幽幻會社 夢現堂

Levi

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新たな出会い

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 小滝さんも落ち着き、ようやく和やかな雰囲気になりました。

「小滝さんや、ちょっと売り物を見せてもらって良いかな?」

 ぬんさんは楽しげに店内を見回します。こういうぬんさんを見たことがないので、なんだかとても新鮮です。

「いくらでもー見てくれー」

 小滝さんのその言葉で、私たちはそんなに広くない店内に散り散りになりました。

 私が引きこもる前からですが、本格的な骨董屋さんには行った事がなくて、あのアパートで独り暮らしをしてからリサイクルショップには行ったものの、店内にいる人たちの人目が怖くて、ちゃんと商品を見たことがないんです。
 もちろん実家に価値のある骨董品なんてあるわけがなくて、ぬんさんとユキさんがいるおかげか、はたまた他にお客さんがいないからか、ゆっくりと落ち着いて店内を見れるので楽しくてワクワクします。

 なんだか気になって足を止めた場所には、何やらよく分からない小さな部品のような物が所狭しと並べて……いや、無造作に置かれていました。……ホントに売り物なんでしょうか?

 そんな事を思っていると、ポンっと出てきた福の神さん。私が売り物なのかと見ていた物を、真剣な眼差しでジーっと見ています。そんな福の神さんをジーっと見る私です。

 福の神さんはフワリと棚に降り立ち、無造作に置かれていた謎の物を一つ手に取りました。そして私に振り向いたのですが、そのお顔は超笑顔です。

「それが欲しいんですか?」

 そう聞くと、笑顔でコクコクと頷きました。小滝さんの所に戻ってお値段を聞こうと思い、両手で福の神さんを抱いてお連れしました。

 私が戻るとちょうど、ぬんさんとユキさんも戻って来ました。ぬんさんはまだしも……ユキさん、どえらい物を持っています……。

「娘さんー? そんな人形あったかのー?」

 ユキさんの持ち物に呆気にとられていると、小滝さんが福の神さんに気付いたようです。そんなに大きくない人形サイズなので、動かなければ生き物(?)とはバレないはずです。

「あ、違います。人形じゃなくて福の神さんです」

 答えてから『あっ!』と思いましたが、もうすでに普通に答えてしまっている私です。
 当たり前に『妖怪』や『福の神』などのワードを言っているので、だんだん一般常識からかけ離れて行っている気がします……グッバイ私の常識。

「福の神じゃと!? なんで娘さんばっかり神だの妖怪に好かれるんじゃ!」

 あー……早口でヤキモチをストレートに言われた……。火の玉ストレートが直撃です。

「こう見えて元は貧乏神だ」

 ユキさんが、福の神さんの転生前をサラリと暴露しました。それを聞いた小滝さん、声にならないほど笑っています。
 あえてユキさんも小滝さんの笑いもスルーして聞きました。

「あの、あそこの棚にあった物なんですけど、福の神さんが気に入ったようなんです。コレはなんの棒ですか?」

 福の神さんが持ったままの棒を指さすと、今度はぬんさんも含めた全員が爆笑の渦に包まれました。

「ゆ……百合子! 笑わせるな! 棒じゃない。刀だ!」

 ユキさんが涙を出しながら笑ってます。って、え? 刀?
 呆然としていると、福の神さんが鞘から刀身を抜きました。

「ホントに刀だー!」

 私の叫び声に対してさらに笑う皆さんです。本当に驚いたのに。

「それは元々は五月人形か何かの装飾だと思うんじゃが、儂の手元に来た時には既に刀だけじゃった」

 急に早口になったということは、小滝さんは仕事モードになったんですね。

「ん? 福の神、よく見せてくれ」

 ぬんさんが福の神さんの持つ刀に近付き、真顔でジーっと見ています。

「……目利きじゃのう」

 真顔だったぬんさんが、フッと笑いながら福の神さんにそう言うと、福の神さんは嬉しそうにコクコクと頷きました。

「百合子、小滝さん、確かにコレは元々は五月人形とセットだったようじゃ。じゃが、この刀は本物・・で、しかも九十九神になっておる」

「「は?」」

 私と小滝さんがハモリました。今日初めて噛み合った気がします。
 福の神さんの持つ刀をよく見ると、安っぽい感じは全くしなくて、刀身は引き込まれるような輝きを放っています。

「じゃから、小さいが本物の刀じゃ。百合子を悪いものから守るために欲しいそうじゃ」

「えー!?」

「それはそうと小滝さん、ワシはコレが欲しいんじゃが」

 私の驚きを余所に、ぬんさんはマイペースな感じで小滝さんに話しかけています。
 なんか分かってきました。妖怪ってみんな、基本的にゴーイングマイウェイなんですね。お屋敷に住んでいる妖怪たちを思い返しても、やっぱりそうですよね。

「コレも九十九神なんじゃが、中身が入っておる」

 マイペースぬんさんは、自分のペースを崩しません。って、え? 中身って何ですか?

「それは煙管キセルじゃが、刻みたばこは入れてないはずじゃったが?」

 ぬんさんの手には、綺麗な装飾が施された年代物であろう煙管キセルがありました。
 ぬんさんと会話を交わす小滝さんは、仕事モードでハキハキと答えています。仕事モードだと会話の時間が半分になるなんて思ってませんよ? はい。
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