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第1章 3度目の人生
[14] 2人の王子②
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私の仮病から、テオイもクラスメイトも挨拶する程度で話しかけてくることはなかった。
貴族は、病気になることを極端に恐れているから。
ダリアンがまことしやかに私の悪口を言い立てている効果も出ているのかもしれない。
「姉は、病弱な上に自分以外の人と関わりたくないようですの」
「先日、姉がヒステリーを起こし、メイドを何度も叩いて。止めに入った家令も怪我をして大変でしたわ」
「家族で食事をしていても好みが違うと料理長を呼び出して文句を言いますの。毎回なので、たしなめるのが大変です」
すべて、ダリアン自身の振る舞いだ。それを他人事にして言えるのはダリアンの才能の一つと言える。ま、独りになりたい私にとってはありがたかった。
お昼休みには食堂で売っているサンドイッチを口にしてから、図書館で過ごした。
元々、本を読むのは好きだったし、図書館は静寂をルールにしているから話しかけてくる人もいない。
私は、図書館の奥でビッザント帝国の歴史書を探していた。
ビッザント帝国は母の祖国だ。
7つの国しかないこの大陸で35%の領土を持つ。
ちなみにパルティアン王国の領土は8%。
いつか行ってみたいとずっと思っていた。だから、知識は増やしておきたい。
私は、司書にビッザント帝国の歴史書の保存場所を聞き、図書館の奥へ進んだ。
奥へ行けば行くほど、ノートをとるペンの音やページをめくる音も遠のき、私の靴の音しか聞こえなくなった。
司書は、赤い色の書架表示が目印と言っていた。
ここだわ。
私は、期待をまとわりながら本棚の角を回り込んだ。
先客がいた。
「君は……」
私は心の中で舌打ちした。無防備すぎた。まさか、ここで会うとは。
「お邪魔して申し訳ございません。マシュー・メルクリウス殿下」
私は制服のスカートの裾をそっと持ち上げ、カーテシーで丁寧に挨拶をした。
「初めてお目にかかります。レノドン伯爵の長女、ピオニーが第2王子殿下にご挨拶いたします」
2度目の人生で出会ったマシューの無機質な無情さを思い出し、口の中が苦くなった。
マシューはテオイの腹違いの弟。
テオイとは1歳違いで、ヴァイバーナンと同じ歳。第2学年にいる。
マシューは、母親譲りの黒い髪と国王と同じエメラルドグリーンの瞳を持っていた。
マシューの母は、皇后の侍女から国王のお手付きとなり、皇妃となった。
社交界では「泥棒猫」だの「盗人」だの陰口を言われていた。
だが、マシューの祖父、つまり、マシューの母の父親がこの国の宰相である。表立って皇妃を蔑ろにする人は皇后だけだった。
マシューは、祖父から英才教育を施されており、知能指数はかなり高い策士と聞いたことがある。
国王から引き継いだ青い騎士団の役割を明文化し、うまく率いていることを鑑みても侮れない人物だ。
それにマシューは知らないだろうが、青い騎士団はキルコス傭兵団のクライアントでもある。
私は気持ちを引き締めた。
「編入したピオニー嬢か。早々に兄の誘いを断ったと聞いたが」
私は顔を上げ、マシューを見上げた。マシューは、無表情で私を見ている。噂通り、何を考えているのかわかりにくい男だ。
「体調が思わしくなかったものですから」
「……君の妹や母親と違って、心の扉は開放的ではないと。そういうことか?」
私はマシューを見つめた。社交界で『心の扉が開放的』とは『尻軽』ということだろう。
それは、確かに的を射ているが、皮肉に対して何て返すのが正解だろうか。
「殿下……恐れながら、いかなるご趣旨でございますでしょうか」
私は戸惑った顔を見せ、首を傾げた。とぼけるのが正解だろう。
マシューの薄い唇が、静かに片方だけ吊り上がった。
「まあ、いい。ところで、ここには何しに? 他国の歴史書しかないが」
「私は、パルティアン王国以外の国を知りません。他国はどのような国なのか見識を広めるための本を探しに参りました」
「そうか。では、ごゆっくり。また会おう」
マシューは、本を持たずに去っていった。
先回りして私を待っていたのだろうか。マシューならやりかねない。
また会うつもりだとわかって憂鬱になった。
貴族は、病気になることを極端に恐れているから。
ダリアンがまことしやかに私の悪口を言い立てている効果も出ているのかもしれない。
「姉は、病弱な上に自分以外の人と関わりたくないようですの」
「先日、姉がヒステリーを起こし、メイドを何度も叩いて。止めに入った家令も怪我をして大変でしたわ」
「家族で食事をしていても好みが違うと料理長を呼び出して文句を言いますの。毎回なので、たしなめるのが大変です」
すべて、ダリアン自身の振る舞いだ。それを他人事にして言えるのはダリアンの才能の一つと言える。ま、独りになりたい私にとってはありがたかった。
お昼休みには食堂で売っているサンドイッチを口にしてから、図書館で過ごした。
元々、本を読むのは好きだったし、図書館は静寂をルールにしているから話しかけてくる人もいない。
私は、図書館の奥でビッザント帝国の歴史書を探していた。
ビッザント帝国は母の祖国だ。
7つの国しかないこの大陸で35%の領土を持つ。
ちなみにパルティアン王国の領土は8%。
いつか行ってみたいとずっと思っていた。だから、知識は増やしておきたい。
私は、司書にビッザント帝国の歴史書の保存場所を聞き、図書館の奥へ進んだ。
奥へ行けば行くほど、ノートをとるペンの音やページをめくる音も遠のき、私の靴の音しか聞こえなくなった。
司書は、赤い色の書架表示が目印と言っていた。
ここだわ。
私は、期待をまとわりながら本棚の角を回り込んだ。
先客がいた。
「君は……」
私は心の中で舌打ちした。無防備すぎた。まさか、ここで会うとは。
「お邪魔して申し訳ございません。マシュー・メルクリウス殿下」
私は制服のスカートの裾をそっと持ち上げ、カーテシーで丁寧に挨拶をした。
「初めてお目にかかります。レノドン伯爵の長女、ピオニーが第2王子殿下にご挨拶いたします」
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マシューはテオイの腹違いの弟。
テオイとは1歳違いで、ヴァイバーナンと同じ歳。第2学年にいる。
マシューは、母親譲りの黒い髪と国王と同じエメラルドグリーンの瞳を持っていた。
マシューの母は、皇后の侍女から国王のお手付きとなり、皇妃となった。
社交界では「泥棒猫」だの「盗人」だの陰口を言われていた。
だが、マシューの祖父、つまり、マシューの母の父親がこの国の宰相である。表立って皇妃を蔑ろにする人は皇后だけだった。
マシューは、祖父から英才教育を施されており、知能指数はかなり高い策士と聞いたことがある。
国王から引き継いだ青い騎士団の役割を明文化し、うまく率いていることを鑑みても侮れない人物だ。
それにマシューは知らないだろうが、青い騎士団はキルコス傭兵団のクライアントでもある。
私は気持ちを引き締めた。
「編入したピオニー嬢か。早々に兄の誘いを断ったと聞いたが」
私は顔を上げ、マシューを見上げた。マシューは、無表情で私を見ている。噂通り、何を考えているのかわかりにくい男だ。
「体調が思わしくなかったものですから」
「……君の妹や母親と違って、心の扉は開放的ではないと。そういうことか?」
私はマシューを見つめた。社交界で『心の扉が開放的』とは『尻軽』ということだろう。
それは、確かに的を射ているが、皮肉に対して何て返すのが正解だろうか。
「殿下……恐れながら、いかなるご趣旨でございますでしょうか」
私は戸惑った顔を見せ、首を傾げた。とぼけるのが正解だろう。
マシューの薄い唇が、静かに片方だけ吊り上がった。
「まあ、いい。ところで、ここには何しに? 他国の歴史書しかないが」
「私は、パルティアン王国以外の国を知りません。他国はどのような国なのか見識を広めるための本を探しに参りました」
「そうか。では、ごゆっくり。また会おう」
マシューは、本を持たずに去っていった。
先回りして私を待っていたのだろうか。マシューならやりかねない。
また会うつもりだとわかって憂鬱になった。
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