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第4章の9「思い切り行きます」
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第三試合は流香対森林の剣道対決であった。
屋上での戦いで一度森林に敗れている流香だが、今回は黒点塾に都合の良いものとはいえルールのある試合。
そこで流香は、森林の油断を誘った上に頭に血を上らせ、力んで硬くなったところに全く無駄のない動きからの『面』を叩き込む。森林は蚊に刺された程の痛みも感じていなかったが、当然試合は一本取った流香の勝利。僅か一秒での決着となった。
試合後怒りが収まらない森林が流香に襲い掛かるも、最速の動きで放った鏡のボディーブローが炸裂。怒りと痛みで真っ赤な顔になり倒れ落ちる森林。鏡に抱きかかえられた流香は、違う意味で真っ赤な顔になっていた。
「さあ、続いての第四試合は運動場ですが…運動場の鈴美さん?第三試合があまりにも早く終了してしまいましたが、準備は出来てますか?」
こちらは運動場。
「はい、運動場の鈴美です。準備の方は出来ています。ただ、本日は風が強いという予報が出ていた為にですね、事前準備の時には無かった強度を増すアルミ板が設置されてまして…」
特設リングの方を見る鈴美。
それは普通のリングとは違い、寒さ対策の為リングを透明の強化プラスチックで囲んでいた。また、所々にアルミの柱が格子状に入れられており、これはまるで…
「このリングはまるで…猛獣の檻のように見えます。」
静かに正面を向いている甲。だが何も見ていない。甲は黒点塾用に用意された控え室で、ただただ座っていた。
そこへ深雪が来る。
「山嵐くんはGCSAに戻ったわ。あなたはどうするの?」
「…関係ない。」
ゆっくりと立ち上がる甲。
「俺は…あいつと戦う為に、ここにいる。それだけだ。」
今、甲の頭の中にあるのは強い者と戦う事。鏡と戦う事。それだけだった。その物凄い迫力に圧倒される深雪。
こちらは鏡の控え室。
「鏡くん。」
流香が制服に着替えて来た。
「流香さん。」
「あれ?竜沢くん達は?」
「さっき運動場の方へ行きましたよ。」
つまり二人きり。
「え、え~と…さ、さっきはありがとう。」
「いえいえ、どういたしまして。」
いつものにこやかな鏡だった。
「あ、あの…怪我しないでね。」
「はい…と言いたいところですが、それは無理でしょうね。」
「え?」
「谷角くんが相手です。」
鏡の表情が少し険しくなった。心配になる流香。
「鏡くん…」
「大丈夫です。僕は絶対に倒れない。絶対に…負けません。」
表情が更に険しくなった鏡を見て、流香の心配度は増した。
「鏡くん…」
「流香さん?」
流香は、座っている鏡の目線に合わせる様にかがんだ。そして少しうつむいた。
「私…」
流香は、上目使いで話し出した。
「その…」
また少しうつむき、そしてまた顔を上げる流香。
鏡は流香を少し見つめた後、ニコリとしてゆっくり立ち上がった。
「もう時間ですね。…流香さん、絶対に…最後まで見ていて下さい。」
「え?」
「僕らの応援をお願いします。」
「僕らの…うん、分かった。…最後まで、頑張って。」
「はい、ありがとうございます。」
鏡は流香の瞳を見て軽く微笑んだ後…一切の笑顔を絶った。
「では…行きます。」
運動場。特設リングを中心に、みんなが集まっていた。
「いよいよやな。」
「ああ。それにしても七月、さっきは何でさっさと控え室を出ようって言ったんだ?」
竜沢の馬鹿さに、七月は首を左右に振った。
「な、何だよその人を馬鹿にしたような態度は?」
「観察力とか鋭いクセに、なんでこう…この系には弱いかなー。」
「い、いやいや待て。俺だって流香の気持ちは分かってるぞ?分かってるけどだなー、今は鏡をみんなでだなー。」
必死に言葉を並べて言い訳する竜沢。
「はい終わり終わり。試合が始まるよ。」
竜沢と七月の顔の間で、呆れながら手をパタパタする学美。
「さあ、選手の入場です!」
花道を通って、まず最初に現れたのは鏡だ。
「きゃー!鏡さまー!」
「鏡さまステキー!」
「きょ、う…様…?」
その大歓声は、しばらくするとなくなった。
「鏡、あいつ…」
竜沢は鏡の表情を見て言葉を詰まらせた。
「…え、と…か、川波鏡選手の入場!です、が…」
放送部の鈴美も思わずシドロモドロ。それほど鏡の表情が、今まで見た事もない様な険しいものだったのだ。
「そ、そして反対側からは谷角甲選手の入場です!」
甲に声援は一切ない。それは別に、甲に対しての思いとかそういうものではない。甲の表情も今まで見た事のないものだったからだ。いつもの無表情とは明らかに違う険しい表情。それは鏡同様…いや、それ以上に険しいものであった。
「両選手、リングに上がりました!」
睨み合う鏡と甲。そんな二人を見ている竜沢達や龍青の者達は、何とも言えない切ない気持ちになっていた。
「この時を待っていた。」
「思い切り行きます。」
一言ずつ言葉を交し、互いのコーナーへ下がる。
リングを覆う強化プラスチックの向こう側に、甲側には深雪、鏡側には竜沢がそれぞれ付いていた。深雪が甲に言う。
「勝つのよ。」
「…」
甲は無言。
「鏡…」
「竜沢くん、僕を信じてくれますか。」
「…いつもそうだろうが。」
竜沢が笑顔でそう言うと、鏡の表情が一瞬だけ和らいだ。
「行って来ます。」
そんな竜沢と鏡の姿を見て、七月達は少しホッとしていた。
「神ちゃん、鏡ちゃん…甲くん…大丈夫、だよね。」
「当たり前やんっ。俺等はみんな仲間やねんから。」
「隆正、ちょっと見ないうちにマトモな事を言うようになったね。」
「学美!な、何やねん、その言い方は!」
「うるさいなーもーっ。…ん?流香、どうかした?こっち来てからずっと顔赤いけど。もしかして何か進展あった?」
こそっと言う七月。
「な、何にもないっ。」
確かに何もないのだが何故かどもる流香。
「さ、試合に集中するわよ!」
そして流香は話しを逸らす。
『ぶぅ!』
そして隆正は屁をこく。
「飛べぇー!」
そして学美は隆正を蹴り飛ばす。
そんなみんなの姿を遠目で見ていた甲は、笑ってしまいそうなのを我慢していた。そのお陰で表情が少し柔らかくなった。そんな甲を見て、深雪は胸を押さえた。
〝あの人はこんな子達を利用している。私は…〟
竜沢の読み通り、深雪は迷っている。
しかし、この戦いは甲が望んでいるもの。誰であろうともう止める事は出来ない。
「さぁ、いよいよ…試合開始です!」
このボクシングにラウンドは存在しない。どちらかが三回ダウンするかギブアップするかしか試合は終わらない。
リングの上には審判も存在せず、鏡と甲の二人のみ。まさに猛獣同士の戦い。そして今、試合開始のゴングが鳴った。
屋上での戦いで一度森林に敗れている流香だが、今回は黒点塾に都合の良いものとはいえルールのある試合。
そこで流香は、森林の油断を誘った上に頭に血を上らせ、力んで硬くなったところに全く無駄のない動きからの『面』を叩き込む。森林は蚊に刺された程の痛みも感じていなかったが、当然試合は一本取った流香の勝利。僅か一秒での決着となった。
試合後怒りが収まらない森林が流香に襲い掛かるも、最速の動きで放った鏡のボディーブローが炸裂。怒りと痛みで真っ赤な顔になり倒れ落ちる森林。鏡に抱きかかえられた流香は、違う意味で真っ赤な顔になっていた。
「さあ、続いての第四試合は運動場ですが…運動場の鈴美さん?第三試合があまりにも早く終了してしまいましたが、準備は出来てますか?」
こちらは運動場。
「はい、運動場の鈴美です。準備の方は出来ています。ただ、本日は風が強いという予報が出ていた為にですね、事前準備の時には無かった強度を増すアルミ板が設置されてまして…」
特設リングの方を見る鈴美。
それは普通のリングとは違い、寒さ対策の為リングを透明の強化プラスチックで囲んでいた。また、所々にアルミの柱が格子状に入れられており、これはまるで…
「このリングはまるで…猛獣の檻のように見えます。」
静かに正面を向いている甲。だが何も見ていない。甲は黒点塾用に用意された控え室で、ただただ座っていた。
そこへ深雪が来る。
「山嵐くんはGCSAに戻ったわ。あなたはどうするの?」
「…関係ない。」
ゆっくりと立ち上がる甲。
「俺は…あいつと戦う為に、ここにいる。それだけだ。」
今、甲の頭の中にあるのは強い者と戦う事。鏡と戦う事。それだけだった。その物凄い迫力に圧倒される深雪。
こちらは鏡の控え室。
「鏡くん。」
流香が制服に着替えて来た。
「流香さん。」
「あれ?竜沢くん達は?」
「さっき運動場の方へ行きましたよ。」
つまり二人きり。
「え、え~と…さ、さっきはありがとう。」
「いえいえ、どういたしまして。」
いつものにこやかな鏡だった。
「あ、あの…怪我しないでね。」
「はい…と言いたいところですが、それは無理でしょうね。」
「え?」
「谷角くんが相手です。」
鏡の表情が少し険しくなった。心配になる流香。
「鏡くん…」
「大丈夫です。僕は絶対に倒れない。絶対に…負けません。」
表情が更に険しくなった鏡を見て、流香の心配度は増した。
「鏡くん…」
「流香さん?」
流香は、座っている鏡の目線に合わせる様にかがんだ。そして少しうつむいた。
「私…」
流香は、上目使いで話し出した。
「その…」
また少しうつむき、そしてまた顔を上げる流香。
鏡は流香を少し見つめた後、ニコリとしてゆっくり立ち上がった。
「もう時間ですね。…流香さん、絶対に…最後まで見ていて下さい。」
「え?」
「僕らの応援をお願いします。」
「僕らの…うん、分かった。…最後まで、頑張って。」
「はい、ありがとうございます。」
鏡は流香の瞳を見て軽く微笑んだ後…一切の笑顔を絶った。
「では…行きます。」
運動場。特設リングを中心に、みんなが集まっていた。
「いよいよやな。」
「ああ。それにしても七月、さっきは何でさっさと控え室を出ようって言ったんだ?」
竜沢の馬鹿さに、七月は首を左右に振った。
「な、何だよその人を馬鹿にしたような態度は?」
「観察力とか鋭いクセに、なんでこう…この系には弱いかなー。」
「い、いやいや待て。俺だって流香の気持ちは分かってるぞ?分かってるけどだなー、今は鏡をみんなでだなー。」
必死に言葉を並べて言い訳する竜沢。
「はい終わり終わり。試合が始まるよ。」
竜沢と七月の顔の間で、呆れながら手をパタパタする学美。
「さあ、選手の入場です!」
花道を通って、まず最初に現れたのは鏡だ。
「きゃー!鏡さまー!」
「鏡さまステキー!」
「きょ、う…様…?」
その大歓声は、しばらくするとなくなった。
「鏡、あいつ…」
竜沢は鏡の表情を見て言葉を詰まらせた。
「…え、と…か、川波鏡選手の入場!です、が…」
放送部の鈴美も思わずシドロモドロ。それほど鏡の表情が、今まで見た事もない様な険しいものだったのだ。
「そ、そして反対側からは谷角甲選手の入場です!」
甲に声援は一切ない。それは別に、甲に対しての思いとかそういうものではない。甲の表情も今まで見た事のないものだったからだ。いつもの無表情とは明らかに違う険しい表情。それは鏡同様…いや、それ以上に険しいものであった。
「両選手、リングに上がりました!」
睨み合う鏡と甲。そんな二人を見ている竜沢達や龍青の者達は、何とも言えない切ない気持ちになっていた。
「この時を待っていた。」
「思い切り行きます。」
一言ずつ言葉を交し、互いのコーナーへ下がる。
リングを覆う強化プラスチックの向こう側に、甲側には深雪、鏡側には竜沢がそれぞれ付いていた。深雪が甲に言う。
「勝つのよ。」
「…」
甲は無言。
「鏡…」
「竜沢くん、僕を信じてくれますか。」
「…いつもそうだろうが。」
竜沢が笑顔でそう言うと、鏡の表情が一瞬だけ和らいだ。
「行って来ます。」
そんな竜沢と鏡の姿を見て、七月達は少しホッとしていた。
「神ちゃん、鏡ちゃん…甲くん…大丈夫、だよね。」
「当たり前やんっ。俺等はみんな仲間やねんから。」
「隆正、ちょっと見ないうちにマトモな事を言うようになったね。」
「学美!な、何やねん、その言い方は!」
「うるさいなーもーっ。…ん?流香、どうかした?こっち来てからずっと顔赤いけど。もしかして何か進展あった?」
こそっと言う七月。
「な、何にもないっ。」
確かに何もないのだが何故かどもる流香。
「さ、試合に集中するわよ!」
そして流香は話しを逸らす。
『ぶぅ!』
そして隆正は屁をこく。
「飛べぇー!」
そして学美は隆正を蹴り飛ばす。
そんなみんなの姿を遠目で見ていた甲は、笑ってしまいそうなのを我慢していた。そのお陰で表情が少し柔らかくなった。そんな甲を見て、深雪は胸を押さえた。
〝あの人はこんな子達を利用している。私は…〟
竜沢の読み通り、深雪は迷っている。
しかし、この戦いは甲が望んでいるもの。誰であろうともう止める事は出来ない。
「さぁ、いよいよ…試合開始です!」
このボクシングにラウンドは存在しない。どちらかが三回ダウンするかギブアップするかしか試合は終わらない。
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