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ご挨拶
①
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さて、当たり前のように我が家の如く爆睡していた私ですが、しぃちゃんのジャンピング目覚ましで無理やり覚醒させられ、一気に眠気は吹っ飛びました。
「……しぃちゃん……不意打ちのみぞおちはダメ……」
「ごめんね! 百合ちゃんを起こそうと思っただけなの!」
謝罪だけで反省する様子もなく、ニッコニコのしぃちゃんですが子供だし仕方ないか……。けどジャンピングボディプレスは本当にやめていただきたい……。
そんな事を思いつつ身支度を整え、手早く朝食をとります。すると窓の外が騒がしい事に気付きました。……鈴木さんが来たようです。
「私は……! 私は幸せです! この歳になって空を飛べるなんて……!」
烏天狗の黒羽さんに土下座をしながら、猛烈にお礼を言っているようです。黒羽さんは困り顔で必死に立たせようとしていました。
「鈴木さん、これからの出勤は烏天狗の送迎じゃぞ? 毎日飽きるほど空を飛べるんじゃ。その辺にしてやってくれ。黒羽が困っておる」
ぬんさんが苦笑いで止めに入りました。鈴木さんの気持ちも分かるなぁ。初めて空を飛んだ感想って、感動の度が超えて言葉で表現できないですもんね。……私はすぐ慣れたけど。
私も外に出てなだめた数分後、鈴木さんは泣きべそをかいてようやく立ち上がりました。これから先、出勤時は本当に大丈夫でしょうか?
そんな心配をしていると、萌さんがお屋敷から出て来ました。
「じゃあ~私はゴンの所に行くわね~」
そうだ! 私たちも早く出発しなきゃです。ぬんさん、ユキさん、鈴木さん、私は不動産屋へ行くために、漆黒さんを呼んで以前のように大きなカラスになってもらい、みんなでその背中に乗りました。
「鈴木殿、お初にお目にかかります。烏天狗の長、漆黒にございます」
今日も安定のイケボの漆黒さんです。対する鈴木さんは、何か言葉を返しているようですが、泣きじゃくりすぎてもう日本語として聞き取る事ができません。何となく漆黒さんには伝わっているようです。
ボーっと見ている私の後ろで、ぬんさんとユキさんがヒソヒソし始めました。
「ぬん、さすがにあんな調子だと、そろそろ心臓麻痺を起こすんじゃないか?」
「あ~、万が一に備えて秘薬を持ってきておる。心配するな」
「そうか。死んでも大丈夫だな」
いやいやいや、大丈夫じゃないですから! まず、死んでも大丈夫な秘薬って何ですか!? というか鈴木さん、そろそろ泣きやんでくださいよ!
漆黒さんの背中の上はカオスで溢れかえっておりました。
心の中だけであちこちにツッコミを入れていると、不動産屋さんが見えて来ました。いつものように目立たない場所で降ろしてもらい、みんなで歩いて不動産屋さんへ向かいます。
鈴木さんを見ると、目は赤いですが泣き止んでキリ! ビシ! っとしています。うん、良い人だけどこの人もアレだな……と思ったのは内緒です。
不動産屋さんの中に入り、鈴木さんと不動産屋さんが専門用語を交えて話しているのを右から左へ聞き流し、『今日もおじさんの頭はツルツルだなぁ』とか、『これはシャンプーを使うのか? それとも私のようにレモン石鹸なのか?』とか考えているうちに、契約は無事に終わっていました。
「では書類とこちらが店舗の鍵です」
おぉ! ついに鍵をゲットです! RPGのようです!
『百 合 子 は 鍵 を 手 に 入 れ た』
効果音付きで右手を掲げる私を妄想していたら、後ろからユキさんにどつかれました。
「い……いい加減にしろ……!」
ユキさん、横を向いて震えながら笑いを堪えています。どうやらまた心を読まれてしまったようです! 恥ずかしい!
鍵を受け取り外に出ると、鈴木さんが言いました。
「それぞれスペアキーがありますので、ぬんさんと桃田さんに渡して置きます。……午後から予定があるのですが、まだ余裕があるので店舗を見ても大丈夫でしょうか?」
「はい! そんなに遠くないので行きましょう!」
商店街を目指して歩いていますが、その道中でぬんさんとユキさんが盛り上がっています。ぬんさんも不動産屋さんで私の心を読んでいたらしく、笑いをこらえるのに必死だったとか。
「あんなに萌に怒られたのに、まだレモン石鹸の事を考えておった!」
「ハゲ頭であれだけ想像出来るのも百合子らしい」
二人は爆笑していましたが、恥ずかしいので聞こえないフリを貫き通しました。
そして到着しました『ようかい商店街』です!
「思っていた以上にシャッター商店街ですねぇ……ですが皆さんでこの地域を盛り上げて行きましょう!」
鈴木さんはいつもニコニコしていて、マイナス発言をしないのが凄いと純粋に思いました。私もこういう大人になりたいですが、年齢的にはもう立派な大人なんですよね……。
借りた三店舗に入り中を確認した鈴木さんは、熱心に写真を撮ったりメモを書いたりしていました。
「鈴木さん、何をしているんですか?」
「はい。万が一に備えて傷や汚れのある部分を写真で残しているのと、前に住んでた所で仲の良かった設計士に、この建物の改築について聞いてみようと思いまして」
……鈴木さん、パネェです。
「……何も考えてなくてすみません……」
「お気になさらずに」と笑う鈴木さんでしたが、そろそろ時間だとの事で烏天狗さんを呼び、今日は帰ってしまいました。もちろんまた泣いていたのですが、ON/OFFがすごくないですか?
そしてその場に残された私たち三人組です。
「せっかくじゃし、商店街の中を見て回ろうかのぅ」
「ですね」
私たちは商店街の奥へと行ってみる事にしました。
「……しぃちゃん……不意打ちのみぞおちはダメ……」
「ごめんね! 百合ちゃんを起こそうと思っただけなの!」
謝罪だけで反省する様子もなく、ニッコニコのしぃちゃんですが子供だし仕方ないか……。けどジャンピングボディプレスは本当にやめていただきたい……。
そんな事を思いつつ身支度を整え、手早く朝食をとります。すると窓の外が騒がしい事に気付きました。……鈴木さんが来たようです。
「私は……! 私は幸せです! この歳になって空を飛べるなんて……!」
烏天狗の黒羽さんに土下座をしながら、猛烈にお礼を言っているようです。黒羽さんは困り顔で必死に立たせようとしていました。
「鈴木さん、これからの出勤は烏天狗の送迎じゃぞ? 毎日飽きるほど空を飛べるんじゃ。その辺にしてやってくれ。黒羽が困っておる」
ぬんさんが苦笑いで止めに入りました。鈴木さんの気持ちも分かるなぁ。初めて空を飛んだ感想って、感動の度が超えて言葉で表現できないですもんね。……私はすぐ慣れたけど。
私も外に出てなだめた数分後、鈴木さんは泣きべそをかいてようやく立ち上がりました。これから先、出勤時は本当に大丈夫でしょうか?
そんな心配をしていると、萌さんがお屋敷から出て来ました。
「じゃあ~私はゴンの所に行くわね~」
そうだ! 私たちも早く出発しなきゃです。ぬんさん、ユキさん、鈴木さん、私は不動産屋へ行くために、漆黒さんを呼んで以前のように大きなカラスになってもらい、みんなでその背中に乗りました。
「鈴木殿、お初にお目にかかります。烏天狗の長、漆黒にございます」
今日も安定のイケボの漆黒さんです。対する鈴木さんは、何か言葉を返しているようですが、泣きじゃくりすぎてもう日本語として聞き取る事ができません。何となく漆黒さんには伝わっているようです。
ボーっと見ている私の後ろで、ぬんさんとユキさんがヒソヒソし始めました。
「ぬん、さすがにあんな調子だと、そろそろ心臓麻痺を起こすんじゃないか?」
「あ~、万が一に備えて秘薬を持ってきておる。心配するな」
「そうか。死んでも大丈夫だな」
いやいやいや、大丈夫じゃないですから! まず、死んでも大丈夫な秘薬って何ですか!? というか鈴木さん、そろそろ泣きやんでくださいよ!
漆黒さんの背中の上はカオスで溢れかえっておりました。
心の中だけであちこちにツッコミを入れていると、不動産屋さんが見えて来ました。いつものように目立たない場所で降ろしてもらい、みんなで歩いて不動産屋さんへ向かいます。
鈴木さんを見ると、目は赤いですが泣き止んでキリ! ビシ! っとしています。うん、良い人だけどこの人もアレだな……と思ったのは内緒です。
不動産屋さんの中に入り、鈴木さんと不動産屋さんが専門用語を交えて話しているのを右から左へ聞き流し、『今日もおじさんの頭はツルツルだなぁ』とか、『これはシャンプーを使うのか? それとも私のようにレモン石鹸なのか?』とか考えているうちに、契約は無事に終わっていました。
「では書類とこちらが店舗の鍵です」
おぉ! ついに鍵をゲットです! RPGのようです!
『百 合 子 は 鍵 を 手 に 入 れ た』
効果音付きで右手を掲げる私を妄想していたら、後ろからユキさんにどつかれました。
「い……いい加減にしろ……!」
ユキさん、横を向いて震えながら笑いを堪えています。どうやらまた心を読まれてしまったようです! 恥ずかしい!
鍵を受け取り外に出ると、鈴木さんが言いました。
「それぞれスペアキーがありますので、ぬんさんと桃田さんに渡して置きます。……午後から予定があるのですが、まだ余裕があるので店舗を見ても大丈夫でしょうか?」
「はい! そんなに遠くないので行きましょう!」
商店街を目指して歩いていますが、その道中でぬんさんとユキさんが盛り上がっています。ぬんさんも不動産屋さんで私の心を読んでいたらしく、笑いをこらえるのに必死だったとか。
「あんなに萌に怒られたのに、まだレモン石鹸の事を考えておった!」
「ハゲ頭であれだけ想像出来るのも百合子らしい」
二人は爆笑していましたが、恥ずかしいので聞こえないフリを貫き通しました。
そして到着しました『ようかい商店街』です!
「思っていた以上にシャッター商店街ですねぇ……ですが皆さんでこの地域を盛り上げて行きましょう!」
鈴木さんはいつもニコニコしていて、マイナス発言をしないのが凄いと純粋に思いました。私もこういう大人になりたいですが、年齢的にはもう立派な大人なんですよね……。
借りた三店舗に入り中を確認した鈴木さんは、熱心に写真を撮ったりメモを書いたりしていました。
「鈴木さん、何をしているんですか?」
「はい。万が一に備えて傷や汚れのある部分を写真で残しているのと、前に住んでた所で仲の良かった設計士に、この建物の改築について聞いてみようと思いまして」
……鈴木さん、パネェです。
「……何も考えてなくてすみません……」
「お気になさらずに」と笑う鈴木さんでしたが、そろそろ時間だとの事で烏天狗さんを呼び、今日は帰ってしまいました。もちろんまた泣いていたのですが、ON/OFFがすごくないですか?
そしてその場に残された私たち三人組です。
「せっかくじゃし、商店街の中を見て回ろうかのぅ」
「ですね」
私たちは商店街の奥へと行ってみる事にしました。
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