好きです。だから、どうか俺を振ってください。

マツマツ

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一章 中学時代

4話 凛堂っていいやつだったんだな…

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 俺が脳震盪で学校を早退してから、3日が経った。
 学校を早退ってので目立つことはまず無いと思うのだが、その理由が「自分で頭を殴ったことによる脳震盪」というのがなかなか奇抜だった為か、少しばかり知名度が上がった。

 別に嬉しくもないんだが、何か収穫があったかと言えば少し知り合いが増えたことくらいだ。

 では、その中の三人をピックアップして、イカれたメンバーを紹介するぜ。

 まず最初に、凛堂くん。

 かなり序盤から話題に上がっていたもののその正体は謎に包まれ、加えていろんな意味で悲劇のヒーローである凛堂くん。

 フルネームは、凛堂貴嶺と言うらしい。名前からしてイケメンだ。

 なんと、凛堂、俺が気を失った瞬間にすぐ駆けつけて俺が頭部を地面に強打するのを防いでくれたらしい。
 全く会話したことなかったが、そんな身を張って他人を助ける様な奴だとは知らなかった。

 本人が言うには、

「俺の様な犠牲者をもう出したくない」

 らしい。

 なんだか色々勘違いしている様だったが、妙にカッコつけて言っていたから何も言わないでおいた。
 もしかしたら、あの時目が合ったのも俺のことを心配していたからかもしれない。
 取り敢えず、いい奴だってことは分かった。

 そして次。

 凛堂の右肩、櫻井くん。

 この人は、いっつも凛堂の隣にテクテクついてきている自称凛堂の右肩こと櫻井龍之介くんだ。

 あだ名で、みんなからはドラゴン桜って言われてる。東大にでも行くのかよ。

 彼は俗に言う可愛い系男子で、趣味は菓子作りと城巡りらしい。なかなか良い趣味をお持ちだ。

 なかなか気さくな奴だが、凛堂と話していたら過剰に睨まれた為、彼の前では迂闊に凛堂と話さない方が得策だと思われる。

 あと、何処となくミーアキャットに似てる。雰囲気とか。

 
 さて、次で最後。最後はなんと紅一点、女子である。


 凛堂の元カノ、橘さん。


 いやー、うん。なんて言ったら良いか、うん。

 キツイね。

 どういった経由で、彼女が凛堂の元カノだったかを知ったかと言うと…。


 俺が脳震盪で倒れたその日、俺を保健室まで運んでくれたのはこれまた意外、凛堂と田邊くんだった。

 赤誠もその一部始終を見ていたらしく、彼女が言うには凛堂が俺の下半身を、田邊が俺の上半身を支えて運んだらしい。
 ほんと、迷惑かけたと思っている。すみませんでした。

 で、無事に俺は保健室へ運ばれたのだが・・・。
 実は、俺も保健室に運ばれたのを夢心地気分でで覚えていたのだ。
 気を失ったものの薄らと頭の中に外部からの声が反響している、、、って感じに。

 そこで、俺は聞いてしまったのだ。その一部始終をーーー。







「いいのよ凛堂君。あなたはも戻っても」

「いいえ俺は、、、俺は彼の責任を取らねばならないのです…!」

 保健室の先生が心配そうに声を掛けているのは、潤が眠るベッドの側に勇ましく立っている凛堂貴嶺に対してである。
 握り締めた拳は、小さく震え、それは果たして彼のどの様な感情によるものなのかは、誰にも分からない。

 しかし、彼にしかわからない何かを、彼は汲み取ったという事は確かだった。

 無力感に駆られ、自らの不甲斐なさに凛堂は歯を食いしばり顔を歪めた。
 同行していた田邊は、心配気に凛堂に声を掛けた。

「凛堂くん、何もそこまで…」

「田邊!ーーー俺は渡邊について何も知らない、、、。けどな、俺にもわかることがあるんだよ」

「ーーー分かった。ここは凛堂くんに任せるよ」

 田邊もまた、自分の不甲斐なさに声が震えている。
 しかし、それを聞き凛堂ははっとした表情を見せた。

「田邊・・・ありがとう」

「潤のこと、任せたよ」

「あぁ」

 そして、二人は互いの拳を当て合い漢の別れを交わすのだった。

 なんだこの茶番ーーーという言葉を押し殺し、保健室の先生は迷惑そうにそのやりとりを眺めていたことはまた別のお話である。

 田邊が保健室から出て行き、教室に戻ったことにより、今保健室には昏睡状態(気絶)の渡邊と、困惑顔をした保健室の先生のみとなった。

 しかし、それも束の間。突然保健室の扉が勢いよく開き、そこから現れたのは長い黒髪を靡かせる一人の少女だった。

「貴嶺!」

「…小春?」

 橘小春。渡邊や凛堂のクラスメイトであり、また、凛堂の彼女である。

「どうした?」

「どうしたじゃないよ!いきなりその人の元駆けつけたかと思ったら、急にその人田邊くんと担いで教室出ちゃって…、もう二限始まってるよ!」

 この異様な空間に、唯一の常識人が来た!と、顔を明るくする保健室の先生。

「ーーー悪い、俺、今日の授業は午後から出るって先生に伝えておいてくれ」

「だ、駄目だよそんなの!ただでさえ馬鹿なのに、そんな毎回毎回授業サボってたら、なんの取り柄となくなっちゃうよ!」

「小春!」

「小春!じゃない!」

 保健室に、不穏な風が吹く。橘の叫弾は、というか正論は、決して凛堂の心に響く事はなく、ただ名前を叫ばれるだけで片付かされてしまう。

「もしかして…まだ、あのこと引きずってるの?」

「ーーーやめろ、小春」

「あ、あの!保健室では静かに…」

「「部外者は出てって!」くれ!」

「えぇぇぇぇ…………」

 保健室の先生が、半ば無理矢理保健室から放り出され、ただの徘徊先生と化す。
 そして遂に、教室内には凛堂と橘、そして昏睡状態(もはや寝てるだけ)の渡邊、の三人となった。

「…やっぱり、あのことが原因なんでしょ?貴嶺がこうなったのって」

「ーーー」

「もういい加減忘れなよ!」

「小春!」

「小春!じゃない!」

 何が凛堂をこれ程までに駆り立て、その足を手を心を動かしているのか。
 橘小春は、知っている。何故なら、立場は、凛堂の彼女なのだから。

 だからこそ、その幻想を打ち砕いてやる義務があるのだ。

 凛堂を束縛し、蚕食する一年前に起きた出来事に対するトラウマをーーー。


「こうなったのは、俺が佐藤さんを惚れさせられなかったのが原因だってーーー本気で言ってるの!?」


 
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