龍青学園GCSA

楓和

文字の大きさ
32 / 49

第5章の5「いつ走んねんっ!」

しおりを挟む
 黒点塾塾生寮の一室。ここにあの男が居た。

 「…上手くやった様だね♪」

部屋に入って来た誰かに話し掛ける男。

 「オー!ミスター音根の言った通り、イージーだったネ!」

やかましい白人、ブリオが手に持っていたのは一本の鍵。カギについているタグには『螺旋階段三階』と書かれていた。

 「奴らが来るタイミングを待ってて良かったネ!さすがミスター音ネ!」
 「ネ。根。」

部屋の隅に居た静かなる黒人、フォーターがボソッと呟く。

 「オー!よく気付いたネ、フォーター!レベルアップしてるよハッハッハッハァアー苦しい!」

違う意味でお前もな。

 「この日を待ってた♪さぁ…行くよ、二人とも♪」
 「オーイエー!」
 「イエス。」
 「竜沢達を、やらせはしない♪」

音根利住が立つ!


 「ふんっ!」

破壊した強化プラスチックにショルダータックルをくらわす甲。ヒビが入った部分から亀裂が広がり、人が通れる位大きな穴が開いた。

 「竜沢、行け。隆正!鏡!」

甲に言われて通り抜ける竜沢と、猪野岡達への攻撃の手を止めて甲の方へ走る隆正と鏡。

 「よし、行くぞ!」

鏡と隆正も通り抜け、C階段へ向かおうとする竜沢達だったが、甲が強化プラスチックの向こう側で背を向けている事に気付いた。

 「甲?!」
 「甲くん、早く!」

竜沢と鏡の言葉に反応しない甲。

 「に、逃がすな!」

安郷のガラガラ声を聞き、猪野岡達が竜沢達を追う為に甲の方へ向かってくる。

 「何しとんねん、甲!」
 「隆正…早く行け。」

隆正の声に反応し、甲が答えた。

 「俺はこいつらを食い止める。」

猪野岡達の方へ向いてゆっくりと一歩、また一歩と進む甲。

 「な、何言うとんねん!お前もう右手ボロボロやないか!」
 「あんな奴らは左手一本で充分だ。…任せろ。」

甲は振り向き、隆正達に対して左腕を上げて見せた。

 「甲…」
 「ふん。イノシシ、ウマ、シカ…それに戦闘員にアンコウ。どれも熊ほどじゃない。」
 「アンコウは違うやろ?!」
 「…ふっ。」

隆正のツッコミにニヤリとする甲。それを見てから隆正は背を向けた。

 「…行くで、神侍!鏡!」
 「…甲、後から来いよ。」

竜沢、鏡、隆正はC階段へと走った。

 「なな、何や、全員相手したろうと思っとったのにのぉ。怪我人一人かい。」

竜沢達が行った直後、甲が右手を押さえて強化プラスチックにもたれ掛かったので急に強気になる安郷が前に出てきた。

 「わしもあれからかなり鍛えたんや。あん時の借り、返したる!」
 「俺らにもやらしてくれよ、安郷さん。」

アンコウにイノシシ、ウマ、シカも加わる。その他戦闘員数名が甲の周りを囲む。

 〝隆正、鏡、竜沢…負けるなよ〟


竜沢達はC階段を駆け上がっていた。一階の天井が高い為に二階までの階段が長く、踊り場がいくつもある。
そして三回目の踊り場を抜けた辺りで先頭を走っていた隆正の様子がおかしい事に気付く竜沢。

 「隆正どうした?!動きが鈍いし顔が…いや、顔色が悪いぞ!」
 「今顔言うた?!何でもないわ!」

一応ツッコミを入れてから否定する隆正。ツッコミの鬼である。

 「お前、もしかして足…」

実はテーピングしていても痛みは消えておらず、正門までの激走の時点で既に痛みがキツくなり始めており、今はもう地に足を付く度に激痛になっていた。

 「隆正…」

竜沢が足を止めたので鏡達も慌てて止まった。

 「竜沢くん…」
 「何しとんねん、神侍!とっとと行くで!」
 「隆正、お前はここに居ろ。」
 「何やと?!」
 「痛いんだろ?足。」
 「…こ、こんなもん、何でもないわ!」

そう言いながらも額には脂汗が出ており、右足が小さく震えていた。

 「隆正、俺は…」
 「神侍………頼むわ。」

隆正は、その吊り上った眉を下げて泣きそうな顔で言った。

 「俺を、置いてくなや。」
 「隆正…」
 「甲のセリフ借りるけど…俺はお前を裏切ったんや。それは何かいつも、俺だけ仲間はずれにされてる様に思とったからや。神侍は鏡とばっかり一緒におった様な気がしてな。それって何や、ヤキモチ見たいやな…へへっ。けど何か、ちょっとな…いたたまれん様になってもうてな。俺はGCSAに必要ないんちゃうか…って思てしもうたんや。」
 「隆正…」
 「隆正くん…」
 「けど、分かったんや!俺は鏡と違う。甲とも違う。俺は…俺や!」

満面の笑みを見せる隆正。

 「神侍はそれを、初めから良ぉ分かってたんやなぁ。」
 「俺はそんな偉い人間じゃない。お前の事も鏡の事も、甲や流香達の事も…ホントに分かっているのかどうか…自信無ぇよ。だから…お前や甲が黒点塾に行くのを止める事も出来なかった。」

竜沢はうつ向いて呟く様にそう言った。

 「竜沢くん、間違っちゃいけません。僕達はみんな神様じゃないんです。人の事を全て分かる訳がありません。ただ、その人の事を知ろうとする事が大切なんじゃないでしょうか。」
 「鏡…」
 「そして僕がこんな風に考えられる様になったのは、竜沢くんのお陰なんですよ。」

ニコッとする鏡を見て、竜沢と隆正も微笑んだ。

 「竜沢くん、隆正くん、人はみんな弱い。だから支え合うんです。それが仲間なんじゃないでしょうか。甲くん風に言えば、友…ですかね。」
 「へっ、その通りやな!俺等は友や!仲間や!だから神侍、俺を…友を、置いて行くな!」
 「隆正…分かったよ。…グッと行くぞ!」

そして竜沢達は再び走り出す!

 「もうすぐ二階だ!」
 「恐らくC階段にはシャッターが降りてます!二階に到着したらすぐ左ですよ!」
 「おうよ!」

先頭を走る隆正が二階に到着する。やはり正面にはシャッターが降りていた。鏡に言われた様に、隆正は直ぐ左に向きを変えた。

 「あぁ?!」

隆正の目に、B階段のシャッターを降ろしていた斑尾の姿が!

 「も、もう来たか!蟹河内くん、急げ!」

斑尾の横にはマッスルも居た。

 「ええぃ安郷め!失敗するにしても早過ぎる!」

おっさん二人はA階段の方へ走り出した。

 「させるか!」

斑尾達が上階への道を閉鎖するんじゃないかと感じ、追う隆正。

 「隆正くん?!」
 「隆正!」

鏡と竜沢も二階に到着。直ぐに異変に気付いた。
廊下を疾走する隆正の前方約三十メートル付近に斑尾、さらにその数メートル先にマッスルが走っている。

 〝川波以外が来た場合は二階に閉じ込めろ…ブラックマスクの命令だ!〟
 〝安郷め、もっと粘れよ!〟

失敗すればブラックマスクに仕置きされる。その為必死に走る斑尾とマッスル。

二階は教室が並んでいて、その教室前に廊下がある。一階のホールとの関係もあり、その廊下の長さは約八十メートルと長い。斑尾とマッスルは廊下を駆け抜けてA階段附室を目指しており、その附室にある鉄扉(防火戸)を閉鎖しようとしていた。鉄扉を閉められシリンダー錠で施錠されるとサムターン(つまみを回す事で開錠できる金具)を回しても開ける事が出来ない構造になっている。
隆正にそれを知る由もないが、逃げるからには何かあると考えていた。

 〝足…もってくれ!〟

もう足の痛みを感じないレベルになっていた隆正。いつ動かなくなるか分からない。

 「くそっ!」

斑尾はもう逃げきれないと判断、立ち止まって隆正を迎撃するつもりだった。その隙にマッスルが鉄扉を施錠すればブラックマスクに顔向け出来ると考えたのだ。

 「お前らのせいで…私は!」
 「ちっ!」

走って来る隆正の前に両手を広げて立ち塞がる斑尾。横を通り抜けるには無理がある幅だと瞬時に判断した隆正は、そのままの勢いで体当たりをする!

 「隆正ー!」

追ってきている竜沢と鏡は、隆正が斑尾と激突し、吹っ飛ぶところを見た。

 「げぼぉぉぉ!」

反吐を履いて吹っ飛ぶ斑尾と、正面を見据えたまま宙に浮く隆正。

 「くそがぁ!」

隆正はギプスを装着されている左手を床に接地、その反動で前に出る。次に右足で床面を蹴り、更に前に出る。態勢が不安定になって倒れそうになるも、直ぐに左足を出してまた前に出る。そしてまた右足を出す!遂に隆正は、転倒する事なく走り続けたのだ!

 〝左腕も、右足も…どこも痛ないわ!〟

隆正のスピードが上った。

 「ば、馬鹿よせ!今無茶したらお前の足は…」
 「ここで走らんでいつ走んねんっ!」

隆正のトップスピードは、今まで以上の速さだった。

 「うおおぉぉっ!」
 「う、うわっ!」

物凄い速さで迫ってくる隆正にビビるマッスル。マッスルは附室に到着して鉄扉を閉め始めていたが、隆正は鉄扉に激突する事も厭わないスピードで突っ込んで来る!

 「隆正くん、危険です!」

鏡の声も聞こえているが、隆正のスピードは落ちない。

 「んだらぁっ!」
 「ぎゃあぁあぁぁぁぁぁー!」

隆正は鉄扉に体を接触させながらも、その勢いで鉄扉を押し返してマッスルに激突!
吹っ飛んだマッスルと隆正はそのまま正面のコンクリート壁に直撃!
鉄扉はドアチェックの力でゆっくりと閉まる。

 「隆正ぁっ!」
 「隆正くんっ!」

竜沢と鏡は、鉄扉の所まで到達すると、隆正の名を呼びながら鉄扉を開く。そこには…

 「こ、この馬鹿野郎…」

頭から血を流して倒れている隆正を見て立ち尽くす竜沢。鏡は隆正に近付き、怪我の状態を確認する。
マッスルは完全に沈黙。

 「…い、痛くもなんともない…で。」
 「隆正くん、動かないで下さい。」

無理に上半身を起こす隆正を止める鏡。隆正は震える右腕を上げ、A階段を指差した。

 「い、行け…」
 「隆正くん…」

血が出ている隆正の額にハンカチを当てる鏡。

 「…行きますよ、竜沢くん。」

鏡は隆正を壁にもたれさせ、立ち上がった。

 「隆正くんが見守ってくれてますから。」
 「どっから?!」

天を見上げる鏡にツッコミを入れる隆正。意外と元気そうである。

 「へっ、俺は大丈夫や。先に行っててくれ。」

これがかなり無理している事は、竜沢達にも分かっていた。

 「分かりました、ゆっくり来て下さい。」
 「後で来いよ、隆正。」

竜沢と鏡はA階段を駆け上がって行った。隆正は二人の後ろ姿を見ていたが、徐々にかすんでいく。

 〝頼むで、鏡、神侍…〟
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

処理中です...