幽幻會社 夢現堂

Levi

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ご挨拶

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 お買い物中のおばあちゃんたちは、見た事のない私たちをすっごい見てます。それに気付いているはずなのに、ぬんさんはおばあちゃんたちを見るでもなく、さらりと八百屋さんのおばちゃんに話しかけました。

「こんにちは。近いうちに商店街に店を出すので、挨拶回りをしているところです」

 はい、おばちゃん一撃でノックダウンです。わーきゃー言いながらお店から出てきました。
 おばあちゃんたちも品物を片手に、心なしかワクワクしているような感じでこちらを伺っています。

「あらあらまぁまぁ、ご丁寧にどうも。うふふ」

 と、その時です。

大葉おおばさんだけずるいわー! 私もご挨拶させて! 肉屋の牛山うしやまですー!」

「ご挨拶が遅れました。八百屋の大葉おおばです」

 大葉さんは葉物野菜のような薄くてペラペラしたおばちゃんで、肉屋の牛山さんはなんと言うか……親近感がわいてしまうような、全体的に大きい体格です。
 そこに魚屋さんからおじさんが出てきました。

「俺も混ぜてくれや。魚屋の鱒淵ますぶちだ。よろしく」

 強面で寡黙なタイプに見えますが、意外にも結構お話し好きなようです。

「で、なんのお店をやるんだい?」

 なにげに魚屋の鱒淵ますぶちさんが一番ウキウキとしているようで、グイグイとこちらに聞いてきます。お買い物中のおばあちゃんたちも興味津々なのか、物理的距離が近くなってきています。

「商店街の入り口に、猫カフェや美容院やエステを開くんじゃよ。ぜひ皆さん遊びに来て下され」

 ぬんさんは全員の目を順番に見ながら、あえて大きな声で言いました。

「猫カフェって、猫に触るっていうアレかい?」

 魚屋の鱒淵ますぶちさん、さらにグイグイ来ます。

「一応、触るだけの場所と喫茶スペースを分ける予定なんじゃよ」

 ぬんさんはとてもスマートに、さらりと答えます。すると、お買い物中のおばあちゃんの一人がついに近寄ってきました。

「私のようなおばあちゃんでも、行っても大丈夫なもんかねぇ? 一人でも大丈夫かねぇ? 猫ちゃんに触りたいねぇ」

「もちろんですとも。年齢性別関係なく楽しんでいただく事を前提にしておりましてな。な? 百合子」

 いきなり話を振られたー! キラーパスすぎます!

「は……はい! 誰でも楽しめるように作りますのでよろしくお願いします! 美容院もエステも、子供からお年寄りまで対応できますので、ぜひいらしてください」

 めっちゃ頑張った私。噛まずに良く言えた私。

「お姉さんはどのお店にいるの?」

 今度は肉屋さんの牛山さんから質問キター!

「えっと……私たちは経営側になるので……店舗はスタッフにまかせるんです。みんなすごいスタッフばかりなんですよ! ね! ぬんさん?」

 無理やりぬんさんに振る私です。キラーパスをお返しします。

「じゃあ三人で経営するの?」

 大葉さんからも質問キター!

「いや、私はこの二人の手伝いだ。素晴らしい社長二人をよろしく頼む」

 ユキさん! 素晴らしいとかハードル上げないで下さい!

「おぉ! 若いのに商売やるなんて頑張るなぁ! 商店街のみんなも応援するから頑張りなよ!」

「是非ともよろしくお願いします。厨房スタッフと話し合ってから、御三方に仕入れの相談に来ると思いますので、その時はまたよろしくお願いします」

 ぬんさんったら鱒淵さんにパーフェクトな模範的回答したったー!

「まだ店名も決まっておらんのでな、名刺も何もないのじゃが……ワシは怒和ぬわ、こっちの頑張り屋さんは桃田と申します。また後日、改めてご挨拶にあがらせてもらいます」

 ぬんさんすごい! 綺麗に締めた! さすが! てか私、実は書類もちゃんと見てなかったので、ぬんさんの苗字を初めて知って驚きました。

「ちなみに、この先に開いてる店はあるのか?」

 ユキさんが素朴な疑問を聞くと、皆さんが教えてくれました。

「一番奥にね、この商店街の発足当時からやってる骨董屋があるよ。この商店街の理事長でもあるから、挨拶をしておいたほうがいいよ。人の良いじい様だよ」

 主に牛山さんが教えてくれました。その場の皆さんがお店に戻ったり買い物に戻ったりしたので、私たちはその骨董屋を目指しました。
 てくてくと歩きながらぬんさんに聞いてみました。

「ぬんさん……怒和ぬわさんって名前なんですね」

「……百合子……今さらじゃな? まさか知らなかったなんて……」

 答える代わりに笑って誤魔化しました。するとぬんさん、保険証を懐から出して見せてくれました。氏名の欄に書いてあるのは『怒和 利俵』という文字です。

「人間として生活する時は怒和ぬわ 利俵りひょうと名乗っておる」

 ドヤ顔ですが、もうほとんど正体そのまんまの名前ですよ!

「いや……この名前……バレますよね?」

「意外とバレんぞ? 数は多くないが、実際に怒和ぬわ姓はおるからな」

 ぬんさんが説明してくれていると、ユキさんが話しに入って来ました。

「そもそも、今の世の中で妖怪が人間界で生活していると誰が思う?」

「あー……確かに……」

「よっっっぽどの妖怪好きか、ゴンや百合子のように分かる・・・奴じゃないと気付かん」

 私もゴンさんも鈴木さんも、どうやらレア人種のようです。SRかしら? URかしら? 背景が七色に光るのかしら?

「……百合子の背景は光ったりしないからな」

 また二人に心を読まれたらしいです。というか……。

「……まさか二人とも、ゲームするんですか……?」

「一時期、同じソシャゲにハマって二人でガチャを引きまくっていた」

 この妖怪たち、人間界に染まりすぎじゃないですか!? 妖怪からソシャゲって言葉を聞くとは思いませんでしたよ!
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