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一章 中学時代
1話 後ろの席の佐藤さん
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常々疑問に思うことがあるのだが、「青春」という言葉には何故「青」がついているのだろうか?
中学三年生の始業式の次の日、桜が見えるガラス窓から外を眺めながら俺はそんな他愛もない疑問の答えを模索していた。
短い春休みが終わり、三年生に進学したが特にこれといった変化もなく、あえて言うならば人間関係がリセットされたことに対し憤りを感じている、といったところだろう。
そして俺はまた再び青春の二文字の言葉について考え始める。
この「青」は五行の「木」の春の色が青であるからというのが由来というのは知っていたのだが、それにしたって青というのは納得がいかないものがある。
そもそも俺は、陰陽五行の考えがあまり好かないのだ。
「光あるところに陰あり、この世の均衡はこのようにして保たれているーーーたまったもんじゃない」
光と比較されてしまったら、俺もどちらかと言えば陰側に配属されるのだろうか…。
話が脱線したようだが、要するに俺は青以外にも何かいい色があったんじゃないのか、ということを訴えたいのだ。
そもそも青春という言葉が作られた意味もよくわからない、今じゃ当時の意味で使われてすらいないし。
まぁ、だからといって急に「褐春」とかなっても困るけど。
つまり、なんだ……言葉っていうのは先人が適当に掛け合わせて作ったキメラの集まりってことだ。
「ならばよし決めた。これからの学生生活を俺は青春では無く褐春と呼ぼう」
「今日も訳わかんないこといってるわね、渡邊くん」
そう俺が宣言したところで、突然背後から聞き慣れた声がして、俺はゆっくり振り返る。
「訳わかんないとは失敬な。熟考の末の答えだ、莉央さん」
俺の後ろの席、退屈そうに目を細め頬杖を付く凶暴少女こと佐藤莉央の姿がそこにはあった。
艶のある黒髪は耳が隠れる程度の短さで、だというのに座ってでもわかる顔の小ささに驚かされる。
整った鼻筋に大きな瞳、潤む唇は紅く染まり、周囲20センチにはシャンプーのいい香りが漂っている。
莉央さんとは中一の時からずっと同じクラスで、会話を交えるの機会も何回かあった。
しかし、こうして席が直ぐ近くになったのは初めての事だった。
「先人が『青春』って決めたんだから、その枠内で収まっとけばいいでしょ?」
「日本語は自由度が高い言語なんだ。あるだろ?家族内だけで通じるような言葉。それと同じだよ」
「なんか焦げてるみたいで嫌ね。褐春なんて」
「春は出会いの季節。誰もが恋焦がれても無理はないだろ」
「そういう話してるんじゃない」
莉央さんは形の良い眉を顰め、はぁと溜息をついた。
「それにしても今年の担任は粋なことするな。始業式早々席替えしようなんて」
というのは、今朝、担任の福沢先生が「番号順もつまらないだろ」ということでレクリェーションも兼ねてくじ引きで席替えを行なったのだ。
割と楽しかったが、友人の田邊くんと席が遠くなってしまったのは残念だ。
あ、手振ってる。振り返しとこ。
「席なんてどこでも良いわよ。どうせ退屈なのは変わりない」
そう言いながら、莉央さんは外の桜の木を遠い目で眺めた。
「そう?俺的にはこのポジションは結構良いと思ってるけどな」
「…なんでよ」
「だって今の季節桜が見えるし、このクラスの換気の権利も一時的に握れるからな」
「そんな権利要らないわよ。…いや、結構いるかも」
「だろ?」
少し表情を曇らせると、莉央さんは踵を返して再びはぁ、と溜息を繰り返した。
何をそんな気に止むことがあるのだろうか?俺にはわかりかねない。
「ということで、明日から通常授業が始まるので皆気を引き締めて、中学最後の一年を送ってくれ」
と、どうやら担任の締めの言葉が終わったようだ。
明日からまたいつもの授業が始まると思うと少し憂鬱だ。
俺は腕を上げのびると、欠伸をして学校の終わりを祝す。
「じゃあ、なんとなく出席番号23番の人、帰りの挨拶を」
なんとなくで選ぶには微妙なチョイスだ。
「え?あっ、はい」
そして立ち上がったのは、何とびっくりいつかの凛堂くんではないか。相変わらず爽やかイケメンである。
あの悲惨な事件が無ければだけど。
俺は横目に莉央さんを見るが、何も気にしている様子は無いようだ。
それもそれでどうかと思うが…。
「じゃぁ…起立、礼。さようなら」
「はい、さようなら」
時刻は12時前。昼食はまだ食べていないので少し小腹が空いた。
腹の虫がグーと音を立てる。
「莉央さん、また明日」
「ん」
俺はそう別れを告げると、その日は田邊くんと一緒にラーメンを食べたのだった。
中学三年生の始業式の次の日、桜が見えるガラス窓から外を眺めながら俺はそんな他愛もない疑問の答えを模索していた。
短い春休みが終わり、三年生に進学したが特にこれといった変化もなく、あえて言うならば人間関係がリセットされたことに対し憤りを感じている、といったところだろう。
そして俺はまた再び青春の二文字の言葉について考え始める。
この「青」は五行の「木」の春の色が青であるからというのが由来というのは知っていたのだが、それにしたって青というのは納得がいかないものがある。
そもそも俺は、陰陽五行の考えがあまり好かないのだ。
「光あるところに陰あり、この世の均衡はこのようにして保たれているーーーたまったもんじゃない」
光と比較されてしまったら、俺もどちらかと言えば陰側に配属されるのだろうか…。
話が脱線したようだが、要するに俺は青以外にも何かいい色があったんじゃないのか、ということを訴えたいのだ。
そもそも青春という言葉が作られた意味もよくわからない、今じゃ当時の意味で使われてすらいないし。
まぁ、だからといって急に「褐春」とかなっても困るけど。
つまり、なんだ……言葉っていうのは先人が適当に掛け合わせて作ったキメラの集まりってことだ。
「ならばよし決めた。これからの学生生活を俺は青春では無く褐春と呼ぼう」
「今日も訳わかんないこといってるわね、渡邊くん」
そう俺が宣言したところで、突然背後から聞き慣れた声がして、俺はゆっくり振り返る。
「訳わかんないとは失敬な。熟考の末の答えだ、莉央さん」
俺の後ろの席、退屈そうに目を細め頬杖を付く凶暴少女こと佐藤莉央の姿がそこにはあった。
艶のある黒髪は耳が隠れる程度の短さで、だというのに座ってでもわかる顔の小ささに驚かされる。
整った鼻筋に大きな瞳、潤む唇は紅く染まり、周囲20センチにはシャンプーのいい香りが漂っている。
莉央さんとは中一の時からずっと同じクラスで、会話を交えるの機会も何回かあった。
しかし、こうして席が直ぐ近くになったのは初めての事だった。
「先人が『青春』って決めたんだから、その枠内で収まっとけばいいでしょ?」
「日本語は自由度が高い言語なんだ。あるだろ?家族内だけで通じるような言葉。それと同じだよ」
「なんか焦げてるみたいで嫌ね。褐春なんて」
「春は出会いの季節。誰もが恋焦がれても無理はないだろ」
「そういう話してるんじゃない」
莉央さんは形の良い眉を顰め、はぁと溜息をついた。
「それにしても今年の担任は粋なことするな。始業式早々席替えしようなんて」
というのは、今朝、担任の福沢先生が「番号順もつまらないだろ」ということでレクリェーションも兼ねてくじ引きで席替えを行なったのだ。
割と楽しかったが、友人の田邊くんと席が遠くなってしまったのは残念だ。
あ、手振ってる。振り返しとこ。
「席なんてどこでも良いわよ。どうせ退屈なのは変わりない」
そう言いながら、莉央さんは外の桜の木を遠い目で眺めた。
「そう?俺的にはこのポジションは結構良いと思ってるけどな」
「…なんでよ」
「だって今の季節桜が見えるし、このクラスの換気の権利も一時的に握れるからな」
「そんな権利要らないわよ。…いや、結構いるかも」
「だろ?」
少し表情を曇らせると、莉央さんは踵を返して再びはぁ、と溜息を繰り返した。
何をそんな気に止むことがあるのだろうか?俺にはわかりかねない。
「ということで、明日から通常授業が始まるので皆気を引き締めて、中学最後の一年を送ってくれ」
と、どうやら担任の締めの言葉が終わったようだ。
明日からまたいつもの授業が始まると思うと少し憂鬱だ。
俺は腕を上げのびると、欠伸をして学校の終わりを祝す。
「じゃあ、なんとなく出席番号23番の人、帰りの挨拶を」
なんとなくで選ぶには微妙なチョイスだ。
「え?あっ、はい」
そして立ち上がったのは、何とびっくりいつかの凛堂くんではないか。相変わらず爽やかイケメンである。
あの悲惨な事件が無ければだけど。
俺は横目に莉央さんを見るが、何も気にしている様子は無いようだ。
それもそれでどうかと思うが…。
「じゃぁ…起立、礼。さようなら」
「はい、さようなら」
時刻は12時前。昼食はまだ食べていないので少し小腹が空いた。
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