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いつものように、朝起きてご飯を食べてから身支度をして、家の目の前にある畑仕事を始める。
自給自足の生活は大変だけれど、ここは肥沃な土地で美味しい野菜や穀物がよく育つ。
気持ちのいいお天気で、機嫌良く作業をしていたその時、人影が現れた。
見れば綺麗な身なりをしている貴族のようで、心当たりのない私は首を傾げる。
ここに来るのは、カイルと従者のルーク、たまに手紙を持ってくる配達人さんくらいだもの。
私に気づいたその人物は、傍まで来て私に手紙を渡して去って行く。
その封蝋を見て、私は固まった。
これは……!
王宮からの手紙だわ!
今更、一体何だと言うのだろう。
動揺する心を鎮めながら、私は手紙を開いた。
そこに書いてある内容を要約すると、つまりこうだった――――
いよいよ王太子とイリナ・メニル子爵令嬢の結婚が決まったので、王太子妃の侍女として王宮へ来てくれないか、といった内容だ。
もちろん『来てくれないか』と言っても私に選択肢などない。
これは、勅令だ。
おそらく、侍女というのは名目にすぎないのであろう。
本来の目的はきっと、メニル子爵令嬢に出来ない王太子妃としての実務を私に押し付けるつもりなのだ。
王宮を去る直前に、嘆いていた王妃様や宰相たちの様子を思い出す。
幼い頃に婚約が決まり、長年の王太子妃としての教育を受けてきた私に比べ、メニル子爵令嬢には教養も努力する心も足りていなかったのは、誰の目から見ても明らかだった。
それでも、愛を育むというのなら、乗り越えられると思っていたのだけれど……。
現実はそう、うまくはいかないようだ。
ああ、どうしよう!
せっかくこの大自然の中、新しい生活を始めてやっと楽しくなってきたところだったというのに……!
私はすっかり落ち込み、沈んだ気持ちで畑仕事をこなした。
呆然としたまま1日を過ごし、気づけば夜になっていた。
夜ご飯の支度をしていると、いつものようにカイルがやってくる。
「お? どうした、何かあったのか?」
カイルは私の顔を見た途端、異変を感じ取ったらしく、すぐに尋ねてくる。
私は、王宮から手紙が届いた内容を説明し、深く溜め息をついた。
「……ふーん、そうなのか」
カイルは珍しく考え深げにそう言った。
「はあ……また王宮に行かなくちゃならないなんて」
「まあ、落ち込むなよ。人生なんとかなるっていうのはセレナの口癖だろ」
そう言って、カイルは私の頭をポンポンと撫でる。
いつもは舞い上がるほどドキドキしてしまうそのカイルの対応も、今日は喜ぶ気力がない。
私はその時、自分のことで精一杯で、カイルの様子がいつもと違っていることを、気にも留めなかった。
だって、翌日にはもっと大変なことが起こってしまうのだから……!
自給自足の生活は大変だけれど、ここは肥沃な土地で美味しい野菜や穀物がよく育つ。
気持ちのいいお天気で、機嫌良く作業をしていたその時、人影が現れた。
見れば綺麗な身なりをしている貴族のようで、心当たりのない私は首を傾げる。
ここに来るのは、カイルと従者のルーク、たまに手紙を持ってくる配達人さんくらいだもの。
私に気づいたその人物は、傍まで来て私に手紙を渡して去って行く。
その封蝋を見て、私は固まった。
これは……!
王宮からの手紙だわ!
今更、一体何だと言うのだろう。
動揺する心を鎮めながら、私は手紙を開いた。
そこに書いてある内容を要約すると、つまりこうだった――――
いよいよ王太子とイリナ・メニル子爵令嬢の結婚が決まったので、王太子妃の侍女として王宮へ来てくれないか、といった内容だ。
もちろん『来てくれないか』と言っても私に選択肢などない。
これは、勅令だ。
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本来の目的はきっと、メニル子爵令嬢に出来ない王太子妃としての実務を私に押し付けるつもりなのだ。
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現実はそう、うまくはいかないようだ。
ああ、どうしよう!
せっかくこの大自然の中、新しい生活を始めてやっと楽しくなってきたところだったというのに……!
私はすっかり落ち込み、沈んだ気持ちで畑仕事をこなした。
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夜ご飯の支度をしていると、いつものようにカイルがやってくる。
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私は、王宮から手紙が届いた内容を説明し、深く溜め息をついた。
「……ふーん、そうなのか」
カイルは珍しく考え深げにそう言った。
「はあ……また王宮に行かなくちゃならないなんて」
「まあ、落ち込むなよ。人生なんとかなるっていうのはセレナの口癖だろ」
そう言って、カイルは私の頭をポンポンと撫でる。
いつもは舞い上がるほどドキドキしてしまうそのカイルの対応も、今日は喜ぶ気力がない。
私はその時、自分のことで精一杯で、カイルの様子がいつもと違っていることを、気にも留めなかった。
だって、翌日にはもっと大変なことが起こってしまうのだから……!
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