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第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―
[22] 面倒な晩餐、血の倉庫 ①
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競技大会が終わり、夏休みが始まった初日に、私はレノドン伯爵たちと晩餐を共にしていた。
当然、いつも通り遅れて入り(1時間遅い開始時間を言われるから)、スープを飲んでいる時に私以外はメイン料理を食べていた。
今まで、ダリアンの自慢話が主役の晩餐では、毒入り料理はない。
だが、今日の私はメイン料理にたどり着けるだろうか。
私は、無言でスープをすすった。
「そういえば、ダリアンはダンスで準優勝だったと聞いたぞ」
レノドン伯爵が嬉しそうに微笑む。
「そうなの! 優勝はヴァイバーナン様だから、いいほうよね?」
ダリアンは、わざとらしく首をかしげ、長いまつげをぱちぱちと瞬かせた。
「もちろんよ。一流の家庭教師をつけたかいがあるわ。お父様にブルーダイヤのフルセットでも買っていただきましょう」
スカビエス夫人も一緒に長いまつげをぱちぱちと瞬かせ、レノドン伯爵を見つめた。
そんなお金、あったかしら? と、心の中で呟きながら、私は、まだ手つかずの前菜を淡々と口に運び始めた。
「そういえば、お義姉さまのチームも優勝したんでしょう?」
ダリアンが余計なことを言い出した。わざとらしく唇の端を上げ、こちらの反応を楽しむようにちらりと視線を寄越す。
「ほぉ、そうなのか」
レノドン伯爵が反応し、目を細めた。
「個人賞は平民だって、聞いたわ。残念だったわね、お義姉さま」
ダリアンは甘ったるい声にわずかな棘を混ぜて、私を見た。
私はメイン料理が届くのを待ちながら、パンをちぎった。
ほんの一瞬だけ視線をダリアンに送ると、まるで獲物をつつく前の小鳥のように、楽しげに私の表情を探っていた。
「アンナさんは、とても勇敢でした。平民でも危険を顧みずチームを助けようとしたということで、表彰されたのです」
私は事実だけを伝えた。感情を挟むと面倒なことになるから。
「私は、怖くて動けませんでした」
「お前は、お前の母親に似て本当に無能だな」
レノドン伯爵は鼻で笑い、突き放すように言った。
私は上目遣いでレノドン伯爵を見た。母を持ち出すとは、相変わらず品がない。
「そういえば、お義姉さま! サイラス様のことお聞きになった?」
「何のことかしら」
「クラーク伯爵家ではそれはもう大騒ぎだったそうよ」
私が黙っていると、スカビエス夫人が口を挟んできた。
「あら、どうされたの? クラーク伯爵家は、確か、代々、赤の騎士団の団長でしょう?」
「ええ、サイラス様、団長のお父様にこっぴどく殴られた上に夏休み中、邸内で鍛錬ですって。これもすべて、お義姉さまのせいじゃない?」
レノドン伯爵とスカビエス夫人が訝しげに私を見る。
「そうなのか?」
レノドン伯爵の問いに、私の代わりにダリアンが答えた。
「そうなのよ、お父様。なんでも、お義姉さまが偶然拾った魔虫の頭を平民に渡したからだと噂になっているわ。普通だったら、リーダーのサイラス様にお渡しになるでしょう?」
こんな短期間で噂になってるなんて、ダリアンの情報網はかなり上流らしい。
「テオイ様も戸惑ってらしたわ」
なるほど。情報源は第1王子か。回帰前も今も、相変わらずご親密ということだ。
レノドン伯爵は顔を赤くして怒り出した。
「何で、そんなことをしたのだ。クラーク伯爵家に恩を売れたのに。本当に無能だ」
私は俯いて黙っていた。やっぱり、メイン料理は食べられそうにない。そもそも用意されていないのかも。給仕が持ってくる気配もなかった。
その時、家令が慌てて入室し、レノドン伯爵へ耳打ちした。
「なんだと?!」
レノドン伯爵の顔が歪んだ。
「まったく、なんでそんなことになるんだ!」
レノドン伯爵がテーブルを叩き、スカビエス夫人とダリアンは眉をひそめた。
「どいつもこいつも役立たずめ!」
レノドン伯爵の様子から、一目で悪いことが起こったとわかった。
レノドン伯爵はデザートを食べる前に退室し、スカビエス夫人が後を追った。
私も退室しようと立ち上がると、ダリアンが私の前に立ちはだかった。
「お義姉さま、アカデミーでは大人しくしていたほうがよろしいわよ。ただでさえ、サイラス様が次の一手を考えていらっしゃるのだから」
「……そう。わかったわ」
サイラスが何かする予定だとわざわざ教えてくれるのは、自分が楽しみだからか。
私は相手にするのも馬鹿らしく、微笑み返して部屋に戻った。
「ピオニー様、伯爵はベルネス湾の船着き場に向かったようです」
私が部屋に戻るとマリアドネが告げた。
「わかったわ。行ってくる」
私は急いで着替えを済ませ、テンマに乗って、馬丁のトムと連れ立った。
当然、いつも通り遅れて入り(1時間遅い開始時間を言われるから)、スープを飲んでいる時に私以外はメイン料理を食べていた。
今まで、ダリアンの自慢話が主役の晩餐では、毒入り料理はない。
だが、今日の私はメイン料理にたどり着けるだろうか。
私は、無言でスープをすすった。
「そういえば、ダリアンはダンスで準優勝だったと聞いたぞ」
レノドン伯爵が嬉しそうに微笑む。
「そうなの! 優勝はヴァイバーナン様だから、いいほうよね?」
ダリアンは、わざとらしく首をかしげ、長いまつげをぱちぱちと瞬かせた。
「もちろんよ。一流の家庭教師をつけたかいがあるわ。お父様にブルーダイヤのフルセットでも買っていただきましょう」
スカビエス夫人も一緒に長いまつげをぱちぱちと瞬かせ、レノドン伯爵を見つめた。
そんなお金、あったかしら? と、心の中で呟きながら、私は、まだ手つかずの前菜を淡々と口に運び始めた。
「そういえば、お義姉さまのチームも優勝したんでしょう?」
ダリアンが余計なことを言い出した。わざとらしく唇の端を上げ、こちらの反応を楽しむようにちらりと視線を寄越す。
「ほぉ、そうなのか」
レノドン伯爵が反応し、目を細めた。
「個人賞は平民だって、聞いたわ。残念だったわね、お義姉さま」
ダリアンは甘ったるい声にわずかな棘を混ぜて、私を見た。
私はメイン料理が届くのを待ちながら、パンをちぎった。
ほんの一瞬だけ視線をダリアンに送ると、まるで獲物をつつく前の小鳥のように、楽しげに私の表情を探っていた。
「アンナさんは、とても勇敢でした。平民でも危険を顧みずチームを助けようとしたということで、表彰されたのです」
私は事実だけを伝えた。感情を挟むと面倒なことになるから。
「私は、怖くて動けませんでした」
「お前は、お前の母親に似て本当に無能だな」
レノドン伯爵は鼻で笑い、突き放すように言った。
私は上目遣いでレノドン伯爵を見た。母を持ち出すとは、相変わらず品がない。
「そういえば、お義姉さま! サイラス様のことお聞きになった?」
「何のことかしら」
「クラーク伯爵家ではそれはもう大騒ぎだったそうよ」
私が黙っていると、スカビエス夫人が口を挟んできた。
「あら、どうされたの? クラーク伯爵家は、確か、代々、赤の騎士団の団長でしょう?」
「ええ、サイラス様、団長のお父様にこっぴどく殴られた上に夏休み中、邸内で鍛錬ですって。これもすべて、お義姉さまのせいじゃない?」
レノドン伯爵とスカビエス夫人が訝しげに私を見る。
「そうなのか?」
レノドン伯爵の問いに、私の代わりにダリアンが答えた。
「そうなのよ、お父様。なんでも、お義姉さまが偶然拾った魔虫の頭を平民に渡したからだと噂になっているわ。普通だったら、リーダーのサイラス様にお渡しになるでしょう?」
こんな短期間で噂になってるなんて、ダリアンの情報網はかなり上流らしい。
「テオイ様も戸惑ってらしたわ」
なるほど。情報源は第1王子か。回帰前も今も、相変わらずご親密ということだ。
レノドン伯爵は顔を赤くして怒り出した。
「何で、そんなことをしたのだ。クラーク伯爵家に恩を売れたのに。本当に無能だ」
私は俯いて黙っていた。やっぱり、メイン料理は食べられそうにない。そもそも用意されていないのかも。給仕が持ってくる気配もなかった。
その時、家令が慌てて入室し、レノドン伯爵へ耳打ちした。
「なんだと?!」
レノドン伯爵の顔が歪んだ。
「まったく、なんでそんなことになるんだ!」
レノドン伯爵がテーブルを叩き、スカビエス夫人とダリアンは眉をひそめた。
「どいつもこいつも役立たずめ!」
レノドン伯爵の様子から、一目で悪いことが起こったとわかった。
レノドン伯爵はデザートを食べる前に退室し、スカビエス夫人が後を追った。
私も退室しようと立ち上がると、ダリアンが私の前に立ちはだかった。
「お義姉さま、アカデミーでは大人しくしていたほうがよろしいわよ。ただでさえ、サイラス様が次の一手を考えていらっしゃるのだから」
「……そう。わかったわ」
サイラスが何かする予定だとわざわざ教えてくれるのは、自分が楽しみだからか。
私は相手にするのも馬鹿らしく、微笑み返して部屋に戻った。
「ピオニー様、伯爵はベルネス湾の船着き場に向かったようです」
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