも、何軒かのリストを見せてくれました。
 少ないと言いつつも結構な数のリストでしたが、そのほとんどが駅周辺の物件ばかりでした。

「……うーん……できれば駅から離れている場所がいいんですが……」

 そう伝えると、当然の反応がを返されました。

「さっき仰ったお店だと、駅の近くがいいんじゃないですか?」

 と、不思議そうな顔をしています。

「そうなんでしょうけど……事業自体初めてやる事なので……家賃とかその他にも大きなお金をかけて派手に失敗するより、こじんまりとやって、ダメなら少ないダメージで終わる方が良いと思ってまして……」

 もちろん本音ですが、妖怪たちの人見知りの為とは言えません。

「……こじんまりって、どの程度か教えて貰ってもいいかい?」

 おじさん店員さんは急に真剣な顔つきになりました。

「このリストにあるようなお洒落で大きな店じゃなくて、小さな規模で手探りでやってみて、手応えを感じたら辺り一帯にいろんなお店を出したいですねぇ……」

 うっかりと夢を語ってしまいました。

「……それは商店街のようなイメージかい?」

「あ! むしろイメージ通りというか!」

 ぬんさんもウンウンと頷いています。

「ピッタリな話があるよ!」

 店員さんは『物件』ではなく『話』と言いました。聞いてみると、隣の市で空き物件対策をしていると言うではありませんか!

 今、私たちがいる場所はお屋敷のある山の東側です。そこからさらに東に行くと大きな駅があり発展しています。
 まぁ山と言っても本当に小さな山ですけどね。このお屋敷のある山は駅のある市に含まれているらしく、山を中心に見て南西側は隣の市になるそうです。

 そこは過疎化が進んでおり、空いている物件にお店を出すと助成金の補助が下りるというではありませんか!

「百合子、いいんじゃないか?」

 ぬんさんがワクワクしているようです。私もですけど。

「どうだい? 見るだけ見てみないかい? 実は私はその市の出身でね。兄も不動産屋をそっちでやっているから、連絡をしておくよ?」

「「「「ぜひ!」」」」

 全員がハモりました。

 それから食事などをしながらある程度の時間をおいて、不自然じゃないくらいの時間に烏天狗さんに送って貰いました。
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