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一章 中学時代
3話 三大美女
しおりを挟むこの中学校には、生徒から三大美女と呼ばれている三人の美女、いや、美少女が存在する。
どうでもいいが、日本人っていうのは「三」という数字が好きだよね。三本の矢とか三奴下とか三十六景とか。いや、それは違うか。
まぁ兎に角三代美女か存在するのだが、その三人は望まずして目立ってしまう訳だ。
そして勿論、このことは暗黙の了解として生徒間の間で知れ渡っていることなのだが、この三大美女には順位というものが存在するのだ。
聞いた話によれば、現状三位は一組の夢原侑李さん、二位は五組の関下結衣さん、そして一位は三組の冴乙女咲さんらしい。
二年の初期まではその中に莉央さんがいたのだが、日に日に彼女の異行が露呈していくにつれて今では「例外」として扱われているようだ。
本人は気にしていない様だが、それにしても悪趣味なランキングだと思う。
と言うのも、中学二年生の終わり、この三大美女関係で一度気分が悪くなるような事件が起きたのだ。
その事件の通称は「二位変動事件」、安直すぎる名前がつけられたこの事件。その名の通り、二位の人間の順位が変動したというのが事件の詳細だ。
そして、被害に遭ったーーーつまり元三大美女の二位の座に位置していたのが彼女、「赤誠碧」だったのだ。
◇
「あの子、いつも元気よね」
一限が終わり、二限の準備をしていた時に莉央さんが頬杖を付きながらどこか含みがある言い方で俺にそう言った。
「確かに、ね。人間いつも元気ってのは滅多にいられないもんだ」
俺の姉も、いつも死んだ魚の目をしながら「疲れた」と言って帰ってくるし。
それが普通なんだろうと、俺は思う。
「ーーーあと、あいつと仲良くしてくれてありがと」
「別に私も好きで彼女と喋ってるし、感謝される筋合いなんてないわよ」
そう、当然の様に言う莉央さんがどれだけ強いことか、、、俺は羨ましい。
「ーーーありがとう」
「ーーーいいわよ、別に」
早く、赤誠に他の友達が出来たらいいんだがな。
「ところで莉央さんは、いつも退屈そうだよね」
いつもと同じ様に、窓の外を眺める莉央さん。時折零すため息を見て、そう思わない奴もおるまい。
「…退屈なんだもの。仕方ないじゃない。面白い毎日を送っている人なんて、それこそ滅多に居ないわ」
彼女の中の「面白い毎日」っていのは一体どんな日々のことを指すのだろうか。
些か疑問である。思うに、皆が夢見るリア充ライフ!って言う感じでは無いことだけは確かだ。
そこで、俺はふと去年のことを思い出した。
「…凛堂のこと覚えているか?ほら、二年の時莉央さんに告白した」
「凛堂…?」
「あいつだよ、あいつ」
俺はクラスの真ん中、男女合わせ六人程度で話更けている集団を指差す。
「あぁ、あのイケメン君?覚えてるわよ、私に告白して殴られた子でしょ?」
…随分と他人事の様に喋るじゃないか。
「うん、まぁ、そう。あの時、なんで殴ったんだ?あの後、あいつトイレに篭って啜り泣いてたらしいぞ」
ほんと、不憫で不憫で仕方がない。あの時ガッツポーズなんてして悪かったなと、今更ながら思う。
「私も申し訳ないことしたとは思ってるわよ。あの後謝ったし」
そいつは初耳だ、驚いた。何より彼女に申し訳ないと言う感情があることに。
「じゃあ、なんで…」
「あの後私譲れない用事があったのよ。けど私って物事後回しにしたくない性格じゃない?
で、ただでさえ時間が惜しかったってのに呼び出した理由が告白って、もっと相手の都合ってのを考えられないのかしらね」
莉央さんは、何かの糸が切れたかの様に俺の声を遮って熱弁し始めた。
凛堂だって、莉央さんにいつ声を掛けるかタイミングを見計らってただろうさ。
確かに、いきなり呼び出すってのは相手への配慮が足りないとは思うが。
しかし、そう言う告白をメールやら電話やらで片付けないのは中々好感が持てる。
「そういうが、告白ってのは結構勇気がいるんだぞ?それに、もしあの時凛堂と付き合っていたら莉央さんが言う「楽しい毎日」ってのが手に入っていたかも…」
「それは無い」
これまたキッパリと言い切られてしまった。
らしいぞ凛堂、残念ながらお前さんじゃ莉央さんを満足させられないってよ。
横目に、凛堂に申し訳程度の目線を送ったら、運悪く目が合ってしまった。
なんかたいして仲良く無い人と目が合うと気まずいよね。なんでたろうか?
「だいたいね…」
「ん?」
「私、興味が無い人とは極力関わりたく無いの。
一二年の時は、いろんな人に話しかけられて苦労したわよ。その点、あの一件はいい見せしめになったと思うわ」
「見せしめって…」
物はいい様、ようは全校生徒から距離を置きたかったのだろう。しかし、そんなことをしては面白い物も寄ってこないってのに。
ーーーん?
「・・・じゃあ、なんで莉央さんは俺と会話をするんだ?」
思わず、口から飛び出た素朴な疑問。
莉央さんは、頬杖を止め顔を上げると口を小さく開けたままポカンとした顔で惚けていた。
心なしか、赤くなった耳が清い黒髪の隙間から顔をのぞかる。
彼女の瞳が、俺の姿を掴んで離さない。同時に、俺の瞳も彼女の姿を捉えていた。
「ーーーー」
おいおい、なんなんだよこの間は。
勘弁してくれよ、こんなに人と目線があったことは生まれてこの方初めてなんだよ。
いつもそうするみたいにそっけなく俺の言葉なんて流してくださいよ。
なのにどうして、あなたは言葉がつっかえてるみたいに口をパクパクさせるんですか?
そして、遂にこの時間に耐えられなくなった俺はーーー
「あ、興味あるからか」
おい、誰か俺の顔面に右ストレートからの左フック、加えて強烈なジャブを食らわせてやってくれ。
え?何言ってんだ俺。頭悪いんじゃ無いか?ほら、莉央さんも顔が引き攣ってーーー
「違うわよ…バカ」
俺は今日、死ぬかもしれん。遺書でも書いておこう。
染まった頬と、尖る唇を隠す様に口元を右手で覆う莉央さん。
そうだ、彼女の性格が強烈すぎて忘れてた。
この人、滅茶苦茶可愛いんだった。
「ーーーフンッ!!」
「ちょ、渡邊くん!?」
その後、自分で自分の顔面を殴り飛ばした俺は軽い脳震盪で気を失い、目覚めたのは今日の夜だった。
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