17 / 49
第4章の5「本気でやれよ」
しおりを挟む
隆正と甲が姿を消した、次の日。
龍青学園では、朝から全生徒全教師が運動場に集まる事態となっていた。
「諸君!」
朝礼台の上で青葉園長がマイクで吠える。
「校門横と職員室横の掲示板を見て、もう知っている者もいるだろう!」
青葉の言う掲示板には、何者かが貼ったポスターがあった。内容は『決闘!黒点塾対GCSA!』という見出しで、今日から五日後に行われる試合の事が書かれていた。
第一試合から第五試合まで一方的に試合を組んだものであり、しかも黒点塾の選手の中に『谷角甲』と『山嵐隆正』の名前があった。
その他、竜沢と鏡は第五試合以外は一競技しか出れないこと等、黒点塾にとって都合のいい規定が色々と書かれており、黒点塾と試合できるのはGCSAと七月、学美、そして『裏切者の鶴野つくし』のみ、とも書かれていた。
「何があったか…という事は朝一番で竜沢くんから聞いた。どうやら黒点塾とやらはGCSAを潰そうとしている。それがいったい何の為かは謎だ。…しかし!GCSAは今まで我々を救ってくれたチーム!絶対に潰させてはならない!そうだろう諸君!」
「いーぞぉ園長!」
「その通りだー!」
生徒達からも声が上がる。
「そして裏切り者と称されている一年生の鶴野つくしくんだが、竜沢くんが言うには彼女はもう龍青の仲間だそうだ。無論、私もそう思っている。そして何より、何故…谷角くんと山嵐くんが黒点塾に名前を連ねているかという事だが、それは……分からんっ!はっきり言おう!分からんっ!」
力強く二回言う。
「しかし!きっと何か理由があるはずだ!…今、我々が出来る事はほんのちょっとの事だろう。それでも我々は彼等を、GCSAを信じ、精一杯の事をしようではないか!」
「うおおおおおー!」
「園長ステキー!」
盛り上がる龍青学園。何でもかんでもお祭り騒ぎにするなって…。だが今、間違いなく龍青学園はGCSAを中心にまとまっていた。
「何だかな~。」
呆れる竜沢。
「いいんじゃないですか?」
「そうね。何にせよ心強いじゃない。」
と言いながらも、流香は引っ掛かっていた。
試合の場所を龍青学園にしている理由…そこに何かがあると流香は感じていたのだ。
「一方的に組まれた試合だが…やってやる。グッと行くぞ!」
「そうですね。」
「ふぅ~。」
たった三人のGCSA。だが、龍青の生徒や教師、全てがGCSAの味方である。
甲や隆正と戦わねばならない事は気がかりだが、龍青の皆が一緒だと思うと竜沢達三人は、やはりどこか心強かった。
「お、そういやこれ当初のメンバーだな。…最初からずっと依頼を達成してきた俺達だから…まぁ何とかなるだろっ。」
竜沢は気楽…のように振舞っているが、内心は色々と真剣に考えていた。そんな竜沢の考えている事も、GCSA発足時のメンバーである鏡と流香には分かっていた。
「初めての依頼って、何でしたっけ?」
「え?え、えーと…ト、トイレ掃除?」
「ふぅ~…体育倉庫のモップがけよ。」
あんまり噛み合っていない竜沢達であった。
そして、あっという間に放課後。つくしは生徒指導室にいた。竜沢、鏡、流香もいる。
「なぁつくしちゃん。いつまでそうしてんだ?話しに来てくれたんじゃないのか?」
竜沢達のところに来たつくしだが、ずっと無言であった。
「…。」
上目使いに鏡を見るつくし。流香、ちょっと『ピクッ』。
「お願いします。」
ニコっとする鏡に、つくしは徐々にその重い口を開いた。
「黒点塾塾長は色々な学校や土地を回って、何かの理由で学校に居づらくなった生徒達の中から特に潜在能力の高そうな子を勧誘してたみたい。その後は、毎日特殊な訓練をしてた。斎藤さん達が話してるのを聞いただけなんだけど、その大きな目的の一つが…龍青学園の壊滅。」
「どうして龍青学園なの?」
「それは分からない。何か、恨んでいるような…。」
顔を見合わせる竜沢達三人。
「それで塾長ってこの前言ってた、黒い仮面の男なのか?」
竜沢の問いに、うなずくつくし。
「塾長は龍青学園を乗っ取り、私達の楽園にするって…。」
「ら、楽園とはまた…。」
苦笑いの鏡。
「つくしちゃん、教えて欲しいんだが…」
そこまで言ってから鏡の方を見る竜沢。鏡は小さくうなずいた。
「…何故、鏡だけ特別扱いなんだ?」
「はっきりとは分からない。でも…これも斎藤さん達が話してた事なんだけど…川波先輩は、塾長が自分で倒したがってるみたい。それ以上の事は知らない。」
黒点塾塾長と鏡の間にいったい何が…その場の全員が考えていた。
「ふぅ~…黒い闇がかかってる感じ、ね。」
黒い仮面男の企みの裏に、いったい何があるのか…。
「さて、つくしちゃん。依頼の言葉、聞かしてもらえるかな?」
「う、うん…。私を、黒点塾から守って下さい。」
こうしてGCSAはつくしからの依頼を受けた。報酬は、少しずつでも黒点塾の秘密を話すこと。黒点塾の全貌が徐々に見えてくる。
その日の晩、竜沢の家。
〝…甲と隆正は黒点塾…か〟
竜沢が真っ暗な部屋で考え事をしていると、家に帰ってきた暮巴が『ん?』という表情をした後、ゆっくりと竜沢の横に座った。
「おかえり。…何だよ。」
「別にぃ。」
何も言わず、ただ座っている暮巴。しばらく沈黙した後、竜沢が口を開いた。
「あの、な…」
目を合わさずに話し出す竜沢。
「姉ちゃんなら、どうする?」
「何が?」
「仲間と真剣に戦う事になったら。」
「ははっ。殺し合いでもすんのか?」
笑いながら暮巴が言う。
「なっ、んな訳無いだろっ!」
「じゃあいいじゃないか。本気でやれよ。」
軽く言う暮巴に、竜沢は『はっ!』とした。
「あんたは、そんな簡単な事が分からなかったのかい?」
ニヤッとする暮巴に、少しむくれる竜沢。
「わ、分かってるよ、そんな事は。」
「…だろうね。あんたはそういうとこだけは鋭いというか、自然と理解してたというか…。私に聞かなくたってあんたはもう次に何をするべきか分かってんだろ?」
暮巴の言葉に、唇を噛み締める竜沢。
「あの頃、私とお母さんを助ける為にあんたは強くなっていった。自分を犠牲にしてでも私達を助けてくれた。…あんたは相手の痛みを自分の痛みに出来る、そんな男だ。あと…あんたは仲間を作る事に関しちゃあ天才だと思うよ。」
「姉ちゃん…お、おうっ。」
珍しく暮巴が褒めまくるもんで照れる竜沢。
「まぁ、それくらいしか取り得なかったか。」
「くっ…。」
しっかり落とすところが暮巴らしい。だが、お陰で竜沢は決心がついた。
〝ありがとう、姉ちゃん〟
口に出して言うと暮巴が調子に乗るので、心の中で感謝する竜沢であった。
同じ頃、鏡のマンション。
「はい。」
スマホを手に取る鏡。相手は流香であった。
「どうしたんです?」
「えっと…どうなのかなって。その、甲くん達と…」
「いや、僕も少し考えたんですが、ふと思ったんです。」
「え?」
「竜沢くんなら、どうするかってね。」
「竜沢くんなら…」
「そう。竜沢くんならどうするか…。あの人は、最初は悩むでしょうけど、でもやっぱり思い切り本気で戦うと思います。だから僕も、そうしようと思います。」
「…それは、もしも相手が竜沢くんだったとしても?」
「もちろんです。」
鏡には全く迷いがなかった。
「…鏡くんは竜沢くんの事をよく分かってるのね。」
「さぁ、どうなんでしょうか…。僕が勝手にそう思ってるだけかもしれません。」
「そっか。…え、えーと、私の…事は?」
〝きゃーっ!きゃーっ!ドサクサに紛れて私ってば何聞いてるのよ~!〟
自分で言っといて心の中でおおいに焦る流香。
「流香さんの事は、自分では分かってるつもりですが…実はよく分かってないのかもしれません。だから、もっと知りたいと思ってます。」
「え?」
「ははっ。」
笑ってごまかす鏡。
「まぁ、とにかく試合…頑張りますから。」
「うん。」
「僕ら全員の応援、お願いしますよ。」
「全員の?そっか…そうね。うんっ、分かった。」
電話を切った後、スマホを持つ手に力が入る鏡。
「GCSAは…潰させない。」
鏡の決意は固い。
同じ頃、黒点塾塾生寮。
「…。」
こちらも真っ暗な部屋。無言で窓の外を見ている甲。
「…寝ぇへんのか?」
「…。」
二段ベッドの上段に寝転がったまま言う隆正を、無視する甲。
「…無視すんなや。」
「…ふん。」
いつもなら涙目になって大声で言う隆正と、それを軽く鼻で笑う甲だが…どこか寂しそうな二人。
「なぁ………いや、やっぱ何もない。」
「…。」
その時、二人の部屋のドアをノックする音が…。
「誰やっ?!」
何故か緊張する二人。
「…私よ。」
その声は黒崎深雪であった。
「入っていい?」
「…ええけど。」
甲の反応を少し待った後、返事をする隆正。甲は無反応。
「こんばんは。あら電気も点けないで。…どう?気分は。」
部屋に入って来た深雪を、隆正と甲は無言で見ていた。
「あまりよくない様ね。ダメよ、そんな事じゃ。竜沢くん達に勝てないわよ。」
黙っている甲と隆正。
「…明日は六時に起床、トレーニングルームAに集合。塾長が直々に特訓してくださるそうよ。」
深雪の言葉に、終始無言で答える二人であった。
「遅れないように、ね。」
ゆっくり部屋を出て、扉を閉める深雪であった。
次の日の朝、龍青学園生徒指導室。竜沢、七月、流香の三人が集まっていた。
「黒点塾の場所?」
竜沢と七月は顔を見合わせた。
「調べてたんだけど、案の定そんな塾は何処にもないの。」
『そうだろうな』と思う竜沢と七月。
「でも収穫はあった。これを見て。」
流香のノートパソコンを覗き込む二人。
「刻天…塾?」
恋愛成就で知られている刻天神社と同じ名をした塾…竜沢はハッとした。
「刻天塾っていう塾が、学園都市の南端…グレートの近所にあるの。あの恋愛成就の刻天神社とは関係ない、そういう名の塾がね。」
そこで七月も理解した。
「そう。刻天神社っていうのがあるから気付きにくかったんだけど、これは間違いなく黒点塾よ。奇妙な事にドーム型の運動場が隣接している。ただの塾じゃないわ。」
流香の言葉に、唾を飲む二人。
「…どうする?神ちゃん。」
七月が言った。それは『黒点塾に行くかどうか』という意味だ。
「いや…今は試合の事だけを考えたい。悪いな流香、せっかく調べてくれたのに。」
「そんな事はいいけど。…いいの?本当に。」
「ああ。」
真剣な竜沢の顔を見て、流香と七月はうなずいた。
「ふぅ~…男の子って時々こうなるよね。」
軽く微笑んで、ため息をつく流香。
「悪い。」
もう一度謝る竜沢。竜沢は、今黒点塾に行って甲達と話したところでどうにもならないと分かっていた。戦わなければ前に進めない…そう考えていた。
「全ては試合の後だ。…グッと行くぞ。」
誰に言う訳でもなく、竜沢は呟いた。
龍青学園では、朝から全生徒全教師が運動場に集まる事態となっていた。
「諸君!」
朝礼台の上で青葉園長がマイクで吠える。
「校門横と職員室横の掲示板を見て、もう知っている者もいるだろう!」
青葉の言う掲示板には、何者かが貼ったポスターがあった。内容は『決闘!黒点塾対GCSA!』という見出しで、今日から五日後に行われる試合の事が書かれていた。
第一試合から第五試合まで一方的に試合を組んだものであり、しかも黒点塾の選手の中に『谷角甲』と『山嵐隆正』の名前があった。
その他、竜沢と鏡は第五試合以外は一競技しか出れないこと等、黒点塾にとって都合のいい規定が色々と書かれており、黒点塾と試合できるのはGCSAと七月、学美、そして『裏切者の鶴野つくし』のみ、とも書かれていた。
「何があったか…という事は朝一番で竜沢くんから聞いた。どうやら黒点塾とやらはGCSAを潰そうとしている。それがいったい何の為かは謎だ。…しかし!GCSAは今まで我々を救ってくれたチーム!絶対に潰させてはならない!そうだろう諸君!」
「いーぞぉ園長!」
「その通りだー!」
生徒達からも声が上がる。
「そして裏切り者と称されている一年生の鶴野つくしくんだが、竜沢くんが言うには彼女はもう龍青の仲間だそうだ。無論、私もそう思っている。そして何より、何故…谷角くんと山嵐くんが黒点塾に名前を連ねているかという事だが、それは……分からんっ!はっきり言おう!分からんっ!」
力強く二回言う。
「しかし!きっと何か理由があるはずだ!…今、我々が出来る事はほんのちょっとの事だろう。それでも我々は彼等を、GCSAを信じ、精一杯の事をしようではないか!」
「うおおおおおー!」
「園長ステキー!」
盛り上がる龍青学園。何でもかんでもお祭り騒ぎにするなって…。だが今、間違いなく龍青学園はGCSAを中心にまとまっていた。
「何だかな~。」
呆れる竜沢。
「いいんじゃないですか?」
「そうね。何にせよ心強いじゃない。」
と言いながらも、流香は引っ掛かっていた。
試合の場所を龍青学園にしている理由…そこに何かがあると流香は感じていたのだ。
「一方的に組まれた試合だが…やってやる。グッと行くぞ!」
「そうですね。」
「ふぅ~。」
たった三人のGCSA。だが、龍青の生徒や教師、全てがGCSAの味方である。
甲や隆正と戦わねばならない事は気がかりだが、龍青の皆が一緒だと思うと竜沢達三人は、やはりどこか心強かった。
「お、そういやこれ当初のメンバーだな。…最初からずっと依頼を達成してきた俺達だから…まぁ何とかなるだろっ。」
竜沢は気楽…のように振舞っているが、内心は色々と真剣に考えていた。そんな竜沢の考えている事も、GCSA発足時のメンバーである鏡と流香には分かっていた。
「初めての依頼って、何でしたっけ?」
「え?え、えーと…ト、トイレ掃除?」
「ふぅ~…体育倉庫のモップがけよ。」
あんまり噛み合っていない竜沢達であった。
そして、あっという間に放課後。つくしは生徒指導室にいた。竜沢、鏡、流香もいる。
「なぁつくしちゃん。いつまでそうしてんだ?話しに来てくれたんじゃないのか?」
竜沢達のところに来たつくしだが、ずっと無言であった。
「…。」
上目使いに鏡を見るつくし。流香、ちょっと『ピクッ』。
「お願いします。」
ニコっとする鏡に、つくしは徐々にその重い口を開いた。
「黒点塾塾長は色々な学校や土地を回って、何かの理由で学校に居づらくなった生徒達の中から特に潜在能力の高そうな子を勧誘してたみたい。その後は、毎日特殊な訓練をしてた。斎藤さん達が話してるのを聞いただけなんだけど、その大きな目的の一つが…龍青学園の壊滅。」
「どうして龍青学園なの?」
「それは分からない。何か、恨んでいるような…。」
顔を見合わせる竜沢達三人。
「それで塾長ってこの前言ってた、黒い仮面の男なのか?」
竜沢の問いに、うなずくつくし。
「塾長は龍青学園を乗っ取り、私達の楽園にするって…。」
「ら、楽園とはまた…。」
苦笑いの鏡。
「つくしちゃん、教えて欲しいんだが…」
そこまで言ってから鏡の方を見る竜沢。鏡は小さくうなずいた。
「…何故、鏡だけ特別扱いなんだ?」
「はっきりとは分からない。でも…これも斎藤さん達が話してた事なんだけど…川波先輩は、塾長が自分で倒したがってるみたい。それ以上の事は知らない。」
黒点塾塾長と鏡の間にいったい何が…その場の全員が考えていた。
「ふぅ~…黒い闇がかかってる感じ、ね。」
黒い仮面男の企みの裏に、いったい何があるのか…。
「さて、つくしちゃん。依頼の言葉、聞かしてもらえるかな?」
「う、うん…。私を、黒点塾から守って下さい。」
こうしてGCSAはつくしからの依頼を受けた。報酬は、少しずつでも黒点塾の秘密を話すこと。黒点塾の全貌が徐々に見えてくる。
その日の晩、竜沢の家。
〝…甲と隆正は黒点塾…か〟
竜沢が真っ暗な部屋で考え事をしていると、家に帰ってきた暮巴が『ん?』という表情をした後、ゆっくりと竜沢の横に座った。
「おかえり。…何だよ。」
「別にぃ。」
何も言わず、ただ座っている暮巴。しばらく沈黙した後、竜沢が口を開いた。
「あの、な…」
目を合わさずに話し出す竜沢。
「姉ちゃんなら、どうする?」
「何が?」
「仲間と真剣に戦う事になったら。」
「ははっ。殺し合いでもすんのか?」
笑いながら暮巴が言う。
「なっ、んな訳無いだろっ!」
「じゃあいいじゃないか。本気でやれよ。」
軽く言う暮巴に、竜沢は『はっ!』とした。
「あんたは、そんな簡単な事が分からなかったのかい?」
ニヤッとする暮巴に、少しむくれる竜沢。
「わ、分かってるよ、そんな事は。」
「…だろうね。あんたはそういうとこだけは鋭いというか、自然と理解してたというか…。私に聞かなくたってあんたはもう次に何をするべきか分かってんだろ?」
暮巴の言葉に、唇を噛み締める竜沢。
「あの頃、私とお母さんを助ける為にあんたは強くなっていった。自分を犠牲にしてでも私達を助けてくれた。…あんたは相手の痛みを自分の痛みに出来る、そんな男だ。あと…あんたは仲間を作る事に関しちゃあ天才だと思うよ。」
「姉ちゃん…お、おうっ。」
珍しく暮巴が褒めまくるもんで照れる竜沢。
「まぁ、それくらいしか取り得なかったか。」
「くっ…。」
しっかり落とすところが暮巴らしい。だが、お陰で竜沢は決心がついた。
〝ありがとう、姉ちゃん〟
口に出して言うと暮巴が調子に乗るので、心の中で感謝する竜沢であった。
同じ頃、鏡のマンション。
「はい。」
スマホを手に取る鏡。相手は流香であった。
「どうしたんです?」
「えっと…どうなのかなって。その、甲くん達と…」
「いや、僕も少し考えたんですが、ふと思ったんです。」
「え?」
「竜沢くんなら、どうするかってね。」
「竜沢くんなら…」
「そう。竜沢くんならどうするか…。あの人は、最初は悩むでしょうけど、でもやっぱり思い切り本気で戦うと思います。だから僕も、そうしようと思います。」
「…それは、もしも相手が竜沢くんだったとしても?」
「もちろんです。」
鏡には全く迷いがなかった。
「…鏡くんは竜沢くんの事をよく分かってるのね。」
「さぁ、どうなんでしょうか…。僕が勝手にそう思ってるだけかもしれません。」
「そっか。…え、えーと、私の…事は?」
〝きゃーっ!きゃーっ!ドサクサに紛れて私ってば何聞いてるのよ~!〟
自分で言っといて心の中でおおいに焦る流香。
「流香さんの事は、自分では分かってるつもりですが…実はよく分かってないのかもしれません。だから、もっと知りたいと思ってます。」
「え?」
「ははっ。」
笑ってごまかす鏡。
「まぁ、とにかく試合…頑張りますから。」
「うん。」
「僕ら全員の応援、お願いしますよ。」
「全員の?そっか…そうね。うんっ、分かった。」
電話を切った後、スマホを持つ手に力が入る鏡。
「GCSAは…潰させない。」
鏡の決意は固い。
同じ頃、黒点塾塾生寮。
「…。」
こちらも真っ暗な部屋。無言で窓の外を見ている甲。
「…寝ぇへんのか?」
「…。」
二段ベッドの上段に寝転がったまま言う隆正を、無視する甲。
「…無視すんなや。」
「…ふん。」
いつもなら涙目になって大声で言う隆正と、それを軽く鼻で笑う甲だが…どこか寂しそうな二人。
「なぁ………いや、やっぱ何もない。」
「…。」
その時、二人の部屋のドアをノックする音が…。
「誰やっ?!」
何故か緊張する二人。
「…私よ。」
その声は黒崎深雪であった。
「入っていい?」
「…ええけど。」
甲の反応を少し待った後、返事をする隆正。甲は無反応。
「こんばんは。あら電気も点けないで。…どう?気分は。」
部屋に入って来た深雪を、隆正と甲は無言で見ていた。
「あまりよくない様ね。ダメよ、そんな事じゃ。竜沢くん達に勝てないわよ。」
黙っている甲と隆正。
「…明日は六時に起床、トレーニングルームAに集合。塾長が直々に特訓してくださるそうよ。」
深雪の言葉に、終始無言で答える二人であった。
「遅れないように、ね。」
ゆっくり部屋を出て、扉を閉める深雪であった。
次の日の朝、龍青学園生徒指導室。竜沢、七月、流香の三人が集まっていた。
「黒点塾の場所?」
竜沢と七月は顔を見合わせた。
「調べてたんだけど、案の定そんな塾は何処にもないの。」
『そうだろうな』と思う竜沢と七月。
「でも収穫はあった。これを見て。」
流香のノートパソコンを覗き込む二人。
「刻天…塾?」
恋愛成就で知られている刻天神社と同じ名をした塾…竜沢はハッとした。
「刻天塾っていう塾が、学園都市の南端…グレートの近所にあるの。あの恋愛成就の刻天神社とは関係ない、そういう名の塾がね。」
そこで七月も理解した。
「そう。刻天神社っていうのがあるから気付きにくかったんだけど、これは間違いなく黒点塾よ。奇妙な事にドーム型の運動場が隣接している。ただの塾じゃないわ。」
流香の言葉に、唾を飲む二人。
「…どうする?神ちゃん。」
七月が言った。それは『黒点塾に行くかどうか』という意味だ。
「いや…今は試合の事だけを考えたい。悪いな流香、せっかく調べてくれたのに。」
「そんな事はいいけど。…いいの?本当に。」
「ああ。」
真剣な竜沢の顔を見て、流香と七月はうなずいた。
「ふぅ~…男の子って時々こうなるよね。」
軽く微笑んで、ため息をつく流香。
「悪い。」
もう一度謝る竜沢。竜沢は、今黒点塾に行って甲達と話したところでどうにもならないと分かっていた。戦わなければ前に進めない…そう考えていた。
「全ては試合の後だ。…グッと行くぞ。」
誰に言う訳でもなく、竜沢は呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。
久野真一
青春
羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。
そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。
彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―
「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。
幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる